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神経眼科

小児MOG抗体関連疾患

MOG抗体関連疾患(MOGAD: Myelin Oligodendrocyte Glycoprotein Antibody-Associated Disease)は、MOG(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)に対するIgG抗体の存在を特徴とする中枢神経系(CNS)脱髄疾患である。多発性硬化症(MS)およびAQP4抗体陽性NMOSD(視神経脊髄炎スペクトラム障害)とは異なる独立した疾患単位として認識されている。

疫学

  • 世界的年間発症率:約1.6〜4.8/100万人、有病率は1.3〜2.5/10万人1)
  • 発症年齢:二峰性分布を示し、小児では5〜10歳、成人では20〜45歳にピーク1)
  • 小児発症の割合:全MOGAD症例の約50%が小児で発生
  • 急性脱髄症候群におけるMOGADの頻度:11歳未満の小児の約50%を占める1)
  • 性差:男女比は約1:1で性差はほとんどない

オランダの研究では、MOG陽性急性脱髄症候群の発症率は小児10万人あたり0.31人に対し成人では0.13人であり、小児での発症がより多い。

Q 小児MOGADはMSやNMOSDとどう違うのか?
A

MOGADはMS・AQP4陽性NMOSDとは異なる独立した脱髄疾患であり、それぞれ異なる抗体・病理機序・臨床経過を示す。MOGADでは小児でのADEM発症が特徴的であり、MSよりも予後良好な経過をとることが多い。詳細は「病態生理学・詳細な発症機序」の項も参照。

年齢により初発症状の分布が大きく異なる点がMOGADの特徴である。

  • 脳症(ADEM型):発熱だけでは説明できない意識レベルの変化や行動の変化。小児では脳症の徴候が微妙で、行動変化として現れることがある。11歳未満の小児で最多(40〜50%)。
  • 視力低下(視神経炎型):片側性または両側性の急性視力低下、視野欠損、色覚障害。眼球運動痛を伴うことが多く、頭痛と誤認されることもある。11歳以上の小児および成人で主な発症形式。
  • 四肢麻痺・感覚障害(脊髄炎型):急性の運動障害や感覚障害、自律神経症状(排尿障害など)。

年齢と発症型によって異なる所見が得られる。主要な3表現型の特徴を以下に示す。

ADEM型

対象年齢:主に11歳未満の小児。全小児MOGADの40〜50%。

MRI所見:両側性・境界不明瞭なT2高信号病変(2cm超)。深部白質と灰白質の両方を侵す。深部灰白質(視床・基底核)病変を伴うことがある。

白質ジストロフィー様パターン:融合性の両側性白質変化。予後不良と関連。

視神経炎型

対象年齢:主に11歳以上。成人でも最多の発症形式。

眼底所見視神経乳頭浮腫が75〜86%に認められ(成人では45.8%)、中等度〜重度では乳頭周囲出血を伴うこともある。

MRI所見:縦断的視神経病変(視神経長の50%超)が81.3%(成人41.7%)、両側同時性68.8%(成人50%)と小児で顕著に高い2)

脊髄炎型

特徴的所見:3椎体以上にわたるT2高信号(長大横断性脊髄炎; LETM)。通常は頸髄を侵す。

H sign:軸位断でH字型を呈する灰白質限局性のT2高信号。小児では100%、成人では12.5%に認められ、顕著な年齢差がある2)

円錐部病変:MOGADへの特異性が高い所見。造影効果は約50%に認められる3)

稀な表現型・その他の所見

  • 皮質脳炎:小児の13.5%に認められ(成人3.6%)、小児でより高頻度。
  • NMO型(約4%):再発性視神経炎+LETMの組み合わせ。欧州コホートでは小児NMOSDの58%がMOG陽性であった。
  • ADEM-ON(ADEMに続く視神経炎):再発性MOGADの最大40%に認められる1)。初発ADEMの若年患者が成長後に視神経炎として再発するパターン。
Q 小児と成人で初発症状が異なるのはなぜか?
A

11歳未満では脳がより可塑的であり、かつ免疫応答の特性が成人と異なるため、ADEMのような広汎な脱髄像を呈しやすいと考えられている。11歳以上では成人に近い臨床像(視神経炎優位)へと移行する。

MOGの局在と抗体の役割

MOG(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)はCNSミエリンの最外層およびオリゴデンドロサイト表面に発現するマイナーな膜貫通タンパク質である。MOG-IgG抗体はこれを標的とし、補体活性化・細胞障害を通じて脱髄を引き起こす1)

年齢依存性

5〜10歳に発症ピークがあり、11歳未満ではADEM優位、11歳以上ではON(視神経炎)優位の臨床像を示す。

感染との関連

典型的には感染症の前駆症状が発症に先行する3)

再発リスク因子

  • 長期再発リスク:約35%。5年超のフォローアップでは最大70%に達する1)
  • 早期再発:初発後3ヶ月未満の「非常に早期の再発」(成人)および3〜12ヶ月の「遅延型早期再発」(小児・成人)が長期再発リスクと関連1)
  • ステロイド治療期間:3ヶ月未満の短期治療は再発リスクを増大させる1)

推奨検体・検査法

  • 血清検体が推奨。CSF(髄液)は陽性率が40〜60%にとどまり、CSF単独では見逃しが多い1)
  • ライブCBA(生細胞ベースアッセイ)が推奨。ELISAやウエスタンブロットは偽陰性が多く不適切1)
  • 10歳未満の脱髄症状を呈する小児全例にMOG-IgG検査を実施すべき1)
  • 特異度:約98〜99%。703例の小児健常対照では陽性ゼロ

