前眼部所見
角膜異常:腫脹・擦過傷・潰瘍・上皮欠損。CO2レーザーでは金属シールド過熱による角膜潰瘍も報告されている1)。
ぶどう膜炎:前部ぶどう膜炎を高頻度に認める。
瞳孔不整・虹彩萎縮:虹彩メラニンがレーザー光を吸収し、不可逆的な虹彩損傷を生じうる。徹照欠損を伴う。
白内障:ダイオードレーザーには白内障誘発性がある。核白内障として発症する。
眼圧上昇:続発緑内障を併発することがある。

美容レーザーによる眼外傷とは、脱毛・タトゥー除去・しわ軽減・フェイシャルリサーフェシングなどの美容レーザー処置中に、レーザー光が眼球に照射されて生じる眼損傷の総称である。
美容レーザーは選択的光熱融解理論(selective photothermolysis)に基づく。特定の波長の光で標的となる発色団(chromophore)を選択的に破壊する原理である。主な標的発色団はメラニン・ヘモグロビン・水の3種類である。
しかし眼内にもこれらの発色団が豊富に存在する。網膜色素上皮や虹彩のメラニン、血管内のヘモグロビン、角膜・水晶体の水がレーザー光を吸収し、副次的な損傷を受ける可能性がある。
美容レーザー処置は一般に安全とされるが、眼窩周囲への施術では不適切な安全対策により眼外傷が生じうる。眼の近くで行われる代表的な処置は以下の通りである。
主な美容レーザーの種類と特徴を以下に示す。
| レーザー種類 | 波長 | 主な用途 |
|---|---|---|
| アレキサンドライト | 755 nm | 肌色の明るい人の脱毛 |
| ダイオード | 800–810 nm | 肌色の濃い人の脱毛 |
| Nd:YAG | 1,064 nm | 濃い肌の脱毛・タトゥー除去 |
| CO2 | 10,600 nm | リサーフェシング・しわ除去 |
美容レーザー処置後の眼外傷は、曝露から症状発現までの時間が短い。そのため処置との因果関係は通常容易に特定できる。主な自覚症状を頻度順に示す。
損傷は前眼部から後眼部まで多岐にわたる。
前眼部所見
角膜異常:腫脹・擦過傷・潰瘍・上皮欠損。CO2レーザーでは金属シールド過熱による角膜潰瘍も報告されている1)。
ぶどう膜炎:前部ぶどう膜炎を高頻度に認める。
瞳孔不整・虹彩萎縮:虹彩メラニンがレーザー光を吸収し、不可逆的な虹彩損傷を生じうる。徹照欠損を伴う。
白内障:ダイオードレーザーには白内障誘発性がある。核白内障として発症する。
眼圧上昇:続発緑内障を併発することがある。
後眼部所見
金属製角膜シールド使用時でも偶発的な合併症が報告されている。CO2レーザーによるリサーフェシングでは、レーザーパルス間の冷却時間不足で金属シールドが過熱し、両眼性の水疱性角膜症を発症した例がある。角膜温度が80°Cに14秒間達すると白内障が形成されるとの報告もある。
美容レーザーによる眼外傷の大部分は、安全対策の不遵守により発生している。眼外傷を負った40人を対象とした研究では、保護用アイウェアの着用率はわずか15%であった。
日本ではJIS(日本産業規格)によりレーザーのエネルギーが制限されているが、一部の海外製品はその規格外である。数秒の短時間でも黄斑部への照射により不可逆的な感覚網膜の傷害を引き起こしうる。
眼瞼の厚さはレーザー光の浸透を阻止するのに十分ではない。閉瞼だけでは眼を保護できず、波長に対応した保護ゴーグルまたは角膜シールドが必要である。詳細は「原因とリスク要因」の項を参照。
美容レーザー処置後の眼外傷は、処置との時間的関連が明確であるため、診断は比較的容易である。問診と各種検査を組み合わせて損傷の部位と範囲を評価する。
使用したレーザーの波長・出力・発振方式を聴取することが重要である。照射時間、照射距離、保護具使用の有無も確認する。
