眼科的所見
黄斑萎縮:早期から生じる黄斑部の萎縮変化。
色素性変性:血管狭細化を伴う色素性変性。骨小体様を伴わない色素斑状が最多。
Waxy disc pallor:蝋様乳頭蒼白1)6)
Bull’s eye maculopathy:黄斑部の牛眼様変化1)
血管狭細化:全般的動脈狭細1)6)
血管周囲色素沈着:骨小体様色素凝集1)6)

バルデー・ビードル症候群(Bardet-Biedl syndrome; BBS)は、一次繊毛の機能に関与する遺伝子の変異を原因とする常染色体劣性遺伝の希少な多臓器系繊毛病(ciliopathy)である。1920年にBardet、1922年にBiedlが独立して記述した1)6)。
Usher症候群に次いで症候群性網膜色素変性症(RP)の2番目に多い原因疾患であり、BBSはUsher症候群と並び最も有病率の高い症候群性遺伝性網膜変性の一つである11)。典型的な診断年齢は8〜9歳であり3)、症状は非同期的に出現し生涯にわたって進行する11)。
有病率は北米・欧州で1:140,000〜160,000である1)8)。創始者効果のある集団ではより高く、フェロー諸島では1:3,700、クウェートのBedouin族では1:13,500に達する9)。近親婚がホモ接合リスクを高め1)、サウジアラビアではBBS患者の48%に近親婚歴があることが報告されている9)。
約30の原因遺伝子が同定されており11)、BBS1(23%)、BBS10(15%)、BBS2(10%)の3遺伝子が最多で、BBS1/2/10が全体の約50%を占める5)。主に常染色体劣性(biallelic loss-of-function)であるが、一部で寡遺伝子・三遺伝子遺伝が修飾因子として関与する11)。
臨床診断基準として、主要所見4つ、または主要所見3つ+副次所見2つが要件とされる1)。
主要所見と頻度は以下の通りである1)。
| 主要所見 | 頻度 |
|---|---|
| 網膜変性 | 93% |
| 体幹肥満 | 72〜92% |
| 軸後性多指症 | 63〜81% |
| 認知障害 | 61% |
| 性腺機能低下 | 59〜98% |
| 腎異常 | 53% |
副次所見には、言語障害、斜視・白内障・虹彩コロボーマ、2型糖尿病、歯異常、心臓奇形、身長低下などが含まれる。
Laurence-Moon症候群(LMS)は痙性対麻痺を特徴とし、BBSは多指症・腎異常を特徴とする6)。かつては同一疾患とされることもあったが、現在は別疾患として扱われる。
夜盲が最初の自覚症状であり、生後10年以内に視覚機能障害が出現する。
法的盲は通常20〜30代に至るが、平均15.5歳での法的盲を示す報告もある4)。90%超に杆体錐体型遺伝性網膜変性(IRD)を認める11)。
眼科的所見
黄斑萎縮:早期から生じる黄斑部の萎縮変化。
色素性変性:血管狭細化を伴う色素性変性。骨小体様を伴わない色素斑状が最多。
Waxy disc pallor:蝋様乳頭蒼白1)6)
Bull’s eye maculopathy:黄斑部の牛眼様変化1)
血管狭細化:全般的動脈狭細1)6)
血管周囲色素沈着:骨小体様色素凝集1)6)
全身的所見
早期肥満:出生体重は正常、1歳以内に急速体重増加3)
軸後性多指症:63〜81%に認める1)
認知障害:IQ 79以下が44%1)
腎障害:構造的または機能的異常、30〜50%11)
性腺機能低下:男性でより顕著11)
自閉的行動:77%に認める3)
眼振は約10%に認め、斜視・白内障・強度角膜乱視・脈絡網膜コロボーマも合併しうる。網膜電図(網膜電図)では暗順応・明順応の両方でa波・b波の減衰を示す杆体錐体混合型パターンを呈し、杆体が錐体より高度に障害される傾向がある9)。
全身的には、約90%に過食と異常脂肪蓄積を認め11)、5歳以内の急速体重増加が代謝症候群につながる11)。2型糖尿病は6〜48%に合併する1)。女性の初経平均は13.8歳と報告されている10)。
法的盲には通常20〜30代で至るが、平均15.5歳での法的盲を報告する研究もある4)。進行パターンには個人差があり、遺伝子型によっても異なる。早期からロービジョンケアを導入することが重要である。
BBSの根本原因は一次繊毛の機能障害である。一次繊毛はほぼすべての細胞に存在し、細胞外シグナルの受容・伝達に不可欠な構造体である11)。
約30の原因遺伝子が同定されており11)、コードする蛋白は大きく以下の3群に分類される。
変異タイプは一塩基多型(SNV)が最多で、小挿入欠失、コピー数変異が続く11)。寡遺伝子・三遺伝子遺伝が表現型の修飾因子となる場合がある11)。
近親婚は最大のリスク因子である1)。出生前超音波で高輝度腎・腎嚢胞・水腎症・多指症が認められた場合、BBSを鑑別に挙げる必要がある4)。
BBSは常染色体劣性遺伝であり、両親が保因者の場合は子どもの25%が発症する。出生前遺伝子診断が技術的に可能であり11)、家族計画の意思決定に有用な情報を提供できる。
