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網膜・硝子体

綿花様白斑

綿花様白斑(cotton wool spots)は、網膜表層に出現する小さく黄白色(灰白色)のわずかに隆起した病変である。別名「軟性白斑」とも呼ばれる。

健康な患者に綿花様白斑が観察されるのは正常ではない。片眼に1つでも認められれば、糖尿病網膜症高血圧網膜症の最も初期の眼底所見である可能性が高い。既往歴のない綿花様白斑患者の50%に拡張期血圧90 mmHg以上の上昇、20%に血糖値上昇が認められる。

病変は視神経乳頭周囲および上下耳側アーケード血管沿いに好発する。境界不鮮明な白色〜黄色調の斑状病変として観察される。

病変は時間経過とともに消退していく。通常6〜12週間で消失するが、糖尿病網膜症患者ではより長く持続することがある。

外観

色調:白色〜黄白色。境界不鮮明でふわっとした綿花様の質感

大きさ:通常、視神経乳頭面積の1/3未満

好発部位

視神経乳頭周囲:乳頭周辺に多発することがある

アーケード沿い:上下耳側のアーケード血管沿いに出現

経過

自然消退:通常6〜12週間で消失

持続例:糖尿病網膜症ではより長期に持続することがある

臨床的意義

正常ではない:健常眼には認めない異常所見

全身疾患の徴候:高血圧・糖尿病など全身疾患の眼底サインとなる

Cotton Wool Spots image
Cotton Wool Spots image
Kuryati Kipli; Mohammed Enamul Hoque; Lik Thai Lim; Muhammad Hamdi Mahmood; Siti Kudnie Sahari; Rohana Sapawi; Nordiana Rajaee; Annie Joseph. A Review on the Extraction of Quantitative Retinal Microvascular Image Feature. Comput Math Methods Med. 2018 Jul 2; 2018:4019538. Figure 4. PMCID: PMC6051289. License: CC BY.
Cotton wool spot in retinal fundus image (in black circle) [32].

一般的に綿花様白斑自体による視覚的症状はない。中心窩が侵された場合には視力低下を呈することがある。基礎疾患による全身症状を伴う場合もある。

各原因疾患に伴う症状の例を以下に示す。

  • GCA症例:2週間の側頭部鈍頭痛、咀嚼時の顎跛行、両眼視力低下(右指数弁、左6/36)3)
  • COVID-19症例:退院後に両眼のぼやけ。初診時視力は右20/50・左20/602)
  • 化学療法症例:自覚的眼症状なし。矯正視力は右20/30+1・左20/25-21)

散瞳眼底検査で後極部の網膜表層に白色・境界不鮮明なわずかに隆起した病変として認められる。病変は房状の辺縁を呈し、綿花様の柔らかい質感が特徴である。有髄神経線維と誤認されやすいが、形状・質感ともに異なる。

以下に主な白色病変との鑑別を示す。

病変名色調・質感存在する層
軟性白斑(綿花様白斑)白色・柔軟・境界不鮮明神経線維層
硬性白斑黄色・硬質・境界明瞭外網状層
ドルーゼン黄白色・粒状色素上皮下

代表的な症例の所見を以下に示す。

  • GCA症例:両眼乳頭周囲に多発性綿花様白斑(右眼優位)3)
  • COVID-19症例:後極部に両側性の綿花様白斑。高血圧既往あるが細動脈狭窄・AV交叉異常なし2)
  • 化学療法症例:散在する乳頭周囲綿花様白斑、散在するdot/blot出血。FAで360度微小動脈瘤、drusen染色、周辺部毛細血管脱落1)
Q 綿花様白斑が見つかったら、必ず治療が必要ですか?
A

綿花様白斑自体への直接的な治療法はない。病変は通常6〜12週間で自然消退する。最優先すべきは基礎疾患の同定と治療であり、GCA疑い例では視力喪失を防ぐため緊急対応が必要である。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。

綿花様白斑は特定の疾患ではなく、多様な全身疾患・局所疾患の眼底徴候である。原因は大きく4カテゴリに分類される。

虚血性

高血圧:最多の原因。腎性高血圧でも出現

糖尿病:糖尿病網膜症の初期所見となる

その他網膜静脈閉塞症眼虚血症候群、貧血(赤血球数が正常の50%以下)、高粘稠度血症、血液高凝固状態、放射線照射、急性失血

免疫・炎症性

GCA(巨細胞動脈炎):50歳以上で10万人あたり15-25人。両側性綿花様白斑として発症しうる3)

