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網膜・硝子体

結節性硬化症の眼科的徴候

1. 結節性硬化症の眼科的徴候とは

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結節性硬化症(tuberous sclerosis complex; TSC)は、腫瘍抑制遺伝子であるTSC1およびTSC2の常染色体顕性(優性)変異を特徴とする遺伝性疾患である。Bourneville-Pringle病とも呼ばれ、顔面の血管線維腫(皮脂腺腫)、てんかん、知的障害を古典的三主徴とする。

1880年にBournevilleが多発する脳硬化巣を有する剖検例のうち、てんかんと知的障害を呈する疾患を結節硬化症と命名した。1890年にPringleが皮脂腺腫を加え疾患概念を確立した。ただし、この三徴がすべて揃うのは患者の約29%に過ぎない。

TSCの発生率は出生5,000〜10,000人に1人と推定される2)。あらゆる民族において男女等しく発症する。症例の約60%は孤発性変異によるもので、40%が家族性の常染色体顕性遺伝である。日本における患者数は4,000〜12,000人と推計される。

眼科的徴候としては、網膜星細胞過誤腫が最も代表的である。TSC患者の約50%に認められ、25%で両眼性となる。通常は非進行性で良性の経過をたどる。

Q 結節性硬化症は必ず遺伝するのか?
A

症例の約60%は孤発性変異(新規突然変異)によるものであり、必ずしも親から遺伝するわけではない。残りの約40%が家族性の常染色体顕性遺伝であるが、同じ家系内でも表現型の差異が大きい。

網膜星細胞過誤腫は無症状のことが多い。小児科や神経精神科からの紹介、あるいは眼底健診で偶然に発見されることがほとんどである。

まれに以下の症状が出現する。

  • 視力低下視神経乳頭上や黄斑部の病変が増大した場合に生じる。
  • 硝子体出血:扁平型過誤腫上の脆弱な血管が出血を起こすことがある。
  • 視野欠損:大きな過誤腫の位置に対応して弓状視野欠損を生じることがまれにある。

SEGAによる閉塞性水頭症が発生した場合には、頭痛の悪化、悪心・嘔吐、一過性視覚障害が出現する。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

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TSCにおける網膜過誤腫は主に3型に分類される。

扁平型

最多のタイプ:TSC患者で最も多くみられる。

外観:淡灰色〜黄色、半透明で境界明瞭。石灰化を欠く。

好発部位:血管弓の耳側端に位置し、血管が不明瞭となることが手がかりとなる。

合併症:覆われた血管は脆弱で、硝子体出血を起こしやすい。

多結節型

桑の実様病変:石灰化を伴う白色の結節状隆起を呈する。

好発部位:後極部、乳頭周囲、視神経乳頭上に多い。

サイズ:0.5〜4乳頭径。

注意点視神経乳頭ドルーゼンと誤認されることがある。

移行型

頻度:TSC患者の9〜12%にみられる。

特徴:扁平型と多結節型の両方の特徴を併せ持つ。

外観:基部は扁平で半透明、中心部が結節状で石灰化した外観を呈する。

  • 視神経過誤腫:視神経表面に星細胞過誤腫が発生する。境界が不明瞭な隆起した視神経乳頭として観察され、乳頭浮腫と鑑別を要する。通常は無症状で非進行性であるが、まれに拡大して視力低下を引き起こす。
  • 網膜脱色素斑:中間周辺部に脱色素の打ち抜き像(punched-out lesion)がみられる。TSCの小基準の一つである。
  • 前眼部所見:眼瞼血管線維腫、虹彩脱色素斑、虹彩・毛様体の過誤腫、非定型的コロボーマ(鼻下側以外に位置する眼コロボーマ)が報告されている。
  • 屈折異常近視乱視との関連が増加し、遠視との関連が減少するとの報告がある。
Q 網膜過誤腫は視力に影響するか?
A

通常は視力低下の原因とはならない。ただし、視神経乳頭上の病変は滲出性変化や播種をきたすことがあり、注意を要する。侵襲型はきわめてまれであるが、増大すると失明に至ることもある。

