未熟児近視
角膜曲率の増大:正期産児より急峻な角膜を示す。
水晶体の肥厚:水晶体が厚く、屈折力が増大している。
浅い前房:前房深度が減少している。
相対的に短い眼軸長:屈折値に対して眼軸長はむしろ短い。

未熟児近視(Myopia of Prematurity: MOP)は、早産児に発生する屈折異常の一形態である。眼軸長の延長を主因とする病的近視や学童近視とは異なり、前眼部(角膜・水晶体・前房)の発達変化に起因する独立した疾患概念である。
MOPは未熟児網膜症(ROP)およびその治療と密接に関連するが、ROPを発症していない早産児においても近視性屈折異常のリスクが認められている。MOPに特化したICDコードやMeSH識別子は存在せず、文脈に応じてROP(ICD-10: H35.109)、変性近視(H44.20)、近視(H52.13)等のコードが使用される。
MOPにおけるROPの役割を説明するため、以下の用語が提案されている。
ただし、これらの用語は普遍的に受け入れられておらず、多くの出版物では区別されていない。
ROP罹患児に関する初期の研究で、ROPの有無にかかわらず早産児は近視性屈折異常を来しやすいことが観察されていた。1981年、Fledeliusは不完全な瘢痕期水晶体後線維増殖症において「未熟児近視」がほぼ必発であると報告した。
MOPの理解に貢献した主な臨床試験を以下に示す。
主要臨床試験における近視有病率を以下に示す。
| 試験 | 対象 | 近視有病率 | 高度近視有病率 |
|---|---|---|---|
| CRYO-ROP(全体) | 1歳時 | 21% | 3.9% |
| CRYO-ROP(重症ROP) | 1歳時 | 80% | 約43% |
| ET-ROP | 前閾値ROP | 約65% | 約35% |
CRYO-ROP試験では、出生体重が100 g減少するごとに近視の有病率が10%増加するという相関が認められた。
BEAT-ROP研究において、IVB群とレーザー群の2.5歳時点の平均等価球面度数には大きな差が認められた。Zone I ROPではIVB群 -1.51 D、レーザー群 -8.44 D(P < .001)、Zone II ROPではIVB群 -0.58 D、レーザー群 -5.83 D(P < .001)であった。超高度近視(≥ -8.00 D)の発生率は、IVB群ではZone Iの3.8%、Zone IIの1.7%であったのに対し、レーザー群ではそれぞれ51.4%、36.4%であった。
日本においては、出生体重1,000 g未満の超低出生体重児の86.1%にROPが発症し、治療率は41%と報告されている。ROPの有病率の高さを考慮すると、MOPの潜在的な発生数も相当数に上ると推測される。
通常の病的近視は眼軸長の過度な延長が主因であるが、未熟児近視では眼軸長は屈折値に対してむしろ短い。角膜曲率の急峻化、水晶体の肥厚、前房の浅小化といった前眼部の発達異常が主な原因であり、発症メカニズムが根本的に異なる。詳細は「病態生理学」の項を参照。
MOPの主な自覚症状は近視に伴う遠方視力低下である。乳幼児期には症状の自覚が困難であり、屈折検査によって初めて発見されることが多い。乱視や不同視を合併する場合は、より複雑な視機能障害を呈する。
MOPに特徴的な所見は前眼部の構造変化である。病的近視との対比が臨床上重要となる。
未熟児近視
角膜曲率の増大:正期産児より急峻な角膜を示す。
水晶体の肥厚:水晶体が厚く、屈折力が増大している。
浅い前房:前房深度が減少している。
相対的に短い眼軸長:屈折値に対して眼軸長はむしろ短い。
病的近視
眼軸長の過度な延長:26 mm以上に及ぶことがある。
正常〜平坦な角膜曲率:角膜は急峻化しない。
正常な水晶体厚:水晶体の異常は主因ではない。
正常な前房深度:前房の浅小化は特徴的でない。
MOPの近視度数は出生時から固定されているわけではなく、時間の経過とともに進行する。
レーザー治療を受けた閾値ROPの17年間の長期研究では、17歳時点で評価されたすべての眼が近視(平均等価球面度数 -6.35 D、範囲 -1.25 〜 -12.38 D)であり、43%の眼が高度近視(< -6.0 D)であった。これらの眼は正期産児の対照群と比較して、有意に強い乱視、平坦な水平角膜曲率、浅い前房深度、厚い水晶体、および短い眼軸長を有していた。近視と乱視は思春期まで進行し続けると報告されている。
MOPの発症に関与する主なリスク因子を以下に示す。
大きく変わる。BEAT-ROP研究では、Zone I ROPにおける2.5歳時の平均等価球面度数がIVB群で -1.51 D、レーザー群で -8.44 Dと著明な差を認めた。超高度近視(≥ -8.00 D)の発生率もIVB群3.8%に対しレーザー群51.4%であった。ただし抗VEGF療法を受けた児でも、正期産児と比較すると屈折発達は依然として異常な経過をたどる。
MOPの診断の基本は調節麻痺下屈折検査による等価球面度数の測定である。乳幼児では調節の影響を排除するため、アトロピンまたはサイクロペントレートによる調節麻痺下での検影法が標準的に用いられる。
前眼部構造の評価にはAスキャン超音波検査や眼内レンズマスター等による生体計測が有用である。
