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網膜・硝子体

中心性漿液性脈絡網膜症

1. 中心性漿液性脈絡網膜症とは

Section titled “1. 中心性漿液性脈絡網膜症とは”

中心性漿液性脈絡網膜症(Central Serous Chorioretinopathy; CSC)は、黄斑部の網膜色素上皮(RPE)直下の脈絡膜血管透過性が亢進し、漿液性網膜剥離(SRF)が生じる疾患である。加齢黄斑変性糖尿病網膜症網膜静脈閉塞症に次ぎ、4番目に多い網膜疾患とされる。1866年にvon Graefeが「中心性再発性網膜炎」として記載し、1967年にGassらにより現在の病名が命名された。

疫学的には男性10万人あたり9.9人、女性1.7人の発生率であり、男女比は約8:1である4)。250眼を対象とした研究では平均年齢46.6歳、男性88.4%であった3)

中心性漿液性脈絡網膜症には以下の3病型がある。

典型型

患者層:30〜40歳代男性が中心。

病態:片眼性・黄斑部限局の漿液性網膜剥離。自然寛解傾向が強い。

経過:3〜4ヶ月以内に多くが自然吸収。

慢性型

患者層:高齢者、両眼性のことも多い。

病態:広範なRPE障害、びまん性のSRF。再発を繰り返す。

経過:SRFが6ヶ月以上持続。積極的治療を要する5)

胞状網膜剥離

患者層:ステロイド大量使用例に多い。

病態:大型の網膜色素上皮剥離(PED)を伴う重症型。

経過:SRFの範囲が広く、視力予後が悪い場合がある。

再発率は1年以内に最大50%と高い。中心性漿液性脈絡網膜症はpachychoroid疾患スペクトル(脈絡膜肥厚を特徴とする疾患群)の一部と位置づけられている3)9)

Q 自然に治りますか?
A

典型例では3〜4ヶ月以内に自然寛解することが多い。しかし再発率は1年以内で最大50%に達する。SRFが6ヶ月以上持続する場合は慢性型とみなし、PDTなどの治療が必要となる。pachychoroid群では自然消退率が非pachychoroid群(48%)より低く(28.8%)、再発率も高いため注意が必要である3)

  • 視力低下:比較的軽度のことが多い。軽い凸レンズで矯正可能な遠視化(hyperopic shift)が最も一般的な訴えである。
  • 変視症:物がゆがんで見える。
  • 小視症:物が実際より小さく見える。
  • 中心暗点:視野の中心部が暗くなる。
  • コントラスト感度低下色覚異常(後天性青黄色覚異常)を伴うこともある。

細隙灯顕微鏡および各種画像検査で以下の所見を認める。

  • 漿液性網膜剥離(SRF):黄斑部の出血を伴わない円形・楕円形の隆起。
  • 網膜色素上皮剥離(PED)OCTで最大63%に認められる。
  • プレシピテート:SRF内の白色点状沈着物。
  • 網膜下フィブリン沈着:慢性例で認めることがある。
  • 脈絡膜肥厚:EDI-OCT(Enhanced Depth Imaging OCT)で評価する。正常250〜300μmに対し、本症では350〜450μm以上となる。pachychoroid群の中心窩下脈絡膜厚(SFCT)は406.6±80.8μmと報告されている3)
  • Haller層の血管拡張・Sattler層の菲薄化:EDI-OCTで確認できる脈絡膜構造の特徴的変化である3)

中心性漿液性脈絡網膜症の根本的な原因は未解明であるが、脈絡膜血管の透過性亢進が本態とされる。以下のリスク因子が報告されている。

主なリスク因子の一覧を示す。

リスク因子関連の強さ特記事項
ステロイドOR 37.1全投与経路
タイプA性格中程度ストレス関連
妊娠0.008%/年出産後自然寛解多い
OSA患者の61%交感神経亢進
PDE5阻害薬症例報告中止で消退
  • ステロイド:最大のリスク因子。全身・局所・吸入・硬膜外・点眼のいずれの投与経路でも発症リスクがある。全身性エリテマトーデス(SLE)患者へのステロイド投与後の発症例が報告されており、OR 37.1(95% CI 6.2–221.8)と極めて高い1)
  • 精神科薬剤:クエチアピン(非定型抗精神病薬)服用後の発症例が報告されている。薬剤中止2週間で最高矯正視力改善、2ヶ月で完全消退が得られた2)
  • PDE5阻害薬:タダラフィル5mgの服用後に中心性漿液性脈絡網膜症を発症し、中止3ヶ月後に消退した症例が報告されている8)
  • 妊娠:妊娠中の中心性漿液性脈絡網膜症発症率は0.008%/年と報告されている7)
  • OSA(睡眠時無呼吸症候群):中心性漿液性脈絡網膜症患者の61%にOSAを認めるとされる9)
  • COVID-19ワクチン:ワクチン接種後の中心性漿液性脈絡網膜症再発例が報告されており、HPA軸の活性化が関与すると考えられている6)
  • H. pylori感染:中心性漿液性脈絡網膜症患者の53〜69%にピロリ菌感染が認められ、OR 4.6と報告されている。

