この疾患の要点
バッテン病(NCL)はリソソームへのリポ色素蓄積を特徴とする遺伝性神経変性疾患群の総称であり、約14の原因遺伝子が同定されている。
CLN3変異による若年型が最多で、小児期発症の神経変性疾患として最も一般的なもののひとつである。
眼科的には進行性の視力 低下(CLN3では6歳頃から急速に進行)が初発症状となることが多く、90%以上に桿体錐体型網膜 ジストロフィーを認める。
てんかん・認知機能低下・運動障害が加わり、20代前半までに死亡することが多い。
CLN2(TPP1欠損型)に対してのみ、脳室内投与の酵素補充療法(セルリポナーゼアルファ)が承認されている。
常染色体劣性遺伝 (CLN4のみ常染色体優性)であり、家族に患者がいる場合は遺伝カウンセリング が推奨される。
遺伝子治療 (AAV)がCLN3・CLN6を対象に臨床試験段階にある。
バッテン病は、神経細胞セロイドリポフスチン症(neuronal ceroid lipofuscinosis; NCL)の俗称である。英国の小児科医Frederick E. Battenにちなんで命名された。リソソーム内へのリポ色素(セロイドリポフスチン )蓄積を特徴とする遺伝性神経変性疾患群の総称であり、約30の原因遺伝子が同定されている11) 。うち主要な病型は13〜14遺伝子に基づき分類される3) 。
有病率は出生10万人あたり約1人とされる。米国での発生率は1.6〜2.4/10万人、欧州では2〜7/10万人である1) 。欧米での型別頻度はCLN3が22.6%と最多で、CLN2が21.2%、CLN1が19.6%と続く1) 。日本では全国調査で27人が確認されている。
CLN3変異による若年型(バッテン病の狭義)が最も多く、小児期で最も一般的な神経変性疾患のひとつとされる。成人発症型(ANCL; Kufs病)はNCL変異の約5%を占める5) 。Usher症候群に次いで、症候群性網膜色素変性 の原因として2番目に多い。症状は非同期的に出現し、生涯にわたって進行する11) 。
遺伝形式は常染色体劣性が基本であるが、CLN4(DNAJC5変異)のみ常染色体優性である3) 。
CLN1型
発症年齢 :生後8か月以降
原因遺伝子 :PPT1(パルミトイルプロテインチオエステラーゼ1)
主な特徴 :小頭症・てんかん・精神運動退行・視覚障害が順次出現1)
CLN2型
発症年齢 :2〜4歳
原因遺伝子 :TPP1(トリペプチジルペプチダーゼ1)
主な特徴 :無熱性痙攣・言語遅延が先行。唯一ERT(セルリポナーゼアルファ)が承認6)
CLN3型(若年型)
発症年齢 :5〜10歳
原因遺伝子 :CLN3(バッテニン)
主な特徴 :急速な視力低下が初発。最も頻度が高い型
成人型(ANCL)
発症年齢 :成人期
原因遺伝子 :CLN4, CLN5など複数
主な特徴 :難治性てんかん・認知低下・運動障害の3徴。視力は通常正常4)
Q バッテン病は遺伝しますか?検査を受けるべきですか?
A 遺伝形式は常染色体劣性(CLN4のみ常染色体優性)である3) 。家族に患者がいる場合は遺伝カウンセリングを受けることが推奨される。保因者検査も遺伝子検査により可能である。
型によって初発症状が異なる。CLN3では視力低下が先行し、他の型はてんかん・発達退行が主体となる。
CLN3(若年型) :急速な中心視力低下が最初の兆候で、6.4〜6.6歳頃に始まる。5.5〜8.5歳で眼科を受診することが多い。初診から確定診断まで平均2.9年を要する。
CLN2 :2〜4歳で無熱性痙攣を発症し、言語遅延が先行する6) 。
CLN1 :生後8か月以降に小頭症・てんかん・精神運動退行・視覚障害が出現する1) 。
成人型(ANCL) :難治性てんかん・認知機能低下・運動障害が3主徴で、通常視力は保たれる4) 。
羞明 :早期からみられる症状のひとつである11) 。
Q 子どもの視力低下がバッテン病の可能性はありますか?
