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網膜・硝子体

格子状変性

格子状変性(lattice degeneration)は、赤道部から周辺部網膜に鋸状縁と平行に配列する、境界明瞭な紡錘形〜帯状の網膜変性巣である。変性巣の内部では網膜内層が菲薄化し、直上の硝子体は液化する。辺縁部には強固な硝子体網膜癒着を伴う。

一般人口における有病率は6〜10%と報告されている1)2)。剖検による組織学的検討では10.7%に達するとの報告もある。男女差はなく、遺伝形式は不明である。好発部位は垂直子午線の上方と下方であり、下耳側象限に最も多い。鼻側での出現頻度は最も低い。多くの病変は60°以内の範囲に限局するが、まれに2象限を越す症例もある。

格子状変性は網膜剥離のリスク因子として臨床的に重要である。裂孔原性網膜剥離(RRD)の20〜40%が格子状変性に起因する2)。一方で、格子状変性のある眼が実際に裂孔原性網膜剥離を発症するのは0.3〜0.5%にすぎない。423眼を平均約11年追跡した研究では、臨床的裂孔原性網膜剥離を発症したのは3眼(0.7%)のみであった2)

Q 格子状変性があると必ず網膜剥離になるのか?
A

格子状変性から網膜剥離を発症するのは0.3〜0.7%ときわめて低い確率である。大多数の病変は安定しており、無症状のまま経過する。ただし僚眼の網膜剥離既往や強度近視などのリスク因子を伴う場合は、定期的な経過観察が重要である。

格子状変性自体は大多数の症例で無症状であり、通常の眼底検査で偶然発見される。症状が出現する場合、それは格子状変性そのものではなく、続発症(網膜裂孔・網膜剥離)によるものである。

  • 光視症:網膜が硝子体に牽引されることで生じる。暗所で増強し、閉瞼時にもみられる。眼球運動で誘発される。
  • 飛蚊症:後部硝子体剥離に伴い出現する。硝子体出血を伴う場合は網膜裂孔の存在を強く疑う。
  • 視野欠損:網膜剥離が進行した場合に生じる。「カーテンが降りてきた」と訴えることが多い。
  • 視力低下:網膜剥離が黄斑部に及んだ場合に認められる。

格子状変性の臨床像はきわめて多彩であり、「格子状の白線」の存在は診断に必須ではない。形態的な多様性にかかわらず、滑らかな網膜表面に急激で不連続な不整を示す病変はすべて格子状変性とみなすべきとされる。

格子状変性の主な所見を以下に示す。

  • 局所的な網膜菲薄化:円形・楕円形・線状の形態をとる。最も基本的な所見である。
  • 色素沈着:変性巣の内部や辺縁にみられる。加齢とともに増加する。
  • 白色〜黄色の表面小斑点:網膜表面に散在する。
  • 血管の白鞘化:変性巣を横切る網膜血管が白く見える。若年者ではまれである。
  • 萎縮円孔:変性巣内の網膜菲薄化が進行して生じる。約20〜35%の格子状変性に合併する2)
  • 蝸牛跡(snail-track)変性:表面に雪の結晶のような外観を呈する亜型。若年者にみられる。

萎縮円孔型

特徴:変性巣内の網膜菲薄化が進行し、全層欠損(円孔)を生じる。蓋(operculum)を伴わない。

網膜剥離:直上の液化硝子体が円孔を通り網膜下に流入する。丈の低い限局性の剥離が多く、進行は緩徐である。

好発:近視を伴う若年者の下方象限に多い。

牽引性裂孔型

特徴:後部硝子体剥離(PVD)発症時に、変性巣辺縁の強固な硝子体網膜癒着部で牽引がかかり馬蹄形裂孔が生じる。

網膜剥離:液化硝子体が裂孔から網膜下に急速に流入する。丈の高い胞状の剥離となり、進行が速い。

好発:50歳代の後部硝子体剥離発症時に多い。

格子状変性の正確な病因は不明であるが、内境界膜の発育異常、胚形成期の血管吻合、局所的な網膜虚血、一次的な硝子体疾患など複数の仮説がある。

主なリスク要因は以下の通りである。

  • 近視:格子状変性の有病率は近視眼で高い(ある研究では33%)。眼軸長の長い近視眼で多くみられる。近視は網膜剥離の原因の40〜80%を占め、格子状変性などの網膜変性巣を伴うことが多いためである。
  • 遺伝的素因:約20%の症例で家族内発症がみられる。COL2A1遺伝子変異との関連が報告されている1)
  • 遺伝性硝子体網膜症スティックラー症候群では放射状血管周囲格子状変性が特徴的である2)ワグナー症候群でも格子状変性を呈することがある。
  • 眼科手術既往白内障手術後やYAGレーザー後嚢切開術後は網膜剥離リスクが上昇する2)

格子状変性が網膜剥離を生じるためには、(1) 網膜の孔的存在と (2) 硝子体液化の2つが絶対条件とされる。若年者では硝子体の液化が少ないため、網膜剥離に進展しにくい。

Q 近視が強いと格子状変性になりやすいのか?
A

近視眼では格子状変性の有病率が高い。ただし最も頻度が高いのは中等度の軸性延長を持つ眼であり、極端な長眼軸の眼とは限らない1)。近視の程度にかかわらず定期検査が重要である。

格子状変性は臨床診断であり、散瞳下での眼底検査が基本である。

  • 双眼倒像鏡検査強膜圧迫(scleral indentation)を併用して周辺部網膜を詳細に観察する。格子状変性の標準的な診断法である。
  • 細隙灯顕微鏡検査:圧迫子付コンタクトレンズ(三面鏡・広角倒像レンズ)を用いて硝子体との癒着状態、円孔・裂孔の有無を確認する。

診察時には、変性巣の範囲・数、萎縮円孔の有無、網膜下液の存在、硝子体牽引の有無を記録することが重要である。

近年の画像技術の進歩により、格子状変性の評価がより詳細に行えるようになっている1)

検査法主な役割特徴
超広角眼底撮影スクリーニング感度65〜89%
周辺部OCT詳細な構造評価硝子体牽引を描出
レトロモードSLO網膜円孔の検出従来より31〜55%多い所見
  • 超広角眼底撮影(UWF):周辺部網膜を1回の撮影で広く捉えることが可能である。三面鏡と比較して最大89%の格子状変性病変を検出できる1)。スクリーニングツールとして有用である。
  • 光干渉断層計(OCT):周辺部OCTにより、網膜菲薄化(92%)、硝子体網膜癒着(72%)、網膜分離(44%)、硝子体膜の沈着物(36%)、網膜裂孔と網膜下液(4%)を検出できる1)。色素沈着を伴う変性巣では網膜がより菲薄化し、臨床的に認識困難な裂孔を伴う傾向がある1)
  • OCTアンギオグラフィ(OCTA):変性巣内の網膜毛細血管の無灌流と脈絡膜毛細血管の疎化を確認できる1)。脈絡膜循環の変化は格子状変性の病態生理への関与が示唆されている1)
  • レトロモードSLO:走査型レーザー検眼鏡の変法で、疑似三次元画像を生成する。従来の倒像鏡検査よりも31.5〜55.0%多い周辺部所見を検出できる1)
  • 眼底自発蛍光(FAF)網膜色素上皮の萎縮性変化や色素変化を描出する1)

人工知能(AI)を用いた超広角眼底画像の自動診断も研究されている。深層学習モデルにより、格子状変性の検出でAUROC 0.999、感度98.7%、特異度99.2%を達成した報告がある1)

Q 格子状変性の診断にOCTは必要か?
A

格子状変性の診断自体は散瞳下の眼底検査で十分である。ただし周辺部OCTは硝子体牽引の評価や臨床的に認識困難な裂孔の検出に有用であり、レーザー光凝固の適応判断に寄与する1)

格子状変性単独に対する治療は原則不要である。円孔や裂孔を伴わない格子状変性に対する予防手術の必然性は低い。通常の格子状変性に予防的な凝固治療を施しても、網膜剥離を発症する頻度は変わらないとされる。

以下の場合は積極的治療を要さず、定期的な経過観察で十分である。

  • 円孔・裂孔を伴わない格子状変性
  • 後部硝子体剥離を伴わない萎縮円孔で、網膜下液の進行がない場合2)
  • 色素沈着を伴う境界部(瘢痕癒着の形成を示唆)

以下の危険因子を1つ以上有する場合、予防的レーザー光凝固の適応となる。

  • 僚眼の網膜剥離既往:最も重要な適応である。僚眼の裂孔原性網膜剥離既往がある眼では予防的レーザーの有益性が示されている2)
  • 水晶体眼・眼内レンズ挿入眼
  • 高度の格子状変性を伴う強度近視眼
  • 網膜剥離の家族歴
  • 網膜剥離を合併しやすい全身疾患:Marfan症候群、Stickler症候群、Ehlers-Danlos症候群

点眼麻酔下で三面鏡または広角倒像コンタクトレンズを用い、病巣部を隙間なく2〜3列の凝固斑で囲む。凝固時間は0.2秒、三面鏡使用時の凝固サイズは400〜500μmが目安である。

OCTによる研究では、レーザー光凝固後2〜3か月で硝子体牽引の鈍化が観察されている1)

後部硝子体剥離に伴い馬蹄形裂孔が生じた場合は、レーザー光凝固または冷凍凝固による迅速な治療が必要である2)。症状が出現した亜臨床網膜剥離、サイズが増大する病変、その他の進行所見が記録された場合も治療を検討する2)

