Stage 1
Stage 1A(切迫円孔):中心窩陥凹の消失と黄色点(100〜200 μm)を認める3)。中心窩内層に嚢胞様腔が形成される。
Stage 1B(潜伏円孔):黄色輪(200〜350 μm)を認める3)。視細胞層の離開が生じるが全層円孔には至っていない。
視力:20/25〜20/80(0.3〜1.0程度)。

黄斑円孔(macular hole; MH)は、中心窩に生じる網膜の全層欠損であり、内境界膜(ILM)から網膜色素上皮(RPE)に至る神経網膜の断裂である1)。中心視力の低下と変視症を主症状とする。
1988年にGassが特発性黄斑円孔の4段階の進展過程を初めて記載した2)。1991年にKellyとWendelが硝子体手術の有効性を報告し、1995年にBrooksが内境界膜剥離の併施による閉鎖率向上を報告した。現在では硝子体切除+内境界膜剥離+ガスタンポナーデが標準術式として確立されている。
特発性黄斑円孔の発生率は一般人口10万人あたり年間3.14〜7.8と報告されている2)。米国の人口ベース研究では、年齢・性別調整後の発生率は10万人あたり年間7.8人(8.7眼)であり、女性対男性比は3.3対1であった3)。好発年齢は60〜70歳代である2)。患者の72%が女性であり、50%以上が65〜74歳で発症する3)。
黄斑円孔は病因により以下の4型に分類される1)。
片眼発症後の僚眼発症リスクは中等度である。僚眼に後部硝子体剥離がない患者のリスクは最大28%に達する。僚眼に完全な後部硝子体剥離がある場合、リスクは低い。
黄斑円孔は中高年の女性に好発する。自覚症状は以下の通りである。
症状は数週間〜数ヶ月にわたり緩徐に進行するが、比較的急激に自覚されることが多い3)。
Gassが1995年に改訂した病期分類が広く用いられている。OCTの進歩により、各病期の病態がより詳細に理解されている。
Stage 1
Stage 1A(切迫円孔):中心窩陥凹の消失と黄色点(100〜200 μm)を認める3)。中心窩内層に嚢胞様腔が形成される。
Stage 1B(潜伏円孔):黄色輪(200〜350 μm)を認める3)。視細胞層の離開が生じるが全層円孔には至っていない。
視力:20/25〜20/80(0.3〜1.0程度)。
Stage 2〜4
Stage 2:400 μm未満の全層円孔。偏心性で弁状挙上を伴うことがある3)。
Stage 3:400 μm以上の全層円孔。偽蓋(pseudo-operculum)を伴う。後部硝子体剥離は未完成。
Stage 4:全層円孔に完全な後部硝子体剥離が加わった状態。ワイスリングを認める。
2013年に国際硝子体黄斑牽引研究グループ(IVTS)がOCT所見に基づく分類を策定した2)。全層黄斑円孔は最小径に基づき小型(250 μm未満)、中型(250〜400 μm)、大型(400 μm超)の3区分に分類される1)。
一般にStage 2以降が手術適応となる。
Stage 1は全層円孔に至っていない切迫円孔であり、約50%が自然に改善する。通常は経過観察が推奨される3)。ただし進行のリスクがあるため、定期的なOCT検査でのフォローが重要である。
特発性黄斑円孔の主な原因は、加齢に伴う後部硝子体剥離(PVD)の初期段階における硝子体黄斑牽引である2)。
発症の過程は以下の通りである。
主なリスク要因は以下の通りである。
OCTは黄斑円孔の診断と管理におけるゴールドスタンダードである3)。網膜の断面・三次元画像で円孔の有無・サイズ・病期を評価できる。以下の情報が得られる。
治療方針の決定には、OCTによる病期の把握が不可欠である。
散瞳下の精密眼底検査が基本である。全層黄斑円孔では灰色の黄斑縁(網膜下液の貯留を反映)、円孔底部の黄色沈着物、RPE変化を認める。
| 検査法 | 主な役割 | 特徴 |
|---|---|---|
| OCT | 確定診断・病期分類 | ゴールドスタンダード |
| 細隙灯顕微鏡 | 臨床診断 | 散瞳下で円孔を直接観察 |
| Watzke-Allen test | 全層円孔の確認 | 偽円孔との鑑別に有用 |
以下の疾患との鑑別が必要である。いずれもOCTで全層の網膜欠損を認めない点で黄斑円孔と区別される。
OCTにより容易に鑑別できる。偽黄斑円孔では全層の網膜欠損がなく、黄斑上膜による中心窩の陥凹を認める。Watzke-Allen testは偽円孔で陰性、全層円孔で陽性となる。
