眼周囲所見
短眼瞼裂(眼瞼狭小):水平方向の眼瞼裂が短く、FASの最も重要な眼科的診断基準である。
内眥開褶(蒙古ひだ):アルコール曝露乳児の最大80%に認められる。
小眼球症:眼球全体の発育不全を伴う。
内眥間距離開離:両内眥間の距離が増大する。
眼瞼下垂:上眼瞼が下垂し視野を制限する。

胎児性アルコール症候群(fetal alcohol syndrome; FAS)は、妊娠中の母親のアルコール摂取により胎児に生じる不可逆的な先天性疾患である。特徴的顔貌、成長遅滞、中枢神経障害の三徴を主症状とする。
FASは胎児性アルコールスペクトラム障害(FASD)の最重症型に位置づけられる。FASDにはアルコール関連神経発達障害(ARND)、アルコール関連先天異常(ARBD)、出生前アルコール曝露に伴う神経行動障害(ND-PAE)が含まれる。
世界のFASD有病率は1000人あたり7.7人と推定される。米国の学童におけるFASD有病率は0.6〜5.0%である。FAS患者1人あたりの生涯コストは約200万ドル(2002年推定)に達し、米国全体では年間40億ドル超の社会的負担が生じている。
臨床診断は以下の4項目中2つ以上を満たす場合になされる。
新生児期からの早期診断にはRDSS(改訂形態異常スコアリングシステム)が使用可能であり、41点満点中5点以上でFASDが示唆される1)。
世界のFASD有病率は1000人あたり7.7人と推定される。米国学童では0.6〜5.0%にFASDが認められ、決して稀な疾患ではない。
FASにおける眼科的な自覚症状は主に視力低下と行動上の問題である。
FASでは眼周囲・眼内・眼球運動の広範な領域に所見を認める。眼科検査はFASの早期診断に有用である。
眼周囲所見
短眼瞼裂(眼瞼狭小):水平方向の眼瞼裂が短く、FASの最も重要な眼科的診断基準である。
内眥開褶(蒙古ひだ):アルコール曝露乳児の最大80%に認められる。
小眼球症:眼球全体の発育不全を伴う。
内眥間距離開離:両内眥間の距離が増大する。
眼瞼下垂:上眼瞼が下垂し視野を制限する。
眼内所見
眼球運動・機能異常として以下が認められる。
アルコールは既知の中枢神経系催奇形因子であり、胎盤を自由に通過する。FASの発症には以下の機序が関与する。
飲酒の量とパターンが催奇形作用の重要な決定因子である。特にビンジ飲酒(大量一気飲み)は胎児への影響が大きい。安全な飲酒量の閾値は現在も不明である。
脆弱X症候群(FXS)の前変異(PM)保因者である母親はアルコール・薬物乱用のリスクが高いことが報告されている2)。FXSとFASの二重診断例では、認知・行動障害が相加的に重症化する2)。
安全な飲酒量の閾値は不明である。飲酒量だけでなくパターン(ビンジ飲酒)も催奇形作用に大きく影響する。妊娠中は完全禁酒が推奨される。
FASの診断は臨床的に行われる。特異的なバイオマーカーは未確立である。
臨床診断は4項目(特徴的顔貌、成長遅滞、脳への影響、神経行動学的影響)のうち2つ以上を満たす場合になされる。母親のアルコール曝露歴が確認されることが診断の補強となるが、情報が得られない場合もある。
眼科検査はFASの早期診断に有用であり、以下が推奨される。
RDSSスコアの主要評価項目と配点を以下に示す。
| 評価項目 | 所見 | 配点(例) |
|---|---|---|
| 赤唇縁 | 薄い | 2〜4点 |
| 鼻唇溝 | 平滑 | 2〜4点 |
| 頭囲 | 小頭症 | 2〜4点 |
RDSSは41点満点で5点以上がFASD示唆とされる1)。ある症例報告では生後3日の男児で薄い赤唇縁、平滑な鼻唇溝、小頭症、扁平な鼻根、長い鼻唇溝を認め15点と判定された1)。
FASに類似する疾患として以下が挙げられる。
FASは不可逆的な疾患であり、根治治療は存在しない。妊娠中の禁酒が唯一の予防法である。治療の目標は二次障害の軽減と生活の質の向上である。
早期発見と行動療法・特別支援教育の組み合わせが転帰改善の最重要因子である。以下の多職種連携による個別化治療が推奨される。
FASに特異的な薬剤は存在しない。注意欠如・多動症(ADHD)を合併する場合は刺激薬が使用される。
FASでは心房中隔欠損症(ASD)などの心奇形を合併することがある。軽症例は経過観察とするが、重症例では外科的修復が必要となる。ある症例では34歳になって初めてASDが診断され、続発性肺高血圧に至った例が報告されている4)。
FASは不可逆的疾患であり治癒は不可能である。しかし早期介入(行動療法・特別支援教育・眼科的管理)により二次障害を軽減し、生活の質を改善することは可能である。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。
アルコールの催奇形作用は複数の経路を介して発揮される。
神経堤細胞毒性
直接的細胞死:アルコールは前脳を組織する前方神経堤細胞にアポトーシスを誘導する。
顔面・脳構造の形成障害:神経堤細胞の減少により特徴的顔貌と脳構造異常が生じる。
エピジェネティック異常
DNAメチル化異常:遺伝子発現パターンの恒久的変化を引き起こす。
ヒストン修飾異常:クロマチン構造が変化し、神経可塑性が破壊される。
レチノイン酸阻害
合成酵素の競合阻害:アルコールとレチノイン酸は共通の代謝酵素を使用する。
顔面形成異常:レチノイン酸シグナルの低下が中顔面の発育障害を引き起こす。
視神経形成不全は動物実験モデルにおいて、網膜神経節細胞と軸索密度の減少、グリア細胞の障害、髄鞘の損傷として確認されている。
脳構造への影響として、基底核・小脳・脳梁の不均衡な容積縮小が報告されている2)。これらの脳構造変化はサッケード異常や注意障害の基盤となる。
Korenら(2021)は5例のFASD患者を対象にCBD(カンナビジオール)の投与を行い、Nisonger破壊的行動スコアが18±1.0から6±2.1へ有意に改善したことを報告した(p=0.0002)3)。用量例として5歳児にCBD油(20%)2滴/日、12歳児にCBD油(15%CBD+1%THC)3滴/朝が使用された。攻撃性・衝動性・落ち着きのなさの著明な改善が認められ、副作用の報告はなかった。
ただしこの研究は症例数5例の非盲検研究であり、使用されたカンナビノイドの種類・投与経路も統一されていない3)。今後の大規模ランダム化比較試験が必要である。
胚形成期のコリン補給や天然抗酸化物質の投与によるFASD予防の可能性が検討されている。アブラナ科野菜に含まれる抗酸化物質が、神経堤細胞へのアルコール誘発ストレスを軽減する可能性が示唆されている。