この疾患の要点
HLH(血球貪食性リンパ組織球症)は免疫調節異常による稀な多臓器疾患であり、眼症状を伴う場合がある。
最も多い眼症状は網膜 出血(152名中55名、36%)である。
眼症状が全身症状に先行して発症するケースが家族性HLHで報告されている。
家族性HLHの原因遺伝子としてPRF1・UNC13D・STX11・STXBP2が知られる。
診断にはHLH-2004基準(8項目中5項目を満たす)が用いられる。
眼症状に対する特異的治療はなく、全身治療(etoposide・dexamethasone・cyclosporine)が基本となる。
家族性HLHは無治療では診断後1〜2ヶ月で致死的となる。二次性HLH成人例の死亡率は41〜75%と高い。
HLH(hemophagocytic lymphohistiocytosis:血球貪食性リンパ組織球症)は、免疫調節の破綻によって生じる稀な多臓器疾患である。マクロファージ・組織球が過剰に活性化し、自己の血球を貪食する病態が特徴である。
HLHは大きく2種類に分類される。
家族性HLH(原発性HLH) :PRF1・UNC13D・STX11・STXBP2などの遺伝子変異に起因する。診断時平均年齢は1.8歳と若年発症が多い。発症率は出生30万人あたり1〜225人と報告されている。1)
二次性HLH(後天性HLH) :感染(EBVが最多)・自己免疫疾患・悪性腫瘍・薬物(免疫チェックポイント阻害薬 など)を契機に発症する。2)3)4)5) 診断時平均年齢は約50歳とされる。
眼症状を呈するHLH患者の特性(文献レビュー152名の集計)を以下に示す。
眼症状時の平均年齢:30.21±14.42歳
性別:男性62%、女性38%
内訳:家族性14名、二次性138名
Q HLHで最も多い眼症状は何か?
A 文献レビュー152名の集計では、網膜出血が55名(36%)と最多である。次いで結膜炎 (約22%)、角膜 炎(約10%)、視神経乳頭 腫脹(10%)が続く。
HLHに伴う眼症状として、以下の自覚症状が報告されている。
視力 低下 :網膜出血・漿液性網膜剥離 ・視神経病変などによって生じる。
眼痛・充血 :結膜炎・角膜炎・ぶどう膜炎 の合併による。
複視 ・斜視 :眼球運動障害 が生じた場合に出現する。PRF1関連家族性HLHで急性内斜視 (15プリズムジオプター)が初発症状となった症例が報告されている。1)
眼瞼腫脹 :眼窩 ・眼瞼周囲への浸潤による。
眼科検査で確認される主な所見を部位別に示す。
部位 主な所見 後眼部(網膜) 網膜出血(36%)、漿液性網膜剥離(7%)、血管周囲鞘形成 視神経 視神経乳頭腫脹(10%) 前眼部 結膜炎(約22%)、角膜炎(約10%) 眼球運動 外転制限、緩徐な衝動性・追従運動障害
家族性HLHの症例(11歳男児、PRF1変異)では、蛍光眼底造影 (FFA)で血管周囲鞘形成に対応する局所的血管漏出を認め、虚血は確認されなかった。黄斑 OCT は正常であった。1)
組織病理学的には、線維柱帯 ・脈絡膜 に組織球浸潤が認められる。
Q 眼症状が全身症状に先行することはあるか?
