この疾患の要点
ガラクトース代謝異常症は、ルロワール経路の酵素欠損により代謝産物が蓄積する常染色体潜性遺伝 疾患群である。
原因酵素の違いによりI型(GALT)、II型(GALK)、III型(GALE)、IV型(GALM)に分類される。
白内障 が主要な眼科的合併症であり、ガラクチトールの水晶体 内蓄積が原因である。
I型(古典的ガラクトース血症)は最も重篤で、新生児期に肝不全・敗血症・白内障などを呈する。
新生児マススクリーニングの対象疾患であり、日本・米国ではスクリーニング実施率100%である。
乳児期早期からの乳糖制限により白内障は可逆的とされるが、食事制限下でも発症する場合がある。
長期合併症として言語遅滞、学習障害、運動障害、卵巣不全などが知られている。
ガラクトース代謝異常症(galactosemia)は、ガラクトース代謝を担う酵素の先天的な欠損または活性低下により、ガラクトースやその代謝産物が蓄積する疾患群である。ルロワール経路(Leloir pathway)の4つの酵素のいずれかが障害されることで発症する。常染色体潜性(劣性)遺伝形式をとる。
日本での発生頻度は90万〜100万人に1人とされる。新生児マススクリーニングの対象疾患であり、スクリーニング実施率は日本・米国ともに100%、欧州では約39%である1) 。GALT欠損症は指定難病に指定されている。
原因酵素の違いにより以下の4型に分類される。
型 欠損酵素 主な特徴 I型(古典的) GALT 最重篤。新生児期発症 II型 GALK 白内障が唯一の症状 III型 GALE 中心型と末梢型に分類 IV型 GALM 2019年初記載。GALK類似
古典的ガラクトース血症(I型)の有病率は地域差が大きく、ヨーロッパでは1:40,000〜60,000、米国では1:50,000、日本では1:100,000、台湾では1:400,000と報告されている1) 。IV型(GALM欠損症)は2019年に初めて記載された比較的新しい病型で、これまでに42例が報告されており、推定発生率は1:228,411である2) 。
Q ガラクトース代謝異常症にはどのような型がありますか?
A 原因酵素の違いにより4型に分類される。I型(GALT欠損症)は最も重篤で新生児期から多臓器障害を呈する。II型(GALK欠損症)は白内障が唯一の症状である。III型(GALE欠損症)は重症の中心型と軽症の末梢型がある。IV型(GALM欠損症)は最も新しく特定された型で、GALK欠損症と臨床像が類似する。
型により症状の現れ方が大きく異なる。
I型 :生後1週間以内に哺乳不良、嘔吐、体重増加不良、黄疸が出現する。乳糖を含む母乳やミルクの摂取開始後に急速に全身状態が悪化する。
II型 :全身症状を認めず、潜行性に発症する。視力 低下で初めて受診する場合がある。
III型(中心型) :I型と同様に筋緊張低下、哺乳不良、嘔吐、体重減少が出現する。
IV型 :多くは無症状で、新生児スクリーニングで発見される。
I型(GALT欠損症)
肝不全 :黄疸、肝腫大、凝固異常(INR 4.2)を呈する。AST 135、ALT 244、高アンモニア血症(248 µg/dL)の報告がある4) 。
大腸菌敗血症 :ガラクトース高値が大腸菌発育を促進する。
白内障 :oil drop白内障(両側性)を認める4) 。
血球減少 :Hb 7g/dL、好中球870/mm³、血小板65,000/mm³と一過性の汎血球減少を呈することがある4) 。
長期合併症 :言語遅滞、学習障害、運動障害、卵巣不全、脳損傷(85%)、骨密度低下(26.5%)1) 。
II型(GALK欠損症)
白内障 :唯一の症状である。全身症状は認めない。
潜行性発症 :乳児白内障および若年白内障として発現する。
可逆性 :生後2〜3週間以内の治療開始で白内障が消失しうる。
III型(GALE欠損症)は中心型と末梢型に分けられる。中心型はI型類似の重篤な発症を示し、白内障を生じる。末梢型は軽症で主に赤血球・白血球に影響し、白内障との関連はない。
IV型(GALM欠損症)はGALK欠損症と臨床像が類似する。白内障リスクは11.9%(5/42例)と報告されている2) 。一過性の胆汁うっ滞(2/43例)や軽度トランスアミナーゼ上昇(10/43例)がみられることがある2) 。
成人期の神経合併症として、失調性歩行、振戦、認知障害、感音性難聴が知られている。MRIではびまん性白質変化と中等度小脳萎縮を認める3) 。
白内障はほとんどの型に共通する眼科的合併症である(末梢型GALE欠損症とDuarte型を除く)。
混濁の進行 :水晶体核の油滴状混濁で発症し、赤道部の混濁を伴った層状白内障を呈し、進行すると全白内障となる。
oil drop白内障 :I型の特徴的所見で、両側性に認められる4) 。
可逆性 :乳児期早期からの乳糖制限で白内障は可逆的とされる。ただし食事制限下でも白内障が発症する可能性はある。
Q ガラクトース血症による白内障はどのような形態ですか?
