萎縮型加齢黄斑変性
最高矯正視力:LIGHTSITE IIで+4文字改善(p=0.02)。2)
GA新規発症:LIGHTSITE IIIで有意に抑制(p=0.024)。4)
ドルーゼン体積:PBM治療群で安定傾向が確認された。2)

フォトバイオモジュレーション(photobiomodulation; PBM)は、590〜850nmの赤色〜近赤外線を組織に照射する非侵襲的光療法である。熱的・光化学的な組織破壊を目的とせず、ミトコンドリアの代謝活性化を通じて細胞保護・機能回復を図る点に特徴がある。低出力光線療法(low-level light therapy; LLLT)とも呼ばれる。6)
眼科領域では萎縮型加齢黄斑変性(非滲出型AMD)が最も研究の進んだ適応対象である。2024年11月、米国食品医薬品局(FDA)がLumiThera社のValedeaシステムを萎縮型加齢黄斑変性治療デバイスとして承認した。5)萎縮型加齢黄斑変性に対するFDA承認を得た初の非侵襲的治療機器となった。
萎縮型加齢黄斑変性のほかに糖尿病網膜症(DR)・網膜色素変性症(RP)・軸性近視への応用も検討されている。10)
代表的なのは590nm(黄色)・660nm(赤色)・850nm(近赤外線)の3波長である。ValedeaシステムはこれらをLEDで組み合わせて照射し、非コヒーレント・非熱的な光エネルギーを網膜に届ける。6)
PBMの対象となる萎縮型加齢黄斑変性およびその周辺疾患では以下の症状が生じる。
PBMの治療効果評価に用いられる主要な客観的指標は以下の通りである。
LIGHTSITE II試験(Burton Bら、2023)では、PBM群で最高矯正視力(BCVA)が+4文字改善した(p=0.02)。2)ドルーゼン体積は安定し、GA進行が約20%抑制された。2)
LIGHTSITE III試験(Boyer Dら、2024)では、PBM群でGA新規発症が有意に抑制され(p=0.024)、最高矯正視力が+2.4文字改善した(p=0.02)。4)
萎縮型加齢黄斑変性
最高矯正視力:LIGHTSITE IIで+4文字改善(p=0.02)。2)
GA新規発症:LIGHTSITE IIIで有意に抑制(p=0.024)。4)
ドルーゼン体積:PBM治療群で安定傾向が確認された。2)
網膜色素変性症
ミトコンドリアレドックス:810nm照射でRP動物モデルのミトコンドリア機能が保護された。11)
光受容体保護:変性抑制と網膜電図反応の改善が確認されている。11)
軸性近視
眼軸長:小児188名のRCTでPBM群の眼軸延長が対照群比−0.06mm抑制された。
糖尿病網膜症
酸化ストレス軽減:高血糖による酸化障害軽減を介した保護効果が検討されている。
抗炎症:NF-κB経路への影響が研究段階にある。
LIGHTSITE IIIの36か月延長試験(GALE試験)では維持照射(3〜6か月ごと)による持続効果の検証が続けられている。4)ただし長期データは蓄積途上であり、維持照射の頻度・期間は今後の研究で確立される。
PBMが対象とする主要な網膜疾患の病因は以下の通りである。
PBMの適用判断および治療効果評価には複数の検査が組み合わされる。以下に主要な評価指標と役割を示す。
| 検査 | 目的 | 評価指標 |
|---|---|---|
| 最高矯正視力 | 視機能評価 | ETDRS文字数 |
| OCT | 網膜構造評価 | GA面積・ドルーゼン体積 |
| 網膜電図 | 網膜電気機能 | 振幅・潜時 |
FDA承認を得たValedeaシステムは590nm・660nm・850nmの3波長を組み合わせて照射する。5)散瞳・麻酔は不要で、外来で実施可能である。
標準的な照射スケジュールを以下に示す。
| 項目 | 標準プロトコール |
|---|---|
| 頻度 | 週2〜3回 |
| 導入期間 | 3〜5週間/サイクル |
| 維持照射 | 3〜6か月ごと |
LIGHTSITE I〜IIIは萎縮型加齢黄斑変性を対象としたPBMの多施設RCTシリーズである。
LIGHTSITE I(Markowitz SNら、2020)は単施設のパイロットRCTであり、安全性が確認された。1)
LIGHTSITE II(Burton Bら、2023)は多施設共同ランダム化二重遮検比較試験である。PBM群で最高矯正視力+4文字改善(p=0.02)、GA進行20%抑制が認められた。2)完遂例の35.3%で5文字以上の改善を示した。2)