中心性漿液性脈絡網膜症の発症はmulti-hit theory(多因子仮説)で説明される。すなわち①解剖学的素因(脈絡膜の構造的特徴)、②誘発イベント(ステロイド・ストレス・OSA等)、③代償不全という3段階で発症するとされる9)

Q ステロイドと中心性漿液性脈絡網膜症はどのような関係がありますか?
A

ステロイドは中心性漿液性脈絡網膜症の最大のリスク因子であり、点眼・吸入・注射・内服を問わず全ての投与経路でリスクが高まる。オッズ比は37.1と極めて高く報告されている1)。中心性漿液性脈絡網膜症と診断された場合、ステロイドを使用中であれば担当医と相談のうえ、可能な限り減量・中止を検討する。

Central Serous Chorioretinopathy image
Central Serous Chorioretinopathy image
Hideki Koizumi; Naoya Imanaga; Nobuhiro Terao. Central serous chorioretinopathy and the sclera: what we have learned so far. Jpn J Ophthalmol. 2024 Aug 16; 68(5):419-428 Figure 4. PMCID: PMC11420308. License: CC BY.
Right eye of a 51-year-old man with central serous chorioretinopathy. Horizontal B-scan with optical coherence tomography showing serous retinal detachment and pigment epithelial detachment. The subfoveal choroidal thickness was 475 μm. Dilation of the choroidal vessels under the fovea was observed. Loculation of fluid was present in the outer choroid (white arrowheads). Reprinted from Imanaga and colleagues [32]

中心性漿液性脈絡網膜症の診断には複数の画像検査を組み合わせる。主な検査の特徴を以下に示す。

検査特徴的所見主な役割
FA点状蛍光漏出漏出点同定・治療計画
IA(ICG)脈絡膜過蛍光脈絡膜異常評価
OCTSRF・色素上皮剥離描出経過観察・定量

各検査の詳細は以下の通りである。

  • フルオレセイン蛍光造影(FA):RPEの点状蛍光漏出を認める。典型的な漏出パターンはインクのしみ状(31%)と煙突状(12%)である。
  • インドシアニングリーン蛍光造影(IA/ICG):造影中期に脈絡膜の過蛍光(異常脈絡膜組織の染色)を認める。pachychoroid変化の評価に有用である。
  • OCT:SRFと色素上皮剥離を非侵襲的に描出・定量できる。視細胞外節の線状伸長(つらら状変化)も観察される。EDI-OCTで脈絡膜厚を正確に評価できる。
  • OCTA(OCT血管造影):脈絡膜毛細血管のフロー障害(shadow effect)を描出できる6)
  • 眼底自発蛍光(FAF):急性期では過蛍光、慢性期では広範な低蛍光を示す。RPE障害の範囲評価に有用である。
  • 滲出型加齢黄斑変性(特にポリープ状脈絡膜血管症; PCV):ICG造影でポリープ状病変を確認する。
  • フォークト・小柳・原田病(VKH):両眼性・汎ぶどう膜炎症状、漿液性網膜剥離の多発。
  • ピット黄斑症候群視神経乳頭のピットに伴うSRF。
  • ループス脈絡網膜症:女性・活動性SLE・両眼性のSRFは本症との鑑別を要する1)

中心性漿液性脈絡網膜症に対して確立された薬物治療はない。治療方針は病型・病期・漏出点の位置によって決定する。

典型的な急性型では3〜4ヶ月の経過観察を行う。非pachychoroid群の自然消退率は48%であるのに対し、pachychoroid群では28.8%と低い3)。ステロイドを使用中の場合は可能な限り減量・中止を行う。

漏出点が中心窩から500μm以上離れている場合に適応となる。FAで同定した漏出点を直接凝固する(200μm径、0.2秒、70〜120mW)。即効性があるが、瘢痕形成・暗点の残存リスクがある。