A 水晶体核の油滴状混濁(oil drop白内障)で発症し、赤道部の混濁を伴った層状白内障へと進行する。さらに進行すると全白内障に至る。乳児期早期の乳糖制限で可逆的とされるが、食事制限下でも発症する場合がある。詳細は「標準的な治療法」の項 を参照。
本疾患群はすべて常染色体潜性(劣性)遺伝形式をとる。
GALT遺伝子 :染色体9p13に位置し、約4.3kb、11エクソンからなる。379アミノ酸のホモダイマーを形成し、活性部位にHis-Pro-Hisモチーフを有する1) 。
変異の多様性 :HGMDには319種のGALT変異が登録されている(ミスセンス・ナンセンス251、スプライス部位27、小欠失24、挿入5、大欠失8)1) 。
民族差 :Q188Rはヨーロッパで約70%、K285Nはドイツ・オーストリアで約54%、S135Lはアフリカ系米国人で約50%のアレル頻度を占める1) 。
近親婚 :近親婚はホモ接合体のリスクを高め、複数の希少疾患が合併する可能性がある5) 。
日本では新生児マススクリーニングの対象疾患であり、血中ガラクトース値、ガラクトース-1-リン酸(Gal-1-P)値、赤血球GALT活性が測定される。診断がつき次第、直ちに乳糖摂取制限を開始する。
検査法 特徴 注意点 赤血球GALT活性 ゴールドスタンダード 輸血後は偽正常 遺伝子解析 変異の同定が可能 型の確定に有用 全エクソーム解析(WES) 成人期の遅発例に有用 未診断例の発見
赤血球GALT活性 :正常値は3.5 U/g Hb以上。2.3 U/g Hbへの低下が報告されている4) 。確定診断のゴールドスタンダードである。
遺伝子解析 :変異の同定により型の確定および予後推定が可能である1) 2) 。
WES(全エクソーム解析) :34歳で初めて診断された古典的ガラクトース血症の症例が報告されており、成人期の遅発診断にも有用である3) 。
トランスフェリン等電点電気泳動(TfIEF) :シアロトランスフェリンの異常パターンを検出する。鑑別診断および食事療法のコンプライアンス評価に有用である3) 4) 。
新生児期に類似の肝障害を呈する疾患との鑑別が重要である。先天性肝炎、I型チロシン血症、II型シトルリン血症、Fanconi-Bickel症候群が鑑別に挙げられる4) 。
Q 新生児スクリーニングで見逃されることはありますか?
