無菌性の原因
血管奇形:海綿静脈洞硬膜動静脈瘻、頸動脈海綿静脈洞瘻。
自己免疫・全身疾患:甲状腺眼症、全身性エリテマトーデス(SLE)、潰瘍性大腸炎。
血液疾患:抗リン脂質抗体症候群、鎌状赤血球素因、自己免疫性溶血性貧血、遺伝性出血性末梢血管拡張症(HHT)。
腫瘍:鼻粘膜の腺様嚢胞癌、海綿静脈洞髄膜腫、悪性腫瘍に関連した凝固亢進。
ホルモン関連:経口避妊薬、タモキシフェン。
外傷・炎症:顔面外傷、Tolosa-Hunt症候群、特発性眼窩炎症性疾患。

上眼静脈血栓症(Superior Ophthalmic Vein Thrombosis; SOVT)は、眼窩の主要な静脈還流路である上眼静脈(SOV)に血栓が形成される稀な疾患である。視力および生命を脅かしうる合併症として認識されており、多くの基礎疾患に起因する。
上眼静脈は眼窩腔の上内角に起始し、角静脈と眼窩上静脈の合流により形成される。中心網膜静脈・脈絡膜からの渦静脈を含む複数の静脈系をドレナージし、上眼窩裂を通じて海綿静脈洞へ流入する1)。眼窩静脈還流の大部分を担う重要な構造である。
海綿静脈洞は蝶形骨洞上部・トルコ鞍側方に位置し、動眼神経・滑車神経・外転神経・三叉神経・内頸動脈が通過する。SOVTが海綿静脈洞血栓症(CST)へ進展すると、これらの脳神経への波及や頭蓋内合併症が生じる。
SOVTの発生率は不明で、きわめて稀な疾患である。van der Poelらが1975〜2019年の文献で集計した報告例は合計69例のみであり、このうち77.8%が無菌性であった。Sotoudehら(2019)はさらに24例を報告し、うち50%が敗血症性であった。
SOVTは血管損傷・血流うっ滞・血液凝固亢進のうち少なくとも1つの機序(ウィルヒョーの3徴)が関与して発症し、敗血症性(septic)と無菌性(aseptic)に大別される。
1975〜2019年の文献でも69例のみの報告であり、きわめて稀な疾患である。発生率の正確なデータは存在せず、類似した症状を呈する眼窩蜂窩織炎や海綿静脈洞血栓症との鑑別を経て診断される。
SOVTの症状は通常片側性に出現するが、海綿静脈洞血栓症(CST)に進展した場合や全身疾患に起因する場合は両側性になりうる。
Shen(2024)の症例(93歳女性)では、左眼周囲浮腫を伴う2週間の経過で受診し、左眼視力20/70(弱視眼)、右眼20/25であった1)。Swiatek(2022)の小児症例(13歳男児)では、左眼の発赤・腫脹が1日で急速に進行し、発熱・頻脈・頻呼吸などの敗血症徴候を呈した2)。
海綿静脈洞血栓症へ進展した場合、眼深部痛から発熱、眼窩うっ血症状(結膜浮腫・眼瞼腫脹・眼瞼下垂・眼球突出)、眼球運動障害の順に症状が出現する。蝶形骨洞炎や咽頭炎を原因とする場合は外転神経麻痺が初発症状として現れやすい。重症例では静脈うっ滞網膜症や網膜中心静脈血栓症が生じることがある。
SOVTの病因は無菌性と敗血症性に大別される。
無菌性の原因
血管奇形:海綿静脈洞硬膜動静脈瘻、頸動脈海綿静脈洞瘻。
自己免疫・全身疾患:甲状腺眼症、全身性エリテマトーデス(SLE)、潰瘍性大腸炎。
血液疾患:抗リン脂質抗体症候群、鎌状赤血球素因、自己免疫性溶血性貧血、遺伝性出血性末梢血管拡張症(HHT)。
腫瘍:鼻粘膜の腺様嚢胞癌、海綿静脈洞髄膜腫、悪性腫瘍に関連した凝固亢進。
ホルモン関連:経口避妊薬、タモキシフェン。
外傷・炎症:顔面外傷、Tolosa-Hunt症候群、特発性眼窩炎症性疾患。