黄斑円孔の治療は硝子体手術である。内科的治療はない。50歳以上であれば白内障手術を同時に施行することが多い。
現在の標準術式は以下の手順で行う。
この術式により90%以上の症例で円孔が閉鎖する。
RCOphthガイドラインのメタ解析では、硝子体手術群は経過観察群に比べて視力が0.16 logMAR優位であった(95%CI −0.23〜−0.09)2)。円孔閉鎖のオッズ比は31.4(95%CI 14.9〜66.3)と、手術の有効性が明確に示された。全体の手術閉鎖率は79.6%であった。
罹病期間が短いほど、円孔が小さいほど閉鎖率は高く、視力予後も良好である。
大型(400 μm超)の黄斑円孔、長期経過例、高度近視・外傷・炎症に伴う続発性円孔は難治性とされる。標準術式での閉鎖率が低い。
Song et al.(2024)は網膜色素変性に合併した黄斑円孔8眼の手術成績を報告した6)。ILM剥離を施行した全眼で円孔閉鎖が得られ、大型円孔にはILM遊離フラップ移植が用いられた。術後視力は1眼で改善、7眼で安定していた。
術後の腹臥位が円孔閉鎖に必要かどうかは議論がある。
709眼を含む8件のRCTのコクランレビューでは、腹臥位群と非腹臥位群で円孔閉鎖率に有意差は認められなかった。大型円孔(400 μm以上)でも腹臥位群94%対非腹臥位群84%、小型円孔では100%対96%であった。
自然経過では多くの症例で視力が0.1以下に低下する。手術により90%以上で円孔閉鎖が得られ、視力が改善する。ただし変視症は残存することが多い。初回手術で閉鎖しない場合は、ILM剥離範囲の拡大やILM自家移植による再手術を考慮する。
近視性・外傷性・続発性では閉鎖率や視力予後はやや不良である。
硝子体手術に共通する合併症が生じ得る。
視力改善には個人差がある。術前の視力、円孔の大きさ、罹病期間が影響する。円孔閉鎖後、視力は術後数ヶ月かけて徐々に改善する。ただし変視症は残存することが多い。
特発性黄斑円孔の発症には、後部硝子体剥離(PVD)の初期段階が深く関与する2)。正常な加齢過程では、PVDは中心窩周囲から始まり4段階で進行する。Stage 1ではperifovealに硝子体が剥離するが中心窩では付着が残り、最終的にStage 4で視神経乳頭からも剥離して完成する2)。
黄斑円孔はこのPVD Stage 1の病的状態として発症する。中心窩に異常な硝子体付着が残存し、眼球運動に伴う動的牽引力が加わることで、Müller細胞円錐と視細胞の間に乖離が生じる2)。OCTではこの過程が網膜内嚢胞として観察される。
前後方向の牽引が持続するとILMとELMが破綻し、網膜の裂離(dehiscence)が生じて全層円孔に至る2)。
硝子体手術によるILM剥離とガスタンポナーデがなぜ円孔を閉鎖させるかは十分に解明されていない。ILM剥離術後早期に、黄斑部は神経線維束に沿って鼻側および中心窩に向かってやや偏位することがわかっている。この網膜の移動が円孔辺縁の近接に寄与すると考えられている。
続発性の原因は多岐にわたる。
Chaudhryら(2021)はAlport症候群の黄斑円孔手術時にILMが完全に欠如していたことを報告した7)。IV型コラーゲン変異によるILMの菲薄化・欠如が、黄斑円孔手術を困難にする要因となり得る。
Bou Saidら(2025)は、9歳女児の非外傷性黄斑円孔を報告した8)。網膜上増殖に伴う硝子体網膜牽引が原因で、ILM剥離とC₃F₈ガスタンポナーデにより1ヶ月で閉鎖し、術後1年で視力20/40に改善した。小児では外傷以外にも網膜硝子体牽引が原因となり得る。
オクリプラスミン(ocriplasmin)は27 kDaのセリンプロテアーゼであり、硝子体と網膜の接着を酵素的に分解する薬剤である1)。MIVI-TRUST試験では、投与28日後にオクリプラスミン群の26.5%(プラセボ群10.1%)で硝子体黄斑癒着が解除され、円孔閉鎖率はオクリプラスミン群40.6%(プラセボ群10.6%)であった。
稀な副作用として網膜電図変化、水晶体亜脱臼、色覚異常が報告されている。小型の円孔で硝子体黄斑牽引を伴う症例が適応となる1)。
難治性・再発性の黄斑円孔に対して、新しい生体材料の応用が試みられている1)。
幹細胞を用いた網膜再生療法は実験段階にある1)。黄斑円孔閉鎖後の視細胞再生や機能回復への応用が期待されている。