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神経眼科

偽偽フォスター・ケネディ症候群

1. 偽偽フォスター・ケネディ症候群とは

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偽偽フォスター・ケネディ症候群(Pseudo-Pseudo Foster Kennedy Syndrome; PPFKS)は、FKSと同様の眼底所見(一側の視神経萎縮+対側の乳頭浮腫)を呈するが、その成因が2つの独立した病態の偶然の合併であるきわめて稀な疾患である。

この疾患を理解するには、まず関連する3つの症候群の定義を整理する必要がある。

FKS

フォスター・ケネディ症候群:前頭葉・鞍周囲の頭蓋内腫瘤が同側の視神経を直接圧迫して萎縮させ、頭蓋内圧亢進により対側に乳頭浮腫を生じる古典的症候群。タイプ1(圧迫による直接損傷)が最も知られている。

原因:前頭葉腫瘍、髄膜腫、頭蓋咽頭腫下垂体腺腫など。

PFKS

偽フォスター・ケネディ症候群:頭蓋内腫瘤は存在せず、両眼に連続して生じる非動脈炎性前部虚血性視神経症により、先に発症した側の視神経萎縮+後から発症した側の乳頭浮腫が同時期に観察される状態。

特徴:一方の非動脈炎性前部虚血性視神経症による突然の視力低下の既往が鑑別に重要。

PPFKS

偽偽フォスター・ケネディ症候群:頭蓋内腫瘤による一方の視神経萎縮と、それとは無関係の対側非動脈炎性前部虚血性視神経症(虚血性視神経症)による乳頭浮腫が偶然合併した稀な症候群。

特徴:2つの独立した病態の合併であり、FKSともPFKSとも異なる。

PPFKSの初報告はGelwanらによる。80歳女性の症例で、左眼に非動脈炎性前部虚血性視神経症+右眼に鞍結節髄膜腫による視神経萎縮が確認された。

Q FKS・PFKS・PPFKSはどう違うのか?
A

FKSは頭蓋内腫瘤が唯一の原因であり、同側の圧迫性視神経萎縮と対側の頭蓋内圧亢進による乳頭浮腫が一連の病態から生じる。PFKSは頭蓋内腫瘤なしで両側連続性の虚血性視神経症(典型的には非動脈炎性前部虚血性視神経症)によって類似所見を呈する。PPFKSはこれら2つとは異なり、頭蓋内腫瘤(視神経圧迫)と非動脈炎性前部虚血性視神経症という2つの独立した病態が偶然に同時存在することで生じる。

PPFKSの症状は、頭蓋内腫瘤と虚血性視神経症の2つの病態が複合する。

  • 急激な片眼の視力低下:非動脈炎性前部虚血性視神経症側に生じる。多くの患者(70%以上)が起床時に視力低下に気付く。
  • 頭痛:頭蓋内圧亢進に伴う症状。
  • 悪心・嘔吐:頭蓋内圧亢進に続発する。
  • 複視:腫瘍による脳神経への侵襲に伴い生じることがある。
  • 一過性視力障害:頭蓋内圧亢進により断続的に生じる視力の変動。

眼底所見は「一方の視神経萎縮+対側の乳頭浮腫」という非対称的な乳頭所見が特徴的である。

  • 視神経萎縮側(腫瘤圧迫側):視神経乳頭の蒼白化・菲薄化。視力低下は緩徐に進行することが多い。
  • 乳頭浮腫側(非動脈炎性前部虚血性視神経症側):乳頭の発赤・腫脹、乳頭縁の出血(火炎状出血)。非動脈炎性前部虚血性視神経症側では急激な視力低下が先行する。
  • 視野欠損:暗点形成や生理的盲点の拡大が見られる。
  • 「disk at risk」:非動脈炎性前部虚血性視神経症発症のリスクとなる小さく混み合った視神経乳頭(小乳頭)の存在。
  • 複視:腫瘍による脳神経侵襲に続発する場合がある。

非動脈炎性前部虚血性視神経症側の視力は、10/10〜光覚まで多様である。初診時に10/10を呈する割合は20〜33%、5/10以上を呈する割合は50%以上、1/10以下は20〜33%とされる。

Q PPFKSでは両眼とも視力が低下するのか?
A

必ずしも両眼とも低下するわけではない。非動脈炎性前部虚血性視神経症側では急激な視力低下が生じるが、腫瘤圧迫側は緩徐な進行であり、初診時には視力が保たれている場合もある。視力の経過は基礎疾患の性質と進行状況に依存する。

PPFKSの成立には、2つの独立した病態がそれぞれの機序で視神経に影響を及ぼす必要がある。

頭蓋内腫瘤(視神経圧迫側)の原因:

  • 髄膜腫:最も多い。クモ膜細胞(meningothelial cells)から発生し、15のサブタイプが存在する。大半が良性・非浸潤性であり、緩徐に発育する。
  • 頭蓋咽頭腫:鞍上部に生じる良性腫瘍。
  • 下垂体腺腫視交叉・視神経への圧迫を生じる。
  • 神経芽細胞腫、前頭葉膿瘍、動脈瘤:その他の原因として報告されている。

非動脈炎性前部虚血性視神経症(虚血性視神経症側)のリスク要因:

  • 「disk at risk」:小乳頭(小さく混み合った視神経乳頭)は視神経乳頭虚血の最大の構造的リスク因子である。
  • 視神経乳頭ドルーゼン:50歳未満の若年非動脈炎性前部虚血性視神経症症例ではドルーゼンとの関連が報告されている。
  • 血管障害リスク因子:高血圧、糖尿病、脂質異常症なども背景因子となりうる。

PPFKSの確定診断には、頭蓋内腫瘤と虚血性視神経症の両方を証明することが必須である。

  • 神経画像(CT・MRI):視神経を圧迫する頭蓋内腫瘤の同定が必須。造影・非造影の頭部/眼窩CT・MRIを施行する。髄膜腫は造影で均一な増強効果を示す。
  • 眼窩CT:眼窩内病変の除外、視神経への圧迫評価に用いる。
  • 包括的視機能検査:視力、視野、色覚、相対的求心性瞳孔異常(RAPD)の評価。
  • 完全な神経学的診察:脳神経障害の有無、錐体路症状の確認。
  • 血液検査(GCA除外目的):50歳以上の患者では、動脈炎性虚血性視神経症(AAION)と非動脈炎性前部虚血性視神経症の鑑別のためESR・CRP・血小板数を測定する。

以下の表に非動脈炎性前部虚血性視神経症とAAIONの主な検査値の違いを示す。

検査項目非動脈炎性前部虚血性視神経症AAION(巨細胞性動脈炎)
ESR正常上昇
CRP正常上昇
血小板数正常上昇
  • 側頭動脈生検:50歳以上で巨細胞動脈炎が疑われる場合に施行する。スキップ病変のため生検の約5%で偽陰性となりうる。

PPFKSの診断確定には以下との鑑別が必要となる。

  • FKS:頭蓋内腫瘤のみが原因。対側の乳頭浮腫は頭蓋内圧亢進によるもので、虚血性視神経症は伴わない。
  • PFKS:頭蓋内腫瘤なし。両眼に連続して生じる非動脈炎性前部虚血性視神経症の前後差として出現する。突然の視力低下の既往が重要。
  • 視神経炎:若年・女性・良好な初期視力・眼球運動時痛・充血性乳頭浮腫・中心暗点が鑑別点となる。
  • 圧迫性視神経症:緩徐進行性の視力低下、眼球突出・眼球運動異常を伴い、乳頭浮腫が4〜6週以降も持続する。
  • 偽乳頭浮腫:視神経乳頭ドルーゼン(しばしば両側性・非対称性、視機能は通常正常)、高度遠視強度近視、傾斜乳頭、網膜有髄神経線維。これらは視機能が保たれる点で非動脈炎性前部虚血性視神経症と区別される。
  • 外傷性視神経症糖尿病性乳頭症、微小血管炎:個々の症例で除外が必要。
Q なぜ巨細胞動脈炎の血液検査が必要なのか?
A

50歳以上では動脈炎性虚血性視神経症(AAION)が非動脈炎性前部虚血性視神経症と臨床的に類似した所見を呈することがある。巨細胞動脈炎によるAAIONは対側眼への進展リスクが高く、迅速なステロイド治療が失明予防に必須である。ESR・CRP・血小板を測定し、巨細胞動脈炎を積極的に除外する必要がある。

PPFKSの治療は根本原因に応じて行う。2つの独立した病態が存在するため、それぞれに対して適切な対応が必要である。

巨細胞動脈炎(巨細胞性動脈炎)が疑われる場合

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  • 全身性ステロイド:巨細胞動脈炎疑い時に即座に開始する。
  • 側頭動脈生検:確定診断のために施行する。スキップ病変により約5%で偽陰性となるため、陰性でも巨細胞動脈炎を除外できない場合がある。

頭蓋内腫瘤(髄膜腫等)に対する治療

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  • 外科的切除:髄膜腫に対する主要な治療法。腫瘍を摘出することで視神経への圧迫を解除する。
  • 副腎皮質ステロイド:術前に腫瘍周囲浮腫および頭蓋内圧を軽減する目的で使用する。
  • 定位放射線治療・放射線手術:高齢者や手術を希望しない患者、外科的リスクが高い場合に非外科的選択肢として考慮される。
  • 占拠性病変の摘出術:腫瘍摘出による頭蓋内圧亢進の解消が基本。
  • 脳室腹腔(VP)シャント術:水頭症を伴う場合に考慮する。
  • アセタゾラミド(ダイアモックス)特発性頭蓋内圧亢進症に対して使用される。
  • マンニトール:急性期の頭蓋内圧亢進に対して使用される。
Q 髄膜腫が原因の場合、手術以外の選択肢はあるか?
A

定位放射線治療(ガンマナイフ、サイバーナイフなど)や通常の放射線治療が非外科的選択肢として存在する。特に高齢者や全身状態が不良で外科的リスクが高い場合、または患者が手術を希望しない場合に考慮される。放射線治療は腫瘍の増殖抑制を目的とするが、腫瘍の縮小効果は外科的切除に劣ることが多い。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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FKSの機序(1つの病態から生じる):

  • 頭蓋内腫瘤(前頭葉・鞍周囲)が視神経を直接圧迫する。
  • 圧迫側の視神経が萎縮する(同側視神経萎縮)。
  • 腫瘤の増大により慢性的な頭蓋内圧亢進が生じる。
  • 頭蓋内圧亢進が対側の視神経乳頭に浮腫を引き起こす(対側乳頭浮腫)。
  • 2つの眼所見(萎縮と浮腫)は1つの病態の結果である。

PPFKSの機序(2つの独立した病態の偶然の合併):

  • 頭蓋内腫瘤が一方の視神経を圧迫し、萎縮を引き起こす。
  • それとは全く無関係に、対側眼で非動脈炎性前部虚血性視神経症が発症する。
  • 非動脈炎性前部虚血性視神経症は視神経乳頭の虚血により乳頭浮腫を生じる。
  • 「視神経萎縮+対側乳頭浮腫」という外見上FKSに類似した所見が偶然成立する。
  • 2つの眼所見は、それぞれ独立した病因から生じる。

非動脈炎性前部虚血性視神経症の病態

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非動脈炎性前部虚血性視神経症は視神経乳頭の虚血を本態とする疾患である。「disk at risk」(小さく混み合った視神経乳頭)という構造的リスク因子を持つ患者では、視神経内の血管が圧迫されやすく虚血が生じやすい。視神経乳頭ドルーゼンを有する患者では、特に50歳未満において非動脈炎性前部虚血性視神経症との関連が指摘されている。

髄膜腫はクモ膜細胞(meningothelial cells)から発生する。15のサブタイプが存在し、大半が良性かつ非浸潤性の緩徐増殖性腫瘍である。視神経を包む硬膜・くも膜に近接した部位(蝶形骨縁、鞍結節、嗅窩など)に発生した場合、視神経を直接圧迫してFKSまたはPPFKSの一側要素を引き起こす。

予後は基礎疾患に依存する。AAIONは非動脈炎性前部虚血性視神経症と比較して視覚的予後が不良とされる。また腫瘤圧迫による視神経萎縮は、圧迫の早期解除により一部改善する可能性があるが、完全回復は困難なことが多い。


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