パキドルーゼン
大きさ:125µm超の大型沈着物
分布:後極に散在・孤立、境界明瞭
脈絡膜:Haller層肥厚(パキベッセル)+脈絡膜毛細血管菲薄化
背景:パキコロイド疾患に合併

パキドルーゼン(Pachydrusen)は、脈絡膜肥厚を特徴とするパキコロイド疾患スペクトラムに属するRPE(網膜色素上皮)下沈着物である。2018年にSpaideが提唱した概念であり、従来の軟性ドルーゼンとは異なる発生機序を持つとされる。
パキコロイド疾患とは、脈絡膜血管異常を基盤とし、外網膜・脈絡膜毛細血管に障害をきたす疾患群の総称である。1) 中心性漿液性脈絡膜網膜症(CSC)・ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)・傍中心窩網膜毛細血管拡張症2型(PNV)・網膜色素上皮剥離(PPS)・パキコロイド色素上皮症(PPE)などを含む。1)
パキコロイドにおける脈絡膜肥厚の目安として、健常眼では191〜350µm、中心性漿液性脈絡網膜症では345〜505µm、ポリープ状脈絡膜血管症では223〜590µmとの報告がある。1) 日本人の新生血管型加齢黄斑変性(nAMD)においてドルーゼンを有する割合は約3割とされる。3)
軟性ドルーゼンは加齢黄斑変性の前駆病変として知られ、黄斑中心部に集まりやすく、脈絡膜が薄い傾向がある。一方パキドルーゼンはパキコロイド(脈絡膜肥厚)を背景に生じ、後極に散在する大型の沈着物である。発生機序や合併しやすい疾患も異なる。1)
パキドルーゼン単独では通常無症候性であり、偶発的に発見されることが多い。ポリープ状脈絡膜血管症・nAMDなどの合併症が進行した場合に以下の症状をきたす。
パキドルーゼンは後極に散在する大型(直径125µm超)の黄白色RPE下沈着物である。境界は比較的明瞭であり、軟性ドルーゼンに比べて数が少なく孤立散在する傾向がある。
脈絡膜所見としてHaller層(外層脈絡膜)の肥厚・拡張(パキベッセル)と、Sattler層・脈絡膜毛細血管の菲薄化が特徴的である。1)
ICGA後期に認められるASHS-LIA(area of stromal hyperfluorescence surrounded by a late wash-in area)所見はポリープ状脈絡膜血管症・AT1の約60%に観察される。1)
各ドルーゼン亜型の特徴を以下に示す。
パキドルーゼン
大きさ:125µm超の大型沈着物
分布:後極に散在・孤立、境界明瞭
脈絡膜:Haller層肥厚(パキベッセル)+脈絡膜毛細血管菲薄化
背景:パキコロイド疾患に合併
軟性ドルーゼン
大きさ:63µm超の中〜大型
分布:黄斑中心部に集簇、境界不明瞭
脈絡膜:萎縮・菲薄化の傾向
背景:典型加齢黄斑変性の前駆病変
偽ドルーゼン(SDD)
大きさ:多様
分布:RPE上方に位置(RPE下ではない)
脈絡膜:菲薄化と関連
背景:GA進行リスクが高い
疾患背景別のパキドルーゼン有病率の目安を以下に示す。
| 疾患 | 有病率の目安 |
|---|---|
| 非滲出型加齢黄斑変性 | 約11.7% |
| ポリープ状脈絡膜血管症 | 49〜56% |
| 中心性漿液性脈絡網膜症 | 40〜60% |
ポリープ状脈絡膜血管症・AT1(典型nAMD)では最大60%に認められる。1) 中心性漿液性脈絡網膜症でも40〜60%程度に合併するとされる。パキコロイド疾患スペクトラム全体に共通して高率に観察される。
パキドルーゼンの正確な発生機序は未解明であり、現在も研究段階である。遺伝的背景として、典型加齢黄斑変性に関連するARMS2リスクアレルはパキドルーゼン・パキコロイド系疾患では低頻度とされる。また、CFH遺伝子のリスクアレルは中心性漿液性脈絡網膜症に対して防御的に働くとの報告がある。CFH遺伝子はパキコロイド・中心性漿液性脈絡網膜症・PNVの発症にも関与する。3)
発症の中核機序として、脈絡膜静脈うっ血が主要な駆動因子と考えられている。渦静脈吻合(vortex vein anastomosis)は中心性漿液性脈絡網膜症の約90%・PNVの約95%・ポリープ状脈絡膜血管症の約98%に観察され、脈絡膜静脈系の出口流出障害が血管拡張を引き起こす。2)
Haller層の拡張(パキベッセル)→Sattler層・脈絡膜毛細血管の菲薄化→局所虚血→黄斑新生血管(黄斑下新生血管)という一連の病態カスケードが提唱されている。2)
パキドルーゼンの診断には眼底検査・OCT・EDI-OCT(強調深度撮影OCT)を組み合わせて行う。1)
各検査の特徴を以下に示す。
| 検査法 | 所見・目的 |
|---|---|
| 眼底検査 | 後極の大型黄白色RPE下沈着物を確認 |
| EDI-OCT | Haller層肥厚・RPE下高反射物質を確認 |
