OCT所見
脈絡膜肥厚:SFCT(中心窩下脈絡膜厚)377±92 µmと著明に肥厚する。1)
Double layer sign:RPEと基底膜の間に新生血管が存在する二重構造。PNV症例の100%に認める。1)
SRF(網膜下液):漿液性網膜剥離として出現。PNV症例の100%に認める。1)
色素上皮剥離(RPE隆起):PNVでは高さ82±46 µmと低く扁平(PAT1: 1199±31 µmと比較して有意に低い)。1)

パキコロイド新生血管症(Pachychoroid Neovasculopathy; PNV)は、2015年にCheungらが命名した疾患概念である。脈絡膜肥厚(パキコロイド)を背景に、網膜色素上皮(RPE)下に1型黄斑新生血管(MNV)が生じる状態を指す。
PNVはパキコロイドスペクトル疾患(PSD)の病態進行(Stage III)に位置づけられる。MNVの分類上は1型(RPE下)に属し、ポリープ状脈絡膜血管症とも連続性が高い。8)加齢黄斑変性とは異なり、ドルーゼンを伴わない点が特徴である。日本のnAMDの約半数をPNVが占め、7)加齢黄斑変性全体では約25%に相当するとされる。5)
また、PNVの13.5%がポリープ状脈絡膜血管症へ進行することが報告されており、5)両者は連続したスペクトラムを形成すると考えられている。さらに、類似した所見を示す疾患との鑑別が困難なため、14.3%の症例で誤診が起きているとの報告もある。1)
PNVは加齢黄斑変性に分類されることもあるが、ドルーゼンを伴わず脈絡膜肥厚が病態の中心である点で加齢黄斑変性とは異なる背景を持つ。日本のnAMDの約半数を占め、7)独立した疾患概念として扱われるようになっている。
PNVでは脈絡膜厚が著明に増加し、特徴的なOCT所見を呈する。主要所見を以下に示す。
OCT所見
脈絡膜肥厚:SFCT(中心窩下脈絡膜厚)377±92 µmと著明に肥厚する。1)
Double layer sign:RPEと基底膜の間に新生血管が存在する二重構造。PNV症例の100%に認める。1)
SRF(網膜下液):漿液性網膜剥離として出現。PNV症例の100%に認める。1)
色素上皮剥離(RPE隆起):PNVでは高さ82±46 µmと低く扁平(PAT1: 1199±31 µmと比較して有意に低い)。1)
血管造影所見
SIRE(網膜下高反射物質):全PNV症例で認められる特徴的所見。1)
渦静脈吻合:PNVの95%に認められ、脈絡膜静脈うっ滞の証拠となる。6)
SHRM(網膜下高反射物質):PNVでは28.6%と、PAT1(71.4%)より低頻度。1)
SRRLS(網膜下逆転反射層):PNVでは0%、PAT1では71.4%と鑑別に有用。1)
以下にPNVとPAT1型(典型的nAMD)の主要OCT所見の違いを示す。
| 所見 | PNV | PAT1(典型nAMD) |
|---|---|---|
| 色素上皮剥離高さ | 82±46 µm | 1199±31 µm |
| SRRLS | 0% | 71.4% |
| SHRM | 28.6% | 71.4% |
Double layer signとはOCTでRPEとBruch膜の間に新生血管組織が挟まって二重構造に見える所見である。PNVでは100%に認められ、1)診断において重要な指標となる。
PNVの発症には脈絡膜の構造的・機能的異常が中心的役割を果たす。
PNVの診断にはOCTとOCTAが中心的役割を担う。
OCTにおけるpeaking 色素上皮剥離(高さの高いPED)のカットオフ値として158 µmが報告されており、これ以上であればPAT1型nAMDとの鑑別に有用で、AUC 0.969と高い識別能を示す。1)SRRLSの有無も鑑別の重要な指標となる。1)
PNVと中心性漿液性脈絡網膜症を背景とする1型MNVの鑑別には、日本の加齢黄斑変性診療ガイドラインが推奨するOCT・OCTA所見の総合評価が有用である。7)
以下にPNVと主要疾患の鑑別ポイントを示す。
| 疾患 | ドルーゼン | SFCT | 色素上皮剥離高さ |
|---|---|---|---|
