1型(血管瘤型)
側性:片眼性がほとんど
性差:男性が90%を占める
発症年齢:平均40歳前後
特徴:毛細血管瘤の多発と血管外漏出による黄斑浮腫。Coats病やLeber粟粒血管腫症と同じスペクトラム上にある

黄斑部毛細血管拡張症(macular telangiectasia; MacTel)は、中心窩および傍中心窩の毛細血管拡張と網膜神経変性を特徴とする疾患群である。1968年にGassによりCoats病とは異なる疾患として初めて報告された。以前は特発性黄斑部毛細血管拡張症(idiopathic macular telangiectasia)や特発性傍中心窩網膜毛細血管拡張症(idiopathic juxtafoveolar retinal telangiectasis)と呼ばれていたが、現在はより簡潔にMacTelと称される。
2006年にYannuzziらが作成した病型分類が広く用いられている。
1型(血管瘤型)
側性:片眼性がほとんど
性差:男性が90%を占める
発症年齢:平均40歳前後
特徴:毛細血管瘤の多発と血管外漏出による黄斑浮腫。Coats病やLeber粟粒血管腫症と同じスペクトラム上にある
2型(傍中心窩型)
側性:ほぼ全例が両眼性
性差:性差なし(女性がやや多いとの報告もある)
発症年齢:平均約55歳
特徴:網膜外層の変性が主座。Müller細胞の異常が起源であり、毛細血管拡張は二次的変化。進行すると網膜下新生血管を合併
3型は毛細血管拡張よりも血管閉塞を主体とする病型であるが、頻度は非常にまれであり、分類から除外することも提案されている。
有病率は0.02〜0.10%と推定される7)。MacTel Projectの報告では、2型患者の28%に糖尿病、52%に高血圧の合併が認められた。ただしBeaver Dam Eye Studyでは糖尿病・高血圧との有意な関連は確認されていない1)。「MacTel」という用語は通常2型を指すため、以下では臨床的に最も重要な2型を中心に解説する。
1型は片眼性で毛細血管瘤と黄斑浮腫が主体、2型は両眼性でMüller細胞変性が本質、3型は血管閉塞が主体である。最も頻度が高く臨床的に重要なのは2型である。詳細は「黄斑部毛細血管拡張症とは」の項を参照。
2型MacTelの初期は自覚症状に乏しいことが多い。変視症を訴えることがあるが、視力は比較的良好に保たれる。
MacTel Projectでは、50%の患者が20/32以上の視力を維持していた。最高矯正視力は通常20/30より良好である7)。2型で網膜下新生血管を合併した場合は急激な視力低下をきたすことがある。
2型MacTelの眼底所見は初期にはきわめて軽微であり、通常の眼底検査のみでは見逃される場合がある7)。病期に応じた所見の進行が特徴的である。
提案されている5段階の病期分類を以下に示す。
| 病期 | 主な所見 |
|---|---|
| 第1期 | 眼底は正常。眼底自発蛍光で軽微な変化 |
| 第2期 | 網膜灰色化、軽度の毛細血管拡張、結晶状沈着物 |
| 第3期 | 中等度の毛細血管拡張、直角血管 |
| 第4期 | RPEの網膜内移動と増殖 |
| 第5期 | 網膜脈絡膜吻合、滲出・出血 |
2型MacTelに特徴的な眼底所見は以下の通りである。
1型では毛細血管拡張と毛細血管瘤が中心窩耳側に好発し、典型的には病変周囲に輪状の硬性白斑を伴う黄斑浮腫を生じる。
直角血管(right-angle venules)は、拡張した細静脈が表層から網膜深層へ直角に方向を変えて走行する所見である。2型MacTelのstage 3以降に特徴的であり、OCT-Aでは表層から深層へ追跡できる2)。IDZ変化の91.3%に随伴し、エリプソイドゾーン消失の前兆として重要である。
2型MacTelの原因は不明であるが、最近の研究では神経変性が一次的な病態であると考えられている。
MacTel 2は両眼性で遺伝性が示唆されている。一卵性双生児、同胞、家族内での発症例が報告されており、複雑な遺伝的背景を持つ3)。ゲノムワイド関連解析(GWAS)で3つの独立した遺伝子座位が同定され、うち2つはグリシン/セリン代謝経路に関与している3)。まれな原因変異が全エクソームシークエンシングで同定されているが、症例の5%未満にとどまる3)。