進行した網膜剥離に対しては、強膜内陥術または硝子体手術による観血的手術が行われる。初回手術で90%以上、複数回の手術で98%の復位が得られる。

Q 格子状変性にレーザー治療は必要か?
A

格子状変性単独では原則として治療は不要である。ただし僚眼の網膜剥離既往・強度近視・無水晶体眼などの危険因子がある場合は、予防的レーザー光凝固が適応となる。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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格子状変性の病変には以下の3つの不変的な所見が認められる。

  1. 神経網膜の菲薄化:内境界膜の欠損を伴い、網膜内層の神経細胞が脱落・消失する。
  2. 変性巣直上の硝子体液化:変性巣上にドーム状の硝子体液化腔が形成される。
  3. 辺縁部の強固な硝子体網膜癒着:U字型の硝子体癒着パターンを呈する1)

電子顕微鏡的には、血管の線維化(白鞘化)、グリア物質の蓄積、色素変化、基底膜の欠如とグリア細胞への置換が認められる。変性巣内の毛細血管は閉塞している。

OCTおよびOCTAによる研究では、変性巣中央部の脈絡膜菲薄化が隣接する正常部と比較して顕著である1)。脈絡膜毛細血管の疎化が認められ、大血管のみが残存する。網膜色素上皮(RPE)が消失した部位では、菲薄化した神経網膜と強膜が直接接触することもある1)

格子状変性の眼では黄斑部においても脈絡膜毛細血管の灌流面積が対照眼より高く、flow voidが少ないことが報告されている1)。これは脈絡膜循環の変化が局所病変にとどまらない可能性を示唆する。

OCTで変性巣直下にドーム状の強膜陥凹(scleral indentation)が観察される1)。近視やコラーゲン合成異常との関連から、強膜が静脈流出の調節を介して脈絡膜循環に影響を与えている可能性がある1)。COL2A1遺伝子の一般的な変異が格子状変性と関連するとの報告もある1)

格子状変性から網膜剥離に至る経路は2つある。

  • 萎縮円孔経由:変性巣内の菲薄化した網膜に全層欠損が生じる。直上の液化硝子体が円孔から網膜下に流入し、限局性の扁平な網膜剥離となる。後部硝子体剥離がなければ拡大しにくい。網膜剥離全体の2.8〜13.9%を占める。
  • 牽引性裂孔経由:後部硝子体剥離時に変性巣辺縁の硝子体網膜癒着部に牽引がかかり、馬蹄形裂孔が生じる。液化硝子体が急速に網膜下に流入し、丈の高い胞状の網膜剥離に至る。網膜剥離全体の16〜18%を占める。

423眼を平均11年追跡した研究では、150眼(35%)に萎縮円孔を認め、そのうち10眼に1乳頭径を超える網膜下液(亜臨床網膜剥離)が存在した2)。追跡期間中に新たに6眼が亜臨床裂孔原性網膜剥離を発症した。臨床的裂孔原性網膜剥離に進行したのは3眼のみで、2眼は20代半ばの萎縮円孔から、1眼は症候性の牽引裂孔からであった2)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

超広角眼底画像を用いたAIによる格子状変性の自動検出が複数のグループで研究されている1)

改良型YOLOXモデル(物体検出モデル)を用いた研究では、2622枚の超広角眼底画像を学習に使用し、格子状変性の検出精度96.0%、感度82.7%、特異度96.7%を達成した1)

別の深層学習システムでは、格子状変性と網膜裂孔を合わせた検出でAUROC 0.999、感度98.7%、特異度99.2%を達成した。最適な前処理法はオリジナル画像のオーグメンテーションであり、格子状変性単独のAUROCは0.996であった1)

これらの技術は白内障手術や屈折矯正手術の術前スクリーニングへの応用が期待される1)

マルチモーダルイメージングによる病態解明

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OCTとOCTAの併用により、格子状変性の病態が脈絡膜循環の異常と関連する可能性が示唆されている1)

格子状変性の眼では黄斑部の脈絡膜毛細血管灌流面積が対照眼より高く、flow voidが少ないことが報告された1)。この所見は中心性漿液性脈絡網膜症(脈絡膜灌流障害)とは対極の位置づけとなる。

超広角swept-source OCTの統合デバイスにより、UWF眼底画像と同時にOCT断層像を取得する手法も開発されている1)。周辺部病変の正確な位置特定と構造評価が1回の検査で可能となる。

COL9A3遺伝子のヘテロ接合体変異が重症の周辺部硝子体網膜変性と網膜剥離に関連するとの報告がある1)。格子状変性の遺伝的基盤の解明は、将来的なリスク層別化に寄与する可能性がある。


  1. Maltsev DS, Kulikov AN, Shaimova VA, et al. Spotlight on Lattice Degeneration Imaging Techniques. Clin Ophthalmol. 2023;17:2383-2395.
  2. American Academy of Ophthalmology. Posterior Vitreous Detachment, Retinal Breaks, and Lattice Degeneration Preferred Practice Pattern. 2024.

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