増殖性変化
網膜新生血管:乳頭上または他部位の新生血管増殖。硝子体出血のリスクとなる。
増殖膜:新生血管に伴う線維性増殖。牽引性網膜剥離の原因となる。

レーザー(LASER)は、放射の誘導放出による光増幅の原理を利用した光源である。高度に単色でコヒーレントな平行光線を生成する。1949年にMeyer-Schwickerathが太陽光を用いた眼腫瘍治療を行い、1960年代にはMeyerらが網膜疾患に対するレーザー光凝固術の有効性を報告した。
現在、レーザー光凝固術は眼科で最も頻繁に施行される治療法の一つである。術前の十分な評価のもと、適切な凝固条件で行えば大きな治療効果が得られる。ただし非可逆的治療であるため、合併症への注意が不可欠である。
レーザー光の3つの特性を以下に示す。
レーザー治療が必要となる網膜疾患で患者が自覚する症状は多岐にわたる。
レーザー治療の適応となる代表的な網膜所見を以下に示す。
増殖性変化
網膜新生血管:乳頭上または他部位の新生血管増殖。硝子体出血のリスクとなる。
増殖膜:新生血管に伴う線維性増殖。牽引性網膜剥離の原因となる。
浮腫・滲出
黄斑浮腫:毛細血管瘤や無灌流領域からの漏出が原因。
硬性白斑:リポ蛋白の網膜内沈着。環状配列は毛細血管瘤の存在を示唆する。
裂孔・変性
レーザー治療の適応となる網膜疾患の主な原因とリスク要因を以下に示す。
散瞳薬で十分な瞳孔散大を得ることが必須である。白内障や硝子体出血などの中間透光体混濁があると凝固効率が低下するため、術前に透光体の状態を評価する。出血や色素の濃い部位では過凝固となりやすく、注意を要する。
レーザー治療の適応判断には、以下の検査が不可欠である。
レーザー照射にはコンタクトレンズが必須であり、目的に応じた選択が重要である。
主なPRP用レンズの像倍率とレーザースポット倍率を以下に示す。
| レンズ | 像倍率 | スポット倍率 |
|---|---|---|
| Goldmann三面鏡 | 0.93× | 1.08× |
| Mainster PRP 165 | 0.51× | 1.96× |
| SuperQuad 160 | 0.50× | 2.00× |
OCTAは非侵襲で無灌流領域や新生血管の描出に優れるが、血管からの漏出は描出されない。そのため蛍光造影を完全には代替できず、両者を相補的に用いる。
レーザーの生体作用は照射出力と時間で決まり、主に以下の3機序がある。
光熱作用
光凝固:光吸収による温度上昇でタンパク質が変性する。網膜光凝固の基本機序である。
光蒸散:高エネルギー照射で細胞内外の水分が蒸発する。CO₂レーザー(10,600 nm)が利用する。
光化学作用
光動力学的療法(PDT):光感受性物質を投与後、赤色光(689 nm)でフリーラジカルを生成し新生血管を閉塞する。
光アブレーション:紫外線(350 nm未満)で組織のポリマーを切断する。エキシマレーザーが利用する。
光電離作用
光断裂:高エネルギー短時間照射で音響衝撃波を発生させ組織を破壊する。Nd:YAGレーザー(1,064 nm)が利用する。後発白内障の後嚢切開が代表的適応。
波長により吸収特性が異なり、治療目的に応じた選択が必要である。
| 波長 | レーザー種 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 488–532 nm | アルゴン・半波長YAG | ヘモグロビン吸収良好 |
| 561–577 nm | イエロー | キサントフィル吸収小 |
| 647 nm | クリプトン赤 | メラニン吸収・深達性良好 |
| 810 nm | ダイオード | 近赤外・最深達 |
糖尿病網膜症研究(DRS)により、ハイリスク増殖糖尿病網膜症に対する有効な治療として確立された。虚血網膜を凝固し酸素需要を低下させ、VEGF産生を抑制する。
汎網膜光凝固の要点は以下の通りである。
大型毛細血管瘤(径200 μm超)を伴う糖尿病黄斑浮腫は、抗VEGF療法への反応が不良であることが知られている。カラー眼底写真での白色縁の存在が大型瘤の同定に有用であり、標的レーザー光凝固により瘤の完全閉塞と浮腫の持続的消退が得られる1)。
Sagarら(2023)は、白色縁を有する大型毛細血管瘤による糖尿病黄斑浮腫5眼の症例を報告した。抗VEGF療法に抵抗性の症例を含む全例で、標的レーザー光凝固(スポット50 μm、照射時間100 ms、出力70〜100 mW、半波長Nd:YAGレーザー)により瘤の完全閉塞と黄斑浮腫の消退が得られ、4〜18か月の追跡で再発を認めなかった1)。
ETDRS により、臨床的に有意な黄斑浮腫(CSME)に対する黄斑レーザーの有効性が示された。CSMEの定義は以下のいずれかである。
びまん性浮腫には格子状凝固、限局性浮腫には散発凝固を適用する。照射径100〜200 μm、出力100〜200 mW、照射時間0.1秒が標準条件である。
FAで同定された色素漏出点に対し局所光凝固を施行する。照射径200 μm、出力90〜150 mW、照射時間0.1秒で弱い凝固を行う。中心窩への照射は避ける。
局所レーザーは網膜下液の吸収を促進する有効な治療選択肢である4)。
Sangalら(2022)は、非白人集団(ヒスパニック64%、黒人20%、アジア系12%)のCSC 25眼を対象に532 nm局所光凝固の効果を検討した。84%の眼で中央値1.75か月後に網膜下液が完全消退し、治療前視力0.36 logMAR(20/46相当)が最良視力0.16 logMAR(20/29相当)へ有意に改善した(p = 0.0003)。76%は追跡期間終了時まで再発を認めなかった4)。
連続照射をマイクロ秒単位のパルスに分割し、パルス間に網膜組織が冷却される時間を設ける照射法である。532 nm、577 nm、810 nmなどの波長で適用可能。従来の光凝固で生じる網膜瘢痕を回避しつつ、RPE細胞への熱刺激による治療効果が期待できる。
577 nm黄色波長はキサントフィルへの影響がごく小さく、ヘモグロビンに対するメラニン吸収比が最も高い。そのため従来の532 nmレーザーに比べ散乱が少ない3)。
Iovinoら(2022)は、乳頭周囲パキコロイド症候群(PPS)に対しナビゲーション誘導577 nmサブスレッショルドマイクロパルスレーザー(出力300 mW、照射時間200 ms、デューティサイクル5%、562スポット)を施行した。3か月後に網膜下液が消退し、6か月後にBCVAが20/32から20/20へ改善した。レーザー瘢痕は眼底写真・自家蛍光像のいずれでも検出されなかった3)。
網膜裂孔周囲に2〜3列の凝固斑を施し、神経網膜と網膜色素上皮の瘢痕癒着を形成する。これにより液化硝子体の網膜下への浸入を防ぎ、網膜剥離の進行を予防する。
光凝固の適応となる裂孔・変性は以下の通りである。
大きな馬蹄形裂孔や鋸状縁断裂、毛様体裂孔など硝子体牽引が強い場合は、光凝固のみでの進行抑制は困難であり、硝子体手術やバックリング手術を検討する。
光感受性物質ベルテポルフィン(ビスダイン)を静脈投与後、689 nmの赤色光を照射する選択的レーザー療法である。フリーラジカルにより血管内皮細胞を破壊し、新生血管を閉塞させる。
加齢黄斑変性の標準治療は抗VEGF療法に移行したが、PDTは以下に引き続き有用である。
硝子体手術中に眼内プローブを用いて直接レーザーを照射する。網膜剥離手術や増殖糖尿病網膜症手術では必須の手技である。
通常は表面麻酔(点眼麻酔)で施行可能である。ただし汎網膜光凝固ではある程度の疼痛を伴い、痛みに弱い患者には球後麻酔を使用することがある。パターンスキャンレーザーは短時間照射のため疼痛が軽減される。
レーザー直後は視力改善よりも現状維持が主な目的であることが多い。PRPでは周辺網膜を凝固するため、むしろ視野が暗くなる感覚が出ることがある。黄斑浮腫の改善など効果が現れるまで数週〜数か月を要する場合がある。
原子が光子を吸収すると電子が励起状態に移行する。この励起原子に別の光子が作用すると、同じ位相・方向・波長を持つ光子が放出される(誘導放出)。光学共振器内で反射を繰り返すことで誘導放出が増幅される。反転分布(励起状態の原子が基底状態より多い状態)の維持が必須である。
レーザー媒質は固体(Nd:YAG、ルビー)、液体(蛍光色素)、気体(アルゴン、クリプトン)、半導体(ダイオード)に分類される。連続放電ランプやパルスフラッシュランプにより励起される。
レーザー光は主に網膜色素上皮と脈絡膜のメラニンに吸収される。600 nmを超える波長ではメラニンの透過率が上がるため、青~緑色の方が治療効率が一般に高い。
網膜光凝固は以下の機序で効果を発揮する。
Shimizuら(2022)は、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)に伴う滲出性網膜症に対し、抗VEGF療法とレーザー光凝固の併用で黄斑浮腫の改善を得た症例を報告した。OCTAで動脈蛇行と無灌流領域が観察され、虚血性網膜症に準じた光凝固の有効性が示唆された。ただし治療後に無灌流領域の拡大がOCTAで確認された2)。
カメラ画像と蛍光造影写真を自動で重ね合わせ、マーキングした漏出点に対しコンピュータ支援で照射するシステムが普及しつつある。照射位置の精度向上とスポット重複リスクの軽減が利点である3)。
PPSなど従来の治療選択肢が限られていた疾患への応用が試みられている。ベルテポルフィンの世界的供給不足を背景に、PDTの代替としてマイクロパルスレーザーへの関心が高まっている3)。
カラー眼底写真における白色縁の存在が大型毛細血管瘤の非侵襲的同定マーカーとして注目されている。OCTでの過反射壁を持つ楕円形構造の確認と合わせ、侵襲的な造影検査なしに標的レーザーの計画が可能となる可能性がある1)。