膠原病SLE(軟性白斑が目立つ)、皮膚筋炎、強皮症、結節性多発動脈炎

感染性

HIV網膜症:軟性白斑・出血・Roth斑など多彩な所見

その他:猫ひっかき病、ロッキー山紅斑熱、レプトスピラ症、菌血症、真菌血症

その他

塞栓性:Purtscher様網膜症(頸動脈塞栓・心原性塞栓・薬剤誘発性)

腫瘍性:白血病(静脈拡張・蛇行・出血・綿花様白斑・Roth斑)、リンパ腫、転移

COVID-19:肺炎回復患者27名中6名(22%)に綿花様白斑2)

化学療法薬(gemcitabine、cisplatin)によりPurtscher様網膜症として綿花様白斑が出現することがある。糖尿病・高血圧はgemcitabineによるPurtscher様網膜症のリスクを増大させる。1)

COVID-19においては、凝固亢進状態や血管内皮への直接的ウイルス感染による血管炎が機序として考えられている。2)

網膜静脈閉塞症(RVO)では初期臨床所見として綿花様白斑が認められることがある。4)

Q 綿花様白斑の最も多い原因は何ですか?
A

高血圧と糖尿病が最も一般的な原因である。既往歴のない患者であっても、綿花様白斑が認められた場合の50%に拡張期血圧90 mmHg以上の上昇、20%に血糖値上昇が認められる。

診断は通常、散瞳下眼底検査で行われる。病変の確認後、基礎疾患の精査が不可欠である。

以下に主要な画像検査とその所見を示す。

検査法主な所見
眼底検査白色・境界不鮮明な隆起性病変(神経線維層レベル)
OCT神経線維層の高反射を伴う局所的肥厚(急性期)→ 内層菲薄化(消退期)
FA隣接する毛細血管無灌流領域

各検査の詳細所見を以下に示す。

  • FA:綿花様白斑に隣接する毛細血管無灌流領域を明らかにする。化学療法症例では360度微小動脈瘤・綿花様白斑部位の毛細血管無灌流・低蛍光から後期過蛍光の経過が記録された。1) COVID-19症例では軽度遮蔽以外は異常なし。2)
  • OCT:急性期には神経線維層の高反射を伴う局所的・分節的肥厚が認められる。外層は保たれる。消退期には内層の菲薄化・萎縮へ進行する。COVID-19症例では黄斑浮腫なし、綿花様白斑部位で神経線維層の肥厚・高反射が確認された。2)
  • OCT-A:COVID-19症例で表層毛細血管叢レベルでflow voidが認められた。2)

網膜動脈閉塞症の鑑別診断においても綿花様白斑の評価が求められる。5)

初期検査として以下を施行する。

  • バイタルサイン(血圧):高血圧網膜症の除外
  • HbA1c:糖尿病網膜症の除外
  • CBC(全血球計算):貧血・白血病の除外
  • HIV検査:HIV網膜症の除外

必要に応じて追加する検査は以下の通りである。

  • 心エコー・頸動脈超音波:塞栓源の検索
  • ESR・CRP:炎症性疾患(特にGCA)の評価
  • PT/PTT:凝固異常の評価
  • GCA疑い:ESR・CRP(GCA症例でESR 120 mm/h、CRP 79 mg/L)、側頭動脈超音波(halo sign)3)

有髄神経線維、硬性白斑、網膜浸潤、網膜炎、ドルーゼン、脈絡網膜萎縮との鑑別が重要である。

Q 眼底検査で綿花様白斑が見つかったら、どのような全身検査を受けるべきですか?
A

初期検査として血圧測定・HbA1c・CBC・HIV検査が推奨される。必要に応じて心エコー・頸動脈超音波・ESR・CRP・凝固検査を追加する。GCA疑い例では側頭動脈超音波が鑑別に有用であり、緊急対応が必要となる場合がある。

