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小児眼科・斜視

プラダー・ウィリー症候群

1. プラダー・ウィリー症候群とは

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プラダー・ウィリー症候群(Prader-Willi syndrome; PWS)は、15番染色体長腕15q11.2-q13領域の父親由来遺伝子の発現欠如により発症する遺伝性疾患である。1956年に初めて記載され、これまでに3,500以上の論文が出版されている1)。ICD-10-CMではQ87.11に分類される。

発生率は出生児約20,000〜25,000人に1人で3)、男女差はない。世界で約35万〜40万人が罹患する。遺伝型別には、父親由来欠失が65〜75%、母親性片親性二倍体(UPD)が20〜30%、インプリンティングセンター(IC)欠陥が1〜3%を占める4)。大部分は孤発性に発生し、兄弟姉妹の再発リスクはIC欠失がない限り1%未満である。

肥満率は小児40%、成人82〜98%と高率であり、年間死亡率は一般人口の約1%に対してPWSでは約3%と報告されている3)

Q プラダー・ウィリー症候群はどのくらいの頻度で発生するか?
A

出生児約20,000〜25,000人に1人の頻度で発生する。男女差はなく、世界で約35万〜40万人が罹患する。大部分は孤発性であり、兄弟姉妹の再発リスクはインプリンティングセンター欠失がない限り1%未満である。

  • 視力低下:屈折異常に伴う
  • 眼位異常:斜視による眼位のずれを保護者が気づくことが多い

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

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眼科的所見

斜視:有病率40%。91%が5歳までに診断され、42%が手術を受けている。

屈折異常:世界PWSレジストリの報告では近視41%、遠視25%、乱視25%、弱視16%。

虹彩・脈絡膜の色素脱失:クリティカル領域のOCA2遺伝子欠失に関連する。

その他眼振白内障糖尿病網膜症、先天性眼筋線維化症候群、先天性ぶどう膜外反。

全身所見

新生児期:重度の筋緊張低下、哺乳困難、外性器低形成、色素沈着低下。

幼児期:運動発達遅滞(歩行27ヶ月、発語39ヶ月)。過食と肥満の出現。

小児期〜思春期:GH欠乏による低身長、睡眠時無呼吸(50〜100%)、けいれん(26%)、糖尿病、側弯症、行動問題(自閉スペクトラム症類似)、皮膚むしり、認知障害(100%)。

その他:嘔吐能力の低下、痛覚閾値の上昇。

Q プラダー・ウィリー症候群でもっとも多い眼科的異常は何か?
A

斜視が最も多く、有病率は40%である。91%が5歳までに診断されている。次いで屈折異常が多く、近視41%、遠視25%、乱視25%と報告されている。弱視も16%にみられる。

PWSの原因は、15q11.2-q13領域の父親由来遺伝子の発現欠如である。ゲノムインプリンティングにより、この領域の遺伝子は父親由来のコピーのみが活性化される。母親由来のコピーの喪失はアンジェルマン症候群の原因となる。

遺伝型頻度機序
父親由来欠失65〜75%15q11.2-q13の微細欠失4)
母親性UPD20〜30%両方の15番染色体が母親由来4)
IC欠陥1〜3%インプリンティングセンターの変異4)

大部分は孤発性であり、IC欠失のある家族歴以外に特定のリスク要因はない。

Q プラダー・ウィリー症候群は遺伝するか?
A

大部分は孤発性に発生し、再発リスクは1%未満である。ただしインプリンティングセンター欠陥や染色体転座による場合は遺伝する可能性があり、家族計画においては遺伝カウンセリングが推奨される。

臨床的特徴として、新生児期の重度筋緊張低下と哺乳困難、幼児期以降の過食と肥満、発達遅滞、性腺機能低下症、低身長が診断の手がかりとなる。

検査法特徴検出率
メチル化解析ゴールドスタンダード99%
FISH欠失型のみ検出約75%
染色体マイクロアレイ欠失の範囲を特定欠失型のみ
MS-MLPAMKRN3、MAGEL2等の検出4)高感度
DNAマーカーUPDの検出

メチル化解析がゴールドスタンダードであり、症例の99%を検出できる。FISH検査は有効だが、欠失によるPWS(約75%)の検出に限定される。

早期診断は肥満や関連合併症の発症を遅延させることが示されている1)

PWSの管理には多職種連携が不可欠である。

  • 新生児・乳児期:筋緊張低下の管理、経管栄養が必要な場合がある
  • 年長児以降:肥満管理が治療の中心。食事制限と環境管理(食品へのアクセス制限)を行う
  • 内分泌管理:視床下部・下垂体機能異常、性腺機能低下症、甲状腺機能低下症のスクリーニングと治療。性ホルモン補充療法(女性にはエストロゲン±プロゲスチン、男性にはhCG/テストステロン)4)

小児PWSでは多くの国で承認されている2)

  • 体組成改善:134例のメタ解析で除脂肪体重(LBM)+2.4kg、体脂肪-2.9kg2)
  • 運動耐容能:6ヶ月で16%、12ヶ月で19%改善2)
  • 筋力:13%増加。運動持久力17%増加。最大呼気流量(PEF)12%改善2)
  • GH欠乏:成人PWS患者の最大55%に認められる2)
  • GH中止の影響:中止12ヶ月で体脂肪が22%増加する2)
  • 副作用:軽度末梢浮腫、筋肉痛、頭痛(いずれも一過性)2)
  • 禁忌:コントロール不良の糖尿病、重度の精神疾患2)

斜視・弱視・屈折異常のスクリーニングが極めて重要である。屈折矯正(眼鏡処方)と必要に応じた斜視手術を行う。

Q 成長ホルモン治療はいつから始めるべきか?
A

小児PWSでは多くの国で成長ホルモン治療が承認されており、早期開始が推奨される。体組成の改善(除脂肪体重の増加・体脂肪の減少)や運動機能の向上が得られる。現在、成人PWS患者への適応拡大が国際的に推進されている。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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15q11-q13領域には約100個の遺伝子・転写産物が存在し、12個以上がインプリンティングを受けて父親由来のコピーのみが発現する。主要な父親発現遺伝子には、SNURF-SNRPN、NDN(ネクディン)、MKRN3、MAGEL2、snoRNAs(SNORDs)がある。

SNORD116がPWSの主要候補遺伝子であり、PWS様表現型を呈する非定型欠失例でSNORD116の関与が確認されている1)。UBE3AおよびATP10Aは母親由来発現遺伝子であり、アンジェルマン症候群の原因候補である。

クリティカル領域に含まれるOCA2遺伝子の欠失により、虹彩・脈絡膜の色素脱失が生じる。OCA2は眼皮膚白皮症II型の原因遺伝子でもある。

食後の満腹中枢の活性化が遅延または欠如しており、満腹応答が障害されている3)。報酬系の過活性化と大脳皮質抑制領域の低活性化が過食行動の基盤となる3)。安静時エネルギー消費量は20〜46%低下している3)

MAGEL2遺伝子の変異により、PWS類似の表現型を呈する症候群が報告されている。

症候群原因遺伝子主な眼科所見
シャーフ・ヤング症候群(SYS)MAGEL2外斜視、近視、小角膜、小眼球、円錐角膜眼瞼下垂コロボーマ
重症関節拘縮症候群MAGEL2視神経形成不全、外斜視、眼振、若年発症緑内障
オピッツC症候群MAGEL2網膜色素変性症、斜視、コロボーマ

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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セマグルチド(GLP-1受容体作動薬)

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Kocevaら(2025)はPWS患者3例に対するセマグルチド(週0.5〜2mg投与)の長期成績を報告した3)。28歳女性(UPD型)では体重が117kgで安定化し、39歳女性(モザイクUPD型、代謝手術後)では最大14.4%の体重減少が得られ、25歳男性(UPD型)では11%の体重減少が認められた。いずれも忍容性は良好であった。

  • KATPチャネル活性化:過食・肥満に対する新たな治療標的として研究されている1)
  • 腸内細菌叢:PWS患者の腸内細菌叢プロファイルの特徴が解析されており、肥満との関連が検討されている1)
  • 週1回GH注射製剤:服薬コンプライアンスの改善を目指した開発が進行中2)
  • 成人GH治療の国際的承認:成人PWS患者へのGH治療適応拡大が多国間で推進されている2)
Q 過食に対する新しい治療法はあるか?
A

GLP-1受容体作動薬(セマグルチド)の3例の症例報告では、体重安定化や11〜14.4%の体重減少が報告されている。またKATPチャネル活性化や腸内細菌叢をターゲットとした研究も進行中であるが、いずれも研究段階であり標準治療として確立されていない。


  1. Godler DE, Butler MG. Special Issue: Genetics of Prader-Willi Syndrome. Genes. 2021;12(9):1429.
  2. Høybye C, Holland AJ, Driscoll DJ. Time for a general approval of growth hormone treatment in adults with Prader-Willi syndrome. Orphanet J Rare Dis. 2021;16(1):69.
  3. Koceva A, Mlekus Kozamernik K, Janez A, Herman R, Ferjan S, Jensterle M. Case report: Long-term efficacy and safety of semaglutide in the treatment of syndromic obesity in Prader Willi syndrome - case series and literature review. Front Endocrinol. 2025;15:1528457.
  4. Greco D, Vetri L, Ragusa L, et al. Prader-Willi Syndrome with Angelman Syndrome in the Offspring. Medicina. 2021;57(5):460.

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