マイクロパルスレーザー治療(MPLT)

Section titled “マイクロパルスレーザー治療(MPLT)”

577nm黄色レーザーを用いる。240mW・200μmスポット径・200ms・5%デューティサイクルの設定で照射する4)。RPEのみに選択的にエネルギーを与えるため、瘢痕を形成しない。中心窩直下にも照射可能である。

Bodea Fら(2024)は、MPLTを施行した中心性漿液性脈絡網膜症患者において施術2週間でSRFの減少、6週間で消退が得られたことを報告した4)

妊娠中の中心性漿液性脈絡網膜症に対しては、マイクロパルスレーザーが唯一の安全な治療選択肢とされている7)

経過観察

適応:急性典型例の第一選択。

期間:4〜6ヶ月。自然吸収を待つ。

注意:ステロイド使用中は減量・中止を検討する。

PDT(光線力学的療法)

適応:慢性中心性漿液性脈絡網膜症の第一選択。

方法:half-dose(half-fluence)PDTが推奨される。

根拠:PLACE試験・SPECTRA試験で有効性が証明されている9)

マイクロパルスレーザー

特徴:瘢痕なし、中心窩直下にも照射可能。

優位点:妊娠中でも使用できる唯一の治療7)

効果:2週間でSRF減少、6週間で消退4)

ベルテポルフィン(visudyne)を用いる。慢性中心性漿液性脈絡網膜症に対するhalf-dose PDT(通常用量の半量)またはhalf-fluence PDT(半分のレーザー出力)が第一選択として推奨されている9)

Cheung CMGら(2025)は、PLACE試験でhalf-dose PDTがHSML(半視神経球マイクロパルスレーザー)に対して優越性を示し、SPECTRA試験でhalf-dose PDTがエプレレノンに対して優越性を示したと報告した9)。また、REPLACE試験・SPECS試験では、HSMLまたはエプレレノンが無効であった症例へのhalf-dose PDTへのクロスオーバーにより改善が得られた9)

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬。50mg/日で使用する。プラセボに対する優位性は不明確で、PDTと比較すると効果が劣るとされる。10ヶ月間投与後も無効であった症例報告がある5)

フォトバイオモジュレーション(PBM)

Section titled “フォトバイオモジュレーション(PBM)”

590nm黄色LEDと625nm赤色LEDを各6分間照射する新しい治療法である5)。エプレレノンが無効の慢性中心性漿液性脈絡網膜症に伴う漿液性色素上皮剥離に対して、最高矯正視力が20/80から20/25へと改善した症例が報告されている5)

Q 妊娠中に中心性漿液性脈絡網膜症を発症したらどうすればよいですか?
A

妊娠中の中心性漿液性脈絡網膜症発症率は0.008%/年と報告されている7)。多くは出産後3ヶ月以内に自然寛解する。治療が必要な場合はマイクロパルスレーザー(MPLT)が妊娠中唯一の安全な選択肢とされており、中心窩直下にも瘢痕なく照射できる7)

Q どのような治療法が選ばれますか?
A

急性典型例では3〜4ヶ月の経過観察が基本である。SRFが6ヶ月以上持続する慢性型にはhalf-dose PDTが第一選択となる9)。漏出点が中心窩から離れている場合はレーザー光凝固、中心窩直下や妊娠中にはマイクロパルスレーザーを選択する。エプレレノンはPDTと比較して効果が劣る。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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中心性漿液性脈絡網膜症の発症機序は「脈絡膜血管の透過性亢進」を中心とした複合的な機序により説明される。

  1. 脈絡膜血管(主にHaller層の拡張血管)の透過性亢進
  2. 脈絡膜間質圧の上昇・脈絡膜肥厚
  3. RPE外側の血液網膜関門の破綻
  4. RPEのポンプ機能低下
  5. SRFの網膜下腔への貯留

Cheung CMGら(2025)は、中心性漿液性脈絡網膜症の発症をmulti-hit theoryで説明している9)

  1. 解剖学的素因:短眼軸長強膜の肥厚・渦静脈排出分布の非対称性など。
  2. 誘発イベント:ステロイド・ストレス・OSA・薬剤投与など。
  3. 代償機構の活性化:Haller層の血管拡張・渦静脈吻合の形成(pachychoroid疾患スペクトルの約90%に認める10))。
  4. 代償不全:脈絡膜毛細血管の虚血→RPE損傷→悪循環。

