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網膜・硝子体

急性滲出性多形卵黄状黄斑症(AEPVM)

1. 急性滲出性多形卵黄状黄斑症とは

Section titled “1. 急性滲出性多形卵黄状黄斑症とは”

急性滲出性多形卵黄状黄斑症(Acute Exudative Polymorphous Vitelliform Maculopathy; AEPVM)は、漿液性網膜剥離に一致する両眼性の多発性黄白色網膜下病変を特徴とする稀な網膜疾患である。1988年にGassらが初めて報告した(Trans Am Ophthalmol Soc 1988)。

発症年齢は13〜69歳と幅広く、性差は認めない。1)主に白人に発症するが、他の人種でも報告されている。文献上の特発性症例は約20例と極めて少ない。1)

AEPVMは病因により以下の2型に分類される。

  • 特発性(idiopathic):ウイルス感染や自己免疫機序が関与すると考えられる
  • 副腫瘍性(paraneoplastic):悪性腫瘍や免疫チェックポイント阻害薬が原因となる

本疾患はICD-10ではH35.89(その他の明示された網膜疾患)に分類される。

Q AEPVMはどのくらい稀な疾患か?
A

特発性AEPVMの文献報告は約20例にとどまり、極めて稀な疾患である。1)副腫瘍性も含めると報告例は増えてきているが、いずれの型も世界的に症例数が少ない。

  • 両眼性視力低下:亜急性に発症し、数週間で進行する。1)
  • 霧視:両眼に生じることが多い。
  • 変視症:黄斑部病変に伴い出現する。
  • 頭痛:特発性AEPVMで急性期に認められることがある。

両眼対称性・多発性の黄白色網膜下病変が主たる眼底所見である。病変の形態は多様であり、円形・楕円形・曲線状など様々な形態をとる。主に黄斑部に位置するが、血管弓沿いにも水疱状(bleb-like)病変が認められる場合がある。1)

病変内の卵黄状物質は重力に従って下方に沈殿し、半月状(meniscus-like)の液面形成(偽前房蓄膿;pseudohypopyon)を呈することがある。1)硝子体炎症や血管炎所見は認めず、視神経乳頭の異常も伴わない。1)

急性期と回復期では眼底所見が異なる。以下に2段階の所見を示す。

急性期と回復期の比較を以下に示す。

段階眼底所見視力
急性期多発性卵黄状病変+漿液性網膜剥離低下
回復期漿液消失→卵黄状物質の下方沈殿改善傾向

AEPVMは特発性と副腫瘍性の2型に分類され、それぞれ異なる原因・病態を持つ。

特発性

感染先行歴:ウイルス前駆症状(HCV、コクサッキーB型、EBV、HIV、COVID-19)、梅毒、ライム病などの感染症が先行することがある。

眼外傷:発症前の眼外傷が誘因となる場合が報告されている。

自己免疫仮説:抗ペルオキシレドキシン3(PRDX3)抗体が急性期に検出され、寛解後に消失することが示されている。RPE視細胞タンパク質に対する自己抗体が病態に関与すると考えられる。

原因不明例:全身検査・遺伝子検査がいずれも陰性の純粋な特発性例も存在する。1)

副腫瘍性

メラノーマ:皮膚黒色腫・脈絡膜黒色腫が最も多い原因悪性腫瘍である。

その他の悪性腫瘍:肺癌・乳癌・結腸癌などとの関連が報告されている。

免疫チェックポイント阻害薬:BRAF阻害薬(ベムラフェニブ、ダブラフェニブ)やPD-1阻害薬(ペムブロリズマブ、ニボルマブ)の使用に関連して発症する場合がある。

発症機序:腫瘍抗原と網膜抗原の交差反応(分子擬態)により、RPEや視細胞に対する自己免疫反応が引き起こされると考えられている。

AEPVM の眼底写真と OCT 所見
AEPVM の眼底写真と OCT 所見
Mohamed Osman; Omar Mehana; Mahmoud Eissa; et al. Coronavirus Disease 2019-induced Acute Exudative Polymorphous Vitelliform Maculopathy. Middle East African Journal of Ophthalmology. 2023 Sep 29. Figure 1. PMCID: PMC10754108. License: CC BY.
両眼の眼底写真と OCT を並べた図である。黄斑部病変の分布と網膜下変化をまとめて把握しやすい。

AEPVMの診断は除外診断であり、類似疾患を体系的に除外する過程が必要である。マルチモーダルイメージングの組み合わせが診断の要となる。1)

画像検査

OCT(光干渉断層計):ドーム状の神経感覚網膜剥離と、高反射または等反射の網膜下沈着物を検出する。回復期には漿液の消失とRPEの再接着が確認できる。楕円体層(ellipsoid zone)の肥厚も認められる。1)

FAF(自発蛍光検査):卵黄状物質が高自発蛍光を示す。診断において最も重要な検査である。1)リポフスチンや蛍光色素の蓄積を反映する。

FA(蛍光眼底造影):卵黄状物質は低蛍光または無蛍光を呈する。FAFとは反転したパターンを示す点が特徴的である。漏出所見は認めない。

機能・遺伝子検査

EOG(眼電図):Arden比の低下が認められ、RPE機能不全を反映する。

網膜電図(網膜電図):振幅低下が認められる場合がある。

遺伝子検査:次世代シークエンシングパネルによるBEST1・PRPH2変異の検索が重要である。これらの変異が陰性であることでBest卵黄状黄斑ジストロフィを除外できる。1)

全身検査:悪性腫瘍の除外を目的とした全身精査が必須である。1)