敗血症性の原因
副鼻腔炎:蝶形骨洞炎・篩骨洞炎・全副鼻腔炎が最多の感染源。
眼窩感染症:眼窩蜂窩織炎、涙嚢炎に起因する眼窩蜂窩織炎。
顔面・歯科感染症:顔面蜂窩織炎、咀嚼筋間隙膿瘍、歯科感染症。
その他:耳様突起炎、レミエール症候群。
原因菌:黄色ブドウ球菌と連鎖球菌が最も多い。
COVID-19:感染およびワクチン接種に関連した症例報告あり。
Swiatek症例では蝶形骨洞炎を原因とし、血液培養でStreptococcus constellatus、副鼻腔培養でMSSAが検出された2)。Streptococcus milleri群(SMG:S. intermedius、S. constellatus、S. anginosus)は副鼻腔病変への関与が高く、嫌気性条件で繁殖し、抗菌薬投与下でも多発膿瘍を形成しやすいという特徴がある2)。
凝固異常や全身疾患が見つからない特発性の症例も存在する。
COVID-19感染およびCOVID-19ワクチン接種後にSOVTを発症した症例が報告されている。COVID-19は高凝固状態を誘発することが知られており、眼窩を含む全身の静脈血栓イベントとの関連が注目されている。
SOVTの症状は眼窩蜂窩織炎や海綿静脈洞血栓症と重複するため、画像診断が不可欠である。推奨される画像検査は造影CT(CTアンギオグラフィー)または造影MRI(MRアンギオグラフィー)である。
Shen症例ではCTアンギオグラフィーで左SOVの著明な拡張と非造影が検出され(急性血栓に合致)、部分的な中心窩網膜厚の合併も疑われた1)。
Swiatek症例では造影MRI(T1造影)で左SOVの血栓症を確認し、充満欠損と造影不全が認められた2)。
感染の疑いが低い場合は、全身疾患および凝固亢進障害の精査を行う。Shen症例では全身疾患のワークアップで異常を認めなかった1)。
以下の画像所見を比較することで診断と鑑別に役立てる。
| 検査法 | 主な検出所見 | 特徴 |
|---|---|---|
| 造影CT | SOV拡大・filling defect | アクセス容易 |
| 造影MRI | 軟部組織・脳神経の詳細 | DWI追加可能 |
両検査とも推奨されており、相互補完的である。CTはアクセスが容易で骨病変の評価に優れる。MRIは軟部組織の詳細描出と脳神経の評価に優れており、造影剤禁忌例ではDWIが代替として用いられる。
SOVTに対する最適な治療法は明確に定義されておらず、大規模研究やRCTも行われていない。原因が判明した場合はその病因に基づいた介入が原則である。
敗血症性SOVT・眼窩蜂窩織炎・中心窩網膜厚が疑われる場合、広域抗菌薬による経験的治療を直ちに開始する。バンコマイシンやセフタジジムなどが使用される。
感染性海綿静脈洞血栓症では、高単位の抗菌薬の静脈内投与を即座に開始し、培養結果が出るまで広域スペクトルの抗菌薬を使用する。感染源に応じて耳鼻科医・脳外科医と連携し、緊急の外科的排膿処置が必要となることがある。
Swiatek症例では、セフタロリン+メトロニダゾール静注から開始し、セフトリアキソン静注+メトロニダゾール内服(後に静注へ変更)に切り替えた2)。病原体が血栓内に封じ込められていることが多いため、感染の臨床的解明後も2週間以上の抗菌薬継続が推奨される文献もあるが、治療期間のコンセンサスは未確立である。
SMGが原因の場合、抗菌薬だけでは膿瘍制御が困難で、繰り返しの外科介入が必要となることがある2)。