LIGHTSITE III(Boyer Dら、2024)では100名(148眼)を対象に4か月サイクルで実施し、13か月時点でGA新規発症抑制(p=0.024)と最高矯正視力+2.4文字改善(p=0.02)が示された。4)この結果がFDA承認の根拠となった。
AAO AMD PPP(2024年版)はLIGHTSITE I/IIについてはベネフィット未証明と評価し、LIGHTSITE IIIのGA抑制を認識しつつもエビデンスレベルI-(限定的エビデンス)と位置付けている。12)なお、EMAはPBMデバイスを未承認である。12)
FDAの承認適応は中間型〜進行型の萎縮型加齢黄斑変性(非滲出型)である。5)活動性の脈絡膜新生血管を伴う滲出型加齢黄斑変性・高度に進行したGAへの有効性は確立されていない。適用については専門医による個別評価が必要である。
PBMの主要な作用標的はミトコンドリア内膜の酸化的リン酸化酵素であるシトクロムcオキシダーゼ(CcO)である。6)赤色〜近赤外線がCcOに吸収されると電子伝達系が賦活され、ATP産生が増加して細胞の代謝活性が高まる。6)
加齢・低酸素状態では一酸化窒素(NO)がCcOの活性部位に結合してATP産生を抑制する。PBMはNOとCcOの結合を光解離させることでこの阻害を解除し、ATP合成を回復させる。7)8)
Poyton ROら(2011)は、赤色〜近赤外線によるNO解離がミトコンドリア機能を保護する主要な機序であることを論じた。7)
Kashiwagi Sら(2023)は、PBMによるNO経路の調節が組織保護に寄与することを示した。8)
低用量のPBMはROSを一過性に増加させ、細胞の酸化還元感受性シグナル経路(NF-κB・AP-1)を活性化する。9)これにより抗酸化酵素の発現誘導と抗炎症効果がもたらされる。高用量では逆に酸化障害が生じるため照射量の適正化が重要である。9)
Karu TI(2008)は、ROS産生がPBMの二次メッセンジャーとして機能し、遺伝子転写レベルで細胞保護を誘導することを示した。9)
Gopalakrishnan Sら(2020)は遺伝性RP動物モデルに810nm照射を行い、光受容体の変性抑制とミトコンドリアレドックス状態の改善を報告した。11)ミトコンドリア機能の維持が光受容体保護の鍵であることが示された。
ATP産生増加
CcO活性化:赤色〜近赤外線がCcOに吸収され、電子伝達系が賦活される。6)
NO解離:CcOを阻害するNOを光解離し、ATP合成を回復させる。7)8)
酸化ストレス軽減
ROS調節:低用量ROSが抗酸化遺伝子の転写を誘導する。9)
抗炎症経路:NF-κB・AP-1の調節により炎症性サイトカインが抑制される。9)
網膜保護
RPE機能維持:ドルーゼン蓄積抑制・RPEの生存延長が期待される。2)
光受容体保護:RP動物モデルで変性抑制が確認された。11)
2024年11月、FDAはValedeaシステムを萎縮型加齢黄斑変性治療デバイスとして承認した。5)非侵襲的な光学的デバイスとして萎縮型加齢黄斑変性に初めてFDA承認が与えられた歴史的な出来事である。
Boyer Dら(2024)によるLIGHTSITE IIIでは、GA新規発症抑制(p=0.024)と最高矯正視力+2.4文字改善(p=0.02)が示された。4)この結果がFDA承認の直接根拠となった。
LIGHTSITE IIIの36か月延長試験(GALE試験)では、長期的な維持照射による持続効果の検証が進行中である。4)
Henein Cら(2021)のコクランレビューは、当時のエビデンスではPBMの有効性を確定するには不十分と結論付けた。3)LIGHTSITE IIIの結果はこの評価以降に得られたものであり、今後のレビュー更新でエビデンス評価が変化する可能性がある。
RPに対するPBMの探索的臨床試験(NCT06224114)が進行中であり、遺伝子型を問わない光受容体保護効果が期待される。動物モデルで示された知見11)の臨床への翻訳が注目される。
EMAはPBMデバイスを未承認としており、欧州では正式な治療として使用できない。12)FDAとEMAの規制判断が分かれた状況であり、国際的なエビデンスの統合が課題となっている。
現時点では日本においてValedeaシステムは承認されていない。国内では研究・治験の枠組み内での使用にとどまる。標準治療として提供できる施設は極めて限られるため、担当医への相談が必要である。
FDAの承認適応は萎縮型加齢黄斑変性(非滲出型)に限られる。活動性の脈絡膜新生血管を有する滲出型加齢黄斑変性にはPBMの有効性は確立されておらず、この場合は抗VEGF療法が標準治療となる。