コンテンツにスキップ
小児眼科・斜視

検影法

検影法(retinoscopy; skiascopy)は、検影器(retinoscope)を通して患者の瞳孔内の反射光の動きを観察することにより、眼の屈折異常を客観的に測定する他覚的屈折検査法である。

1859年、ウィリアム・ボーマン卿が乱視眼における不規則な眼底反射を初めて報告した。1873年、フランスの眼科医キュニエが平面鏡検眼鏡を用いて屈折異常の最初の客観的診断を行い、「角膜鏡検査法(keratoscopie)」と名付けた。1880年にパランがレンズを用いた定量化技術を発表し、客観的屈折検査の基礎が確立された。

現代のストリーク検影器は1920年代にジャック・コープランドが開発した回転スリット技術に基づく。1927年に特許取得されたコープランド・ストリーク検影器が今日の検影法の基盤となっている。

検影法の最大の特長は、患者からの主観的応答を必要としない点にある。以下の対象で特に有用である。

  • 乳幼児・若年児:自覚的屈折検査に協力できない年齢の小児
  • 発達遅滞のある成人:意思疎通が困難な場合
  • 心因性視能障害(身体症状症):自覚的屈折検査の信頼性が低い症例
  • 自閉スペクトラム症:検査への協力が得にくい症例
  • 寝たきりの患者:オートレフラクトメータの使用が困難な場合

オートレフラクトメータに比して器械近視の影響を受けにくく、装置が簡便である。小児の屈折異常の診断と治療に必須の検査とされる。

Q 検影法とオートレフラクトメータの違いは何か?
A

オートレフラクトメータはコンピュータで屈折を自動測定するが、器械近視(装置を覗き込むことで生じる調節)の影響を受けやすい。検影法は器械近視の影響が少なく、小児・固視不良・中間透光体混濁など測定困難例で有用である。ただし検影法は習熟に数年を要する。

検影器の光を瞳孔に投射してスキャニングすると、眼底からの反射光が動く。この反射光の方向により屈折状態を判定する。

同行

定義:反射光が検影器のストリークと同じ方向に動く。

屈折状態遠視、正視、または−2D未満の近視(検査距離50cmの場合)。

対応:プラスレンズを加えて中和点を探す。

逆行

定義:反射光が検影器のストリークと反対方向に動く。

屈折状態:−2Dを超える近視(検査距離50cmの場合)。

対応:マイナスレンズを加えて中和点を探す。

中和

定義:反射の動きが認められず、瞳孔全体が一様に明るく照らされる。

屈折状態:遠点が検影器の位置と一致。検査距離50cmでは−2Dの屈折度に相当。

対応:レンズ付加は不要。

反射光の判定では方向に加え、以下の特性も参考になる。

  • 反射の幅:中和に近づくほど反射光は広くなる
  • 反射の速度:中和に近づくほど速く動き、より明るくなる
  • 反射の明るさ:大きな屈折異常ほど暗く鈍い反射となる
  • 小児・乳幼児の屈折検査(3歳未満ではハンディータイプの機器または検影法が主な手段)
  • オートレフラクトメータで測定困難な症例
  • 眼鏡・コンタクトレンズ処方の適否確認(オーバースキア)
  • 調節機能の評価(動的検影法
  • 中間透光体混濁の評価

静的検影法は、調節を休止させた状態で遠方の屈折異常を測定する方法である。

  • 環境:半暗室が望ましい。瞳孔径が大きくなり反射光のコントラストが向上する
  • 検査距離:50cmが標準。常に一定の距離を保つ(紐を用意しておくとよい)
  • 固視目標:遠方に設置する。乳幼児では遠方におもちゃを置くか声掛けをして注視を誘導する
  • 体位:患者は直立で座る。両眼開放下で実施する
  • 検影器設定:平面鏡効果モード(開散光線束)に設定する
  1. 検影器のストリークを垂直にして患者の右眼に光を当て、赤色反射を確認する
  2. ストリークを水平方向にスキャニングし、反射光の方向(同行・逆行)を判定する
  3. ストリークを90度回転させ、垂直方向にもスキャニングする
  4. すべての経線で反射が同一であれば球面性、経線によって異なれば乱視性の屈折異常と判断する
  5. 同行ならプラスレンズ、逆行ならマイナスレンズを眼前に挿入し、中和するレンズ度数を求める
  6. 乱視がある場合は、主経線ごとに中和レンズを決定する