処置後に視力低下・かすみ・暗点・飛蚊症などを自覚した場合は、直ちに眼科を受診すべきである。曝露から症状発現までの時間は短く、早期の精密検査が損傷の評価と治療方針の決定に不可欠である。
美容レーザーによる眼損傷の治療は、損傷の部位と程度により異なる。確立された統一的な投薬ガイドラインは存在しない。詳細な病歴聴取と身体診察に基づき治療計画を決定する。
角膜損傷の治療
表層病変:局所抗菌薬、局所ステロイド、治療用コンタクトレンズまたは眼帯で管理する。
内皮損傷:角膜内皮の障害は水疱性変化・角膜肥厚・視力喪失につながる。角膜移植が必要となる場合がある。
網膜損傷の治療
ステロイド療法:局所・注射・インプラント・全身投与を病態に応じて選択する。炎症軽減とRPE治癒を目的とする。
抗VEGF薬:脈絡膜新生血管発生時にベバシズマブ1.25 mg/0.05 mLの硝子体内注射が有効である。膜の退縮と視力回復が報告されている。
その他の治療
虹彩炎:ステロイド点眼と散瞳薬(アトロピン等)による消炎を行う。
アスコルビン酸:線維芽細胞活性の促進と眼損傷軽減の目的で局所または経口投与される。
レーザーによる網膜損傷に対しては、教科書的には「有効な治療はない」とされる。ステロイド療法の効果も不明とされており、防御眼鏡の使用による予防が最も重要である。
予後は損傷の程度とレーザーの種類により異なる。脈絡膜新生血管に対しては抗VEGF薬(ベバシズマブ)が有効で視力回復の報告がある。一方、Nd:YAGレーザーによる黄斑円孔や重篤な網膜損傷では、視力予後が不良となる場合もある。
レーザーの生体に及ぼす作用は照射出力と照射時間で決まり、破壊(disruption)・蒸散(photoablation)・凝固(coagulation)・温熱作用(hyperthermia)・光化学反応(photochemical reaction)に分類される。
眼損傷の機序はレーザーの波長に依存する。
| 波長域 | 損傷機序 | 代表的レーザー |
|---|---|---|
| 短波長(532–595 nm) | 光熱損傷 | KTP、パルス色素レーザー |
| 長波長(755–10,600 nm) | 光熱+光機械的損傷 | アレキサンドライト、ダイオード、Nd:YAG、CO2 |
短波長レーザー(KTP、パルス色素レーザー等)は光凝固を介して光熱損傷を引き起こす。網膜温度を40〜60°Cも上昇させ、タンパク質を変性させる。
長波長レーザー(ダイオード、Nd:YAG、アレキサンドライト等)は光熱損傷に加えて、爆発的な音響衝撃波を発生させる。発色団の断片が周囲組織を穿孔し、物理的な破壊を引き起こす。
眼内でレーザー光を吸収する主な発色団は、網膜色素上皮のメラニン・血管内ヘモグロビン・ぶどう膜のメラニン・水である。メラニンの吸収係数は長波長ほど低下し、ヘモグロビンの吸収は黄色域で最も高い。組織透過性は長波長ほど高い。
Nd:YAGレーザー(1,064 nm)は波長が不可視であるため事故を起こしやすい。高出力のため網膜の物理的損傷を起こし、網膜混濁病巣・網膜下出血・黄斑円孔を形成することがある。
CO2レーザー(10,600 nm)は水に吸収されて蒸散を起こす。含水組織である角膜や水晶体に直接的な障害を与えうる。CO2リサーフェシングでは眼周囲熱傷や金属シールド過熱による角膜潰瘍が最も重篤な合併症として報告されている1)。
ablative energy devicesによる眼科的有害事象として、角膜症(exposure keratopathy)・角膜損傷・網膜損傷・黄斑新生血管が報告されている1)。
21件の症例報告のレビューでは、波長特定のゴーグルや眼内角膜シールドを適切に使用していても、33%の症例で深刻な眼外傷が発生していた。金属シールドはレーザーを反射する可能性があり、プラスチック製シールドは長波長レーザーで溶融・発火するリスクがある。