Cheung CMGら(2025)は、pachychoroid疾患スペクトルにおいて静脈過負荷→代償不全→脈絡膜毛細血管虚血→RPE損傷という悪循環が生じると報告した9)

  • PDE5阻害薬(タダラフィル等):cGMP・NOの増加を介して脈絡膜血管を拡張・肥厚させ、中心性漿液性脈絡網膜症を誘発する8)
  • クエチアピン:D1受容体を介した血管拡張機序が推定されている2)

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

Cheung CMGら(2025)は、PLACE試験においてhalf-dose PDTがマイクロパルスレーザー(HSML)に対して優越性を示し、SPECTRA試験においてhalf-dose PDTがエプレレノンに対して優越性を示したことを報告した9)。さらにREPLACE試験とSPECS試験では、HSMLまたはエプレレノンが無効であった慢性中心性漿液性脈絡網膜症患者をhalf-dose PDTにクロスオーバーすることで改善が得られた9)

フォトバイオモジュレーション(PBM)

Section titled “フォトバイオモジュレーション(PBM)”

PBMはベルテポルフィンを使用しない新しい治療法として注目されている。590nm黄色LEDと625nm赤色LEDを組み合わせて照射する5)

Iovinoら(2025)は、エプレレノンが無効であった慢性中心性漿液性脈絡網膜症に伴う漿液性色素上皮剥離患者に対してPBMを施行し、最高矯正視力が20/80から20/25へ改善したことを報告した5)。中心網膜厚は752μmから296μmへ減少した(1ヶ月時点)5)

ベルテポルフィンの供給不足が懸念される状況での代替治療として期待されている。

pachychoroid所見の有無が中心性漿液性脈絡網膜症の予後予測因子として重要性を増している。

Bhattacharyya Sら(2024)は、pachychoroid群では非pachychoroid群と比較して再発率が高く(31.2% vs 10.4%)、自然消退率が低い(28.8% vs 48%)ことを報告した3)。この結果は、pachychoroid所見の有無が治療方針の決定において重要な指標となることを示している。

ワクチン関連中心性漿液性脈絡網膜症

Section titled “ワクチン関連中心性漿液性脈絡網膜症”

COVID-19ワクチン接種後の中心性漿液性脈絡網膜症発症・再発症例の報告が蓄積されている6)

Sanjay Sら(2022)は、COVID-19ワクチン接種後に中心性漿液性脈絡網膜症が再発した症例を報告し、ワクチンによるHPA軸の活性化とステロイドホルモン様作用が関与する可能性を示唆した6)


  1. Rao Q, Wang R, Liu C, et al. Systemic lupus erythematosus combined with central serous chorioretinopathy treated with glucocorticoids. J Int Med Res. 2023;51(3):03000605231163716.
  2. Durmaz Engin C, Güngör SG, Yıldız Şeker DY. Central serous chorioretinopathy following oral quetiapine. GMS Ophthalmol Cases. 2023;13:Doc13.
  3. Bhattacharyya S, Ghorpade A, Mandal S, et al. Presentation and outcome of central serous chorioretinopathy with and without pachychoroid. Eye (Lond). 2024;38:127-131.
  4. Bodea F, Munteanu M, Balica NC, et al. Micropulse Laser Therapy in Central Serous Chorioretinopathy. Clin Pract. 2024;14:2484-2490.
  5. Iovino C, Coppola M, Gioia AD, et al. Photobiomodulation therapy for serous pigment epithelial detachment in chronic central serous chorioretinopathy. Retinal Cases Brief Rep. 2025;19:766-770.
  6. Sanjay S, Leo SW, Au Eong KG. Recurrent central serous chorioretinopathy following COVID-19 vaccination. Am J Ophthalmol Case Rep. 2022;27:101644.
  7. Ochinciuc R, Roșca C, Zaharia IM, et al. Central serous chorioretinopathy in pregnancy. Rom J Ophthalmol. 2022;66(4):382-385.
  8. Alsarhani A, Alsulaiman R, Aljehani M, et al. Central serous chorioretinopathy associated with Tadalafil. Case Rep Ophthalmol. 2022;13:1008-1011.
  9. Cheung CMG, Lai TYY, Gomi F, et al. Pathogenesis and management of pachychoroid disease spectrum. Eye (Lond). 2025;39:819-834.
  10. Ochinciuc U, Pop RM, Mălăescu GD, et al. Vortex vein anastomosis in pachychoroid spectrum disease. Clin Ophthalmol. 2023;17:53-62.

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