日本ではROPのスクリーニング対象は在胎34週未満、または出生体重1,800 g以下の児とされている。高濃度酸素投与や人工換気を要した症例はこの基準にかかわらず眼底検査の対象となる。検査開始時期は、在胎26週未満の症例では修正29週から、在胎26週以上の症例では生後2〜3週が推奨される。
高度近視・不同視・斜視に起因する弱視のモニタリングが必要である。ROP既往児では、視力発達の重要な時期にこれらの合併症を見逃さないよう、定期的な眼科受診を継続する。
未治療で退行したROP眼においても、成人期に格子状変性、網膜裂孔、網膜剥離などの晩期合併症が報告されている1)。ROP既往のある早産児は、屈折異常のみならず網膜合併症に対する長期的な経過観察が推奨される。
MOPに対する治療の基本は眼鏡による屈折矯正である。臨床的適応に応じて適切な時期に処方する。乱視や不同視を合併している場合は、それらも含めた矯正が必要となる。
高度近視、不同視、または斜視に起因する弱視が合併する場合は、遮蔽療法やアトロピンペナリゼーション等の弱視治療を行う。視力発達の感受性期間内に適切な介入を行うことが重要である。
ROP治療法の選択がMOPの発症と重症度に大きく影響する。主要な治療法による屈折予後の比較を以下に示す。
| 治療法 | 屈折予後 |
|---|---|
| 冷凍凝固術 | 近視リスク最大 |
| レーザー光凝固術 | 冷凍凝固より良好 |
| 抗VEGF療法(IVB) | 最も良好 |
レーザー光凝固術はROPの治療において有効であるが、近視を増悪させ、より多くの眼合併症を引き起こす傾向がある。抗VEGF療法を受けた早産児は、レーザー治療群と比較して近視および乱視が有意に軽く、高度近視の有病率も低い。ただし、抗VEGF療法群であっても正期産児と比較すると屈折発達は依然として異常な経過をたどる。
眼鏡矯正が基本的な治療法である。MOPは前眼部の屈折力過剰が主因であり、適切な凹レンズによる矯正で視力改善が期待できる。ただし高度近視例では矯正視力が十分に出ない場合もあり、弱視の合併にも注意が必要である。
MOPの病因は多因子性であり、角膜曲率の変化、水晶体の特性、および眼球の伸展が関与する。MOPを定義づける病態生理学的特徴は、前眼部の異常な発達である。
正常な網膜血管は妊娠12〜14週に視神経乳頭付近から発生し、鋸状縁に向かって網膜表層を伸長していく。妊娠36〜40週頃に最周辺部まで到達するため、正期産児では出生時に網膜血管はすでに完成している。一方、早産児では周辺網膜に無血管領域が存在し、胎内から胎外への急激な環境変化に曝されることで、正常な血管伸長の停止と異常新生血管の形成(ROP)が生じうる。
MOPの眼は以下の特徴を示す。
眼軸長の延長が特徴である病的近視とは対照的に、MOPの近視は前眼部構造の屈折力過剰によって生じる。
MOPの発症に関していくつかの仮説が提唱されている。
ROPの基本的な病態としては、網膜の虚血に駆動される病的血管新生がある。早産児の未熟な網膜が高酸素環境に曝されるとVEGFとIGF-1が抑制され、正常な血管新生が阻害される。その後の酸素環境の変化により虚血が生じ、過剰なVEGFが放出されて病的血管新生が誘導される。
正確なメカニズムは解明されていないが、主要な仮説として以下がある。抗VEGF療法は周辺網膜を破壊せずにROPを治療するため、正常な眼球成長のシグナル伝達が温存される。レーザーは周辺網膜を広範に破壊し、遠視性デフォーカスメカニズムの阻害や眼球成長の機械的制限を引き起こす可能性がある。また、抗VEGFによる網膜血管発達の改善が局所成長因子を正常化し、前眼部の適正な発達を促すとも考えられている。
BEAT-ROP研究は、ROP治療における抗VEGF療法の屈折予後上の利点を示した重要な研究である。
BEAT-ROP研究では、2.5歳時点の平均等価球面度数がZone I ROPにおいてIVB群 -1.51 D、レーザー群 -8.44 D(P < .001)であった。Zone II ROPではIVB群 -0.58 D、レーザー群 -5.83 D(P < .001)。超高度近視(≥ -8.00 D)はIVB群でZone Iの3.8%、Zone IIの1.7%に認められたのに対し、レーザー群ではそれぞれ51.4%、36.4%であった。また、近視度数とレーザー照射数の間に正の相関(100発あたり -0.14 D)が報告された。
レーザー治療を受けた閾値ROPの17年間の長期研究では、17歳時点で評価された全眼が近視(平均SE -6.35 D)であり、43%が高度近視であった。正期産児対照群と比較して急峻な角膜曲率、浅い前房深度、厚い水晶体、短い眼軸長を有していた。近視と乱視は思春期まで進行し続けると結論付けられた。
レーザー光凝固群、未治療ROP群、ROPなしの早産児群、および正期産児群を比較した横断的研究では、レーザー群は正期産児群と比較して有意に急峻な角膜曲率、近視化した等価球面度数、短い眼軸長、および浅い前房深度を示した。興味深いことに、未治療の退行ROP群も正期産児群と比較して急峻な角膜曲率と短い眼軸長を示し、周辺網膜の未熟さ自体がMOP発症に関与する可能性が示唆された。
Hamadら(2020)は、幼児期にROP治療基準を満たさず未治療であった186患者363眼を対象とした多施設後方視的研究を報告した1)。未治療で退行したROP眼であっても、成人期に格子状変性、網膜裂孔、網膜剥離などの晩期合併症が認められ、長期的な眼科的フォローアップの重要性が強調された。