TSCはTSC1遺伝子(9q34)またはTSC2遺伝子(16p13)の機能喪失変異によって発症する。

  • TSC2変異:患者の75〜80%に認められ、より頻度が高い2)。TSC1変異に比べ重篤な表現型を示す。
  • TSC1変異:10〜30%に認められる。
  • 変異未検出例:TSC患者の10〜25%では従来の遺伝子解析で変異が特定されない。

散発例ではTSC2の異常によるものが多い。TSC2変異はTSC1変異よりもてんかん、腎血管筋脂肪腫、SEGA、重大な認知障害との関連が強い。眼科的にも、TSC2変異はより重大な網膜所見と相関する。

網膜過誤腫は、グリア星細胞と血管の無秩序な増殖によって発生する。中枢神経病変がある例では眼底にも病変が多発する傾向がある。

2012年に国際結節性硬化症コンセンサスグループが確立した診断基準を以下に示す。

確定診断には以下のいずれかを満たす必要がある。

  • 遺伝子検査でTSC1/TSC2の病原性変異を特定
  • 大基準2つ、または大基準1つ+小基準2つ以上

主な大基準と小基準は以下の通りである。

大基準小基準
多発性網膜過誤腫網膜脱色素斑
顔面血管線維腫3個以上コンフェッティ状皮膚病変
上衣下結節・SEGA歯のエナメル質陥凹3個超
心横紋筋腫多発性腎嚢胞

多発性網膜過誤腫はTSC診断の大基準の一つであり、眼科検査は診断において重要な役割を果たす。

  • 細隙灯顕微鏡・眼底検査:前眼部および後眼部の所見を評価する。虹彩脱色素斑や網膜過誤腫の有無を確認する。
  • 眼底写真:網膜過誤腫の増殖の進行を経時的に評価するために用いる。
  • 光干渉断層計(OCT):過誤腫の厚みや関連する液貯留を評価する。非石灰化型では虫食い状の嚢胞腔(moth-eaten appearance)、石灰化型では桑実状(mulberry appearance)の所見を呈する。
  • Bモード超音波検査:多結節型過誤腫の石灰化を後方シャドーイングを伴う高エコー輝度として検出する。
  • 視野検査:視神経過誤腫やSEGAに伴う視野欠損が疑われる場合に実施する。
  • 神経画像検査(CT/MRI):視神経過誤腫と乳頭浮腫の鑑別、SEGAの評価に必要である。

TSC1またはTSC2の病原性変異の特定により確定診断が可能である2)。次世代シーケンシング(NGS)を用いた多遺伝子パネル解析が行われる。ただし、患者の10〜25%では従来の遺伝子解析で変異が検出されないため、臨床基準の役割が重要である。

網膜星細胞過誤腫の鑑別には以下が含まれる。

  • 網膜芽細胞腫:最も重要な鑑別疾患である。小児期には石灰化がないこと、栄養血管に乏しいこと、隆起が平坦なことから鑑別は比較的容易であるが、桑の実状の隆起型では鑑別が困難な場合がある。
  • 後天性網膜グリオーシス:結節性硬化症のない中高年者に生じる。過誤腫ではなく反応性病変である。
  • 網膜有髄神経線維:白色の網膜病変として鑑別を要する。
  • 視神経乳頭ドルーゼン:多結節型過誤腫との鑑別が必要となる。
Q 結節性硬化症の眼科検査はどのくらいの頻度で受けるべきか?
A

TSCと診断された場合、定期的な眼底検査が推奨される。網膜過誤腫の進行は通常緩徐であるが、視神経乳頭上の病変や侵襲型はまれに増大するため、経時的な評価が重要である。SEGAを有する患者では「神経眼科学的合併症」への注意も必要となる。

網膜過誤腫は通常、増大傾向がほとんどなく治療を要さない。経過観察が基本である。

眼所見に対する治療の適応は以下の場合に限られる。

  • 網膜血管異常の合併:動脈瘤様の血管拡張や動静脈奇形を合併する例では、硝子体出血や増殖性硝子体網膜症網膜剥離の原因となるため、予防的に光凝固治療が行われる。
  • 侵襲型過誤腫:進行性増殖を示す場合は、手術やレーザー治療が検討される。ベバシズマブ硝子体内注射が奏効した報告もあるが、最終的に眼球摘出が必要となった例も報告されている。