A 日本と米国ではスクリーニング実施率100%であるが、欧州では約39%にとどまる1) 。また輸血後は赤血球GALT活性が偽正常を示すことがあり、見逃しの原因となりうる5) 。成人期に神経症状で初めて診断された症例も報告されている3) 。
ガラクトース(乳糖)制限食が治療の基本である。
NBS診断後 :直ちに乳糖摂取制限を開始する。乳糖・ガラクトース除去ミルクを使用する。
GALT活性による方針 :赤血球GALT活性が10%未満の場合は生涯にわたる乳糖制限が必要である。Duarte型では治療不要とされる1) 。
GALM欠損症 :無症状例では経過観察が可能である2) 。
乳児期早期の乳糖制限開始により白内障は可逆的とされる。
食事制限下でも白内障が発症する場合がある。
視機能に重大な障害がある場合は、年齢に応じた白内障手術が必要となる。
特にII型では長期間にわたって白内障の発症・進行を観察する必要がある。
I型の急性期には以下の対症療法が行われる。
高アンモニア血症 :安息香酸Na 250mg/kg/日、フェニル酪酸 250mg/kg/日4)
感染症 :大腸菌敗血症に対する抗菌薬治療
肝不全 :凝固因子補充、電解質管理
長期的な管理として以下の定期的評価が不可欠である。
血中ガラクトース、Gal-1-P、赤血球ガラクチトール値の測定
白内障の形成を評価するための定期的な眼科検査
全身合併症(神経発達、卵巣機能、骨密度など)のモニタリング
Q 食事制限をしても白内障は発症しますか?
A 乳児期早期の乳糖制限で白内障は可逆的とされるが、食事制限下でも発症する場合がある。そのメカニズムは完全には解明されていない。特にII型では長期間の経過観察が重要である。
ガラクトースはルロワール経路を通じて代謝される。この経路の4つの酵素が順次作用する。
GALM (ガラクトースムタロターゼ):β-D-ガラクトースをα-D-ガラクトースへ構造変換する。
GALK (ガラクトキナーゼ):α-D-ガラクトースをガラクトース-1-リン酸にリン酸化する。
GALT (ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ):ガラクトース-1-リン酸とUDP-グルコースの置換を触媒し、グルコース-1-リン酸とUDP-ガラクトースを生成する。
GALE (UDP-ガラクトース-4-エピメラーゼ):UDP-グルコースとUDP-ガラクトースの相互変換を触媒する。
いずれかの酵素が欠損すると、変異箇所より上流の代謝産物が蓄積し、代替経路へ回される。
眼科的に重要な代替経路はアルドース還元酵素経路 である。蓄積したガラクトースはアルドース還元酵素によりガラクチトールに変換される。ガラクチトールは浸透圧活性を持ち、水晶体前方のアルドース還元酵素濃度が高いため水晶体線維細胞に蓄積しやすい。この蓄積により水晶体の膨隆、細胞溶解、そして白内障形成が引き起こされる。
GALTタンパクのミスフォールディング :変異GALTタンパクの構造異常が酵素活性低下の一因である1) 。
グリコシル化異常 :Gal-1-Pの蓄積によりUDP-ガラクトースが減少し、糖タンパク質・糖脂質のグリコシル化が障害される。シアロトランスフェリンの上昇として検出される3) 4) 。
骨髄不全 :正常造血にはグリコシル化が不可欠であり、その障害が一過性血球減少の原因となる4) 。
脳組織への影響 :脳組織は代謝産物の蓄積に対して特に感受性が高く、長期の神経合併症の原因となる3) 。
Lucasら(2021)は、34歳で全エクソーム解析により初めて古典的ガラクトース血症と診断された症例を報告した3) 。複合ヘテロ接合体(Q188R + K285N)で、失調性歩行・振戦・認知障害・感音性難聴を呈し、MRIでびまん性白質変化と中等度小脳萎縮を認めた。低ガラクトース食の開始後、シアロトランスフェリンが75%低下した。
動物モデルにおいて、AAV9ベクターを用いた新生児期の遺伝子補充療法が成功しており、臨床応用への期待が高まっている1) 。mRNA治療も有望な選択肢として研究が進められている。
ミスフォールドしたGALTタンパクの構造を安定化させる薬理学的シャペロンの開発が検討されている1) 。
GALM欠損症に対する治療薬候補として、β-ガラクトシダーゼの有用性が示唆されている2) 。
Lucasら(2021)は、シアロトランスフェリンやN-グリカンプロファイルが疾患活動性のサロゲートマーカーとして有用であることを報告した3) 。低ガラクトース食開始後にシアロトランスフェリンが75%低下したことから、治療効果のモニタリングにも応用可能と考えられる。
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