A ある。PRF1関連家族性HLHで急性内斜視・中間部ぶどう膜炎 (snowball・血管周囲鞘形成)が初発症状として出現し、全身症状に先行した症例が報告されている。1) HLHの全身精査時には眼科的評価も重要である。
家族性 :PRF1(パーフォリン)・UNC13D・STX11・STXBP2遺伝子変異が主な原因。サウジアラビアの多施設研究(25例)ではPRF1変異が最頻であった。1)
感染性(二次性) :EBV感染が最多病原体。小児SLE に合併したEBV脳炎関連HLHも報告されている。4)
薬物性(二次性) :免疫チェックポイント阻害薬(ICI)によるHLHが報告されている。atezolizumab誘発HLHの症例報告がある。3)
自己免疫疾患関連(二次性) :SLE・成人Still病などに合併する。IFN-alpha投与を受けたSLE患者でのHLH発症も報告されている。5)
Wangらは1,525名中133名(約39%)に眼異常を確認した。眼合併症のリスク因子として以下が挙げられている。
高齢
自己免疫疾患の合併
赤血球減少
血小板減少
フィブリノゲン(Fib)上昇
HLHの診断にはHLH-2004基準が用いられる。以下の8項目中5項目以上を満たすことで診断する。1)2)4)
発熱
脾腫
血球減少(2系統以上):Hb <9 g/dL、PLT <100×10⁹/L、Neu <1.0×10⁹/L
高トリグリセリド血症(TG ≥3.0 mmol/L)または低フィブリノゲン血症(Fib ≤1.5 g/L)
骨髄・脾臓・リンパ節での血球貪食像
NK 細胞活性の低下または欠如
高フェリチン血症(≥500 μg/L)
sIL-2R上昇(≥2400 IU/mL)
HLH-2004基準
対象 :主に家族性HLH・小児例に使用される診断基準。
感度 :8項目中5項目以上の充足を要件とする。
分子診断 :PRF1 c.1081A>T p.(Arg361Trp)等の変異同定により確定診断が可能。1)
H-score
対象 :成人・二次性HLH(反応性血球貪食症候群)に有用なスコアリングツール。
カットオフ :138〜169点。カットオフ169点で90%の正確分類を示す。3)
特徴 :臨床・検査所見から確率論的に診断を支援する。
眼科検査では以下が実施される。
細隙灯顕微鏡検査 :前眼部炎症・角膜所見の評価
拡大眼底検査 :網膜出血・視神経乳頭腫脹・血管周囲鞘形成の確認
蛍光眼底造影(FFA) :血管漏出・虚血の評価1)
光干渉断層計(OCT) :黄斑部形態評価
OCTアンギオグラフィー (OCTA )・ICGA :血管構造の詳細評価
HLHが疑われる場合、以下の全身検査が重要である。
遺伝子検査(WES) :PRF1・UNC13D等の変異同定。1) PRF1関連家族性HLHでは全エクソーム解析が診断に有用。
MRI :神経HLHの評価。T2/FLAIR高信号・造影効果が認められることがある。1)
骨髄生検 :血球貪食像の確認
眼症状に対する特異的治療はない。HLHの全身治療によって眼症状も改善する。1)
HLH-2004プロトコールが標準治療である。
寛解導入 :dexamethasone(10 mg/m²/日)+ etoposide + 月1回IVI G(17週間)1)
髄腔内メトトレキサート (MTX) :神経HLHに対して追加される
造血幹細胞移植(HSCT) :長期寛解のために必要。寛解導入後に施行する。1)
PRF1関連HLHの症例では、methylprednisolone静注・IVIG・血漿交換に反応しなかったため、HLH-2004プロトコールへ移行し、17週後にHSCT目的で転院した。この症例では眼所見は経過中安定し、後眼部所見の進行は認めなかった。1)
基本レジメン :ステロイド + IVIG + etoposide + cyclosporine(CsA)2)
具体例(SLE合併例) :methylprednisolone pulse 200 mg/日×5日 + etoposide 100 mg×3/週(累積1000 mg)+ CsA 50 mg 2回/日5)
ICI誘発HLH例 :dexamethasone 20 mg + tocilizumab 8 mg/kg + anakinra + MMF + etoposide 100 mg/m²3)
EBV関連HLH例 :IVIG + CsA + prednisolone4)
ruxolitinib (JAK1-2阻害薬):サイトカインシグナル遮断に有効な可能性3)
anakinra (IL-1阻害薬):炎症抑制効果が期待される3)
tocilizumab (IL-6阻害薬):サイトカインストーム制御に用いられる3)
emapalumab (抗IFN-γ抗体):家族性HLHへの応用が研究されている1)
治療における注意点
長期ステロイド使用によるステロイド緑内障 に注意が必要である。
家族性HLHは無治療では診断後1〜2ヶ月で致死的となる。早期の治療開始が不可欠である。
成人二次性HLHの死亡率は41〜75%、米国コホート(68名)の全生存中央値は4ヶ月と報告されている。2)
Q 眼症状への特異的治療はあるか?