覚え方として「SPAM」がある。Same(同行)はPlus(プラスレンズ)、Against(逆行)はMinus(マイナスレンズ)を意味する。

中和に要したレンズ度数から作動距離の補正を差し引く。

屈折度の計算式と具体例を以下に示す。

検査距離補正値計算式
50cm−2.00D中和レンズ − 2D
67cm−1.50D中和レンズ − 1.5D
100cm−1.00D中和レンズ − 1D

例えば検査距離50cmで−1.00Dのレンズで中和した場合、眼屈折度は−1.00D − 2.00D = −3.00Dとなる。

Q なぜ作動距離を差し引く必要があるのか?
A

検影法では検者が有限距離から観察するため、その距離分の屈折力が測定値に含まれる。作動距離50cmは2.00Dに相当し、これを差し引くことで真の屈折度が得られる。距離が長いほど補正値は小さくなる。

動的検影法は、患者に能動的な調節を行わせることで調節機能を評価する検査法である。静的検影法とは異なり、調節を休止させずレンズも使用しない。

  1. 適切な遠用矯正眼鏡を装用させ、読書距離に近接視標を保持する
  2. 遠方注視時に両眼で同行の反射を確認する
  3. 近接視標を注視させ、同行がわずかな逆行に変化することを確認する
  4. 調節の維持を確認するためにステップを繰り返す
  • 正常反応:遠方注視のわずかな同行が、近方注視でわずかな逆行に変化。「迅速、完全、かつ安定」と記録する
  • 異常反応:大きな逆行、鈍い反射、近方でも同行が持続、軸間での反射の非対称など。調節不全を示唆する

小児は調節力が成人に比べて非常に強く、無調節状態を得ることが困難である。そのため小児の屈折検査では調節麻痺薬を用いた検影法が原則となる1)

主な調節麻痺薬の特徴を以下に示す。

薬剤適応・用法効果持続
シクロペントラート1%1歳以上、5分間隔2回点眼24〜48時間
アトロピン1%内斜視弱視、1日2回7日間3週間程度
トロピカミド成人の短時間検査数時間
  • シクロペントラート塩酸塩1%:小児の調節麻痺下検影法で最も汎用される薬剤であり、アトロピンに近い調節麻痺効果をより短い作用時間で得られる1)。5分間隔で2回点眼し、60分後に検査を行う
  • 6か月未満の乳児:シクロペントラート0.2%+フェニレフリン1%の混合点眼が使用される1)
  • アトロピン硫酸塩1%:最も強力な調節麻痺効果を持つ。内斜視や弱視の症例では一度はアトロピンで検査を行うべきとされる。1日2回、5〜7日間の自宅点眼後に検査を行う。市販は1%のみで、低年齢児では0.25〜0.5%に希釈して使用する施設もある
  • 濃色虹彩では調節麻痺薬の追加投与やフェニレフリン2.5%・トロピカミド1%の併用が有効な場合がある1)

調節麻痺薬の主な副作用は以下の通りである1)

  • アトロピン:顔面潮紅、発熱、血圧上昇、心悸亢進、口渇、幻覚、興奮、けいれん
  • シクロペントラート:一過性の幻覚、運動失調、情動錯乱、傾眠傾向(診察終了後も注意を要する)
  • 共通:過敏反応、嘔気、嘔吐、紅潮はまれだが生じうる

副作用軽減のため、点眼後に涙嚢部を数分間圧迫し鼻粘膜からの全身吸収を抑える1)。重度の反応が生じた場合は救急対応とし、フィゾスチグミンの投与を考慮する1)。自宅での点眼となるため、文書による説明と注意喚起が推奨される。

弱視・斜視における検影法の役割

Section titled “弱視・斜視における検影法の役割”

弱視や斜視の診断において屈折異常の正確な評価は不可欠であり、調節麻痺下の検影法が標準的検査として推奨されている1)。調節麻痺前の検影法は、調節の迅速な評価として有用であり、高度遠視児の眼精疲労や調節不全の評価にも活用される1)

眼鏡処方においては、弱視や調節性内斜視のある小児では完全矯正が基本とされる。矯正視力・眼位が正常でも、+2Dを超える遠視あるいは1.5Dを超える乱視がある場合は眼鏡処方を考慮する。

Q 小児の検影法でなぜ調節麻痺薬が必要なのか?
A

小児は成人に比べ調節力が非常に強く、検影法の際に無意識に調節を行ってしまう。これにより屈折値が近視側にシフトし、正確な測定ができない。調節麻痺薬で調節を遮断することで、真の屈折状態を評価できる。

Q アトロピンとシクロペントラートはどう使い分けるのか?
A

一般的に4歳以上ではシクロペントラートを使用し、3歳以下ではアトロピンを用いる施設が多い。内斜視や弱視では、初回の眼鏡処方時にアトロピンで検査を行うことが望ましいとされる。アトロピンは効果が強力だが持続が長く(3週間)、シクロペントラートは比較的速やかに回復する(24〜48時間)。

検影法は、どの矯正レンズが眼の遠点を無限遠に配置するかを確定することで屈折異常を決定する。遠点とは、調節していない眼の網膜と共役な空間上の点である。

  • 正視:遠点が無限遠にあり、平行光線が網膜上で結像する。検影法では中和が観察される
  • 近視:光線が網膜の手前で結像し、収束光線として出る。遠点は眼と無限遠の間にあり、逆行が観察される
  • 遠視:光線が網膜の後方で仮想的に結像し、発散光線として出る。遠点は眼の後方の仮想点にあり、同行が観察される
  • 乱視:経線によって屈折力が異なり、2つの焦線を持つ。経線ごとに同行または逆行が異なる

現代のストリーク検影器はコープランドの回転スリット技術に基づき、3つの主要部分で構成される。

  • 光学ヘッド:一方の側からスリット状の光線を投影し、もう一方に観察窓を備える。集光レンズがミラー上に光を焦点合わせし、適切に投影する
  • スリーブ:上下にスライドさせて光線のバージェンス(収束・発散度)を変更し、回転させてストリークの経線を変える。平面鏡効果(平行光線)と凹面鏡効果(収束光線)を切り替え可能である
  • ハンドル:バッテリーを内蔵する

乱視の軸と度数を決定する際に、以下の現象が利用される。

  • 太さ現象:正しい軸の経線を掃引したとき反射が最も細く見える。軸から離れるほど太くなる
  • 輝度現象:正しい軸の経線で反射が最も明るく、離れるほど鈍くなる
  • 分断・斜交現象:高度乱視ではストリークを軸から外しても反射が円柱軸に沿う傾向がある
  • 軸の跨ぎ法:正しい軸が中和されると、90度離れた経線で最もはっきりした同行反射が見られる

乱視によって生じる前焦線と後焦線の間隔をSturmの間隔と呼ぶ。乱視が強いとSturmの間隔が長くなり、最小錯乱円も大きくなる。

  1. American Academy of Ophthalmology Pediatric Ophthalmology/Strabismus Preferred Practice Pattern Panel. Amblyopia Preferred Practice Pattern. San Francisco, CA: American Academy of Ophthalmology; 2024.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます