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網膜・硝子体

神経線維腫症

神経線維腫症(neurofibromatosis; NF)は、外胚葉由来の器官(中枢神経系・皮膚・眼)に影響を及ぼす神経皮膚症候群(母斑症)の一つである。NF1とNF2の2型に大別される。

NF1は最も頻度が高い病型である。有病率は3,000〜5,000人に1人で、常染色体優性遺伝を示す。責任遺伝子NF1は染色体17q11.2に位置し、腫瘍抑制タンパク質ニューロフィブロミンをコードする。ニューロフィブロミンはRas/RAF/MEK/ERK経路やAkt/mTOR経路など複数のシグナル伝達を制御し、その機能喪失が腫瘍形成の原因となる1)

約50%の患者は新生突然変異(de novo mutation)で発症し、家族歴を持たない1)。NF1は浸透率がほぼ完全であるが、表現型の個人差が大きい。

NF2はNF1より頻度が低い。有病率は約25,000人に1人である。責任遺伝子NF2は染色体22q12に位置し、タンパク質マーリン(merlin)をコードする。マーリンはPI3KやMAPキナーゼなど細胞増殖に関わる下流シグナル伝達経路を調節する。

Q NF1とNF2はどう違うのか?
A

NF1は皮膚の神経線維腫・カフェオレ斑・Lisch結節が特徴で、視神経膠腫を合併しやすい。NF2は両側前庭神経鞘腫(聴神経腫瘍)が特徴で、若年性白内障を高率に伴う。責任遺伝子もそれぞれ17番・22番染色体と異なり、独立した疾患として認識すべきである。

NF1では多くの場合、眼症状の自覚は乏しい。Lisch結節自体は無症状である。以下の症状が契機となり眼科受診に至ることがある。

  • 視力低下:視神経膠腫による進行性の視機能障害。小児では斜視で発見されることが多い。
  • 眼球突出眼窩内腫瘍(叢状神経線維腫・視神経膠腫)による。
  • 眼瞼腫脹:叢状神経線維腫による特徴的なS型眼瞼変形。

NF2では難聴・耳鳴・ふらつき・めまいなど前庭神経鞘腫に関連した症状が主体となる。視力低下は白内障や視神経鞘髄膜腫に起因する。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

NF1の眼所見

Lisch結節:淡褐色の境界鮮明な多発性虹彩結節(過誤腫)。NF1の90%以上にみられ、2個以上で診断的価値が高い。加齢とともに増加し、20歳頃にはほぼ全例に認められる。

視神経膠腫:約15〜20%に合併する。良性のpilocytic astrocytomaで、多くは10歳以下で発症する。無症候性のことが多いが、視神経萎縮をきたし視力障害を生じることもある。

眼瞼・眼窩病変:叢状神経線維腫による眼瞼腫脹・下垂。眼窩骨欠損(蝶形骨異形成)。

網膜所見:まれに星状神経膠細胞過誤腫を認める。有髄神経線維の増生がみられることもある。

緑内障:先天性(片眼性)発症と遅発型がある。小児では牛眼の原因となりうる。

NF2の眼所見

白内障:若年性皮質楔状白内障が出生直後から認められ、後年に後嚢下混濁が進行する。

網膜所見:色素上皮性過誤腫や網膜上膜(epiretinal membrane)が散見される。

視神経鞘髄膜腫:NF2に合併しうる。進行性の視力・視野障害を呈する。

Lisch結節:NF1と異なり、NF2ではまれである。

NF1の全身所見としては、カフェオレ斑・腋窩/鼠径部の雀卵斑様色素沈着・皮膚神経線維腫・叢状神経線維腫・骨病変(蝶形骨欠損・脊柱側弯・偽関節)が挙げられる。

NF1・NF2ともに常染色体優性遺伝を示す。

  • NF1:17q11.2のNF1遺伝子の機能喪失変異。約50%がde novo変異である1)。ニューロフィブロミンの欠損によりRas経路が恒常的に活性化し、細胞増殖が制御不能となる。
  • NF2:22q12のNF2遺伝子の変異。マーリンの機能喪失による。