A 眼症状に対する特異的治療はない。HLHに対する全身治療(etoposide・dexamethasone・cyclosporineを中心とするHLH-2004プロトコール)によって眼症状も改善する。1) ただし、長期ステロイド使用によるステロイド緑内障には注意が必要である。
HLHの眼合併症は、以下の機序によって生じると考えられている。
Th1サイトカインの過剰産生 :IFN-γ・TNF -α・IL-6・IL-10・IL-12・sIL-2Rが著明に上昇する。
CD8⁺T細胞の持続的活性化 :免疫調節の破綻により持続する。
PRF1欠損(家族性HLH) :パーフォリン機能不全により細胞傷害性T細胞がターゲット細胞を殺傷できず、異常な免疫活性化が持続する。1)
網膜出血 :血小板減少(血小板 <100×10⁹/L)が主な原因となる。
漿液性網膜剥離 :サイトカインによる血管透過性亢進・脈絡膜への組織球浸潤が原因となる。
血管周囲鞘形成 :リンパ球・組織球の血管周囲浸潤による炎症性変化である。1)
視神経乳頭腫脹 :頭蓋内圧亢進または視神経周囲への組織球浸潤による。
組織病理所見 :線維柱帯・脈絡膜への組織球浸潤が剖検例で確認されている。
Wangら(2023)は1,525名を対象としたスクリーニング研究を実施し、133名(約39%)に眼異常が確認されたことを報告した。眼合併症のリスク因子として高齢・自己免疫疾患・赤血球減少・血小板減少・フィブリノゲン上昇が同定された。
Alzuabiら(2025)は、PRF1遺伝子のホモ接合ミスセンス変異(c.1081A>T p.(Arg361Trp))を持つ11歳男児において、急性内斜視(15プリズムジオプター)・中間部ぶどう膜炎(snowball・血管周囲鞘形成)が全身症状に先行して発現した症例を報告した。1) この症例は、眼症状がHLHの初発かつ唯一の症状として発現する可能性を示す。
Rubio-Perezら(2022)は、atezolizumab誘発HLHに対してruxolitinib・anakinra・tocilizumabを含む多標的レジメンを適用し、治療反応を得たことを報告した。3) JAK阻害・IL-1阻害・IL-6阻害などのサイトカイン標的療法は、ステロイド抵抗性HLHへの新たなアプローチとして研究が進んでいる。
emapalumab(抗IFN-γモノクローナル抗体)は家族性HLHへの適応が期待されており、IFN-γ経路の遮断によるサイトカインストーム制御が主要な作用機序として研究されている。1)
Alzuabi アカントアメーバ角膜炎 , et al. Ocular inflammation as first presenting feature of PRF1-associated familial hemophagocytic lymphohistiocytosis: a case report and literature review. BMC Ophthalmol. 2025;25:394.
Wi W, et al. Secondary hemophagocytic lymphohistiocytosis associated with heat stroke: a case report. Medicine. 2023;102(21):e33842.
Rubio-Perez J, et al. Treatment-related hemophagocytic lymphohistiocytosis due to atezolizumab. J Med Case Rep. 2022;16:365.
Cheawcharnpraparn K, et al. Epstein-Barr virus encephalitis associated hemophagocytic lymphohistiocytosis in childhood-onset systemic lupus erythematosus. Pediatr Rheumatol. 2024;22:98.
Zeng Z, et al. Interferon-alpha induced systemic lupus erythematosus complicated with hemophagocytic lymphohistiocytosis. Front Immunol. 2023;14:1223062.
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