メタボロミクス解析により、MacTel 2患者ではセリン代謝やスフィンゴ脂質代謝の異常が報告されている3)。セリンの低値は1-デオキシスフィンゴ脂質(1-dSLs)という神経毒性を持つ脂質の増加と関連する3)。セリン生合成はMüller細胞の酸化ストレス防御に重要であり、この経路の異常が黄斑病変を引き起こしうる。
MacTel Projectでは2型患者の28%に糖尿病、52%に高血圧の合併が認められ、長期的な血管ストレスの関与が示唆されている。しかし、Beaver Dam Eye Studyではこれらの関連は確認されていない1)。
2型MacTelは初期の眼底所見が乏しく、画像検査が診断の鍵となる。OCT所見が非常に特異的であり、診断的意義が高い。
2型MacTelの診断において最も重要な検査である7)。
1型のOCTでは、FAの蛍光漏出に合致した網膜厚の増加と嚢胞様変化がみられ、2型との鑑別に有用である。
非侵襲的に網膜血管の層別評価が可能であり、MacTelの診断と経過観察に有用である6)8)。
Chandranら(2023)は43眼の検討で、直角血管を有する全36眼(100%)にDCPの毛細血管拡張を認め、うち89%にIDZ変化を伴っていたと報告した。IDZ減弱からIDZ消失、次いでEZ減弱・消失へと段階的に進行し、IDZ消失の既存はEZ欠損の予測因子であった(p = 0.002)2)。
解剖学的変化が認識される前に機能的変化を検出できるため有用である6)7)。
FLIO(蛍光寿命撮影眼底検査)は最新の技術であり、早期および中期MacTel 2で側頭部中心窩の自家蛍光寿命の延長が報告されている7)。
| 鑑別疾患 | 鑑別ポイント |
|---|---|
| 糖尿病網膜症 | 網膜肥厚を伴う。黄斑外の出血あり |
| 網膜静脈分枝閉塞症 | 特に陳旧性との鑑別が重要 |
| 放射線網膜症 | 放射線照射歴の確認 |
| 加齢黄斑変性 | ドルーゼンやRPE剥離を通常伴わない |
| タモキシフェン網膜症 | 薬剤使用歴、OCT-Aで血管異常なし9) |
増殖期では加齢黄斑変性との鑑別が必要であるが、MacTel 2ではドルーゼンや網膜色素上皮剥離を通常は伴わない点が重要な鑑別所見である。
Erdemら(2025)はタモキシフェン網膜症とMacTel 2の鑑別においてマルチモーダルイメージングが重要であることを報告した9)。タモキシフェン網膜症ではOCT-Aで有意な血管異常を認めない点がMacTel 2との主要な鑑別所見である。
2型MacTelでは網膜内の空洞様変化が見られるが網膜厚は増加せず、むしろ減少する。糖尿病黄斑浮腫では網膜肥厚を伴う。OCT所見での網膜厚の違いが最も重要な鑑別所見である。
MacTelの治療は病型と病期により異なる。
1型では毛細血管瘤に対する直接レーザー光凝固が第一選択として行われている。しかし再発も多く、血管瘤が中心窩無血管領域に近接している場合は凝固困難なこともある。症例によっては無治療でも良好な視力経過をたどり、黄斑浮腫の自然消失例もみられるため、進行性の視力低下がみられる場合を除いて慎重な対応が求められる。トリアムシノロンやVEGF阻害薬の局所注射に関しては、いまだコンセンサスが得られていない。
2型の非増殖期には、現在確立された標準治療がない。網膜光凝固は無効である。抗VEGF薬硝子体内注射も非増殖期では効果が認められず、むしろVEGFの神経保護作用を阻害する可能性が指摘されている7)。ステロイド硝子体内注射も有効性は確認されていない。
CNTF(毛様体神経栄養因子)を放出する硝子体内インプラント(ENCELTO)が、2型MacTelに対する初の治療選択肢として登場した。詳細は「最新の研究と今後の展望」の項を参照。
増殖期には抗VEGF薬硝子体内注射が治療の主体となる1)6)。
Gonzalez Martinezら(2023)は、54歳女性の2型MacTelに合併した脈絡膜新生血管に対し、ベバシズマブ15回とアフリベルセプト3回の計18回の抗VEGF療法を2年間にわたり実施し、新生血管膜の安定化と視力20/30の維持を報告した1)。
Moussaら(2021)は、11歳の2型MacTel患者の増殖期の眼にアフリベルセプト(2mg/0.05mL)をPRN投与し、5回の注射で新生血管が退縮し、視力が5段階改善したと報告した6)。SS-OCT-Aが診断と経過観察に非侵襲的に有用であった。
