コンテンツにスキップ
小児眼科・斜視

ジュベール症候群

ジュベール症候群(Joubert syndrome; JS)は、1969年にMarie Joubertにより初めて報告された先天性疾患である3)。一次繊毛(primary cilia)の構造・機能異常に起因するシリオパチーの一つに分類される。

3主徴は以下の通りである。

  • 筋緊張低下:ほぼ全例に認められる
  • 発達遅滞:運動・認知発達の遅れを伴う
  • 臼歯サイン(molar tooth sign):頭部MRIで小脳虫部低形成と上小脳脚の異常走行により臼歯様の形態を呈する

有病率は8万〜10万人に1人と推定される1)。Ashkenazi Jewish、French-Canadian、Hutterite、日本人に民族集積が報告されている。常染色体劣性遺伝が主体であるが、OFD1遺伝子のみX連鎖性遺伝をとる1)。34以上の原因遺伝子が同定されており、10〜40%は遺伝学的原因が未解明である。

JSは合併臓器障害のパターンにより6型に分類される(JSRD分類)5)。診断時年齢の中央値は33ヶ月であり3)、同胞の再発リスクは25%である2)

分類主な合併症
Pure JS眼・腎合併なし
JS+網膜ジストロフィー杆体-錐体ジストロフィー
JS+腎疾患ネフロン癆
JS+眼腎型網膜+腎
JS+肝疾患先天性肝線維症
JS+口顔指症候群多指症・口腔異常
Q ジュベール症候群はどのくらいまれな疾患か?
A

有病率は8万〜10万人に1人と推定される1)。常染色体劣性遺伝が主体であり、両親がともに保因者の場合、同胞の再発リスクは25%である2)

JSの症状は新生児期から乳児期にかけて顕在化する。

  • 筋緊張低下:ほぼ全例で認められ、哺乳困難の原因となる3)
  • 呼吸異常:新生児期に多呼吸と無呼吸が交互に出現する2)5)。呼吸不全は主要な死因の一つである3)
  • 発達遅延:座位獲得が17ヶ月、注視固定が3ヶ月で不可といった遅れを認める1)
  • 哺乳・嚥下困難:進行性の嚥下障害を呈する例がある3)

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

多彩な眼科的異常がJSの主要な特徴である。

眼球運動異常

眼球運動失行:約80%に認められる。水平サッケードが選択的に障害され、固視の変換時にhead thrusts(代償性の頭部衝動運動)を伴う。生後4〜6ヶ月頃に気付かれることが多い。

斜視:約74%。間欠性外斜視や収束斜視が報告されている1)7)

眼振:約72%。回旋性眼振が特徴的である7)

網膜・視神経異常

網膜ジストロフィー:約38%に合併。杆体-錐体ジストロフィーが多く、網膜電図異常で検出される。32歳で診断され視力6/60に低下した遅発例もある4)

コロボーマ:約30%。網膜コロボーマを呈する3)

視神経萎縮:約22%に認められる。

眼瞼下垂:約44%に認められる。

視覚発達は遅延するが、4〜6歳で成熟に至ることがある。3 Hz、5〜10度の頭部振戦を伴う場合がある。脈絡網膜炎や網膜血管症が報告されている1)

特徴的な顔貌を呈する3)5)

  • 突出した前頭部
  • 内眼角贅皮
  • 上向きの鼻孔
  • 耳介低位
  • 体幹失調:筋緊張低下から進行する
  • 多指症:8〜16%に認められ、軸後性が最多6)
  • 側弯症・エナメル質形成不全6)
  • 腎疾患:25〜33%に合併する5)。ネフロン癆が最多であり、末期腎不全(ESRD)到達の中央値は11.3歳である4)。一方、51歳で腎機能低下が始まり58歳で透析導入に至った遅発例も報告されている4)
  • 肝線維症:先天性肝線維症を合併する
  • 内分泌異常:下垂体異常や成長ホルモン欠乏が報告されている8)
Q ジュベール症候群で最も多い眼科所見は何か?
A

眼球運動失行が約80%と最も高頻度であり、斜視(74%)、眼振(72%)がこれに続く。水平サッケードの選択的障害が特徴的で、head thrustsとよばれる代償性の頭部運動で気付かれることが多い。