NF1患者は良性・悪性腫瘍の発症リスクが増大する。

  • 悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST):NF1患者の約2%に発症する4)。叢状神経線維腫からの悪性転化が主な経路である。急速な増大・疼痛の出現は悪性化を疑う手がかりとなる。
  • 若年性骨髄単球性白血病(JMML):NF1患者はJMMLの発症リスクが300〜350倍高い2)。NF1の二対立遺伝子不活性化がJMML細胞の86.1%で確認されている2)
  • 視神経膠腫:NF1の15〜20%に合併する。

NF1にはニューロフィブロミン欠損による血管壁の紡錘細胞増殖と平滑筋異形成が生じうる5)。血管狭窄・閉塞・動脈瘤・仮性動脈瘤・動静脈瘻が報告されている。血管破裂は若年NF1患者の死因として悪性腫瘍に次いで多い5)

Q NF1は遺伝するか?子どもへの影響は?
A

NF1は常染色体優性遺伝で、罹患親から子への遺伝確率は50%である。ただし約半数は家族歴のない新生突然変異(de novo)で発症する1)。浸透率はほぼ100%だが、症状の重症度は家族内でも大きく異なる。

NIH(米国国立衛生研究所)の診断基準では、以下の7項目のうち2つ以上を満たすことが必要である。

項目内容
1カフェオレ斑6個以上
2神経線維腫2個以上または叢状神経線維腫1個
3腋窩/鼠径部の雀卵斑様色素沈着
4視神経膠腫
5Lisch結節2個以上
6特徴的骨病変
7NF1の第一度近親者

カフェオレ斑は思春期前では直径5mm以上、思春期後では15mm以上が基準となる。散発性NF1変異を持つ患者の約半数は1歳までに診断基準を満たさないため、8歳頃まで毎年のモニタリングが推奨される1)

日本皮膚科学会の診断基準(2008年)も同様の7項目を採用している。

NF2は以下のいずれか1項目を満たすことで診断される。

  • 70歳以前の両側性前庭神経鞘腫
  • 片側性前庭神経鞘腫 + NF2の第一度近親者
  • 髄膜腫・神経鞘腫・神経膠腫・白内障のうち2項目以上 + 第一度近親者または片側性前庭神経鞘腫
  • CT:眼窩内腫瘍の評価。視神経の円柱状腫大や眼窩骨欠損の確認に有用である。
  • MRI:視神経膠腫の評価に最適。T1強調画像で低信号、Gd-DTPA造影で増強される。脳MRIでは90%以上のNF1患者にFASI(focal areas of signal intensity)を認める8)
  • 視覚誘発電位(VEP):視神経障害の検出に用いる。
  • レギウス症候群:カフェオレ斑と雀卵斑を呈するが、神経線維腫を生じない。
  • ヌーナン症候群:低身長・先天性心疾患を伴う。
  • 結節性硬化症:網膜の星状神経膠細胞過誤腫を伴うが、Lisch結節は認めない。
Q カフェオレ斑があればすぐにNF1と診断されるか?
A

カフェオレ斑のみではNF1と確定できない。正常人でも1〜3個のカフェオレ斑を有する場合がある1)。NIH診断基準の7項目のうち2つ以上を満たす必要があり、小児期は経過観察を重ねて評価する。

神経線維腫症の根治療法は存在しない。各臓器の症状に応じた対症療法と定期的な経過観察が基本である。

  • 眼窩内視神経に限局し無症候性の場合は、定期的な画像検査(MRI)による経過観察が原則である。
  • 進行性の視力障害や視交叉への浸潤がある場合は化学療法(プラチナ製剤+ビンクリスチン併用)が検討される。
  • 外科的切除は視機能を失う可能性が高く、適応は慎重に判断される。放射線治療への感受性は低い。
  • 近年はIMRT(強度変調放射線治療)やガンマナイフなどの定位放射線治療の有効性が報告されている。
  • 眼窩の叢状神経線維腫は完全摘出が困難で再発も多い。視機能障害の程度と手術による損失を比較し治療方針を決定する。
  • 進行例では眼窩内容除去術が必要となることもある。
  • NF1に伴う先天緑内障ではAhmed緑内障バルブの挿入が報告されている1)
  • 通常の緑内障治療に準じた薬物療法・手術療法を行う。

