全身所見
低身長・骨形成不全:多発性骨形成不全症(dysostosis multiplex)を呈する。
粗な顔貌:巨舌、扁平鼻梁、大頭症を認める。
臍・鼠径ヘルニア:初期症状として出現することが多い。
心臓病変:弁膜症、心筋症、不整脈を合併する。
関節拘縮:手根管症候群を伴うこともある。
肝脾腫・難聴:進行に伴い出現する。

ムコ多糖症(MPS)は、ライソゾーム酵素の遺伝的欠損により、不完全に分解されたグリコサミノグリカン(GAG)が細胞内外に蓄積する7つの疾患群の総称である。わが国でのMPS全体の発生頻度は出生5万人に1人程度と推定されている。
ムコ多糖症VI型(MPS VI)、別名マロトー・ラミー症候群は、ARSB遺伝子におけるN-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ(アリルスルファターゼB: ASB)の活性欠損による常染色体劣性遺伝疾患である。デルマタン硫酸およびコンドロイチン-4-硫酸の分解が障害され、組織・器官のライソゾーム内にGAGが蓄積する1)。発生率は10万人あたり0.36〜1.30人と非常にまれである1)。
Hurler症候群と類似した症状を呈するが、知的障害を伴わない点が他のMPSとの重要な相違点である2)。急速進行型では3歳以前に徴候が現れるが、緩徐進行型では20〜30代で診断されることが多い。急速進行型の患者は20〜30代で心不全により死亡することがある。
他のムコ多糖症と異なり、MPS VIでは知的障害を通常伴わない2)。ただし重症例では多臓器障害による身体的制約が学業・日常生活に影響を及ぼすことがある。
全身所見
低身長・骨形成不全:多発性骨形成不全症(dysostosis multiplex)を呈する。
粗な顔貌:巨舌、扁平鼻梁、大頭症を認める。
臍・鼠径ヘルニア:初期症状として出現することが多い。
心臓病変:弁膜症、心筋症、不整脈を合併する。
関節拘縮:手根管症候群を伴うこともある。
肝脾腫・難聴:進行に伴い出現する。
眼科所見
角膜全層混濁:GAGの角膜実質全層への沈着による。角膜厚は最大1500μmに達する2)。
緑内障:線維柱帯へのGAG蓄積による開放隅角緑内障と、角膜・虹彩へのGAG沈着による閉塞隅角緑内障の両方が生じうる2)。
視神経萎縮・乳頭浮腫:眼圧管理下でも進行する例がある。
眼瞼下垂:出現頻度は症例により異なる。
強膜GAG沈着:EDI-OCTで黄橙色斑として描出され、脈絡膜菲薄化を伴う1)。
網膜の変化は通常MPS VIとは関連しないとされるが1)、近年の報告では網膜色素上皮変化が50%の患者に認められている1)。角膜混濁が高度なため、正確な眼底評価が困難であることが見落としの一因と考えられる。
角膜移植により角膜透明性は改善しうるが、移植後も最終視力が光覚〜手動弁にとどまる例が報告されている2)。角膜以外の要因、特に視神経障害(「病態生理学」の項参照)が視力回復を妨げる。
主な診断検査を以下に示す。
| 検査法 | 目的 | 特記事項 |
|---|---|---|
| 尿中GAG | スクリーニング | デルマタン硫酸の上昇 |
| 酵素活性 | 確定診断 | ASB活性の低下 |
| 遺伝子検査 | 遺伝型確認 | ARSB変異の同定 |
眼科的検査においては、角膜混濁のため正確な眼底評価が困難となることが多い1)2)。角膜移植後にはEDI-OCTで強膜沈着の評価が可能となる1)。MRIにより視神経周囲くも膜下腔の拡大と視神経厚の減少を確認できる2)。眼圧測定にはiCare眼圧計が使用されるが、角膜肥厚によるアーチファクトの可能性に注意が必要である2)。
MPS VIの管理ガイドラインでは眼科定期検査が推奨されている3)。
酵素補充療法
ガルスルファーゼ(ナグラザイム®):ヒトN-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼの遺伝子組み換え製剤。1mg/kg/週の静注で投与する2)。
早期開始が推奨:疾患プロセスの早期に使用することで、全身症状の進行を抑制しうる。
角膜移植
造血幹細胞移植
骨髄移植/HSCT:ライソゾーム蓄積症状を軽減する治療法として報告されている。
多職種連携:眼科・耳鼻科・循環器科・整形外科・遺伝科などの協力が必要3)。
角膜混濁はI型とVI型で進行し、角膜移植を必要とする成人例がある。しかし角膜移植後もBCVAが光覚〜手動弁にとどまる症例が報告されており2)、角膜以外の視力低下要因への対策が重要である。
高眼圧症の管理には以下の薬剤が使用される2):
緑内障は小児緑内障の原因疾患として重要であり、線維柱帯における細胞外マトリックスの異常蓄積によりSchlemm管への房水流出抵抗が増大することが原因と考えられている。
疾患プロセスの早期に開始することが推奨される。報告例では酵素補充療法(ERT)開始年齢は2歳から18歳までさまざまであるが2)、早期開始ほど全身症状の進行抑制が期待される。
MPS VIの多彩な臨床像は、GAGの蓄積が複数の機序で組織障害を引き起こすことによる。
角膜混濁の機序:デルマタン硫酸が角膜全層に蓄積し、進行性に角膜透明性が低下する1)2)。角膜厚は最大1500μmに達し、正常の約3倍となる2)。
強膜沈着の分布パターン:乳頭周囲強膜はデルマタン硫酸に富み、後部眼球強膜はコンドロイチン硫酸の割合が高い。この正常なGAG分布パターンが、MPS VIにおける強膜沈着の眼底所見の分布と一致する1)。
眼圧上昇のメカニズムは二つに大別される2):
ただし角膜肥厚・硬化による測定誤差(アーチファクト)として高眼圧が過大評価されている可能性もある2)。
「後方緑内障」の概念:MPS VI患者では眼圧が制御されているにもかかわらず視神経萎縮が進行する例がある。
Magalhãesら(2023)は5例のMPS VI患者を後方視的に検討し、全例でMRIにより視神経周囲くも膜下腔の拡大と視神経厚の減少を確認した。萎縮した視神経は典型的な緑内障性cuppingを示さなかった2)。
この所見から、慢性水頭症による視神経の後方持続圧迫が、眼圧とは独立した視神経萎縮の原因であると考えられている。この機序を「後方緑内障(posterior glaucoma)」と命名することが提唱されている2)。
視神経乳頭の腫脹・萎縮は、強膜や硬膜にムコ多糖が蓄積し肥厚して視神経を圧迫することによっても起こると考えられる。
眼球後方での視神経圧迫が眼圧とは独立に視神経萎縮を引き起こすためである2)。「後方緑内障」と呼ばれるこの機序では、慢性水頭症により視神経が後方から持続的に圧迫される。MRIによる視神経評価が重要である。
Magalhãesら(2024)はMPS VI患者3例のケースシリーズにおいて、EDI-OCTによる強膜レベルのGAG沈着を初めて系統的に描出した。黄橙色斑として観察される強膜肥厚と脈絡膜菲薄化が全例で確認された1)。
この報告は、角膜移植や酵素補充療法による生存期間延長に伴い、従来知られていなかった晩期眼合併症が新たに認識されつつあることを示している1)2)。
「後方緑内障」の概念は、眼圧管理のみでは不十分であり、MRIなどの神経画像検査による視神経後方圧迫の評価が重要であることを示唆している2)。
また、MPS VIおよびMPS IVAの管理ガイドラインを患者向けインフォグラフィックとして再構成する取り組みが進められており、専門的な推奨情報を平易な言語で患者・家族に伝える試みとして注目されている3)。