孤立性SOVTにおける有用性はRCTでは未確立だが、中心窩網膜厚への血栓進展防止または既に中心窩網膜厚が進行している場合に適応を検討する。絶対的禁忌がなければ全身的抗凝固療法を開始できるというのが一般的な見解である。中心窩網膜厚を対象としたWeerasingheらの研究では抗凝固療法が死亡率低下に関連すると報告されている。最適な投与量・期間は確立されていない。
Swiatek症例ではエノキサパリンによる治療的抗凝固が実施されたが、抗凝固療法下でSOVの出血を伴う膿瘍が形成されるリスクも示唆された2)。脳静脈洞血栓症に対してはワーファリン療法が行われることがある。
非感染性で眼窩炎症性症候群に合致する場合に検討される。眼窩のうっ血緩和・眼球突出の軽減に寄与する可能性があるが、統合されたエビデンスはない。
眼窩膿瘍や副鼻腔疾患がある場合は一次感染源のドレナージを行う。甲状腺眼症等で視神経圧迫がある場合は眼窩減圧術を検討する。劇症例では経大腿動脈的血栓除去術の成功報告もある。
Shen症例では内視鏡下副鼻腔手術による左眼窩減圧と副鼻腔ドレナージを施行し、術後1か月で眼球運動が正常化し他の症状も改善した1)。
Swiatek症例では両側副鼻腔開放術後に眼窩膿瘍が形成され、複数回の前頭眼窩切開による排膿が必要となった2)。
孤立性SOVTに対する抗凝固療法の有用性はRCTでは未確立である。ただし、中心窩網膜厚への血栓進展防止の観点から、絶対的禁忌がなければ開始できるというのが一般的な見解である。最適な投与量・期間の標準化された指針はなく、個々の症例に応じた判断が求められる。
SOVが閉塞すると眼窩静脈の還流が障害され、眼窩内圧が上昇する。これにより眼球突出・結膜浮腫・眼球運動制限が生じる。SOVは上眼窩裂を通じて海綿静脈洞と直結しているため、血栓が進展すると海綿静脈洞内の脳神経(III・IV・V1・VI)に波及し、海綿静脈洞症候群を引き起こす。
弁のない静脈系では副鼻腔・顔面・眼窩から海綿静脈洞へ感染が逆行性に伝播しやすく、血栓性静脈炎や敗血症性塞栓を介して感染の波及が生じる2)。感染性血栓性静脈炎が進行すると、静脈周囲への感染波及により静脈周囲膿瘍が形成される2)。
SOVは渦静脈を介して脈絡膜をドレナージしている(上渦静脈→SOV→海綿静脈洞、下渦静脈→下眼静脈→海綿静脈洞)1)。SOV閉塞時には上方の静脈ドレナージ領域から側副血行路を介して下方の脈絡膜血管に血流が再分配される。そのため、閉塞部位と離れた下耳側で脈絡膜厚の増加と血管拡張がより顕著となる1)。閉塞解除後には脈絡膜厚とCVI(choroidal vascular index)が減少する(下耳側で40.0μm減少、上耳側で29.9μm減少)1)。
Shenら(2024)はSOVT後の脈絡膜変化をSS-OCTで縦断的に観察した初の報告を行った1)。閉塞側と反対方向(下耳側)で脈絡膜厚・血管拡張が最も顕著という知見は、渦静脈ドレナージ経路の再構築を反映しており、中心性漿液性脈絡網膜症など他の脈絡膜疾患における静脈過負荷の理解にも応用可能とされている。
Swiatekら(2022)は小児の蝶形骨洞炎起因の両側中心窩網膜厚およびSOVT症例において、SMGが関与する場合の管理困難さを報告した2)。抗菌薬とエノキサパリンによる治療下でも膿瘍が形成・再発し、複数回の手術が必要であった。症状変化時の迅速な再画像検査と積極的な外科介入が長期後遺症の軽減に有効とされる。