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近視(myopia)は、無限遠からの平行光線が網膜手前で焦点を結ぶ屈折異常である。眼の屈折力が眼軸長に対して過剰な状態を指し、遠方視力の低下を特徴とする。

近視は発症機序・重症度・発症時期・病因によって以下のように分類される。

屈折性近視と軸性近視:屈折性近視は水晶体の屈折力増加が原因。軸性近視は眼軸長の延長が原因で、近視の大多数はこれに属する。

非病的近視と病的近視:非病的近視(生理的・単純・学校近視)は6D未満で、学童期から思春期に発症し20代前半に安定する。病的近視は等価球面度数>6D・眼軸長>26.5mmを呈し、進行性の眼底変化を伴う。

日本における重症度分類(庄司分類):弱度(-3D以下)・中等度(-3D超~-6D以下)・強度(-6D超~-10D以下)・最強度(-10D超)の4段階に分類される。

日本における病的近視の診断基準は年齢により異なる。

年齢等価球面度数矯正視力
5歳以下>-4.0D0.4以下
6~8歳>-6.0D0.6以下
9歳以上>-8.0D0.6以下

病的近視は近視全体の約5%を占める。

先天近視と後天近視:先天近視は遺伝性で生後すぐに発症。後天近視(学校近視)は近業作業を契機に学齢期に発症する。

世界人口の1/5以上が近視を有し、2050年には半数に達すると予測されている。2) 生産性損失は年間2,500億ドル、近視性黄斑変性による損失は60億ドルと試算される。2) アジアの一部地域では子供の80~90%が近視を有し、公衆衛生上の重大な懸念となっている。

Q 近視はどのくらい一般的ですか?
A

世界人口の1/5以上が近視を有し、2050年には約半数が近視になると予測されている。2) アジア地域では特に有病率が高く、台湾の子供では約80%に認められる。米国でも民族間差があり、アジア系18.5%・ヒスパニック13.2%・アフリカ系6.6%・白人4.4%とされる。

  • 遠方視力のぼやけ:最も特徴的な症状。近くは比較的よく見えるが、遠方がかすんで見える。
  • 目を細める:ピンホール効果で視力改善を試みるための行動。
  • 変視症:病的近視で網膜病変を合併した場合に出現する。

非病的近視

眼底所見:軽度の近視性円弧(視神経乳頭周囲の萎縮弧)が認められることがある。初期は網膜色素上皮の萎縮により紋理眼底となり、乳頭耳側にコーヌスが形成される。

眼軸長:26.5mm未満が多い。

矯正視力:良好に保たれる。

病的近視

後部ぶどう腫:眼球後極部の局所的な外方膨隆。眼軸延長の結果として生じる。ただし後部ぶどう腫は通常成人以降にみられ、小児期に網脈絡膜に萎縮が起こることはまれである。

近視性黄斑変性:Fuchs斑・脈絡膜新生血管(CNV)・網膜出血・萎縮を含む黄斑病変。

黄斑分離症(MRS):後部ぶどう腫を有する病的近視眼の9~34%に認められる。1)

その他網膜裂孔・剥離、視神経乳頭傾斜、硝子体混濁・液状化。近視が急速に進行する場合、乳頭は耳側が発赤して辺縁不明瞭になり後極へ傾斜するとともに、乳頭近傍の網脈絡膜に出血が起こることがある。

OCTは眼軸性近視の増加に伴う黄斑体積減少の検出に有用である。

Q 病的近視ではどのような眼底変化が起こりますか?
A

病的近視では眼軸延長に伴い、後部ぶどう腫・Fuchs斑・脈絡膜新生血管・網膜裂孔・剥離・視神経乳頭傾斜などの眼底変化が生じる。黄斑分離症(MRS)は後部ぶどう腫を有する病的近視眼の9~34%に認められ、硝子体手術の適応となる場合がある。1)

近視の病因は多因子的で、遺伝的要因と環境要因が複雑に関与する。

  • 遺伝形式:非症候群性強度近視常染色体優性遺伝が最多で、遺伝的異質性がある。中等度近視は常染色体劣性・優性・多因子性。
  • 双生児研究:一卵性双生児の一致率は二卵性を大きく上回り、遺伝の寄与を示す。
  • 家族歴:両親が近視の場合に子供のリスクが増加する。
  • 民族差:中国系の子供で、シドニー在住(3.3%)よりシンガポール在住(29.1%)での近視有病率が高く、同一民族でも環境が大きく影響する。
  • 屋外活動の不足:近視発症を最大50%低減する最重要な予防因子。3) 網膜ドーパミン放出を促進するとされる。
  • 近業作業:弱い相関が報告されているが、PC使用との有意な相関は確認されていない。調節ラグが関与するとの説がある。
  • 都市化:都市の子供は農村の約2倍の近視有病率との報告がある。
  • 教育:長時間の読書・高等教育がリスク要因として指摘されている。IQの高い児童での近視有病率が高い傾向がある。
  • 栄養:飽和脂肪・コレステロール摂取量と眼軸長の相関が報告されている。
Q 屋外活動で本当に近視予防できますか?
A

