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網膜・硝子体

網膜疾患におけるフォトバイオモジュレーション

1. 網膜疾患におけるフォトバイオモジュレーションとは

Section titled “1. 網膜疾患におけるフォトバイオモジュレーションとは”

フォトバイオモジュレーション(photobiomodulation; PBM)は、590〜850nmの赤色〜近赤外線を組織に照射する非侵襲的光療法である。熱的・光化学的な組織破壊を目的とせず、ミトコンドリアの代謝活性化を通じて細胞保護・機能回復を図る点に特徴がある。低出力光線療法(low-level light therapy; LLLT)とも呼ばれる。6)

眼科領域では萎縮型加齢黄斑変性(非滲出型AMD)が最も研究の進んだ適応対象である。2024年11月、米国食品医薬品局(FDA)がLumiThera社のValedeaシステムを萎縮型加齢黄斑変性治療デバイスとして承認した。5)萎縮型加齢黄斑変性に対するFDA承認を得た初の非侵襲的治療機器となった。

萎縮型加齢黄斑変性のほかに糖尿病網膜症(DR)・網膜色素変性症RP)・軸性近視への応用も検討されている。10)

Q PBMはどのような光を使うのか?
A

代表的なのは590nm(黄色)・660nm(赤色)・850nm(近赤外線)の3波長である。ValedeaシステムはこれらをLEDで組み合わせて照射し、非コヒーレント・非熱的な光エネルギーを網膜に届ける。6)

PBMの対象となる萎縮型加齢黄斑変性およびその周辺疾患では以下の症状が生じる。

  • 視力低下中心窩周囲のRPEおよび光受容体萎縮による。緩徐進行が典型的である。
  • 中心暗点地図状萎縮(GA)が中心窩に及ぶと顕在化する。読書・顔認識が困難となる。
  • 変視症:網膜の歪みを反映し、直線が波打って見える。
  • コントラスト感度低下:薄暗い環境での視認性が特に低下する。
  • 夜盲(RP):網膜色素変性症では杆体細胞の機能低下により夜間視力が著しく障害される。

PBMの治療効果評価に用いられる主要な客観的指標は以下の通りである。

LIGHTSITE II試験(Burton Bら、2023)では、PBM群で最高矯正視力(BCVA)が+4文字改善した(p=0.02)。2)ドルーゼン体積は安定し、GA進行が約20%抑制された。2)

LIGHTSITE III試験(Boyer Dら、2024)では、PBM群でGA新規発症が有意に抑制され(p=0.024)、最高矯正視力が+2.4文字改善した(p=0.02)。4)

萎縮型加齢黄斑変性

最高矯正視力:LIGHTSITE IIで+4文字改善(p=0.02)。2)

GA新規発症:LIGHTSITE IIIで有意に抑制(p=0.024)。4)

ドルーゼン体積:PBM治療群で安定傾向が確認された。2)

網膜色素変性症

ミトコンドリアレドックス:810nm照射でRP動物モデルのミトコンドリア機能が保護された。11)

光受容体保護:変性抑制と網膜電図反応の改善が確認されている。11)

軸性近視

眼軸長:小児188名のRCTでPBM群の眼軸延長が対照群比−0.06mm抑制された。

糖尿病網膜症

酸化ストレス軽減:高血糖による酸化障害軽減を介した保護効果が検討されている。

抗炎症NF-κB経路への影響が研究段階にある。

Q PBMの治療効果はどの程度持続するのか?
A

LIGHTSITE IIIの36か月延長試験(GALE試験)では維持照射(3〜6か月ごと)による持続効果の検証が続けられている。4)ただし長期データは蓄積途上であり、維持照射の頻度・期間は今後の研究で確立される。

PBMが対象とする主要な網膜疾患の病因は以下の通りである。

  • 萎縮型加齢黄斑変性:加齢に伴う酸化ストレス蓄積がRPEおよび光受容体の慢性変性を引き起こす。ドルーゼン形成・補体系活性化・慢性炎症が相互に作用してGAへと進行する。
  • 糖尿病網膜症:慢性高血糖による血管内皮障害・酸化ストレス・神経栄養因子の枯渇が基盤である。
  • 網膜色素変性症(RP):光受容体関連遺伝子の変異(100以上の原因遺伝子)によりミトコンドリア機能不全と酸化損傷が生じ、杆体から錐体の順に変性する。
  • 軸性近視:遺伝素因と環境因子(近業・屋外活動不足)の相互作用による眼軸延長が原因である。
  • 光恐怖症・光過敏症:照射に耐えられない場合がある。
  • 光感受性薬剤の使用中:ベルテポルフィン等、光線過敏を生じる薬剤との併用は避ける。
  • 活動性の滲出型加齢黄斑変性:活動性脈絡膜新生血管を有する場合は適用外である。