叢状神経線維腫に対する薬物療法

Section titled “叢状神経線維腫に対する薬物療法”
  • セルメチニブ(selumetinib):MEK阻害薬。2020年に米国FDAが症状のある手術不能な叢状神経線維腫を有するNF1小児(2歳以上)に対して承認した。
  • ミルダメチニブ(mirdametinib):2025年3月にFDAが承認した2番目のMEK阻害薬。小児・成人のNF1患者が対象である。

外見や生活の質に著しい支障をきたす場合に検討される。手術による切除と病理診断が基本である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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NF1遺伝子産物であるニューロフィブロミンは、GTPase活性化タンパク質(GAP)としてRasの活性を抑制する。NF1遺伝子の機能喪失変異により、Ras/RAF/MEK/ERKカスケードが恒常的に活性化される1)。これが末梢神経鞘腫瘍や神経膠腫の形成傾向を説明する。

ニューロフィブロミンはまた、Akt/mTOR経路やAC/cAMP経路にも関与し、細胞の増殖・分化を多面的に制御する1)

  • Lisch結節:虹彩のメラノサイト過誤腫である。メラノサイトの過形成が結節を形成する。
  • 視神経膠腫:視神経の星細胞(glia cell)が増殖する良性腫瘍(pilocytic astrocytoma)である。NF1患者の15〜20%に発症し、視神経膠腫の25〜60%がNF1患者に発症する。
  • 緑内障:叢状神経線維腫による房水流出路の閉塞が一因とされる。先天性(片眼性)と遅発型がある。

ニューロフィブロミンの欠損は血管壁の平滑筋細胞における紡錘細胞増殖と中膜・内膜の異形成を惹起する5)。これが動脈瘤・仮性動脈瘤・動静脈瘻の発生基盤となる。血管壁の脆弱化は外傷後の止血を困難にし、致死的出血に至ることがある5)

叢状神経線維腫からMPNSTへの悪性転化は、NF1遺伝子の二対立遺伝子不活性化(second hit)が契機となると考えられている4)8)。組織学的にはH3K27me3(ヒストンH3リシン27のトリメチル化)の完全消失がMPNSTの診断に有用とされる4)

Meyerら(2023)のシステマティックレビューでは、NF1患者177例の解析においてJMMLが最も多い白血病サブタイプであり、NF1+若年性黄色肉芽腫を有する患者ではJMML合併率がさらに高いことが示された(86.7% vs 55.1%、P=0.024)2)。JMML細胞におけるNF1の二対立遺伝子不活性化は86.1%で確認された。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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セルメチニブ(2020年FDA承認)に続き、2025年3月にミルダメチニブが手術不能な叢状神経線維腫を有するNF1患者に対してFDA承認を受けた。MEK阻害薬は腫瘍縮小効果が確認されており、NF1治療の選択肢が広がりつつある。

2024年後半のパイロット試験では、神経鞘腫症による慢性疼痛に対して抗NGFモノクローナル抗体タネズマブが検討された。20人の患者で12週間の投与により疼痛スコア(VASスケール)が30%減少し、副作用は最小限であった。SMARCB1またはLZTR1変異に関連する神経鞘腫症には現在承認済みの治療法がなく、今後の展開が注目される。

中枢性巨細胞肉芽腫(CGCG)の治療

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Barutら(2024)は、NF1患者の下顎に発生した中枢性巨細胞肉芽腫と神経線維腫の3年間の管理を報告した8)。CGCGに対して保存的切除→コルチコステロイド骨内注射→歯槽突起切除の段階的治療を行い、最終的に再発なく経過した。NF1遺伝子の2つの不活性化変異がCGCG病変から検出され、NF1関連CGCGの腫瘍性が確認された。


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  4. Furuzono N, Togami S, Kitazono I, et al. Malignant peripheral nerve sheath tumor of the cervix in an adolescent with neurofibromatosis type 1: a case report and review of literature. J Obstet Gynaecol Res. 2024;50:2372-2376.
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