A CLN3型では5〜9歳での進行性中心視力低下が初発症状となる。網膜電図 とOCT で網膜変性を確認し、原因不明の小児進行性視力低下では遺伝性網膜ジストロフィーとして精査する。平均2.9年の診断遅延があることが知られており、早期の専門医受診が重要である。
90%以上に桿体錐体型網膜ジストロフィー(rod-cone IRD)を認める11) 。
初期眼所見
黄斑部 変化 :斑状変化・牛眼様黄斑症がCLN3で特徴的
網膜電図異常 :暗所視振幅著減・b:a比低下(陰性型ERG)
羞明 :早期から自覚される11)
進行期眼所見
網膜色素変性 :骨棘状色素沈着・網膜動脈細線化
視神経萎縮 :乳頭蒼白(CLN22) 、CLN143) )
OCT所見 :光受容体層の菲薄化・消失(CLN11) 、CLN77) )
型別の特徴的所見を以下に示す。
CLN1(日本人兄妹例) :OCTで著明な網膜菲薄化を確認1) 。
CLN2 :視神経萎縮・網膜色素変性・網膜電図平坦化2) 。
CLN5 :錐体ジストロフィー。視力は右0.1〜1、左0.05まで低下9) 。
CLN7(MFSD8変異) :OCTで光受容体喪失。視力20/320から20/650に進行7) 。
CLN14(KCTD7変異) :低色素眼底・軽度の側頭側乳頭蒼白3) 。
CLN3のMRI :テント上皮質灰白質が年4.6±0.2%の速度で減少する8) 。
NCLは14の遺伝子変異によるリソソーム機能障害を原因とする3) 。各型の原因遺伝子・発症年齢を以下に示す。
各型の遺伝子と発症時期をまとめた。
型 遺伝子 発症年齢 CLN1 PPT1 乳児期(8か月〜) CLN2 TPP1 幼児期(2〜4歳) CLN3 CLN3 学童期(5〜10歳) CLN4 DNAJC5 成人期 CLN5 CLN5 遅発型乳児〜成人 CLN7 MFSD8 遅発型乳児期 CLN14 KCTD7 乳幼児期
各型の分子機能を以下に示す。
CLN1(PPT1) :パルミトイルプロテインチオエステラーゼ1の欠損。ミトコンドリア機能障害・異常オートファジーを来す1) 。
CLN2(TPP1) :トリペプチジルペプチダーゼ1の欠損。50%以上でc.509-1G>A/c.622C>Tのホットスポット変異が認められる6) 。
CLN3 :バッテニン蛋白(ゴルジ体後輸送を調節)をコードする。最多変異は1.02 kbの欠失である11) 。
CLN4(DNAJC5) :プレシナプス蛋白CSPαをコードし、常染色体優性遺伝 4) 。変異CSPαの凝集がリポフスチン蓄積を招く。
CLN5 :遅発型乳児期に多く成人発症は稀である5) 。
CLN7(MFSD8) :リソソーム膜トランスポーター。同義変異がスプライシング異常を引き起こしうる7) 。
CLN14(KCTD7) :カリウムチャネル四量体化ドメイン蛋白7をコードし、cullin-3を介したユビキチンプロテアソーム系を障害する3) 。
遺伝形式は原則として常染色体劣性であるが、CLN4のみ常染色体優性である3) 4) 。
遺伝子検査が主流であり、分子診断がゴールドスタンダードである3) 。診断遅延が平均2.9年以上に及ぶことが課題であり、鑑別診断には錐体杆体ジストロフィー・スターガルト病 ・視神経 症などが含まれる。成人型(ANCL)の誤診率は1/3以上に達する4) 。
主な診断法を以下にまとめた。
検査 主な対象型 特徴的所見 酵素活性測定 CLN1, CLN2 PPT1・TPP1活性低下 遺伝子検査(WES) 全型 原因変異の同定 電子顕微鏡 CLN1, CLN5など GRODs・指紋状体・曲線状体 MRI CLN3 皮質灰白質萎縮 網膜電図 全型 振幅著減・陰性型
各検査の詳細を以下に示す。