PBMの適用判断および治療効果評価には複数の検査が組み合わされる。以下に主要な評価指標と役割を示す。

検査目的評価指標
最高矯正視力視機能評価ETDRS文字数
OCT網膜構造評価GA面積・ドルーゼン体積
網膜電図網膜電気機能振幅・潜時
  • 最高矯正視力(BCVA):ETDRSチャートによる文字数測定。LIGHTSITE試験の主要エンドポイントとして用いられた。2)4)
  • 光干渉断層計(OCT):地図状萎縮の面積・進行速度、ドルーゼン体積を定量評価する。蛍光眼底造影OCTアンギオグラフィーと組み合わせて新生血管の有無を鑑別する。
  • 網膜電図(ERG):RPや糖尿病網膜症における光受容体・双極細胞の機能を客観的に評価する。PBMの電気生理学的効果を追跡できる。11)
  • マイクロペリメトリ:中心部の網膜感度を詳細にマッピングし、GA進行に伴う感度変化を追跡する。
  • 眼底自発蛍光(FAF):GAの範囲とRPE障害の分布を可視化する。進行評価の補助として有用である。
  • 眼軸長測定:近視進行抑制効果の評価に用いる。

Valedeaシステムの照射プロトコール

Section titled “Valedeaシステムの照射プロトコール”

FDA承認を得たValedeaシステムは590nm・660nm・850nmの3波長を組み合わせて照射する。5)散瞳・麻酔は不要で、外来で実施可能である。

標準的な照射スケジュールを以下に示す。

項目標準プロトコール
頻度週2〜3回
導入期間3〜5週間/サイクル
維持照射3〜6か月ごと

LIGHTSITE I〜IIIは萎縮型加齢黄斑変性を対象としたPBMの多施設RCTシリーズである。

LIGHTSITE I(Markowitz SNら、2020)は単施設のパイロットRCTであり、安全性が確認された。1)

LIGHTSITE II(Burton Bら、2023)は多施設共同ランダム化二重遮検比較試験である。PBM群で最高矯正視力+4文字改善(p=0.02)、GA進行20%抑制が認められた。2)完遂例の35.3%で5文字以上の改善を示した。2)

LIGHTSITE III(Boyer Dら、2024)では100名(148眼)を対象に4か月サイクルで実施し、13か月時点でGA新規発症抑制(p=0.024)と最高矯正視力+2.4文字改善(p=0.02)が示された。4)この結果がFDA承認の根拠となった。

AAO AMD PPP(2024年版)はLIGHTSITE I/IIについてはベネフィット未証明と評価し、LIGHTSITE IIIのGA抑制を認識しつつもエビデンスレベルI-(限定的エビデンス)と位置付けている。12)なお、EMAはPBMデバイスを未承認である。12)

Q PBMはどのような患者に向いているか?
A

FDAの承認適応は中間型〜進行型の萎縮型加齢黄斑変性(非滲出型)である。5)活動性の脈絡膜新生血管を伴う滲出型加齢黄斑変性・高度に進行したGAへの有効性は確立されていない。適用については専門医による個別評価が必要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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シトクロムcオキシダーゼを標的とした光吸収

Section titled “シトクロムcオキシダーゼを標的とした光吸収”

PBMの主要な作用標的はミトコンドリア内膜の酸化的リン酸化酵素であるシトクロムcオキシダーゼ(CcO)である。6)赤色〜近赤外線がCcOに吸収されると電子伝達系が賦活され、ATP産生が増加して細胞の代謝活性が高まる。6)

加齢・低酸素状態では一酸化窒素(NO)がCcOの活性部位に結合してATP産生を抑制する。PBMはNOとCcOの結合を光解離させることでこの阻害を解除し、ATP合成を回復させる。7)8)

Poyton ROら(2011)は、赤色〜近赤外線によるNO解離がミトコンドリア機能を保護する主要な機序であることを論じた。7)

Kashiwagi Sら(2023)は、PBMによるNO経路の調節が組織保護に寄与することを示した。8)

活性酸素種(ROS)調節と抗炎症効果

Section titled “活性酸素種(ROS)調節と抗炎症効果”

低用量のPBMはROSを一過性に増加させ、細胞の酸化還元感受性シグナル経路(NF-κB・AP-1)を活性化する。9)これにより抗酸化酵素の発現誘導と抗炎症効果がもたらされる。高用量では逆に酸化障害が生じるため照射量の適正化が重要である。9)

Karu TI(2008)は、ROS産生がPBMの二次メッセンジャーとして機能し、遺伝子転写レベルで細胞保護を誘導することを示した。9)

網膜色素変性症におけるミトコンドリア保護

Section titled “網膜色素変性症におけるミトコンドリア保護”

Gopalakrishnan Sら(2020)は遺伝性RP動物モデルに810nm照射を行い、光受容体の変性抑制とミトコンドリアレドックス状態の改善を報告した。11)ミトコンドリア機能の維持が光受容体保護の鍵であることが示された。

