黄斑疾患
全層黄斑円孔(FTMH):OCTで円孔辺縁の網膜隆起・硝子体牽引を確認する。Gass分類Stage 1〜4で評価する。
網膜前膜:眼底に灰白色の半透明膜を認める。OCTで網膜表面の高輝度線状構造と内層牽引を確認する。
硝子体黄斑牽引(VMT):OCTで後部硝子体皮質と黄斑中心窩の接着・牽引を確認する。

経毛様体扁平部硝子体切除術(pars plana vitrectomy; PPV)は、角膜輪部から3〜4 mmの毛様体扁平部から眼球内に器具を挿入し、硝子体や網膜の病変を処置する眼内手術の基本術式である。
1969年にKasnerが「開放性硝子体切除術」として報告したのが起源である。1974年にO’Malleyが20ゲージ(G)の経結膜的アプローチを確立し、PPVの原型を作った。
その後、器具の細径化が進んだ。2002年にFujiiらが25G器具を、2005年にEckardtが23G器具を導入した。2010年にはOshimaらが27G器具を用いた最小侵襲硝子体手術(minimally invasive vitreous surgery; MIVS)を報告し、現在の主流となっている6)。
経毛様体扁平部硝子体切除術の適応となる疾患は多岐にわたる。
23G・25G・27G器具を使用したMIVSでは局所麻酔(球後麻酔または球周囲麻酔)で施行可能である。旧来の20G手術では全身麻酔や強膜縫合が必要なことが多かったが、MIVSでは多くの場合、縫合なしで手術を終える5)。
経毛様体扁平部硝子体切除術の適応疾患に共通する自覚症状を以下に示す。
細隙灯顕微鏡・眼底検査・OCTで以下の所見を確認する。
黄斑疾患
全層黄斑円孔(FTMH):OCTで円孔辺縁の網膜隆起・硝子体牽引を確認する。Gass分類Stage 1〜4で評価する。
網膜前膜:眼底に灰白色の半透明膜を認める。OCTで網膜表面の高輝度線状構造と内層牽引を確認する。
硝子体黄斑牽引(VMT):OCTで後部硝子体皮質と黄斑中心窩の接着・牽引を確認する。
網膜・硝子体疾患
裂孔原性網膜剥離:眼底に波打つ半透明の剥離網膜を認める。裂孔・格子状変性の位置を確認する。
硝子体出血:眼底の赤色反射消失・眼底透見不良。Bモード超音波で網膜剥離の有無を評価する。
眼内炎:前房・硝子体の白濁・膿。眼内液の培養が確定診断に必要となる。
全層黄斑円孔では術前視力がStage 2〜4で20/200〜20/400に達することがあり、手術介入の重要な根拠となる4)。黄斑に病変が及ぶ前の早期介入が視力予後を左右する。
経毛様体扁平部硝子体切除術後にガスタンポナーデを施行した眼(以下、ガス眼)では、航空旅行による気圧低下がガスの膨張を招き、眼圧が急激に上昇する。
Foulshamら(2021)は、C3F8(パーフルオロプロパン)50%充填のガス眼が航空機に搭乗した場合、高度1000フィートあたり眼圧が10.8 mmHg上昇し、最大42 mmHgに達することをボイルの法則に基づき試算・報告した1)。
この眼圧上昇は視神経や網膜血管の虚血を引き起こしうる。ガスが完全に消退するまで航空旅行は禁忌である1)。
黄斑円孔のガスタンポナーデ後は、ガスが浮力によって黄斑部を上から圧迫し円孔の閉鎖を促すため、うつ伏せ(フェイスダウン)体位が必要となる。体位保持期間は術式・ガスの種類・円孔サイズにより異なり、担当医の指示に従う。
経毛様体扁平部硝子体切除術の手術適応判断には以下の検査を組み合わせて用いる。
黄斑疾患の診断・術前評価の中心的検査である。
増殖糖尿病網膜症の新生血管評価・網膜虚血領域の同定・術後合併症の確認に用いる。
硝子体出血や高度混濁で眼底透見不能の場合に網膜剥離の有無を評価する。術前に網膜剥離の範囲・牽引の状態を確認するうえで不可欠である。
眼底透見不能例で網膜機能を評価する。波形の消失は高度の網膜機能障害を示す。
| 疾患 | 特徴的所見 | 要点 |
|---|---|---|
| 黄斑偽円孔 | OCTで全層欠損なし | 網膜前膜による牽引 |
| 硝子体黄斑牽引 | OCTで後部硝子体皮質接着 | 自然消退例もあり |
| 中心性漿液性脈絡網膜症 | OCTで網膜下液 | 手術適応外が多い |
経毛様体扁平部硝子体切除術に使用する器具のゲージ(内径)は手術侵襲と術後合併症に関わる重要な選択因子である6)。
| ゲージ | 切開径 | 特徴 |
|---|---|---|
| 20G | 約0.9 mm | 旧来標準。強膜縫合要 |
| 23G | 約0.6 mm | 縫合不要が多い |
| 25G | 約0.5 mm | 現在の主流。低侵襲 |
| 27G | 約0.4 mm | 最細径。柔軟性に優れる |
MIVSでは23G・25G・27G器具を使用し、多くの場合は縫合なしで手術を終えられる。局所麻酔での施行が可能である5)。
広角観察システム(非接触型レンズ)と接触型レンズを用途に応じて使用する。広角観察は周辺網膜の処理に有利だが、光学的な死角が存在することがある3)。
コアビトレクトミー後、必要に応じて染色剤を用いて膜を可視化する。
裂孔部の光凝固・冷凍凝固後にタンポナーデを行い、網膜を復位させる。
網膜前膜の経毛様体扁平部硝子体切除術ではILM(内境界膜)の同時除去が網膜前膜再発率を低下させる。網膜前膜の約80%には残存グリア要素が含まれており、ILM除去によってこれを除く効果がある5)。
手術終了時に眼内腔をガスまたは液体で充填し、網膜・黄斑を圧迫・支持する。
| タンポナーデ | 持続期間 | 主な適応 |
|---|---|---|
| SF6(六フッ化硫黄) | 約2週間 | 小裂孔・硝子体黄斑牽引 |
| C3F8(パーフルオロプロパン) | 約8週間 | 大裂孔・全層黄斑円孔 |
| シリコーンオイル | 無期限(要抜去) | 難治例・毛様体腫瘍2) |
ガスは気体であるため、海抜0 m基準の気圧下で校正されている。高高度環境ではボイルの法則に従い膨張し眼圧上昇を招く1)(原因とリスク要因参照)。
シリコーンオイルは長期留置すると白内障・続発緑内障・角膜混濁などの合併症を招くため、網膜が復位・安定した後に抜去手術を行うのが原則である。難治性の網膜剥離や眼球癆のリスクが高い例では留置を継続する場合がある。
経毛様体扁平部硝子体切除術は以下の機序で後眼部疾患の病態を改善する。
硝子体混濁の除去:炎症性滲出物・出血・感染性微生物を含む濁った硝子体を物理的に除去し、光路を回復する。
機械的牽引の解除:網膜前膜や増殖膜による接線方向牽引を除去することで黄斑の構造変形が改善する。ILM除去は網膜前膜再発を防ぐとともに、黄斑浮腫に対する内境界膜剥離術の効果をもたらす5)。
サイトカイン・増殖因子の除去:眼内炎・糖尿病網膜症では、硝子体腔に血管内皮増殖因子(VEGF)や炎症性サイトカインが蓄積する。経毛様体扁平部硝子体切除術によってこれらの液性因子が除去され、新生血管増殖や浮腫が抑制される。
タンポナーデの物理的支持作用:ガス・シリコーンオイルは浮力によって網膜・黄斑を支持し、剥離網膜の復位・円孔の閉鎖を補助する。
眼内ガスの体積と圧力の関係はボイルの法則(P × V = 一定)に従う。気圧が低下すると体積が増加し、密閉された眼球内ではこれが眼圧上昇として現れる1)。
Foulshamら(2021)の試算では、C3F8 50%充填眼において高度1000フィートあたり眼圧が10.8 mmHg上昇し、一般的な航空機の巡航高度では最大42 mmHgに達することが示された1)。この眼圧は視神経・網膜血管の虚血閾値を超えうる。
英国眼科医学会(RCOphth)の2023年ガイドラインは、20G手術から27G MIVSへの移行を歴史的転換と位置づけている6)。
RCOphth FTMH Guideline(2023)によれば、術後眼内炎の発生率は20G手術で0.021%、MIVS(23G/25G/27G)では0.005%と有意に低い6)。また術後1日目の再介入率は4.7%と報告された。
この劇的な感染リスク低減がMIVSの普及を後押しし、日帰り手術や局所麻酔での施行を可能にした大きな要因となっている6)。
Foulshamら(2021)は従来定性的にのみ知られていた「ガス眼と航空旅行の危険性」を定量的に評価し、C3F8 50%充填時の眼圧上昇量(1000フィートあたり10.8 mmHg)を初めて体系的に報告した1)。この知見は術前インフォームドコンセントの重要な根拠となる。
Yuら(2022)は毛様体腫瘍に対して経毛様体扁平部硝子体切除術とシリコーンオイル充填を組み合わせた術式を報告した2)。腫瘍切除後の眼球内腔を安定させるための充填剤としてシリコーンオイルを使用したが、長期成績に関するエビデンスは現時点では限られる。