JSは一次繊毛の構造・機能に関わる遺伝子の変異により発症する。遺伝形式は常染色体劣性が主体で、OFD1のみX連鎖性を示す1)

現在40以上の原因遺伝子が同定されている8)。主要な遺伝子と頻度を以下に示す。

遺伝子頻度・特徴
CEP290約50%。LCAとも関連
AHI1約7%。眼腎型4)
TMEM67JS6型・COACH症候群1)7)
KATNIPJS26型8)
主要5遺伝子各6〜9%1)

一次繊毛はシグナル伝達に不可欠な細胞小器官であり、眼においては角膜水晶体線維柱帯、光受容体、網膜色素上皮に存在する。繊毛の異常が多臓器にわたる症状の原因となる。

同胞の再発リスクは25%であり2)遺伝カウンセリングが推奨される。

Q 遺伝子パネル検査が陰性の場合はどうすればよいか?
A

パネル検査で検出されない場合は、全エクソーム解析(WES)やゲノム解析に進む。既知遺伝子のイントロン変異は標準的な解析では見逃されるため、RNA解析が有用な場合がある8)

頭部MRIが診断の中心であり、以下の特徴的所見を確認する2)5)

  • 臼歯サイン(molar tooth sign):軸位断で小脳虫部低形成と上小脳脚の延長・肥厚により臼歯様の形態を呈する。JSの画像診断上の指標である
  • バットウイング(bat wing):第4脳室の特徴的な形態変化2)5)
  • Shepherd crook sign:上小脳脚の特異的な走行パターン2)

ただし、KATNIP関連JSでは臼歯サインを欠く例が11例中4例で報告されている8)。臼歯サインの不在がJSの除外根拠にはならない点に注意が必要である。

遺伝子パネル検査または全エクソーム解析(WES)により確定診断を行う1)7)

  • 網膜電図(網膜電図):網膜ジストロフィーの評価に不可欠
  • 細隙灯顕微鏡検査:コロボーマや前眼部異常の確認
  • 眼底検査:網膜色素異常・視神経萎縮の評価5)
  • 腎・肝超音波検査(USG):腎嚢胞やネフロン癆、肝線維症の評価5)
  • 尿濃縮負荷試験:腎尿細管機能の評価5)

超音波検査は妊娠11〜12週、胎児MRIは20〜22週から施行可能である2)6)。出生前WESも報告されている7)

  • Dandy-Walker奇形:小脳虫部低形成を伴うが臼歯サインを欠く
  • Meckel-Gruber症候群(MKS):TMEM67変異は両疾患に関与し、出生前MKS診断が出生後JSに変更された例がある7)
  • Bardet-Biedl症候群:肥満・性腺機能低下を伴うシリオパチー
  • Senior-Loken症候群:網膜ジストロフィー+ネフロン癆
  • Leber先天黒内障(LCA):CEP290変異が両疾患に関与

JSの根治療法は存在しない。対症療法と多職種連携による包括的管理が基本である2)

眼科管理

屈折矯正:適切な矯正レンズの処方。

弱視モニタリング:斜視や屈折異常に伴う弱視の早期発見。

斜視・眼瞼下垂手術:必要に応じて手術療法を検討。

視覚リハビリテーション:視覚発達遅延に対する支援。

全身管理

呼吸管理:新生児期の無呼吸発作に対しNIV(非侵襲的換気)等を使用5)3)

栄養管理:嚥下造影で評価し、必要に応じて胃瘻造設(G-tube)やNissen噴門形成術を施行3)

腎機能管理:生涯にわたるモニタリングが必要。透析や腎移植が必要になる場合がある4)2)

リハビリテーション:理学療法・作業療法・言語療法2)

歯科管理としては、エナメル質形成不全に対するフッ素塗布や口腔衛生指導が重要である6)

Q 全身麻酔時にはどのような注意が必要か?
A

呼吸中枢の異常を有するため、オピオイドおよび亜酸化窒素は使用を避ける。セボフルランが推奨される5)6)。術前に麻酔科医へJSの診断を伝え、術後の呼吸モニタリングを十分に行う必要がある。