綿花様白斑自体への直接的な治療法はない。基礎疾患の同定と治療が本質である。病変は通常6〜12週間で自然消退する。

HIV感染患者でCD4数200未満の場合、新規綿花様白斑はウイルス性網膜炎の初期兆候の可能性があり、注意を要する。

  • GCA:IV methylprednisolone 1 g×3日間、続いて経口prednisolone 60 mg/日で漸減。治療3日後に視力改善が得られた例がある。12ヶ月後に綿花様白斑の完全消退が確認されている。再発時にはmethotrexate 10 mg/週の追加、tocilizumabも選択肢となる。3)
  • 高血圧:降圧療法により数ヶ月で網膜所見が消失する(腎性高血圧も同様)。
  • 貧血:血液改善により眼底所見も改善する。
  • COVID-19関連:特異的な眼科治療なし。2ヶ月後に視力の自然改善が報告されている(右20/50→20/20、左20/60→20/25)。2)
  • 化学療法関連:gemcitabineによる眼副作用は可逆的。cisplatinによる損傷は不可逆の場合がある。1)
  • 網膜静脈閉塞症:急性過程の解消に伴い綿花様白斑も消退する。4)

以下に基礎疾患別の治療と転帰をまとめる。

基礎疾患治療転帰
GCAステロイド大量療法数ヶ月で消退3)
高血圧降圧療法数ヶ月で消退
貧血原因治療血液改善で消退
Q 綿花様白斑は消えた後も視力に影響が残りますか?
A

多くの場合は後遺症なく消退する。ただし中心窩が侵された場合や、GCAによる視神経障害が生じた場合は視力障害が残存しうる。GCAでは最大20%に永続的な視力喪失が生じる。3)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

綿花様白斑は網膜細動脈の閉塞による虚血に続いて発生する。局所的な軸索輸送デブリの蓄積と関連し、網膜虚血を示す所見である。3)

網膜細動脈の微小梗塞→毛細血管前細動脈の閉塞→神経線維層の梗塞、という過程をたどる。

局所的な虚血により軸索輸送(axoplasmic flow)が遮断される。遮断された軸索内にミトコンドリアや細胞内物質が蓄積し、神経線維が膨化する。この腫大した組織が白色〜黄白色の病変として眼底に観察される。

組織学的にはサイトイド小体(cytoid bodies)が特徴的所見である。サイトイド小体は腫脹した神経節細胞軸索の好酸性断片であり、ミトコンドリアや細胞内物質の蓄積で満たされている。

特定の原因による綿花様白斑はPurtscher様網膜症のメカニズムをとる。

  • 微小塞栓:空気・脂肪・白血球凝集体・血小板・フィブリンが網膜毛細血管に至り閉塞を生じる。2)
  • COVID-19:凝固亢進状態または血管内皮へのウイルス感染による血管炎が網膜血管を障害する。2)
  • cisplatin:血管閉塞過程により網膜虚血を引き起こす。1)
  • gemcitabine:血管毒性によりPurtscher様網膜症・腎虚血・心筋虚血を生じうる。1)

COVID-19患者における網膜微小血管障害の報告が増加している。COVID-19肺炎回復患者27名中6名(22%)に綿花様白斑が認められた報告があり、SARS-CoV-2の血管内皮への影響が注目されている。2) OCT-Aによるflow voidの可視化が病態評価に貢献している。

GCA治療においてtocilizumabが再発予防に有効であることが示されている。再発までの時間延長とステロイド累積投与量の削減が期待される。3) 側頭動脈超音波は非侵襲的なGCA診断法として普及が進んでいる。両側halo signの特異度100%という報告は診断精度向上に寄与する。3)

化学療法による網膜毒性のモニタリング

Section titled “化学療法による網膜毒性のモニタリング”

gemcitabineをはじめとする化学療法薬による網膜毒性の認知が高まっている。糖尿病・高血圧合併例では特にリスクが高く、化学療法施行中の定期的な眼科モニタリングの重要性が強調されている。1)


  1. Brummer SR, Joffe JA, Liggett PE. Chemotherapy-induced retinopathy in a diabetic and hypertensive patient with stage 4 metastatic pancreatic adenocarcinoma. J Vitreoret Dis. 2023;7(3):242-244.

  2. Bottini AR, Steinmetz S, Blinder KJ, Shah GK. Purtscher-like retinopathy in a patient with COVID-19. Case Rep Ophthalmol Med. 2021;2021:6661541.

  3. Fu L, O’Sullivan EP. Giant cell arteritis presenting as bilateral cotton wool spots. Cureus. 2022;14(10):e29804.

  4. Retinal Vein Occlusions Preferred Practice Pattern. American Academy of Ophthalmology. 2024.

  5. Retinal and Ophthalmic Artery Occlusions Preferred Practice Pattern. American Academy of Ophthalmology. 2024.

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