網膜分離様変化
乳頭小窩に連続する分離:乳頭小窩につながる網膜分離様変化から始まる。分離症様の間隙は乳頭ピットに連続している。
多層性の変化:内顆粒層・外網状層・Henle層など多層に嚢胞様変化を認める1)。

視神経乳頭小窩(optic disc pit; ODP)は、視神経乳頭内にみられる円形〜楕円形の陥凹を示す先天異常である。1882年にWietheが初めて報告した。有病率は約11,000人に1人(0.01%)と稀であり、約2/10,000とする報告もある1)。
乳頭内のどの位置にも存在しうるが、耳側縁にみられることが多い。最大3分の1は中央に位置する。灰白色・淡黄色・黒色など色調は様々で、ピット内のグリア組織の量と位置に依存する。大きさは乳頭径の1/10〜1/2以上まで多様である。通常は単発であるが、複数みられることもある。
約85%が片眼性であり、性差はなく、遺伝性も明らかでない。大きい乳頭や脈絡膜コロボーマに合併することから、胎生期の眼杯裂閉鎖不全が関与していると考えられている。
漿液性網膜剥離を合併しない限り、通常は視力低下せず無症状である。しかし25〜75%の症例で漿液性黄斑剥離を合併し、変視症・視力低下・中心暗点などを自覚する。この黄斑異常を合併した病態は乳頭小窩黄斑症候群(optic disc pit maculopathy; ODPM)と呼ばれる。好発年齢は20〜40歳代である。
遺伝性は明らかでない。散発的に発生すると考えられている。約85%が片眼性であり、家族歴が報告されることは稀である。
単独の乳頭小窩では無症状のことが多く、ルーチンの散瞳眼底検査で偶発的に発見される。
黄斑症候群(ODPM)を合併した場合に以下の症状が出現する。
乳頭小窩は細隙灯顕微鏡検査や検眼鏡検査で確認できる。
黄斑症候群を合併した場合、以下のOCT所見が特徴的である。
網膜分離様変化
乳頭小窩に連続する分離:乳頭小窩につながる網膜分離様変化から始まる。分離症様の間隙は乳頭ピットに連続している。
多層性の変化:内顆粒層・外網状層・Henle層など多層に嚢胞様変化を認める1)。
漿液性黄斑剥離
黄斑外層裂孔:分離が黄斑部に及ぶと不整形の黄斑外層裂孔が続発し、網膜外層が剥離する。
二段の隆起:黄斑部位で伏せた椀状の円形剥離とその周辺の浅い剥離との二段(double line)の隆起を呈する。
黄斑剥離が長期に及ぶと黄斑が嚢胞様変性・層状円孔・色素上皮萎縮などを合併し、視力予後は不良になる。
視神経乳頭小窩は、胎生期の眼杯裂(胎生裂)閉鎖不全に起因する先天異常と考えられている。大きい乳頭や脈絡膜コロボーマに合併しやすいことがその根拠である。
病理組織学的には、篩状板の欠損部を通り、周囲の異形成網膜および線維組織が髄膜(くも膜下腔)および隣接する視神経内へ脱出している像が認められる。Swept source OCTでもピット深部での篩状板の欠損とくも膜下腔の隣接が観察される。
特定のリスク因子は知られていない。散発的に発生し、性差もない。ただし、鈍的眼外傷や頭部外傷がODPMの発症契機となる可能性が指摘されている1)。小児例では後部硝子体面の強い癒着が外傷時に黄斑への牽引力を生じ、ODPMを誘発しうると考えられている1)。
乳頭小窩は偶発的に発見されることが多く、診断の確定と合併症の検出のために各種検査を行う。
散瞳検眼鏡検査で乳頭内の灰白色〜黒色の陥凹を確認する。詳細な評価には細隙灯顕微鏡を用いた両眼視検査を行う。乳頭が大きく左右差がある場合は乳頭小窩の存在を疑う。
ODPMの診断に不可欠な検査である。以下を評価する。
