術中所見
洞性徐脈:最も頻度が高い。外眼筋牽引の直後に発生する。
不整脈:房室ブロック・心室頻拍・心室細動など。
心停止:稀だが報告あり。11歳女児での術中心停止例がある6)。
低血圧:迷走神経優位の状態に伴う。

眼心反射(oculocardiac reflex; OCR)は、外眼筋・眼球・結膜への圧迫や牽引が引き金となり、心拍数が20%以上低下する反射である。別名、アシュネル反射(Aschner reflex)または三叉神経迷走神経反射(trigeminovagal reflex)とも呼ばれる。1908年にDagniniとAscherにより初めて報告された。
OCRは三叉心臓反射(trigeminocardiac reflex; TCR)の一亜型として位置づけられる。TCRという用語はShelly & Church(1988)が提唱し、OCRはその眼窩周囲型に分類される。3)
発生率は施術の種類によって大きく異なる。
歴史的には迷走神経刺激による上室性頻拍の停止法として利用されたが、現在はリスクが高いため行われていない。
斜視手術中で56〜68%と最も高く、眼窩外傷では17〜27%に発生する。致命的な転帰は約3500例に1例と報告されている。小児では発生率がさらに高い。
主な心臓所見は以下の通りである。
術中所見
洞性徐脈:最も頻度が高い。外眼筋牽引の直後に発生する。
不整脈:房室ブロック・心室頻拍・心室細動など。
心停止:稀だが報告あり。11歳女児での術中心停止例がある6)。
低血圧:迷走神経優位の状態に伴う。
外傷時所見
徐脈:外傷直後から発生しうる。手術室外での発生も報告4)。
悪心・嘔吐・傾眠:外眼筋嵌頓例で頭蓋内損傷と誤認されることがある6)。
眼球運動制限:嵌頓した外眼筋に由来する拘束性斜視。
white-eyed blowout fracture:皮下・結膜下出血がなく外見上軽症に見える小児骨折で見逃されやすい6)。
Lubbersらはリスクを3段階に分類している3)。
| リスク分類 | 代表的な手術・状況 |
|---|---|
| 低リスク | 顎関節手術、LeFort I骨切り、頬骨挙上 |
| 中リスク | 頭蓋底手術 |
| 高リスク | 眼科手術、眼窩内容除去、心疾患のある小児の眼窩骨折 |
その他の患者側リスク要因:
小児、高炭酸ガス血症・低酸素血症の患者、beta遮断薬やCa拮抗薬を使用中の患者、心疾患の既往がある患者がリスクが高い。手術の種類では眼科手術や眼窩内容除去が高リスクに分類される3)。
術中のOCRは連続的なモニタリングによって診断する。
外傷患者での徐脈は以下と鑑別が必要である。
ステップ1:刺激除去
手術操作の即時中断:外眼筋牽引・眼球圧迫・眼窩操作をすべて中止する。
10〜20秒待機:多くの症例でこれだけで心拍数が回復する。
ステップ2:薬物介入
アトロピン静脈内投与:0.02 mg/kg(JRC徐脈アルゴリズム)。成人での使用例として0.25 mgを2分間隔で反復投与した報告がある3)。
持続する場合:CPRの準備と麻酔科医への連絡。
手術前または手術中の予防として以下が有効である。
まず外眼筋の牽引や眼球への圧迫など、刺激の原因となる操作を即時中止する。10〜20秒以内に心拍数が回復することが多い。回復しない場合はアトロピン0.02 mg/kgを静脈内投与し、心停止に至った場合はCPRを開始する。
OCRの反射弓は三叉神経(脳神経V)と迷走神経(脳神経X)を介する。
Khariaらはより広いTCRを以下の3型に分類している3)。
小児でリスクが高い理由は以下の2点である。
注視誘発性OCRという亜型も存在する。翼状片術後にフィブリン糊による結膜・Tenon嚢・強膜間の癒着が形成され、特定方向の眼球運動で再現性のある徐脈が誘発された症例が報告されている5)。これは外眼筋の直接牽引がなくても結膜の機械的刺激だけでOCRが発生しうることを示す。
眼心反射(OCR)は三叉神経→迷走神経という明確な反射弓を介した機械的刺激による反射であり、刺激除去により速やかに回復する。迷走神経失神(VVS)は血管迷走神経性の全身反応で、経路・誘因・経過が異なる5)。両者とも徐脈を呈するが、発生状況が鑑別の鍵となる。
Eldweik & Aljneibi(2022)は翼状片術後の21歳男性で、右方視10秒で心拍80〜90 bpmから55〜60 bpmへの低下が再現性をもって認められた症例を報告した5)。フィブリン糊がTenon嚢・結膜・強膜間の癒着を促進し、注視誘発性OCRを引き起こしたと考察している。外眼筋の直接牽引がなくても結膜の機械的刺激のみでOCRが発生しうることを示した。
Geller ら(2025)は非手術的環境(外傷患者)でのOCR症例を報告し、Espahbodi(2015)の研究を引用してケタミンがアトロピンよりも優位に迷走神経刺激を打ち消す可能性を示した4)。
Toyohara ら(2022)は11歳女児での術中心停止例を報告し、眼窩骨折に対する術前ステロイド投与が腫脹を軽減しうる一方、術中OCR発生率を上げる可能性があることを指摘した6)。ステロイドの利益とリスクを個別に評価する必要がある。
Asaari SAH, Balasubramaniam D, Ramli N, et al. When brakes fail you: Oculocardiac reflex elicited by a retained foreign body in a penetrating orbital injury. Am J Ophthalmol Case Rep. 2024;34:102029.
Basnet A, Chug A, Simre S, et al. Comprehensive Management of Pediatric Orbital Fractures: A Case Series and Review of Literature. Cureus. 2024;16(4):e57915.
Kharia A, Janardhana Rao S, Dubey V, et al. Oculocardiac Reflex in a Patient With Maxillofacial Trauma: A Case Study and Literature Review. Cureus. 2024;16(5):e59528.
Geller JE, Daneshpooy S, Block S, et al. Oculocardiac reflex causing bradycardia in a trauma patient following firearm injury. Trauma Case Reports. 2025;60:101282.
Eldweik LT, Aljneibi S. Restrictive strabismus and gaze-evoked oculocardiac reflex following pterygium repair with fibrin glue. SAGE Open Med Case Rep. 2022;10:2050313X221122459.
Toyohara Y, Mito N, Nakagawa S, et al. Asystole Due to Oculocardiac Reflex during Surgical Repair of an Orbital Blowout Fracture. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2022;10:e4544.