屋外活動の増加は近視の発症を最大50%低減するとの報告がある。3) 屋外の明るい光が網膜ドーパミンの放出を促し、眼軸延長を抑制すると考えられている。近視進行抑制の中でも最も簡便かつ副作用のない介入である。

学校健診・小児科での視力検査が最初の検出機会となる。フォトスクリーニングやオートレフラクトメーターによる検出は可能だが、定量的な屈折度数の確定には不十分である。

確定診断:調節麻痺下屈折検査

Section titled “確定診断:調節麻痺下屈折検査”

調節麻痺下屈折検査が小児のゴールドスタンダードである。調節の影響を排除しないと、調節力の強い小児では過剰なマイナス処方(over-minusing)が生じやすい。日本ではアトロピン点眼による完全調節麻痺下での屈折度数測定が行われ、その値をもとに処方する。

  • 散瞳眼底検査:病的近視が疑われる場合に必須。後部ぶどう腫・Fuchs斑・網膜裂孔などを確認する。
  • OCT:黄斑分離症や脈絡膜新生血管など、早期の黄斑変化の検出に有用。
  • 眼軸長測定:近視進行のモニタリングに用いる。病的近視の診断・進行評価に重要。

近視の治療は、①屈折矯正による視力の確保、②近視進行の抑制、の2つに大別される。

  • 眼鏡(凹レンズ):小児近視の標準的な矯正法。安全性が高く、第一選択となる。日本では調節麻痺下屈折度数をもとに処方する。
  • コンタクトレンズ(CL):10代前半以降が一般的な適応年齢。矯正は可能だが、小児には管理面での注意が必要。

近視進行抑制の各介入の効果を以下に示す。

介入屈折抑制効果眼軸抑制効果
低濃度アトロピン0.05%最大67%3)
オルソケラトロジー32~59%3)
MiSight 1 day(+2.00D)59%2)52%2)
DIMS眼鏡レンズ52%3)62%3)

薬物療法:低濃度アトロピン点眼

Section titled “薬物療法:低濃度アトロピン点眼”

低濃度アトロピン点眼は、近視進行抑制において最もエビデンスが蓄積された薬物療法である。3)

  • 濃度と効果:効果は濃度依存的。LAMP試験(Yam 2019)では0.05%が0.025%・0.01%より最も有効であった。3)
  • 0.05%の有効性:最大67%の近視進行抑制効果が報告されている。3) 近視発症予防にも有望で、約50%の発症低減が示されている。3)
  • 0.01%の位置づけ:ATOM2試験(Chia 2012)で検討されたが、混合した結果が得られており、単独使用では効果が限定的な場合がある。3)
  • 機序:ムスカリン受容体を介すると考えられているが、詳細は研究中。

光学的介入:オルソケラトロジー(Ortho-K)

Section titled “光学的介入:オルソケラトロジー(Ortho-K)”

就寝中に特殊なリジッドレンズを装用し、角膜中央部を一時的に平坦化する手法。

  • 効果:2年間で眼軸伸展を32~59%抑制。3) 日中は裸眼で過ごせるため、活発な小児に適する。3)
  • 安全性:日本多施設研究(1,438名)でのMK(微生物性角膜炎)発生率は5.4/10,000 patient-yearsであった。3)

光学的介入:多焦点ソフトコンタクトレンズ(SMCL)

Section titled “光学的介入:多焦点ソフトコンタクトレンズ(SMCL)”

周辺遠視性デフォーカスを軽減し、眼軸延長を抑制する設計のCL。2)

  • MiSight 1 day(+2.00D加入):3年間のRCTで屈折59%・眼軸52%の抑制効果(Chamberlain 2019)。2)
  • +2.50D加入レンズ:3年間で屈折43%・眼軸36%の抑制。3)

光学的介入:近視抑制眼鏡レンズ

Section titled “光学的介入:近視抑制眼鏡レンズ”

周辺デフォーカス制御設計の特殊眼鏡レンズ群。3)

  • DIMS(Defocus Incorporated Multiple Segments):2年間で屈折52%・眼軸62%抑制(Lam 2020)。
  • HALT(Highly Aspherical Lenslet Target):2年間でフルタイム装用により屈折67%・眼軸60%抑制(Bao 2022)。
  • DOT(Diffusion Optics Technology):2年間で屈折59%・眼軸38%抑制(Rappon 2022)。
  • 二重焦点・累進多焦点眼鏡:近視進行抑制の臨床的意義は乏しい(COMET試験, 2003)。
  • Ortho-K+0.01%アトロピン:最もエビデンスが蓄積されている。3)
  • デュアルフォーカスCL+0.05%アトロピンOrtho-K+反復低強度赤色光(RLRL):急速進行例に有効。3)
  • 0.01%アトロピン+MiSight:追加効果は認められなかったとの報告がある(Erdinest 2022)。3)