過去には経瞳孔的温熱療法(TTT)や光線力学的療法(PDT)も用いられたが、現在の第一選択は抗VEGF薬である。新生血管膜は慢性化すると瘢痕化し、治療反応が低下するため、早期治療が視力予後の改善に重要である1)。
2型MacTelに合併する全層黄斑円孔に対しては、硝子体手術(内境界膜剥離+ガスタンポナーデ)が行われることがあるが、通常の黄斑円孔と比較して閉鎖率が低く、術後視力も芳しくない。
Chandraら(2021)は、ILMドレープを伴うほぼ全層の黄斑円孔が自然閉鎖した2型MacTelの症例を報告した10)。外境界膜(ELM)の再構成が円孔閉鎖を可能にし、32ヶ月の経過観察で左眼視力は20/40まで回復した。ILMドレープの存在下では保存的経過観察が選択肢となりうる。
2型MacTelの病態は、従来は血管異常が一次的と考えられていたが、現在ではMüller細胞の変性が疾患の起源であり、毛細血管拡張はむしろ二次的な変化であるとする説が有力である6)。
GassはMüller細胞と傍中心窩の神経細胞が最初に障害される部位であると提唱した。組織病理学的研究では、2型MacTel患者の傍中心窩におけるMüller細胞の枯渇が確認されている1)。
Müller細胞は網膜の全層を占める主要なグリア細胞であり、以下の機能を担う。
Müller細胞の機能低下により、血液網膜関門の破綻、VEGF産生異常、光受容体への栄養供給低下が生じ、毛細血管拡張・新生血管形成・光受容体変性が惹起されると考えられている6)。
GWAS研究により、MacTel 2とグリシン/セリン代謝経路の遺伝子座との関連が同定された3)。黄斑部Müller細胞はセリン生合成に特に依存しており、この経路の障害は酸化ストレスへの脆弱性をもたらす3)。セリンの低下は神経毒性を持つ1-デオキシスフィンゴ脂質の蓄積を招き、網膜神経変性を促進する。
以下の段階で疾患が進行すると考えられている。
Chandranら(2023)の経時的研究では、IDZ減弱→IDZ消失→EZ減弱→EZ消失という順序的な外網膜変化が確認された2)。IDZ消失の年間進行速度は142〜172 μm/年、EZ減弱は約83 μm/年であった。
病変の主座が根本的に異なる。1型は血管障害による血漿成分の漏出が主体であるのに対し、2型は網膜外層の萎縮性変化が主座である。この違いがOCT所見(1型:網膜肥厚、2型:網膜菲薄化)の差異を規定する。
2型MacTelは遺伝的要因と全身的な代謝異常(セリン代謝やスフィンゴ脂質代謝の異常)が病態に関与するため、両眼のMüller細胞が同様に障害される3)。GWASで同定されたグリシン/セリン代謝経路の遺伝子変異は全身性の要因であり、片眼のみに影響する局所要因とは異なる。
ENCELTOは、カプセル化された細胞ベースの遺伝子治療であり、遺伝子組み換えヒト毛様体神経栄養因子(rhCNTF)を分泌するように設計された同種RPE細胞で構成される。光受容体の生存を促進する保護的シグナル伝達経路を活性化する。
2つのランダム化多施設共同二重盲検シャム対照第3相試験の結果が報告されている。
主な有害事象はシャム群と比べ、結膜下出血(31%)、暗順応遅延(23.1%)、縫合関連合併症(15.4%)、硝子体出血(8.5%)の頻度が高かった。重篤な事象はまれであった。
セリン補充療法やスフィンゴ脂質代謝の調節を標的とした治療アプローチが研究段階にある3)。iPSC由来RPE細胞モデルでは、MacTel 2患者由来の細胞で低セリンレベルとミトコンドリア機能低下が再現されており、病態の理解と治療標的の探索が進んでいる3)。
Halouaniら(2024)は、ダウン症候群を有する49歳女性に両眼性MacTel 2を認めた症例を報告した3)。両疾患にセリン/グリシン代謝やスフィンゴ脂質(セラミド)代謝の異常が関与することが指摘されており、共通の代謝経路障害の可能性が示唆されている。ダウン症候群患者の寿命延長に伴い、成人期の網膜スクリーニングの重要性が増している。
Moirら(2022)は、OCT-Aが2型MacTelの非典型的症例の診断と管理において有用であることを報告した8)。特にDCPの毛細血管拡張はOCT-Aで最も早期に検出される血管変化であり、FAでは評価困難な深層血管の変化を非侵襲的に描出できる点が重要である。