FAと自発蛍光検査(FAF)の反転パターンは本疾患の特徴的な所見である。

所見FAFAF
卵黄状物質低蛍光高自発蛍光
漿液部分軽度高蛍光蛍光なし

AEPVMは以下の疾患との鑑別が重要である。

  • Best卵黄状黄斑ジストロフィ(BVMD):遺伝子検査(BEST1変異)で鑑別する。AEPVMはBEST1変異を持たない。1)
  • 成人発症中心窩卵黄状ジストロフィ(AVMD):PRPH2変異の有無で鑑別する。
  • 原田病(Vogt-小柳-原田病;VKH):FAで視神経乳頭の強蛍光とpin-point leakageが目立つ。AEPVMでは漏出がない点で鑑別できる。
  • 原発性硝子体網膜リンパ腫:AEPVMに比べ非対称性になりやすく、硝子体混濁を伴うことが多い。
Q Best病(Best卵黄状黄斑ジストロフィ)とどう見分けるか?
A

Best病はBEST1遺伝子の変異による遺伝性疾患であり、遺伝子検査で鑑別できる。AEPVMでは次世代シークエンシングによる遺伝子検査でBEST1・PRPH2変異が陰性となる。1)また発症経過(急性発症か緩徐か)や家族歴も鑑別の参考になる。

AEPVMには確立された薬物療法は存在しない。特発性AEPVMは自己限定性(self-limiting)疾患であり、自然経過での回復が期待できる。

  • 経過観察が基本:定期的な眼底検査とOCTモニタリングを行う。Fernandes et al.の報告では6ヶ月後に完全寛解が得られた。1)
  • ステロイド療法:特発性AEPVMに対する効果は確認されておらず、現時点では標準治療として推奨されない。
  • 脈絡膜新生血管(CNV)合併例:CNVが生じた場合は抗VEGF薬硝子体内注射が適応となる。
  • 副腫瘍性AEPVM:免疫チェックポイント阻害薬(BRAF阻害薬・PD-1阻害薬)との関連が疑われる場合、薬剤中止の適否は原発腫瘍の治療状況を踏まえて腫瘍科と連携して判断する。代替免疫療法への変更も検討される。
Q 特発性AEPVMの視力予後はどうか?
A

特発性AEPVMは自己限定性疾患であり、多くの症例で視力の自然回復が見込まれる。Fernandes et al.の症例では、6ヶ月後に両眼の最良矯正視力が20/25まで改善し、OCTで網膜下液の完全消失が確認された。1)ただし回復の程度は症例により異なる。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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AEPVMの正確な発症機序は未解明の部分が多い。現在提唱されている主な仮説は以下の通りである。

網膜色素上皮(RPE)の機能不全がリポフスチン蓄積を引き起こし、漿液性網膜剥離をもたらす。神経感覚網膜とRPEが物理的に分離されることで、視細胞外節の正常な貪食機能が障害される。脱落した視細胞外節が網膜外層・網膜下腔に蓄積するとされる(Spaide仮説)。FAFで観察される高自発蛍光は、こうしたリポフスチン・蛍光色素の蓄積を反映する。

RPE・視細胞タンパク質に対する自己抗体が病態に関与すると考えられている。推定される自己抗体の標的抗原として以下が報告されている。

  • リカバリン
  • トランスデューシン-α
  • ペルオキシレドキシン3(PRDX3):特発性AEPVMの急性期に抗PRDX3抗体が検出され、寛解後に消失した症例が報告されている
  • 炭酸脱水酵素2
  • 120kDa視細胞タンパク質
  • 145kDa視細胞間レチノイド結合タンパク質

副腫瘍性では、腫瘍抗原と網膜・RPEの共通抗原に対する交差免疫反応(分子擬態)が、卵黄状病変の形成を引き起こすと推測される。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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マルチモーダルイメージングによる診断の確立

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カラー眼底写真・SD-OCT・FAFの組み合わせにより、侵襲的検査なしにAEPVMの臨床診断が可能になりつつある。1)各モダリティが相補的な情報を提供し、特にFAFとFAの反転パターンが診断の鍵となる。

次世代シークエンシングパネルの活用により、BEST1・PRPH2などの遺伝子変異を網羅的に検索できる。遺伝子検査の標準化は除外診断の精度向上に寄与する。1)

免疫チェックポイント阻害薬時代の新たな課題

Section titled “免疫チェックポイント阻害薬時代の新たな課題”

BRAF阻害薬(ベムラフェニブ、ダブラフェニブ)やPD-1阻害薬(ペムブロリズマブ、ニボルマブ)の普及に伴い、これら薬剤と副腫瘍性AEPVMの関連が新たな臨床課題として浮上している。免疫治療の普及とともに、副腫瘍性AEPVMの報告例が増加する可能性がある。

症例集積と大規模研究の必要性

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文献上の特発性AEPVM症例は約20例にとどまる。1)病因解明・治療法開発のためには、多施設共同による症例集積と大規模前向き研究が必要である。

Fernandes et al.(2023)は、60代男性の特発性AEPVM症例において、全身検査と次世代シークエンシングパネルによる遺伝子検査がいずれも陰性であったことを報告した。6ヶ月後に最良矯正視力は両眼20/25まで改善し、SD-OCTで網膜下液の完全消失が確認された。1)


  1. Fernandes JS, Gomes PP, Neves P, et al. Idiopathic acute exudative polymorphous vitelliform maculopathy: the importance of multimodal imaging, systemic workup and genetic testing. BMJ Case Rep. 2023;16:e253969.

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