| ICGA後期 | ASHS-LIA(ポリープ状脈絡膜血管症/AT1の約60%に陽性) |
主な鑑別を以下に示す。
パキドルーゼン自体に対する確立した特異的治療は現時点では存在しない。地図状萎縮(GA)への進行リスクはない模様であり、5年後のnAMD進行率は軟性ドルーゼン(17.8%)とパキドルーゼン(17.0%)でほぼ同等である。1)
パキドルーゼンはポリープ状脈絡膜血管症・AT1(典型nAMD)への進行に関連するが、軟性ドルーゼン駆動の典型加齢黄斑変性とは病態的に異なる経路をたどる可能性がある。1) エピフェノメン仮説(パキドルーゼンはパキコロイド疾患の副次的産物に過ぎない)も提唱されており、病態における位置づけは現在も議論中である。1)
ポリープ状脈絡膜血管症・nAMDを合併した場合の治療方針は以下の通りである。
パキドルーゼン単独では通常無症候性であり、特異的治療は存在しない。ポリープ状脈絡膜血管症・nAMDなどの合併症が生じた場合に抗VEGF療法・PDTなどが選択される。定期的なモニタリングが重要である。
パキコロイド疾患における脈絡膜静脈うっ血の中心的役割が近年明らかになってきた。脈絡膜静脈(渦静脈)の出口流出障害→静脈うっ血→吻合形成という経路が提唱されている。1)
パキベッセルは薄い内皮細胞チャネルを持つ拡張した脈絡膜外層血管(Haller層血管)であり、脈絡膜内圧の上昇を反映する。2)
脈絡膜静脈うっ血
渦静脈出口障害:流出抵抗増大→脈絡膜内圧上昇
渦静脈吻合:中心性漿液性脈絡網膜症 90%・PNV 95%・ポリープ状脈絡膜血管症 98%に観察2)
Haller層拡張:パキベッセル形成(薄い内皮細胞チャネル)2)
内層脈絡膜障害
Sattler層菲薄化:Haller層拡張に押されて菲薄化
脈絡膜毛細血管菲薄化:OCTA・ICGAで血流欠損(CCFD)として描出2)
局所虚血:外網膜・RPEへの酸素・栄養供給低下
RPE・外網膜障害
RPE機能障害:外節代謝廃棄物処理の低下
ASHS-LIA:ブルッフ膜への中性脂質蓄積が関与1)
黄斑新生血管形成:慢性虚血→VEGF産生増加→新生血管発芽2)
CCFD(脈絡膜毛細血管血流欠損)はICGAの充填遅延およびOCTAの血流欠損として描出され、パキコロイド疾患の脈絡膜内層障害を定量的に評価する指標となる。2)
ASHS-LIA(間質の過蛍光域が後期wash-in帯に囲まれる所見)は、ブルッフ膜への中性脂質蓄積と関連すると考えられており、パキコロイド疾患の組織障害を反映する所見と位置づけられている。1)
「パキコロイド」の定義限界として、脈絡膜厚(CT)のみでパキコロイドを定義することは不十分であり、パキベッセル・脈絡膜毛細血管菲薄化・臨床的文脈を統合した評価が必要とされる。1)
パキコロイドスペクトラムの定義・診断基準・命名法は国際的に統一されておらず、研究グループ間で用語の使用が一致していない状況がある。1) Cheungらは2025年のレビューにおいて、パキコロイド疾患の包括的な定義の明確化と「ディープフェノタイピング(deep phenotyping)」の重要性を強調した。1)
Cheungら(2025)は、パキコロイド疾患全体の定義・疫学・病態・診断・治療に関する国際的なコンセンサス形成に向けた包括的レビューを発表した。脈絡膜画像撮影技術の進歩により、パキコロイドと非パキコロイドの正確な分類が将来の臨床試験において不可欠であると論じた。1)
脈絡膜厚・血流・パキベッセルの変化を治療効果の指標として用いる「脈絡膜ガイド治療」の概念が提唱されている。1) 抗VEGF療法の効果がパキコロイド型ポリープ状脈絡膜血管症と非パキコロイド型ポリープ状脈絡膜血管症で異なるとの報告もあり、表現型に応じた治療選択が今後の課題となっている。2)
brolucizumab(抗VEGF-A単鎖抗体)およびfaricimab(VEGF-A・Ang-2二重特異性抗体)はポリープ状脈絡膜血管症・nAMDに対して投与間隔延長が可能な薬剤として注目されており、パキコロイド型疾患への応用も検討されている。2)
国際共同研究による大規模コホートの蓄積とパキコロイド表現型の詳細な分類が進むことで、パキドルーゼン固有の自然経過・進行リスク因子・治療反応性の解明が期待される。1)
Cheung CMG, Lai TYY, Gomi F, et al. Pachychoroid disease: review and update. Eye. 2025;39:819-834.
Sen P, Gupta A, Bhende M, et al. Polypoidal choroidal vasculopathy: an update. Clin Ophthalmol. 2023;17:53-67.
日本網膜硝子体学会. 新生血管型加齢黄斑変性の診療ガイドライン(第2版). 日本眼科学会雑誌. 2021.