OCTで乳頭と黄斑を横切る断面を観察すると、後極で浅く挙上した網膜は網膜内層分離と網膜外層剥離の2層に分かれていることが検出される。
乳頭小窩は造影初期に低蛍光、後期に過蛍光を示す。ODPMの確定診断よりも、中心性漿液性脈絡網膜症や網膜下新生血管膜との鑑別に有用である。
弓状暗点・中心暗点・盲点の拡大などの視野欠損を呈することがある。ハンフリー視野検査は、緑内障など他の進行性視神経症との鑑別に有益である。乳頭ピットに神経線維欠損を合併していることもあり、病態把握に視野検査が有用である。
主な鑑別疾患を以下に示す。
| 病態 | 主な鑑別疾患 |
|---|---|
| 乳頭異常 | 乳頭コロボーマ、朝顔症候群、傾斜乳頭、緑内障性陥凹 |
| 黄斑症 | 中心性漿液性脈絡網膜症、網膜下新生血管膜 |
緑内障性陥凹との鑑別では、乳頭小窩による陥凹は非進行性であること、リムの蒼白化を伴わないこと、網膜神経線維層欠損の分布が異なることが鑑別のポイントとなる。
乳頭小窩は先天性の局所的な陥凹で、成人では非進行性である。緑内障性陥凹はリムの消失やリム切痕を伴い進行性である。リムの蒼白化が陥凹拡大に先行する場合は非緑内障性の変化が疑われる。OCTでの経時的な網膜神経線維層厚の変化も鑑別に有用である。
黄斑病変がない乳頭小窩は経過観察が基本である。小児では自然軽快例も少なくなく、視力やOCT所見の変動を数か月観察して悪化する場合に治療を検討する。高齢で発症した黄斑剥離も後部硝子体剥離の発生で自然軽快することがある。
Mannaaら(2022)は、56歳男性で重症のODPMが自然発生した後部硝子体剥離(PVD)の後に劇的に改善し、36か月後にBCVAが20/30-1まで回復した症例を報告した5)。この症例はODPMの液体が硝子体由来であることを支持する所見である。
後部硝子体剥離がなく数か月で黄斑剥離が進行し視力が低下する場合に治療を適応する。意図的後部硝子体剥離作製を目的とする硝子体手術が現在の治療の中心である。
トリアムシノロンで後部硝子体膜を可視化し、カッターの吸引やフックを利用して丁寧に乳頭周囲から黄斑領域の後部硝子体剥離を作製する。乳頭ピットに後部硝子体面あるいはCloquet管の索状組織が強く癒着していることがあり、乳頭ピットを傷つけないように癒着を解除する。
Pinheiroら(2022)の13例の後方視的研究では、全例でPPV+後部硝子体剥離誘導+ガスタンポナーデが施行され、平均BCVAは20/200から20/50に改善した4)。全例で黄斑復位が得られたが、4例が術後3〜11年で黄斑剥離の再発を認めた。
硝子体手術に併用される主な補助的手技を以下に示す。
乳頭小窩をILMフラップで覆う比較的新しい手技である。フラップがODP腔内でのグリオーシスと細胞増殖を誘導し、交通腔を閉鎖する1)。
Tavallaliら(2023)は、3眼のODPMに対しPPV+後部硝子体剥離誘導+反転ILMフラップ+C3F8タンポナーデを施行した1)。1例はBCVAが2/200から20/25へ著明に改善し、3眼すべてで有意な解剖学的改善が得られた。Babuらの比較研究ではILMフラップ群の解剖学的成功率は85.7%であり、ILM剥離のみ(25%)を大きく上回った1)。
ヒト羊膜移植片で乳頭小窩を覆い、液体流入の物理的バリアを形成する手技である。
Busquets(2024)は、標準的手技に抵抗した難治性ODPMに対し、パーフルオロカーボン液下での両手法によるヒト羊膜パッチを施行し、2週間以内に網膜下液の完全消失とBCVA 20/50への改善を報告した2)。6か月時点で白内障手術後にBCVAは20/25に回復し、安定した成績であった。
