第1群
異常毛細血管網:主要な動脈と静脈の間に存在する。
臨床的意義:病変は小さく、通常は無症状で経過する。頭蓋内病変の合併はまれである。

Wyburn-Mason症候群(Wyburn-Mason syndrome; WMS)は、動静脈奇形(AVM)を特徴とするきわめて稀な非遺伝性の先天性神経皮膚疾患である。別名としてBonnet-Dechaume-Blanc症候群、総状血管腫症(racemose angiomatosis)とも呼ばれる。母斑症(phakomatosis)の一つに分類される。
網膜および脳のAVMと顔面の血管変化の組み合わせは1932年に初めて記述された。1937年にBonnet、Dechaume、Blancが同様の所見を持つ2例を報告した。1943年にR. Wyburn-Masonが9つの臨床経過を報告し、以後この名称が定着した。
片側性の網膜脳血管奇形で、一側の頭蓋内(特に視床・中脳近傍)のAVM、同側の網膜AVM、同側の顔面皮膚の血管奇形からなる。遺伝形式は明らかでない。これまでに約105例が報告されている2)。発生率および有病率は不明であり、人種・性差による偏りはない。
34症例報告のナラティブレビューでは、診断時の平均年齢は15.6歳であった1)。男女比はほぼ同等(男性53%、女性47%)で、女性の平均診断年齢は13.6歳、男性は17.4歳であった1)。
脳顔面動静脈変成症候群(CAMS)分類では、WMSはCAMS-2に位置づけられる2)。CAMS-2は上顎・頬部・大脳皮質・間脳・視神経・網膜を侵す。
本症候群は非遺伝性の先天疾患である。特定の遺伝子や遺伝形式は同定されていない。胎生期における血管発達の散発的な異常が原因と推定されている。
WMSの臨床像はAVMの数・部位・種類に応じて多様である。出生時から存在するにもかかわらず、20〜30代で初めて症状が現れる例もある。
34症例レビューにおける主訴の内訳は以下の通りである1)。
そのほか、結膜の異常に拡張した血管、眼瞼下垂、眼振、神経麻痺、色覚障害なども報告されている。
網膜AVMはArcherらにより3群に分類されている1)。
第1群
異常毛細血管網:主要な動脈と静脈の間に存在する。
臨床的意義:病変は小さく、通常は無症状で経過する。頭蓋内病変の合併はまれである。
第2群
毛細血管床の欠如:動脈と静脈の間に毛細血管網がない。
臨床的意義:網膜浮腫・出血・視力低下のリスクがある。頭蓋内病変の合併リスクは低い。
第3群
広範かつ複雑なAVM:拡張・蛇行した太い血管からなり、動静脈の区別がつかない。
臨床的意義:視力障害のリスクが高い。頭蓋内AVM合併の可能性が最も高く、WMSの正式診断の要件となる。
網膜AVMは網膜全体に及ぶ場合(29.8%)と1つ以上の象限に局所的に存在する場合(70.2%)がある。眼窩AVMは61.5%に認められる。
網膜AVMに伴う主な眼合併症は以下の通りである。
眼所見として、視神経萎縮、血管新生緑内障、黄斑浮腫、硝子体出血、網膜剥離のほか、眼球突出、結膜毛細血管拡張、色覚障害、外斜視、開瞼制限がみられる。
小さなAVMでは無症状のことが多い。大きなAVMでは網膜虚血により著しい視力低下を生じうる。視力障害の原因には、AVMによる視界の遮蔽、脈絡膜梗塞、血管閉塞、視神経乳頭浮腫、視神経萎縮がある。Archer分類の第3群で特にリスクが高い。
WMSの正確な病因は不明である。胎生7週以前に、原始血管中胚葉・発達中の眼杯・前部神経管に散発的な血管発達異常が生じることが原因と推定されている1)2)。そのため網膜AVMと頭蓋内AVMは同側に存在する傾向がある1)。
本症候群には以下の特徴がある。
網膜AVMはゆっくりと成長する傾向があるが、妊娠・初経・外傷によって成長が加速する可能性がある。
WMSの診断は徹底的な臨床検査による。第3群のAVMと頭蓋内AVMの併存がWMSの診断要件となる。皮膚症状が他の母斑症ほど多くないため、診断は小児期後半まで遅れることが多い。
主な検査法を以下に示す。
| 検査法 | 主な役割 | 使用率 |
|---|---|---|
| 散瞳下眼底検査 | 網膜AVM検出 | 94%1) |
| MRI | 頭蓋内AVM評価 | 62%1) |
| OCT | 長期フォロー | 41%1) |
網膜蔓状血管腫(retinal racemose hemangioma)は高流量の拡張した動静脈異常吻合であり、異常血管からの蛍光漏出はみられない。非遺伝性の奇形であるWyburn-Mason症候群に随伴する場合は、脳および眼窩造影MRIで大脳・脳幹のAVMを確認する必要がある。
WMSの管理は基本的に保存的である。網膜AVMの大部分は安定しており、経過観察が治療の主体となる。
ナラティブレビューでは、管理方針が記載された22例のうち50%が保存的に管理されていた1)。27年間にわたるフォローアップで網膜および脳AVMに変化が認められなかった症例も報告されている1)。
網膜蔓状血管腫は純粋な意味での腫瘍ではなく、先天網膜動静脈吻合である。通常、光凝固の適応とはならない。
積極的治療の適応は、視機能障害がある場合またはAVMの年間破裂率が2.2%を超える場合である1)2)。
網膜AVMの多くは安定しており、出血リスクが低い1)。一方、治療介入自体が出血や合併症のリスクを伴うため、症状がなければ経過観察が選択される。頭蓋内AVMについても、年間破裂率が2.2%以下であれば定期的なモニタリングが推奨される1)。
WMSにみられるAVMは、毛細血管系を間に挟まない動脈と静脈の直接交通である。正常な毛細血管床を介さずに高流量の動脈血が静脈に流入するため、血管内に乱流が生じる。
この乱流は以下の病態を引き起こす。
AVMの組織学的所見としては、動脈壁および静脈壁の不規則に肥厚した筋層が認められる。間質出血を伴うこともある。
網膜AVMは血行動態の変化に伴う二次的な変化をもたらし、周辺部毛細血管床への血流が低下する。
静脈閉塞は進行性の虚血を生じ、以下の合併症につながる。
黄斑浮腫の機序については議論がある。毛細血管を介さない高い管腔内圧が奇形周囲の毛細血管に逆圧を引き起こし、漏出が始まると考えられている。また盗血現象に伴う網膜虚血がVEGFの上方制御を導く可能性がある。
頭蓋内AVMは中脳に最も多く存在し、次いで視床、視床下部、視交叉、鞍上部に認められる1)。後頭葉のAVMでは視覚症状や頭痛を生じることがある。大脳半球のAVMは同名視野欠損を引き起こしうる。
Shameemら(2024)のナラティブレビューでは、抗VEGF薬硝子体内注射を受けた3例(ベバシズマブ2例、ラニビズマブ1例)が報告されている1)。ベバシズマブは網膜内液と神経感覚網膜剥離の改善に寄与し、視力向上が得られた。ラニビズマブは網膜動脈大動脈瘤からの滲出に対して使用され、有効であった。
抗VEGF薬がどのように黄斑浮腫を軽減するかの正確な機序は不明だが、血管透過性の減少とタイトジャンクションタンパク質の増加が関与すると推定されている。
Liuら(2012)は眼窩AVM(右眼動脈遠位)に対しCyberKnife(30 Gy)を使用したが、治療は不成功で視力が著しく悪化した1)。この報告から、外科的切除は3 cm未満のAVMに最適であり、6 cm超では合併症頻度が高くなることが示唆されている。
非造影の広角眼底撮影(ultrawide field colour imaging)は鎮静を要さず、3歳の小児にも使用された報告がある1)。小児患者のスクリーニングや長期フォローアップに有用な新たなモダリティとして注目されている。