Q 腎モニタリングはいつまで必要か?
A

生涯にわたる定期的な腎機能評価が必要である。51歳で初めて腎機能低下が始まり58歳で透析導入に至った遅発例が報告されており4)、成人期以降も油断できない。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

JSの病態の根幹は一次繊毛(primary cilia)の構造・機能障害である。一次繊毛は細胞膜から突出する微小管ベースの細胞小器官であり、Wnt・Hedgehog・Notchなどのシグナル伝達経路に不可欠である。

  • TMEM67:995アミノ酸からなる膜貫通タンパク質で、繊毛のtransition zoneに局在する1)。拡散障壁として繊毛内の分子組成を維持する機能を持つ。変異の分布にはMKSとJSで差異があり、MKSではエクソン8〜15にミスセンス変異が集中するのに対し、JSでは変異が遺伝子全体の約1/3に分散する1)
  • CEP290(nephrocystin-6):中心小体に局在し、転写因子ATF4を活性化する。JSの約50%を占める最も高頻度の原因遺伝子である
  • AHI1:小胞輸送に関与する4)。眼腎型JSの約7%に変異を認める
  • KATNIP:微小管の安定化に関与する8)。JS26型の原因遺伝子であり、臼歯サインを欠く表現型を示すことがある

光受容体外節は変形した一次繊毛であり、繊毛のconnecting ciliumを介したタンパク質輸送が視細胞の生存に必須である。繊毛機能の障害により光受容体が変性し、網膜ジストロフィーに至る。

小脳虫部低形成は体幹失調の原因であり、脳幹異常は呼吸調節障害の基盤となる。腎の集合管上皮に存在する一次繊毛の異常がネフロン癆を引き起こす。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

全エクソーム解析の普及と診断率向上

Section titled “全エクソーム解析の普及と診断率向上”

WESの普及により、従来未診断であったJS症例の遺伝学的診断率が向上している4)

Collardら(2021)は、61歳女性のAHI1関連JS症例を報告した4)。32歳で杆体-錐体ジストロフィーと診断され視力6/60に低下、51歳で腎機能低下(eGFR 57 mL/min)が始まり58歳で透析導入に至った。成人期の遅発例として生涯にわたるモニタリングの重要性を示す症例である。

新規原因遺伝子と表現型の拡大

Section titled “新規原因遺伝子と表現型の拡大”

Kozinaら(2023)は、TMEM67の新規複合ヘテロ接合体変異によるJS6型の5歳女児を報告した1)。間欠性外斜視、脈絡網膜炎、網膜血管症を認めた。

Tedescoら(2025)は、KATNIP関連JS(JS26型)の7家系11名を検討した8)。11例中4例で臼歯サインが不在であり、4例で下垂体異常、3例で成長ホルモン欠乏を認めた。従来のJS表現型を超える内分泌合併症の存在を示唆する所見である。

イントロン変異はWESの標準パイプラインでは検出困難であり、RNA解析の併用が期待される8)。出生前WESによる早期診断の可能性も検討されている7)


  1. Kozina AA, et al. A case of Joubert syndrome caused by novel compound heterozygous variants in the TMEM67 gene. J Int Med Res. 2023;51(10):1-10.
  2. Montero Torres JA, et al. Radiological features of Joubert syndrome and clinical case presentation. Radiol Case Rep. 2024;19:4167-4172.
  3. Castellano C, et al. Progressive dysphagia in Joubert syndrome: a report of a rare case. Cureus. 2024;16(8):e66648.
  4. Collard E, et al. Joubert syndrome diagnosed renally late. Clin Kidney J. 2021;14(3):1017-1019.
  5. Agarwal BD, et al. Neonatal Joubert syndrome with renal involvement and respiratory distress. Cureus. 2022;14(5):e24907.
  6. Rafatjou R, et al. Dental management of a child with Joubert syndrome. Iran J Child Neurol. 2022;16(2):137-142.
  7. Stembalska A, et al. Prenatal versus postnatal diagnosis of Meckel-Gruber and Joubert syndrome in patients with TMEM67 gene variants. Genes. 2021;12(7):1078.
  8. Tedesco MG, et al. Phenotypic spectrum of KATNIP-associated Joubert syndrome: possible association with pituitary abnormalities. Genes. 2025;16(5):524.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます