この疾患の要点
急性特発性黄斑症(AIM)は若年健常者に突然発症する急性黄斑 疾患である。
インフルエンザ様前駆症状後に急性高度視力 低下(20/200以下になることもある)を呈する。
コクサッキーウイルス(手足口病)が最も多い原因ウイルスであり、COVID-19感染後・ワクチン後発症も報告されている。
OCT でBALAD (bacillary layer detachment)が特徴的所見として認められる。
大半の症例は数週〜数ヶ月で自然回復するが、まれに脈絡膜新生血管 ・黄斑円孔 などの合併症を生じる。
ステロイド 治療の有効性は確立しておらず、基本は経過観察とOCTによる連続モニタリングである。
急性特発性黄斑症(Acute Idiopathic Maculopathy; AIM)は、若年〜中年の健常者に突然発症する急性黄斑疾患である。1991年にYannuzziらによって「一側性急性特発性黄斑症(UAIM)」として初報告された。その後、両眼例の報告が相次ぎ、1996年にFreundが両眼例を報告してAIMに改名された。
疫学的には若年〜中年の白人に多く、明確な性差はない。発症前に発熱・咽頭痛・皮疹などのインフルエンザ様前駆症状を呈することが多い。
Jiaら(2024)の90症例レビューでは、78%にインフルエンザ様前駆症状、43%に発熱、22%に咽頭痛、12%に発疹が認められた2) 。一方、約30%は前駆症状なし・ウイルス抗体陰性であった2) 。
病態の主座は脈絡膜 毛細血管の炎症性閉塞とRPE (網膜色素上皮)障害にあると考えられている。発症機序の詳細はセクション6 を参照。
Q AIMとUAIMの違いは何か?
A 当初、Yannuzziらは片眼性症例のみを報告し「UAIM(Unilateral AIM)」と呼んだ。その後、両眼性例の報告が相次いだため、1996年に「AIM」へと改名された。現在では片眼性・両眼性をともにAIMと呼ぶ。
急性視力低下 :片眼性が多く、20/200以下になることもある高度の低下を呈する。
中心暗点 :黄斑部の病変を直接反映した自覚症状。
変視症 :RPE・光受容体障害による視覚の歪み。
光視症 :一部の症例でみられる。
眼痛 :通常は伴わない。
急性期と回復期では所見が大きく異なる。以下にその変化を示す。
段階 眼底所見 OCT所見 急性期 黄斑部滲出性剥離+RPE肥厚 BALAD+網膜下液 回復期 bull’s eye pattern EZ 回復・RPE変性
急性期には黄斑部の不整な滲出性網膜剥離 (neurosensory retinal detachment)、RPEレベルの灰白色〜灰黄色肥厚、網膜 下沈着物を認める。まれに網膜内出血や視神経乳頭 炎(papillitis)を伴う。
回復期には病変部にbull’s eye pattern(標的黄斑症様所見)が残ることがある。RPE萎縮・色素脱失が永続的に残存する場合もある。
Jiaら(2024)の報告では、高度対称性の両眼同時発症例が記録されている2) 。
AIMの原因は多岐にわたる。感染関連と非感染関連に大別される。
感染関連
コクサッキーウイルス :手足口病(HFMD)に伴う発症が最も多く報告されている。成人のHFMD後に片眼性急性視力低下を呈する症例が報告されている。5)
COVID-19関連 :COVID-19感染後およびワクチン接種後の発症が報告されている。1) 4) ファイザー製ワクチン2回目接種翌日に発症した症例では、スパイクタンパク質とRPE成分の分子擬態が発症機序として提唱されている。4)
その他ウイルス :黄熱病・ウエストナイルウイルス・ジカウイルスとの関連も報告されている。1)
細菌感染 :連鎖球菌咽頭炎との関連も報告されている。1)
非感染関連・特発性
自己免疫機序 :約30%の症例では前駆症状もウイルス抗体上昇も認めず、自己免疫機序の関与が示唆される。2)
妊娠関連 :妊娠第1三半期および産後の発症例が報告されている。
凝固異常 :CRP 高値(172.63 mg/L)・凝固パラメータ異常が認められた症例があり、炎症性凝固亢進との関連が指摘されている。2)
原因不明 :約30%は原因不明のまま自然軽快する。2)
Q 手足口病とAIMはどのような関係があるか?
A 手足口病(HFMD)を引き起こすコクサッキーウイルスがAIMの原因として最も多く報告されている。5) 成人がHFMDに罹患した場合、発症数日以内に急性視力低下を呈することがある。コクサッキーウイルスのRPE細胞への直接感染が病態に関与している可能性が示唆されている。
AIMの診断はマルチモーダルイメージングの組み合わせによって行う。各モダリティに特徴的な所見が認められる。
光学的検査
OCT :急性期にRPE肥厚・BALAD(bacillary layer detachment)・網膜下液を認める。1) 5) BALADは発症5〜10日で消失する一過性所見である。5) 回復期にはellipsoid zone(EZ)の回復がみられる。1)
OCTA :脈絡膜毛細血管の血流欠損(flow deficit)を検出する。1) 2) 5) 回復期には血流の回復が確認できる。
Retro-mode SLO :近赤外光(790nm)を用いた非侵襲的モダリティ。中心部白色プラーク・傍中心窩 の顆粒状変化・脈絡膜構造異常を検出する。3)
蛍光造影検査
FA (蛍光眼底造影) :造影早期に低蛍光、後期に高蛍光を示す(蛍光逆転現象)。5) 後期にはBALAD部への色素貯留を認める。
ICGA (インドシアニングリーン造影) :全時相にわたり低蛍光を示し、脈絡膜毛細血管の循環障害を反映する。1) 5) ICGAの低蛍光範囲はFAの病変範囲より広い。5)
眼底自発蛍光 (眼底自発蛍光) :急性期に高自発蛍光を示す。1) 3) 回復期には低自発蛍光に変化する。
各イメージング所見の時期別変化を以下に示す。
検査 急性期所見 回復期所見 FA 早期低蛍光→後期高蛍光 window defect ICGA 全時相低蛍光 低蛍光範囲縮小 眼底自発蛍光 高自発蛍光 低自発蛍光
血液検査ではコクサッキーウイルス抗体価・CRP・凝固パラメータを測定する。感染症の除外や炎症評価に有用である。
中心性漿液性脈絡網膜症 (CSR) :AIMでは不規則な早期低蛍光を示す。CSRの噴出型・拡大型漏出とは異なる。
急性後部多発性斑状色素上皮症 (APMPPE) :AIMと類似するが、APMPPEは両眼性で後極部に多発する斑状病巣が特徴。
原田病 (VKH) :視神経乳頭からの蛍光漏出・両眼性漿液性剥離が特徴的。
脈絡膜新生血管(CNV) :ICGAで鑑別可能。
急性網膜色素上皮炎 (Krill病) :OCTでinterdigitation zoneに主病変を認める。3)
Q AIMとAPMPPEはどう鑑別するか?
A 両疾患ともインフルエンザ様前駆症状後に発症し、FA所見も類似する。1) しかしAIMは通常片眼性で黄斑限局型、急性後部多発性斑状色素上皮症は両眼性で後極部に多発する斑状病巣を特徴とする。AIMの回復期にbull’s eye patternが形成される点も鑑別に有用である。近年、AIMは急性後部多発性斑状色素上皮症と同一spectrumに属する可能性も指摘されている。1)
AIMは基本的に自己限定性疾患 であり、経過観察が標準的な対応である。多くの症例は数週〜数ヶ月で自然回復する。
OCTによる連続モニタリング(4〜6週ごと)が推奨される。EZの回復・BALAD消失・視力改善を指標とする。
ステロイド投与については、報告間で見解が分かれる。
Fan et al.(2024)の症例では、3年間の3エピソードすべてで経口プレドニゾン60mgにより迅速な改善が得られた1) 。一方、Rosar et al.(2021)の17例後方視的分析では、ステロイド使用群と非使用群で視力予後に有意差は認められなかった2) 。
滲出性所見が強い場合にはステロイド内服が考慮されることがあるが、自然回復する疾患であるためその真の効果の評価は困難である。
NSAIDs :一部症例でトピカルNSAIDsによる改善報告がある。2)
抗VEGF療法 :脈絡膜新生血管合併時のみ適応となる。2)
Q ステロイド治療は有効か?