ATP産生増加

CcO活性化:赤色〜近赤外線がCcOに吸収され、電子伝達系が賦活される。6)

NO解離:CcOを阻害するNOを光解離し、ATP合成を回復させる。7)8)

酸化ストレス軽減

ROS調節:低用量ROSが抗酸化遺伝子の転写を誘導する。9)

抗炎症経路:NF-κB・AP-1の調節により炎症性サイトカインが抑制される。9)

網膜保護

RPE機能維持:ドルーゼン蓄積抑制・RPEの生存延長が期待される。2)

光受容体保護:RP動物モデルで変性抑制が確認された。11)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

2024年11月、FDAはValedeaシステムを萎縮型加齢黄斑変性治療デバイスとして承認した。5)非侵襲的な光学的デバイスとして萎縮型加齢黄斑変性に初めてFDA承認が与えられた歴史的な出来事である。

Boyer Dら(2024)によるLIGHTSITE IIIでは、GA新規発症抑制(p=0.024)と最高矯正視力+2.4文字改善(p=0.02)が示された。4)この結果がFDA承認の直接根拠となった。

LIGHTSITE IIIの36か月延長試験(GALE試験)では、長期的な維持照射による持続効果の検証が進行中である。4)

コクラン系統的レビューの評価

Section titled “コクラン系統的レビューの評価”

Henein Cら(2021)のコクランレビューは、当時のエビデンスではPBMの有効性を確定するには不十分と結論付けた。3)LIGHTSITE IIIの結果はこの評価以降に得られたものであり、今後のレビュー更新でエビデンス評価が変化する可能性がある。

RPに対するPBMの探索的臨床試験(NCT06224114)が進行中であり、遺伝子型を問わない光受容体保護効果が期待される。動物モデルで示された知見11)の臨床への翻訳が注目される。

EMAはPBMデバイスを未承認としており、欧州では正式な治療として使用できない。12)FDAとEMAの規制判断が分かれた状況であり、国際的なエビデンスの統合が課題となっている。

Q 日本でPBM治療を受けることはできるか?
A

現時点では日本においてValedeaシステムは承認されていない。国内では研究・治験の枠組み内での使用にとどまる。標準治療として提供できる施設は極めて限られるため、担当医への相談が必要である。

Q PBMは滲出型加齢黄斑変性にも効果があるか?
A

FDAの承認適応は萎縮型加齢黄斑変性(非滲出型)に限られる。活動性の脈絡膜新生血管を有する滲出型加齢黄斑変性にはPBMの有効性は確立されておらず、この場合は抗VEGF療法が標準治療となる。


  1. Markowitz SN, Devenyi RG, Munk MR, et al. A double-masked, randomized, sham-controlled, single-center study with photobiomodulation for the treatment of dry age-related macular degeneration. Retina. 2020;40:1471-1482.
  2. Burton B, Parodi MB, Jürgens I, et al. Photobiomodulation for non-exudative age-related macular degeneration: 13-month results from the LIGHTSITE II randomized, double-masked, sham-controlled trial. Ophthalmol Ther. 2023;12:953-968.
  3. Henein C, Borooah S, Phillips R, et al. Photobiomodulation for the treatment of age-related macular degeneration and Stargardt disease. Cochrane Database Syst Rev. 2021;5:CD013029.
  4. Boyer D, Hu A, Warrow D, et al. LIGHTSITE III: multicenter, randomized, double-masked, sham-controlled study of photobiomodulation in non-exudative AMD. Retina. 2024;44:487-497.
  5. U.S. Food and Drug Administration. FDA Roundup: November 5, 2024. [Valeda Light Delivery System de novo authorization]. 2024.
  6. de Freitas LF, Hamblin MR. Proposed mechanisms of photobiomodulation or low-level light therapy. IEEE J Sel Top Quantum Electron. 2016;22(3):7000417.
  7. Poyton RO, Ball KA. Therapeutic photobiomodulation: nitric oxide and a cellular retrograde signaling pathway. Discov Med. 2011;11:154-159.
  8. Kashiwagi S, Brauns T, Gelfand J, et al. Photobiomodulation and nitric oxide signaling. Nitric Oxide. 2023;130:58-68.
  9. Karu TI. Mitochondrial signaling in mammalian cells activated by red and near-IR radiation. Photochem Photobiol. 2008;84:1091-1099.
  10. Geneva II. Photobiomodulation for the treatment of retinal diseases: a review. Int J Ophthalmol. 2016;9(1):145-152.
  11. Gopalakrishnan S, Mehrvar S, Maleki S, et al. Photobiomodulation preserves mitochondrial redox state and is retinoprotective in a rodent model of retinitis pigmentosa. Sci Rep. 2020;10:20382.
  12. American Academy of Ophthalmology. Age-Related Macular Degeneration Preferred Practice Pattern 2024. San Francisco: AAO; 2024.

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