酵素活性測定 :CLN1ではPPT1活性、CLN2ではTPP1活性を測定する1) 2) 。CLN2の症例報告ではTPP1活性が5.4 nmol/mg protein/h(正常390.07±118.5)と著明低下していた2) 。
全エクソーム解析(WES) :原因不明の症例で特に有用である3) 10) 。
電顕所見 :CLN1・CLN5ではGRODs(顆粒状オスミオフィリック沈着物)を認める1) 5) 。CLN2では指紋状体、CLN3では混合型が特徴的。
CLN3のMRI :テント上皮質灰白質が年4.6±0.2%の速度で萎縮し、感度の高い画像バイオマーカー となる8) 。
VEP :CLN2では巨大電位を呈することがある6) 。
CLN2 CRS (臨床評価スコア) :運動・言語・てんかん・視覚の4ドメインからなる。治療効果判定に用いる6) 。
LysoSM-509 :CLN3でもNiemann-Pick C病と類似して上昇(812 nmol/L、正常1〜33)しうるため、両疾患の鑑別では追加の遺伝子検査が必要である10) 。
Q どのような検査で診断できますか?
A 遺伝子検査(全エクソーム解析を含む)が主流である3) 。CLN1ではPPT1、CLN2ではTPP1の酵素活性測定も有用である1) 2) 。網膜電図・OCT・MRIが補助的診断に役立つ。成人発症例では自己免疫性脳炎や正常圧水頭症との誤診も多く4) 、原因不明の進行性神経・視覚障害ではNCLを鑑別に加えることが重要である。
CLN3型を含む多くの型では、症状を停止・逆転させる根本的治療法はなく、対症療法が中心となる。
抗てんかん薬 :バルプロ酸・カルバマゼピン・ラモトリギン・レベチラセタムが用いられる4) 。
ジストニア :ボツリヌス毒素A型(80〜120単位)の投与が報告されている5) 。
パーキンソニズム :レボドパ/ベンセラジド200/50mg×3回投与で軽度改善した症例がある9) 。
ピラセタム :発作と運動失調に有効との報告がある4) 。
進行期の支持療法 :理学療法・作業療法・言語療法・胃瘻栄養が行われる。
セルリポナーゼアルファ(cerliponase alfa)は、CLN2(TPP1欠損)に対して2017年に承認された唯一の根本的治療薬である。300 mgを2週間ごとに脳室内投与する6) 。
Schulzら(2021)の24例を対象とした臨床試験では、CLN2 CRS(運動・言語スコア)の48週低下量が0.38±0.10ポイントと、歴史的対照の2.06±0.15ポイントに比べて有意に抑制された6) 。発症前投与例では2年後もCRS最高点を維持していた6) 。
進行期CLN2例においても安全に投与が可能で、投与後にけいれん頻度が5.5回/4週から3.4回/4週に改善した報告がある2) 。
ただし、セルリポナーゼアルファは脳脊髄液には分布するが網膜には到達しないため、視覚障害は改善しない6) 。
対症療法
抗てんかん薬 :バルプロ酸・ラモトリギン等4)
ジストニア :ボツリヌス毒素A型(80〜120単位)5)
支持療法 :理学療法・胃瘻栄養
酵素補充療法
対象 :CLN2(TPP1欠損)のみ
薬剤 :セルリポナーゼアルファ 300 mg
投与法 :2週間ごと脳室内投与6)
注意 :網膜には効果なし6)
研究段階
遺伝子治療(AAV) :CLN3・CLN6で臨床試験進行中
幹細胞治療 :研究段階
新生児スクリーニング :導入可能性を検討中6)
治療における注意点・副作用
セルリポナーゼアルファはCLN2型にのみ承認されており、他の型には使用できない。
主な副作用:痙攣96%・発熱71%・嘔吐63%・過敏反応63%(脳室内カテーテル関連を含む)2) 。
視覚障害に対する効果はなく、眼科的管理は別途継続する必要がある6) 。
CLN3を含む多くの型では根本的治療法がなく、家族への十分な説明と心理的サポートが不可欠である。
Q セルリポナーゼアルファはすべてのバッテン病に使えますか?
A CLN2(TPP1欠損型)のみに承認されている。脳室内投与のため網膜への効果はなく、視覚障害は改善しない6) 。CLN3・CLN6では遺伝子治療(AAV)の臨床試験が進行中であるが、標準治療としては未確立の段階である。
NCLはリソソーム蓄積症の一群であるが、型によって分子機序が異なる。
CLN1(PPT1欠損) :異常オートファジーとミトコンドリア機能障害を来す1) 。PPT1欠損ニューロンはミトコンドリア呼吸鎖複合体I阻害に脆弱である1) 。CLN1患者由来の線維芽細胞ではATP合成酵素・複合体II・III・IV活性の低下が確認されている1) 。
CLN4(DNAJC5/CSPα) :パルミトイル化誘導性の変異CSPα凝集がリポフスチン蓄積を招く4) 。
CLN5欠損 :SNCA(α-シヌクレイン)の上方制御を来し、パーキンソニズムとの病態的関連が示唆される9) 。ATP13A2変異(CLN12)はKufor-Rakeb症候群とも呼ばれ、CLN5との機能的重複がある9) 。
CLN7(MFSD8) :リソソーム膜トランスポーターとして機能し、同義変異がmRNAスプライシング異常を引き起こして機能喪失をもたらす7) 。
CLN14(KCTD7) :cullin-3を介したユビキチンプロテアソーム系を障害し、未分解物質の蓄積につながる3) 。
CLN3(バッテニン) :ゴルジ体後輸送を調節する蛋白をコードし、光伝達蛋白の輸送障害が光受容体変性を引き起こす11) 。BBSome(バルデー-ビードル症候群関連複合体)機能との類似も指摘されている11) 。
CLN3およびCLN6を対象としたAAVベクターによる遺伝子治療が臨床試験段階にある。CLN2のセルリポナーゼアルファが発症前治療で症状発現の遅延効果を示したことから6) 、発症前スクリーニング・早期治療開始の重要性が注目されている。
CLN2の発症前治療の有効性を背景に、新生児スクリーニングへの導入が検討されている6) 。早期診断と治療介入のウィンドウを最大化するための基盤整備が課題となっている。
Hochsteinら(2022)は、CLN3患者のMRIによる縦断的観察でテント上皮質灰白質容積が年4.6±0.2%減少することを示し、治療効果判定に用いうる感度の高い画像バイオマーカーとしての有用性を報告した8) 。
LysoSM-509はNCLの診断バイオマーカーとしての可能性が示されており、CLN3でも上昇(812 nmol/L)を示すことが報告されている10) 。ただし、Niemann-Pick C病との鑑別には追加の遺伝子検査が必要とされる。
MFSD8(CLN7)の同義変異がスプライシング異常を引き起こすメカニズムの解明により、アンチセンスオリゴヌクレオチドなどを用いた分子矯正アプローチの基盤が形成されつつある7) 。
Q 将来的な治療法はありますか?
A 遺伝子治療(AAVベクター)がCLN3・CLN6を対象に臨床試験段階にある。幹細胞治療も研究段階である。CLN2では発症前治療の有効性が示されており、新生児スクリーニング導入の議論も進んでいる6) 。現時点ではCLN2型以外に根本的治療法はなく、研究の進展が待たれる。
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