主要所見4つ、または主要所見3つ+副次所見2つで臨床診断が可能である1)。多指症と腎異常は出生前・出生時から確認できる4)。
BBS類似の臨床像を呈する疾患との鑑別が必要である10)。
| 疾患 | 鑑別ポイント |
|---|---|
| Alstrom症候群 | 多指症なし、難聴あり |
| Usher症候群 | 聴覚障害が主体 |
| Joubert症候群 | 小脳虫部低形成 |
| Senior-Loken症候群 | 腎・網膜のみ |
| LCA | 生後早期の重度視力障害 |
BBSに根治的治療法はなく、多職種による集学的管理が不可欠である11)。各合併症に対する早期介入が生活の質と生命予後を左右する。
**セトメラノチド(Imcivree)**は、メラノコルチン4受容体(MC4R)アゴニストであり、視床下部回路に作用して過食を減少させ体重を減少させる11)。2022年にBBS関連肥満に対して承認された3)。
第3相試験では、18歳以上で体重が平均−7.6%、18歳未満ではBMI z-scoreが平均−0.75の減少が報告された3)。
食事療法では低カロリー・炭水化物制限食と有酸素運動の組み合わせが推奨される8)。低蛋白食は腎機能保護に有効とされる10)。
小児期早期からの定期的な眼科的評価が必要である。屈折異常の矯正9)、ロービジョンサービスへの早期紹介が重要である。現時点で進行を止める治療法はなく、視覚補助具の活用と特別支援教育の早期計画が欠かせない。
腎不全はBBSの主要な死因であり、44歳までの死因の25%を占める8)。腎代替療法(血液透析・腹膜透析・腎移植)はすべて適用可能である8)。早期からの腎機能スクリーニングと定期フォローアップが生命予後に直結する8)。
外科的介入
多指症切除:出生後早期に外科的切除を行う8)
性腺異常への介入:停留精巣などに対する外科的対応11)
内科的管理
糖尿病管理:2型糖尿病の発症に注意し定期的に血糖を評価する1)
心血管管理:心血管異常の早期スクリーニング11)
発達支援:認知障害・学習障害に対する早期介入と教育支援
セトメラノチドはMC4R(メラノコルチン4受容体)アゴニストであり、視床下部回路に作用して過食を抑制し体重減少を促す薬剤である11)。2022年にBBS関連肥満に対して承認された3)。第3相試験では成人で体重−7.6%、小児でBMI z-score −0.75の有意な改善が報告されている3)。
BBSの多臓器障害は、一次繊毛を介したシグナル伝達の広範な障害によって生じる。
BBSomeは繊毛内輸送のアダプター複合体であり、その主要な機能はGタンパク共役受容体(GPCR)の繊毛への輸送である11)。カーゴにはMCH受容体・NPY受容体・ソマトスタチン受容体3(SSTR3)などが含まれ11)、BBS1がカーゴ結合の中心的役割を担う11)。
BBSome障害により光伝達蛋白(ロドプシンなど)の繊毛内輸送が障害され、進行性の光受容体変性が生じる11)。BBS変異マウスではロドプシンが外節ではなく内節・細胞体に蓄積することが確認されている。脂質バランスの変化と蛋白の誤送達が網膜変性をさらに悪化させる11)。
神経受容体(レプチン受容体・NPY2R・5-HT2CR)の繊毛への輸送障害が視床下部シグナルを障害し、過食・肥満を引き起こす11)。BBSome障害はレプチン受容体の膜発現を低下させ、食欲抑制シグナルの機能不全をもたらす3)。BBS10/BBS12の発現抑制は繊毛形成を弱体化させ、GSK3/PPARγ関連脂肪生成経路を活性化する3)。
ポリシスチン1/2の誤局在が腎症の原因となり11)、腎構造的・機能的異常を30〜50%に生じる11)。
Hedgehogシグナルの変化が四肢や神経の発達異常に関与している11)。
一次繊毛はほぼすべての細胞に存在するシグナル受容構造である11)。BBSomeの機能障害は複数の受容体(GPCR、レプチン受容体など)の輸送を妨げるため、網膜・腎臓・視床下部・四肢・生殖器など広範な臓器のシグナル伝達が障害される。
動物モデルでは、AAVベクターを用いた遺伝子治療(網膜下注入)により光受容体機能の部分的な回復が得られることが確認されている。2025年初頭には、Viralgen社とAxovia社がAAV-9ベースの遺伝子治療薬製造で提携を発表した。網膜変性に対する遺伝子治療の臨床開発が進行中である。
セトメラノチドの承認(2022年)は、MC4Rアゴニストによる視床下部回路への介入がBBS肥満に有効であることを示した第3相試験に基づくものである3)。
GLP-1受容体アゴニスト(グルカゴン様ペプチド-1受容体アゴニスト)の肥満・代謝合併症への応用可能性も研究されている。
約30遺伝子にわたる遺伝的多様性を踏まえ、遺伝子型と表現型の相関研究が進展している11)。特定の遺伝子変異に対する標的治療の開発が期待される。