Alenaziら(2025)は3例にヒト羊膜パッチを施行し、全例でSRFの完全消失と視力改善を報告した3)。OCT上パッチは最長26か月にわたり統合されたまま確認され、合併症や再発はなかった。ILMフラップ法と比較して黄斑円孔形成のリスクが低い可能性がある。
術後の網膜復位は緩徐であり、完全復位には数か月〜1年以上を要する。視力改善もこれに伴い徐々に得られる。Pinheiroらの報告では平均15.4か月で最良視力に達した4)。経過中にOCTで悪化がなければ、焦らず経過観察を続けることが大切である。
乳頭小窩の病理組織所見では、篩状板が欠損し、その部位に脆弱な網膜組織が陥凹し、深部にくも膜下腔が隣接している。陥入した脆弱な網膜組織の深部で硝子体線維が接着している。
ODPMにおける網膜下液の起源については複数の仮説がある。
硝子体液由来説
後部硝子体牽引:乳頭ピットを覆う多孔性の膜に対する後部硝子体牽引が陰圧を発生させ、液化した硝子体液が網膜内に引き込まれる1)。
支持する所見:硝子体手術による後部硝子体剥離作製後や自然発生後部硝子体剥離後にODPMが改善することがこの説を支持する1)5)。
脳脊髄液由来説
くも膜下腔との交通:ODPを介してくも膜下腔が網膜内・網膜下腔と直接交通し、脳脊髄液が漏出する1)。
支持する所見:硝子体手術後にシリコーンオイルが頭蓋内の髄液中に侵入した報告がある。OCT所見からも髄液との交流が示唆されている。
いずれの仮説も単独では全例を説明できず、硝子体液と脳脊髄液の両方が液体源となりうると考えられている1)。ピット部位での眼圧と髄圧の圧勾配による液流が脆弱な網膜組織周囲に存在し、加齢や眼打撲による後部硝子体牽引が契機となって液流が網膜内・網膜下腔に流入すると推測されている。
OCTによる観察で判明した進行過程は以下の通りである。
Tavallaliら(2023)は文献レビューで、ODPMのOCTパターンとして(i)小児に多い漿液性剥離優位パターンと(ii)成人に多い多層性分離パターンの2型を紹介した1)。液体は外顆粒層を中心に多層に移動しうるが、内層分離を経ずに直接網膜下に至る直接経路もまれに存在する。
ヒト羊膜移植片による乳頭小窩被覆は比較的新しい手技であり、長期成績の蓄積が進んでいる。
Alenaziら(2025)は3例のODPMにヒト羊膜パッチを施行し、全例で網膜下液の完全消失を確認した3)。最長26か月の経過観察でパッチはOCT上統合されたまま確認され、再発やパッチ関連合併症はなかった。マイクロペリメトリーでは中等度の網膜感度低下がみられたが、これはODPM罹患期間に起因するものと考えられた。従来のILMフラップ法で9.2〜50%に報告される黄斑円孔形成のリスクが低い可能性がある。
Busquets(2024)は、難治性ODPMに対しシャンデリア照明下での両手法とパーフルオロカーボン液によるヒト羊膜パッチ固定を報告した2)。従来の単一鑷子法と異なり、羊膜の接着面を正確に配置可能であった。PFO液は1週間留置された後に除去された。
ODPMの改善が後部硝子体剥離発生後に自然に起こりうることから5)、オクリプラスミンなどによる酵素的硝子体融解がODPM治療に応用できる可能性が示唆されている。ただし現時点では研究段階にとどまる。
Cyrinoら(2024)は、12歳男児がバスーン演奏中にODPMを発症し、治療後の演奏再開で再発した症例を報告した6)。CSF圧とIOP差に基づき、バルサルバを伴う活動の回避を推奨している。
管楽器演奏や重量挙げなど、強いバルサルバ手技を伴う活動ではODPM再発リスクに注意する。