主所見
恒常性内斜視:30PD以上の大角度。斜視角が45PD超で生後6か月以前の発症が確認されれば、本態性の可能性が高い。
交差固視:右眼で左側、左眼で右側を固視する。外転制限との鑑別が必要。
弱視合併:約40〜50%に合併。固視の偏りで判定する。固視交代がなく偏りがある場合は斜視弱視のリスクが増大する。

乳児内斜視(infantile esotropia)は生後6か月以内に発症する恒常性・共同性の大角度内斜視である。斜視角は通常30プリズムジオプトリー(PD)以上を示す。かつては「先天内斜視」と呼ばれたが、近年は出生直後から存在するとは限らないとの認識から「乳児内斜視」に統一されている。
発症頻度は新生児のおよそ1/400〜1/50とされ、海外では10,000出生に約25例と考えられている。性差はない。両眼視機能の獲得状況からみて最も難治性の斜視の一つである。なお、新生児の約70〜75%は外斜位または外斜視で生まれてくるが、生後2〜3か月頃から眼位は良化しはじめ、生後6か月にはほぼ正位となる。
40PD以上の内斜視は自然消退しない。米国のPEDIG研究では生後2〜4か月に40PD以上の内斜視と確認された乳児のうち、自然消退した例は0/45例・0/21例であったと報告されている1)。CEOS研究の診断基準では、2.5か月以上の間隔をあけた2回の受診で40PD以上の内斜視を確認することが要件とされている1)。
生後2〜4か月に40PD以上の内斜視と確認された場合、自然消退はほぼ期待できない。PEDIGの研究では自然消退例は確認されなかった1)。早期に眼科を受診し、治療方針を決定することが重要である。
乳児本人は痛みや不快を訴えない。保護者が眼位のずれに気づくことが主な受診契機となる。
大角度の内斜視が主所見であり、複数の随伴所見が高率に合併する。乳児内斜視術後には約60%の症例で調節内斜視が合併してくるため、術前の調節麻痺下屈折検査が重要である。
主所見
恒常性内斜視:30PD以上の大角度。斜視角が45PD超で生後6か月以前の発症が確認されれば、本態性の可能性が高い。
交差固視:右眼で左側、左眼で右側を固視する。外転制限との鑑別が必要。
弱視合併:約40〜50%に合併。固視の偏りで判定する。固視交代がなく偏りがある場合は斜視弱視のリスクが増大する。
随伴所見
分離垂直偏位(DVD):50〜90%に合併。遮閉時に非固視眼が上転する。通常1〜2歳以降に出現する。
下斜筋過動:約70%に合併。内転時の上転として観察される。
融像不全眼振症候群(潜伏眼振):約40%に合併。片眼遮閉で誘発される水平衝動眼振であり、急速相は非遮閉眼方向を向く。
OKN非対称性:耳側→鼻側方向の追従が持続して優位となる非対称を示す。
固視交代を認める症例は単眼視力が保たれていることが多いが、両眼視機能は一般的に不良である。
病因は不明である。神経発達との関連を示す複数の仮説が提唱されている(詳細は「病態生理学・詳細な発症機序」の項参照)。
危険因子として以下が知られている。
斜視の家族歴が危険因子の一つとして挙げられており、遺伝的素因の関与が示唆されている。ただし、具体的な遺伝様式や原因遺伝子は特定されていない。未熟児・脳性麻痺・水頭症などの神経発達障害を持つ児に多く認められる。
調節麻痺下屈折検査と散瞳を伴う完全眼科評価が必要である。
偽内斜視との鑑別が最も重要である。東洋人では内眼角贅皮と扁平鼻根のために偽内斜視を呈することが多く、遮閉試験による確認が必須となる。
| 疾患名 | 鑑別ポイント |
|---|---|
| 偽内斜視 | 遮閉試験で眼位ずれなし。内眼角贅皮・扁平鼻根 |
| 調節性内斜視 | 1〜3歳発症、遠視背景、眼鏡で10PD以上減少 |
| 先天性外転神経麻痺 | 外転制限が真に存在する |
| Duane症候群I型 | 内転時の眼瞼裂狭小・眼球後退 |
| 眼振阻止症候群 | ENGで外転時に緩徐相速度減弱型の衝動眼振 |
その他、Ciancia症候群・Mobius症候群・感覚性内斜視・乳児重症筋無力症も鑑別に挙がる。
原則として手術による矯正が必要である。診断が確定したら速やかに矯正することが望ましい。
弱視は約40〜50%に合併する。健眼遮閉が治療の基本であり、斜視手術より先に弱視治療を完了させる必要はない。ただし偏心固視弱視や網膜対応異常が疑われる例では弱視治療を先行させる。