PRK・LASIK・LASEKなどの屈折矯正手術は、眼球の成長が停止した後(10代後半~20代前半)にのみ適応となる。小児・思春期には原則として行わない。

Q 低濃度アトロピン点眼の最適濃度はどれですか?
A

LAMP試験(Yam 2019)では0.05%が最も有効で、最大67%の進行抑制効果が示された。3) 0.01%は混合した結果であり、単独では効果が限られる可能性がある。3) 最適濃度の選択は、効果と副作用(羞明・近見障害)のバランスを考慮して個別に判断する。

Q オルソケラトロジーは子供に安全ですか?
A

日本の多施設研究(1,438名)でのMK発生率は5.4/10,000 patient-yearsであった。3) 適切なケアを遵守すれば比較的安全な治療法である。ただし、水道水によるレンズ洗浄はアカントアメーバ角膜炎のリスクを高めるため厳禁である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

近視の主な病態は眼軸の延長であり、正視眼平均値から標準偏差3倍以上の延長が病的近視の基準とされる。

眼軸延長は網膜から送られる光学的シグナルにより制御されると考えられている。

  • 周辺遠視性デフォーカス:網膜周辺部に遠視性のぼやけが生じると、眼球はそれを補正しようとして眼軸を延長させる。多焦点CLや近視抑制眼鏡レンズはこの周辺デフォーカスを軽減することで眼軸延長を抑制する。2)
  • ドーパミン仮説:網膜のドーパミン放出が眼軸延長を抑制する。屋外の高輝度光がドーパミン分泌を促進するため、屋外活動が近視予防に有効と考えられる。3)
  • 低濃度アトロピンの機序:ムスカリン受容体(M1/M4受容体が主候補)を介して眼軸延長を抑制するとされるが、詳細な機序は研究中である。3)
  • RLRL療法の機序:650nmの赤色光照射が脈絡膜厚を増加させ、眼軸延長を抑制するとされる。3)

眼軸延長が高度に進行すると、脈絡膜・網膜・強膜に機械的伸展が加わる。

  • 後部ぶどう腫形成:強膜の局所的な外方膨出。硝子体牽引を介して黄斑分離症(MRS)を引き起こす。MRSは後部ぶどう腫を有する病的近視眼の9~34%に認められる。1)
  • 脈絡膜萎縮・CNV形成:脈絡膜の菲薄化が進み、Bruch膜亀裂から脈絡膜新生血管が侵入する。Fuchs斑はCNVの瘢痕化した状態である。

Gopalakrishnanら(2024)は、病的近視に伴う黄斑新生血管に対してアフリベルセプト硝子体内注射(IVA)を施行した後にMRSが進行した症例を報告した。1) 症例は49歳女性(右眼 -16D・眼軸28.16mm、左眼 -13D・眼軸27.35mm)で、IVA後のMRS悪化に対して25G PPV内境界膜剥離+SF6ガスタンポナーデにより良好な転帰が得られた。抗VEGF注射後のMRS悪化には注意が必要である。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

650nmの赤色光を用いたRLRL療法は、脈絡膜厚の増加を介して眼軸延長を抑制する新規介入法である。3)

  • 近視発症予防への応用も検討されており、約50%の発症低減効果が示唆されている。3)
  • 長期安全性データが不十分であり、今後の検証が必要である。3)
  • Ortho-KとのRLRL併用は急速進行例に対する選択肢として研究されている。3)

PLARI・NLARI・CAREなど、新しい光学設計の眼鏡レンズが開発・検討されている。3)

単独療法を超える近視抑制効果を目指した併用療法の研究が進んでいる。3) 急速進行例に対する個別化アプローチの確立が課題である。

近視予防の環境・社会的アプローチ

Section titled “近視予防の環境・社会的アプローチ”
  • COVID-19の影響:パンデミックによる近業増加・屋外活動減少が小児近視の進行加速と関連することが報告された。3)
  • 環境要因研究:都市計画・学校照明環境・緑地へのアクセスが近視有病率に与える影響が研究されている。3)
  • グローバル研究の必要性:現行データの多くは東アジアに偏っており、他地域でのデータ蓄積が求められる。3)

飽和脂肪・コレステロール摂取と眼軸長の相関が報告されており、栄養介入による近視抑制の可能性が検討されている。3)


  1. Gopalakrishnan N, et al. Progression of macular retinoschisis following intravitreal aflibercept injection for myopic macular neovascularization. BMC Ophthalmology. 2024;24:224.
  2. OTA Committee. Multifocal soft contact lenses for the treatment of myopia progression in children. Ophthalmology. 2024.
  3. Yam JC, et al. Interventions for slowing the onset and progression of myopia. Prog Retin Eye Res. 2025;109:101410.

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