TSCの全身的治療は多科連携で行われる。

  • 抗てんかん薬:てんかん発作の薬物コントロールが重要である。ビガバトリンは点頭てんかんに用いられるが、成人TSC患者の52%、小児の34%で周辺視野狭窄を引き起こす報告がある。
  • mTOR阻害薬(エベロリムス):SEGAの縮小に有効であり、外科的切除が困難な場合に適応となる1)。腎血管筋脂肪腫にも使用される。
  • 外科的治療:SEGAに対しては完全切除が第一選択の治療である1)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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TSCの病態の中心は、TSC1/TSC2遺伝子産物であるハマルチンとツベリンの複合体の機能不全である。

この複合体はmTOR(mechanistic target of rapamycin)シグナル経路の負の調節因子として機能する。正常ではハマルチンがツベリンを安定化させ、ツベリンがRheb-GTPaseに対するGTPアーゼ活性化タンパク質として作用し、mTORC1(mTOR複合体1)を抑制する2)

TSC1またはTSC2に機能喪失変異が生じると、以下のカスケードが起こる。

  • Rheb-GTPの蓄積:ツベリンによるGTPアーゼ活性化機能が失われ、Rheb-GTPが蓄積する。
  • mTORC1の恒常的活性化:下流のp70 S6キナーゼおよび4E-BP1がリン酸化される。
  • 細胞増殖の亢進:抑制の効かない細胞増殖が生じ、全身に過誤腫が形成される。
  • VEGFの増加:mTORの持続的活性化により血管内皮増殖因子が増加し、腫瘍の成長を促進する。

網膜過誤腫は、グリア星細胞と血管のネットワークが神経線維層に形成されたものである。病変の発育に伴い、さまざまな程度に石灰化が生じる。

クヌードソンの「2ヒット仮説」によって表現型の多様性が説明される。第一のヒットはTSC1/TSC2の既存変異であり、第二のヒットが同一遺伝子内に生じてヘテロ接合性が消失すると、腫瘍が発生する。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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SEGAに対するmTOR阻害薬と放射線療法の併用

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Kamelら(2024)は、両側SEGAを有する40歳女性に対し、分割定位放射線治療(60 Gy、30分割)を施行し、約8年間で腫瘍体積の72〜82%の縮小を得た症例を報告した1)。その後に腎血管筋脂肪腫の治療目的でエベロリムス(2.5 mg/日)を開始したところ、SEGA残存腫瘍の体積がさらに縮小し、最終的に元の体積の10%未満となった。放射線治療とmTOR阻害薬の相加的効果が示唆された。

SEGAに対する放射線治療は歴史的に無効と考えられてきたが、この報告は分割定位放射線治療の有効性を示唆する。エベロリムスによる腫瘍縮小後の放射線治療は照射体積の縮小による副作用軽減が期待され、投薬中止後の再増大を防ぐ併用戦略が提案されている1)

TSCとmTOR経路を標的とした新規治療

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Jurcaら(2023)は、TSC1遺伝子変異(exon 13, c.1270A>T)を有する33歳女性患者のケースレポートにおいて、2型糖尿病治療薬であるメトホルミンがmTOR経路を抑制することにより、TSC関連腫瘍の進行やてんかん発作に対して有益な効果をもたらす可能性を示唆した2)

TSCとPI3K/AKT/mTORシグナル経路の関連は、新たな治療標的の探索において重要な研究テーマとなっている2)。mTOR経路はインスリン感受性や糖代謝の調節にも関与しており、代謝疾患との関連も注目されている。


  1. Kamel R, Van den Berge D. Radiotherapy for subependymal giant cell astrocytoma: time to challenge a historical ban? A case report and review of the literature. J Med Case Rep. 2024;18:330.
  2. Jurca CM, Kozma K, Petchesi CD, Zaha DC, Magyar I, Munteanu M, et al. Tuberous sclerosis, type II diabetes mellitus and the PI3K/AKT/mTOR signaling pathways—case report and literature review. Genes. 2023;14:433.

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