| PNV | なし | 肥厚 | 低(<158 µm) |
| 典型nAMD | あり | 正常〜薄化 | 高(≧158 µm) |
| 中心性漿液性脈絡網膜症 | なし | 肥厚 | 低〜中等度 |
抗VEGF薬が第一選択治療である。7)PNVは加齢黄斑変性と比較して抗VEGF注射の回数が少ない傾向にある。5)使用薬剤は以下の通りである。
PDT単独または抗VEGF薬との併用療法が有効である。5)半量PDT(HF-PDT)は脈絡膜への影響を軽減しつつ有効性を維持できる。
Yamadaら(2022)は、89歳の患者に半量PDT(HF-PDT)とアフリベルセプト硝子体内注射の併用療法を行い、3か月後に漿液性網膜剥離(SRD)が完全消失したと報告した。4)この報告はHF-PDT後の渦静脈閉塞を世界で初めて記録したものでもあった。
抗VEGF単独
第一選択:日本加齢黄斑変性診療ガイドラインで推奨。7)
注射回数が少ない:加齢黄斑変性より少ない傾向。5)
再発への対応:PRN法またはTreat-and-Extend法が用いられる。
PDT併用
適応:抗VEGF単独不応例。脈絡膜肥厚が顕著な症例。
半量PDT(HF-PDT):標準量の半分のビスダインを使用。副作用軽減効果がある。4)
効果:SRFの消退および脈絡膜厚の減少が期待される。
スピロノラクトン
適応:抗VEGF不応例の補助療法として検討。
機序:鉱質コルチコイド受容体拮抗薬として脈絡膜液貯留を抑制する。2)
報告例:25 mg BIDで6週後にSRF 51%減、12週後に90%減。CT 366→214 µm(42%減)。2)
抗VEGF単独不応例にはPDTとの併用が有効な選択肢となる。5)また、スピロノラクトンが著効した症例報告もある。2)詳細は「標準的な治療法」の項を参照。担当医との相談が重要である。
PNVの病態は脈絡膜の構造的・血流動態的異常を基盤とする。
パキコロイドスペクトル疾患(PSD)に共通する病態は渦静脈(Vortex vein)のうっ滞である。PNVの95%、ポリープ状脈絡膜血管症の98%、中心性漿液性脈絡網膜症の90%に渦静脈吻合が認められる(正常SFCT 267.5 µm)。6)
渦静脈うっ滞が生じると以下の経路でMNVが発生する。
中心性漿液性脈絡網膜症→PPE(パキコロイド色素上皮症)→PNV→ポリープ状脈絡膜血管症は連続したスペクトラムを形成すると考えられている。5)この疾患連続体の概念は、PNVからポリープ状脈絡膜血管症への進行(13.5%)をよく説明する。5)
Senら(2023)は、PNVにおける渦静脈吻合の頻度がPNV 95%、ポリープ状脈絡膜血管症 98%、中心性漿液性脈絡網膜症 90%と高く、正常眼(SFCT 267.5 µm)と比較して著明な脈絡膜肥厚が認められることを報告した。6)Haller層の血管拡張がSattler層を圧排して虚血を招き、MNV形成に至るという機序を支持する所見である。
OCTAを用いたMNV評価では従来のICGA(感度66%)を大きく上回る感度97%が報告されており、5)PNVの診断精度向上が進んでいる。SIREという新しい概念(網膜色素上皮下高反射物質の組み合わせ指標)の導入により、PNVとポリープ状脈絡膜血管症、典型加齢黄斑変性の鑑別がより精緻になりつつある。5)
スピロノラクトンに代表されるMRA(鉱質コルチコイド受容体拮抗薬)は、脈絡膜の液体調節に関与する経路を遮断することで効果を発揮すると考えられている。
Keidel LFら(2021)は、29回の抗VEGF注射に不応したPNV症例にスピロノラクトン25 mg BIDを投与し、6週後にSRF 51%減、12週後に90%減、脈絡膜厚は366→214 µm(42%減)という著明な改善を報告した。2)
大規模ランダム化試験による検証が今後の課題である。
複数のVEGFアイソフォームおよびアンジオポエチンを標的とする新規薬剤(ファリシマブ等)の長期成績、ならびに遺伝子治療の可能性が研究されている。脈絡膜静脈系への介入(渦静脈に対するPDT等)も探索的に検討されている。6)