+2.00D以上の遠視が認められる場合は完全矯正眼鏡を試みる。斜視角が中等度の症例では膜プリズムの装用が両中心窩同時刺激に有用である。
手術時期
超早期手術:生後8か月以前を目安とする。立体視獲得率が最も高い。
早期手術:2歳まで。超早期に次いで良好な結果が得られる。
カットオフ:16か月を境として立体視獲得率が大きく低下するとの報告がある1)。
斜視角安定待機は不要:Lueder(2008)は斜視角の安定を待つ必要がないことを示した1)。
手術術式
両眼内直筋後転術:標準術式。斜視角に応じて後転量を決定する。内直筋付着部からの計測法と角膜輪部からの計測法がある。
定量(角膜輪部起点):斜視角45PD超の場合の後転量の目安は6か月以前→10mm、12か月以前→10.5mm、24か月以前→11mm。なお、乳児内斜視では内直筋付着部と角膜輪部の距離が正常(通常5.5mm)より有意に短く、かつ一定値ではないことが知られており、角膜輪部からの計測法がより再現性が高い。
3筋手術:大角度の場合は外直筋短縮を追加する1)。
術後管理:固視動揺→優位眼遮閉、8PD以上の残余斜視→膜プリズム装用。
立体視機能は生後2〜4か月から発達を開始し、2歳までに健常成人の8割程度に達する。この感受性期内に眼位を整復することが両眼視機能の獲得を促す。
内直筋に注入する。作用期間は約2〜3か月で、偏位角30〜35PD未満の症例でより効果的とされる。手術後の残余内斜視に対する補助的治療としても使用される1)。
超早期手術(生後8か月以前)が立体視の獲得に最も有利である。16か月をカットオフとして立体視獲得率が大きく低下するとの報告もある1)。ただし各症例の状態や合併疾患に応じて判断が必要であり、担当医と十分に相談することが重要である。
再手術率は15〜30%と高い。1歳での手術では60〜80%、4歳での手術では約25%とされ、手術時期が早いほど再手術率が高い傾向がある1)。低矯正・過矯正が主な原因であり、術後の定期観察が重要である。
乳児内斜視の病態については複数の理論が提唱されている。
霊長類モデルによる実験では、早期の眼位矯正により正常な眼球運動と両眼視が回復した一方、矯正が遅れた場合には持続性内斜視・潜伏固視眼振・DVD・OKN非対称性が残存した1)。
Richards(2007)の研究では、6か月以上の内斜視持続により単眼接続が両眼接続の3倍に増大することが報告されている1)。
Gerth(2008)の研究では、11か月未満に手術を行った群では正常なmVEPが得られたのに対し、11〜18か月に手術を行った群では異常・非対称なmVEPが残存したことが報告されている1)。
手術時期と両眼視機能の関連については多くの研究が蓄積されている。
| 研究 | 症例数 | 立体視獲得率(早期 vs 晩期) |
|---|---|---|
| Birch & Stager 20001) | 129例 | 6か月整復:100% / 1年超:8% |
| ELISS 20051) | 欧州58施設 | 早期群:13.5% / 晩期群:3.9% |
| Yagasaki 20201) | 複数群 | 超早期:77% / 早期:20% / 晩期:13% |
Birch & Stager(2006)は、早期手術群で融像77.8%・立体視14.8%を達成したのに対し、標準群では61.4%・2.3%にとどまったと報告している1)。
Yagasaki(2011)は、超早期手術群ではDVDが全例latentであったのに対し、晩期手術群では38.9%がmanifest DVDに至ったことを報告している1)。
Shin(2014)は、晩期手術が自発性DVDの発症リスクのOR=8.23(P<0.001)と関連することを報告している1)。
Drover(2008)は、手術後に同年齢対照群より速い感覚運動・粗大運動の発達が認められたことを報告し、乳児内斜視の手術が視覚以外の発達にも寄与することを示した1)。
Trikalinos(2005)はマルコフモデルを用いた解析で、早期整復のメリットが再手術リスクを上回ることを示した1)。
超早期手術(生後8か月以前)の利点として、立体視・融像など両眼視機能の獲得率向上、DVDがlatentにとどまる(manifest化を抑制する)こと、感覚運動・粗大運動の発達促進が報告されている1)。再手術率は高くなるが、両眼視機能獲得のメリットがリスクを上回るとされている。