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小児眼科・斜視

ケステンバウム・アンダーソン手術

1. ケステンバウム・アンダーソン手術とは

Section titled “1. ケステンバウム・アンダーソン手術とは”

ケステンバウム・アンダーソン手術は、眼振(nystagmus)患者に対して行われる斜視手術の総称である。眼振患者の多くには「静止点(null point)」、すなわち眼振の振幅が最小になる注視方向が存在する。患者はこの静止点で固視するために異常頭位(anomalous head position; AHP)をとる。手術の目的は、静止点を機械的に第一眼位(正面視)へ移動させ、AHPを解消することである。

1953年にAndersonとKestenbaumがそれぞれ独立にこの術式を提案した。Andersonは静止点方向への共同筋(yoke muscles)の後転術を提案し、Kestenbaumは4つの水平直筋すべてを操作する前後転術を提案した。Kestenbaumの原法は各筋5mmの操作であったが、典型的なAHPの矯正には不十分とされた。1973年にParksが「5, 6, 7, 8」法(straight flush法)に修正し、現在最も広く用いられる基本術式となった。

眼振手術は2つの原理に基づく1)

  • Immobilisation(固定化):筋効率を低下させ眼振を減弱させる
  • Relocalisation(再配置):静止点を第一眼位に移動させる

AHPの発生率は報告により19%から94%と幅がある。最も一般的な症状は水平方向の顔回し(face turn)であるが、垂直方向のあご上げ・あご引きや頭部傾斜(head tilt)を呈する例もある。

Q ケステンバウム手術とアンダーソン手術はどう違うのか?
A

Anderson法は静止点方向の共同筋2本の後転(減弱術)のみを行う。Kestenbaum法は4つの水平直筋すべてに対して後転と短縮(前後転術)を行う。Andersonの原法は手術量が少なく矯正力が限定的だが、Kestenbaumの原法(およびParks変法)はより大きな矯正効果が期待できる。日本ではまずAnderson法を行い、効果不十分時にKestenbaum法を追加する段階的アプローチが推奨されている。

眼振患者が呈するAHPの主な形態は以下のとおりである。

  • 顔回し(face turn):最も頻度が高い。水平方向の静止点を正面に合わせるために顔を左右に回す。AHP全体の47.5%を占める2)
  • あご上げ(chin elevation):下方視に静止点がある場合にみられる
  • あご引き(chin depression):上方視に静止点がある場合にみられる
  • 頭部傾斜(head tilt):回旋性眼振を有する場合に頭部を傾ける
  • 視力低下:静止点以外の眼位では眼振が増悪し、固視が不安定となるため視機能が低下する

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

眼振の運動特徴から、振子眼振と衝動性眼振に分けられる。感覚性眼振は振子様が多く、それ以外は衝動性が多い。

  • 静止点(null point):眼振の振幅が最小となる注視方向。先天性運動性眼振では眼振の強さが眼位によって変わることがしばしばある(眼位性眼振)
  • AHPの方向と眼位の関係:右向き眼位で眼振が強くなる場合、患者は左向き眼位を好み、顔を右に回す
  • AHPの角度:ゴニオメーター(関節式分度器)で測定する。外科的介入は20度を超えるAHPで検討される
  • 視力改善の可能性:手術により最大43%の患者で最高矯正視力が改善し、認識時間が60%短縮するとされる

AHPを伴う眼振は、以下の原因に大別される2)

  • 先天眼振(congenital/infantile nystagmus syndrome):ケステンバウム・アンダーソン手術の最も一般的な適応。生後6か月以内に発症する
  • 後天眼振(acquired nystagmus):神経疾患(脳幹・小脳病変)、眼疾患、その他の求心路障害に関連する。追加の精査(頭部MRI等)が必要である
  • 周期性交代性眼振(periodic alternating nystagmus; PAN):眼振方向が周期的に変化し、AHPの向きも変わる。静止点移動手術の前提が成り立たないため、Kestenbaum法・Parks法の適応外となる

続発斜視のリスク要因として、重度の両眼性弱視、ボツリヌス毒素治療の既往、4つの水平直筋の大きな後転量が報告されており、発生率は11%とされる。

Q 周期性交代性眼振(PAN)がある場合はなぜ手術を避けるのか?
A

PANでは眼振の方向が周期的に変化し、静止点の位置も時間とともに移動する。Kestenbaum法やParks法は静止点が一定であることを前提に手術量を計画するため、PANでは適切な矯正が得られない。PANに対しては水平4直筋大量後転術が有効とされる。

術前評価では以下の項目を確認する。

  • 調節麻痺下屈折検査乱視や不同視が一般的であるため、必ず施行する
  • 静止点の評価:静止点が一つであること、および時間経過とともに一定であることを複数回の診察で確認する
  • AHP角度の測定:ゴニオメーターを使用し、デバイスの一方の腕を視軸、もう一方を頭部軸に合わせて顔回しの度数を測定する。スマートフォンアプリ(EyeTilt等)でも測定可能である2)
  • プリズム評価:プリズム装用で頭位が改善する度数を記録する
  • 眼振記録:眼振図(EOG)やビデオ画像を記録し、振幅・振動数・波形を評価する

鑑別診断として以下が重要である。

鑑別疾患鑑別のポイント
周期性交代性眼振(PAN)1分間以上の観察で眼振方向が変化
眼振阻止症候群輻輳で眼振が軽減、内斜視との区別が必要
先天性筋性斜頸非眼性のAHP、胸鎖乳突筋の短縮

手術時期について確立された基準はない。先天眼振では就学前まで、後天眼振では少なくとも1年間の経過観察後、複数回の診察で再現性のあるAHP角度を確認してから行うのが妥当とされる。

  • プリズム治療:輻輳による眼振抑制効果とface turn矯正を兼ねたcompositeプリズム法がある
  • 薬物治療:アモバルビタール静注(保険適用外)による眼振改善の報告がある。後天性PANにはバクロフェン(保険適用外)の有効性が確認されている

手術治療:頭位異常の矯正を主目的とする場合

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日本の教科書では以下の段階的アプローチが推奨されている。

第一段階:Anderson法

静止点方向の共同筋の後転(減弱術)を行う。各後転量6mmで10~15度の矯正効果がある。静止位が右側にある場合、右眼外直筋および左眼内直筋の等量後転術となる。

Anderson法後にface turnが改善しない場合は、経過観察を行う。視力や見え方に改善があればプリズム治療併用で保存的に観察してもよい。静止位の拡大・固視の安定化に伴い、face turnが経時的に軽減する例がある。

第二段階:後藤法の追加

Anderson法で効果不十分な場合、静止位と反対方向の共同筋の短縮(強化術)を追加する。各短縮量4mmで10~15度の矯正効果がある。

Kestenbaum法 / Parks法

face turnが高度で静止位角度が20度を超え、視力が比較的良好な例では第一選択としてもよい。

術式手術量(内直筋後転-外直筋後転-内直筋短縮-外直筋短縮)
Parks法(5-6-7-8)5mm - 6mm - 7mm - 8mm
Plus one法(6-7-8-9)各筋1mm増量

Parks法(straight flush法)は、内直筋手術が外直筋手術より効果が大きく、後転術が短縮術より効果が大きいことを考慮して量定されている。静止位が右側にある場合、左眼内直筋後転5mm、右眼外直筋後転6mm、右眼内直筋短縮7mm、左眼外直筋短縮8mmとなる。

短縮術を伴うため、PANが十分に除外される学童期以降の施行が望ましい。

Anderson法

原理:静止点方向の共同筋の減弱(後転のみ)

矯正力:各6mmで10~15度

利点:手術侵襲が少なく、追加手術の余地がある

Kestenbaum/Parks法

原理:4水平直筋の前後転(減弱+強化)

矯正力:5-6-7-8mmで約20~25度

利点:大きな顔回しに対して十分な矯正効果

手術治療:眼振軽減を主目的とする場合

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明確な静止位を有さない例や、正面に静止位がある例では、眼振そのものの軽減を目的とした手術を検討する。

  • 水平4直筋大量後転術:両眼の内直筋・外直筋を赤道部より後方に移動させる。内直筋と外直筋を等量後転すると外斜視になりやすいため、内直筋の後転量を1~2mm減じる。それぞれ8~12mmの後転を行う。視力が1~3段階改善するとの報告がある。眼振振幅を減少させるが、振動数には影響しない
  • ファーデン法(後部縫着術):主に眼振阻止症候群に用いる。後転術と併用することが多い

あご上げの矯正には、両側の下直筋を各7~8mm後転し、両側の上直筋を各7~8mm短縮する。あご引きに対しては下斜筋前方移動術と上直筋後転の組み合わせが報告されている。頭部傾斜に対しては斜筋手術や垂直直筋の移動術を行う。

眼振と斜視を合併する場合は、固視眼の整列を優先し、非固視眼の手術量で斜視量を調整する。

Q 手術後に顔回しが再発することはあるか?
A

再発の可能性はある。成功率は報告により50~100%と幅がある。再発時には、以前に短縮した筋のさらなる短縮や、後転した筋への後部固定縫合(Faden法)の追加による再手術が安全かつ有効とされる。術後は一定期間の経過観察が重要である。

Q 眼振そのものを止める手術はあるのか?
A

現時点では眼振を完全に停止させる治療法は存在しない。水平4直筋大量後転術により眼振振幅を軽減し視力改善を図ることは可能であるが、振動数には影響しないとされる。詳細は「手術治療:眼振軽減を主目的とする場合」の項を参照。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

眼振手術は以下の2つの原理に基づく1)

Immobilisation

筋効率の低下外眼筋の後転により、筋の作動効率を低下させる。

眼振減弱:眼球の振れ幅(振幅)が減少し、固視が安定化する。

null zoneの拡大:手術後に眼振が最小となる範囲が広がり、視機能が改善する。

Relocalisation

静止点の移動:外眼筋の後転・短縮の組み合わせにより、静止点を第一眼位へ移動させる。

AHPの解消:正面視で眼振が最小となるため、異常頭位をとる必要がなくなる。

Anderson法は主にimmobilisationの原理を利用する。静止点方向の共同筋を後転させることで、眼球の動きを制限するとともに静止点の位置を移動させる。

Kestenbaum法・Parks法はimmobilisationとrelocalisationの両方を利用する。4つの水平直筋に対して後転と短縮を組み合わせることで、眼球を静止点から遠ざけ第一眼位方向へ再配置する1)

手術の量定において、内直筋手術は外直筋手術より効果が大きく、後転術は短縮術より効果が大きい。Parks法の手術量(5-6-7-8mm)はこの筋効果の差を考慮して設計されている。

水平4直筋大量後転術では、両眼の外眼筋の張力を可能な限り減弱させることで、眼振振幅を減少させる。ただし振動数には影響を与えないとされている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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Schildら(2013)は、Kestenbaum法に筋短縮術とタッキングを組み合わせた術式を42例(4~57歳)で検討した。水平直筋の対称的な後転とタッキングを5.5~10mm施行し、術前head turn中央値30度が術直後0度に矯正され、長期追跡では10度であった2)

Changら(2007)は、変法Kestenbaum手術の2プロトコルを92例の乳児眼振患者で比較した。平均33か月の追跡で、Parks変法群の88.2%が、もう一方のプロトコル群の87.8%がface turn 10度未満を達成した2)

Wagdyら(2017)は、拡大変法Kestenbaum手術を先天眼振50例に施行し、術後80%の患者でAHPが消失した。一方、術後に外斜位や外斜視を呈する例もみられた2)

Guptaら(2006)は、特発性乳児眼振に対する拡大Anderson法を前方視的に評価した。術前head turn平均32.5±5.8度の症例で、術後に眼振振幅・頻度が有意に減少し、眼球安定性が改善した2)

Grafら(2019)は、高用量Anderson手術を正位の乳児眼振29例(手術時年齢中央値7歳、範囲4~44歳)に施行した。術前head turnは5mで平均35度、0.3mで20度であり、共同筋に9~16mmの後転を行った1)

Scottらは、先天眼振32例の手術成績を報告した。全体で72%がhead turn 15度以下に減少し、35%が5度以下に改善した。一方、9%で10度以上の過矯正がみられた2)

Sauerら(2019)は、直筋プリケーション(plication)を眼振関連AHPの4例に施行した。6~18か月の追跡でAHPは平均22.5度から2.5度に減少した2)

腱切離再付着術(tenotomy and reattachment)はnull zoneの拡大効果が報告されているが、外眼筋固有受容器のフィードバック信号を障害するという欠点があり、結果はmixedである1)。ボツリヌス毒素の球後注射は外眼筋を弱化させ眼振を減弱させるが、効果は一時的であり、生理的眼球運動の喪失・複視眼瞼下垂などの副作用がある1)


  1. Gurnani B, et al. Nystagmus: a comprehensive review. Clinical Ophthalmology. 2025;19:1617-1647.
  2. Al-Dabet S, et al. Anomalous head posture (AHP): a comprehensive review. Survey of Ophthalmology. 2025;70:771-816.

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