A 結論は出ていない。Fan et al.の症例では3回の再発すべてで経口ステロイドに良好な反応が得られた。1) しかしRosar et al.の17例後方視的解析ではステロイド使用群と自然経過群で視力予後に差はなかった。2) 自然回復する疾患であるため、ステロイドの真の効果と自然経過との区別が難しい。
AIMの発症機序として、現在3つの仮説が提唱されている。
脈絡膜毛細血管への炎症性閉塞が一次的に生じ、二次的にRPE障害をきたすとする説である。
Anjou et al.(2022)の報告では、ICGA全時相低蛍光とOCTA血流欠損が脈絡膜毛細血管の炎症性閉塞を示唆した。5) Fan et al.(2024)においても、ICGAの低蛍光とOCTA血流欠損が同一分布を示しており、脈絡膜虚血がBALADの原因であることが支持された。1)
脈絡膜循環障害→RPE二次障害→外血液網膜関門 破綻→網膜下液貯留という経路が想定されている。
コクサッキーウイルスがRPE細胞に直接感染し(Huemer 1996)、光受容体外節の貪食不全を引き起こすことで滲出性変化が生じるとする説である。
ウイルス感染や分子擬態による自己免疫的なRPE障害を想定する説である。
Hasegawa et al.(2022)のCOVID-19ワクチン後AIM症例では、スパイクタンパク質とRPE成分の分子擬態、および2回目接種で増強された免疫応答が発症機序として提唱された。4) また、ウイルス感染に伴う炎症性サイトカイン放出が内皮障害・凝固亢進を介してRPE障害を惹起するとの見解も示されている。2)
BALADは発症5〜10日で消失する一過性所見である。5) その機序として以下が提唱されている。
脈絡膜虚血説 :脈絡膜虚血→光受容体ストレス→内節ミオイド部での層間分離(Kohli仮説)。5)
フィブリン接着説 :炎症性フィブリンがRPEとinterdigitation zone間の接着を増強し、最脆弱部(bacillary layer)で分離が生じる。5)
Fan et al.(2024)は、AIMが急性後部多発性斑状色素上皮症およびserpiginous choroiditisと同一spectrumに含まれる可能性を指摘した。1) 3年間で3エピソードの再発・両眼非同期性発症を同一患者内で初めて報告し、AIMが再発性・両眼性を示しうる疾患であることを示した。1)
Hande et al.(2026)は、AIMへのRetro-mode SLO初適用を報告した。3) OCT正常化後も持続する脈絡膜構造変化をRetro-mode SLOが描出できることを示し、従来モダリティでは検出困難な疾患の残存病態が可視化される可能性が示唆された。3)
Jia et al.(2024)は、AIMに末梢網膜血管閉塞を合併した症例を報告した。2) CRP高値(172.63 mg/L)と凝固パラメータ異常が末梢血管閉塞に関与している可能性が指摘され、AIMが全身性の炎症・凝固異常を背景に発症しうることが示された。2)
Fan Y, Kroeger ZA, Flaxel CJ. Bilateral asynchronous acute idiopathic maculopathy with disease recurrence. Am J Ophthalmol Case Rep. 2024;36:102187.
Jia Y, Zhang H, Kang L, et al. A case of acute idiopathic maculopathy in both eyes with peripheral vascular occlusion. BMC Ophthalmol. 2024;24:498.
Hande P, Mishra S, Tendulkar K, et al. Multimodal Imaging in Acute Idiopathic Maculopathy: Insights from Retro-Mode Scanning Laser Ophthalmoscopy. J VitreoRetinal Dis. 2026.
Hasegawa T, Sannomiya Y, Toyoda M, et al. Acute idiopathic maculopathy after COVID-19 vaccination. Am J Ophthalmol Case Rep. 2022;26:101479.
Anjou M, Fajnkuchen F, Nabholz N, et al. Multimodal Imaging of Unilateral Acute Maculopathy Associated with Hand, Foot, and Mouth Disease: A Case Series. Case Rep Ophthalmol. 2022;13:617-625.
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