低力価CBA陽性の場合、疾患対照群の1〜2%で偽陽性がある点に留意する。

Banwell et al. 2023(Lancet Neurology)による国際診断基準は以下の2段階から構成される。

確定診断:CBA力価≧1:100、またはライブCBA陽性

支持的診断(力価不明または低力価陽性の場合):1つ以上の以下の支持的所見が必要

表現型支持的臨床/MRI所見
視神経炎両側同時性・縦断的視神経病変・視神経鞘周囲造影・視神経乳頭浮腫
脊髄炎LETM・中心性脊髄病変/H sign・円錐部病変
脳/脳幹/大脳症状境界不明瞭T2高信号・深部灰白質病変・橋/小脳/延髄T2高信号・皮質病変

診断性能(Varley et al. 2024、539例検証)2)

指標小児(135例)成人(404例)全体
感度100%91.9%96.5%
特異度98.8%98.9%98.9%
精度99.2%98.3%98.5%

小児は成人より支持的所見が多く(p=0.0011)、診断基準の性能は小児でより高い2)

  • MSAQP4陽性NMOSD(AQP4抗体陰性の確認が重要3)
  • ウイルス性脳炎CNS血管炎
  • ミトコンドリア疾患悪性腫瘍血球貪食症候群(HLH)

髄液検査:オリゴクローナルバンドはMOGADの約20%で陽性(MSではより高頻度)2)

メチルプレドニゾロン静注療法(IVMP)

Section titled “メチルプレドニゾロン静注療法(IVMP)”

急性期のほぼすべての症例で用いられる第一選択治療である。

  • 用量:20〜30 mg/kg/日(最大約1 g/日)を3〜5日間
  • その後:経口プレドニゾン漸減を数週間〜数ヶ月継続。欧州小児MOGコンソーシアムは漸減期間の合計を3ヶ月以上とすることを推奨
  • 早期開始の重要性:発症7日以内の免疫療法開始で再発リスクが6.7倍減少1)
  • 治療開始遅延の影響:発症10日超の開始は3ヶ月時点の視力回復不良およびpRNFL(網膜神経線維層)菲薄化と有意に関連1)
  • 経口ステロイドの再発率:治療中断後(特に10 mg未満または中止後2ヶ月以内)に70%が再発1)

IVIG(免疫グロブリン静注療法)

Section titled “IVIG(免疫グロブリン静注療法)”
  • 用量:合計1〜2 g/kg(1日あたり1 g/kg以下)を1〜5日間
  • 副作用プロファイルが良好で小児での忍容性が高い
  • 急性期IVIGは3ヶ月以上の時点での視力・EDSSの改善と関連
  • IVMP後または併用でのエスカレーション治療として位置づけられる
  • 早期開始が完全回復の最も強力な予測因子
  • 国際専門家調査では二次治療としてPLEXを81%が支持1)

再発抑制を目的とした維持療法を選択する際は、エビデンスが成人研究から転用されている点を考慮する必要がある。

  • ステロイド節約型免疫抑制剤アザチオプリンミコフェノール酸モフェチル(MMF)が一般的。開始後3〜6ヶ月間は再発リスクが高いため、欧州コンソーシアムは確立期間中の経口ステロイド漸減の並行を推奨。
  • 維持IVIG:大規模国際レトロスペクティブ研究で年間再発率の有意な低下が示された1)。用量反応関係として、4週ごとに1 g/kg以上の投与で再発が有意に少ない1)
  • リツキシマブ:再発率を低下させるが、B細胞除去にもかかわらず一部は再発する。AQP4陽性NMOSDと比較してMOGADでの生物学的有効性は低く、メタ解析(19研究)でも年間再発率低下はAQP4陽性NMOSDに比べて有意に小さい1)

小児神経科・眼科・リハビリテーション科・心理職による多職種チームでの管理が推奨される。成長・発達、就学支援、心理的健康、視能訓練、家族の負担への配慮が重要である。

Q ステロイドはどのくらいの期間使い続けるのか?
A

急性期のメチルプレドニゾロン静注後、経口プレドニゾロンへの移行と段階的な漸減を行う。欧州小児MOGコンソーシアムは漸減期間を合計3ヶ月以上とすることを推奨しており、それより短い場合は再発リスクが増大する1)。5週間以上の漸減でも再発リスクの低減が示されている。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

MOGの分子的特徴

MOGはCNSミエリンの最外層およびオリゴデンドロサイト表面に発現するマイナーな膜貫通タンパク質である1)。免疫系から露出しやすい部位に存在するため、自己抗体の標的となりやすい。

MOGADの病理学的特徴

MOGADはNMOSDのアストロサイト病(AQP4標的)とは異なる**オリゴデンドロサイト病(oligodendrogliopathy)**である1)

  • 炎症細胞浸潤:炎症性プラークではCD4陽性T細胞が優位(MSではCD8陽性T細胞が優位)1)
  • 病理学的特徴:可変的な顆粒球浸潤、MOG負荷マクロファージ、補体・Ig沈着1)

補体経路の関与

前臨床モデルおよび病理標本で補体沈着と抗体依存性細胞貪食の証拠が示されている。古典的経路・副経路の両方が活性化するが、MOG-IgGによる補体活性化はAQP4-IgGより弱い(二価結合MOG-IgGの特性による)。

新生児Fc受容体経路とT細胞活性化

MOG-IgGは新生児Fc受容体経路を活性化し、動物モデルではT細胞の活性化・組織浸潤を増強することが示されている。

サイトカインプロファイル

Th17関連分子および一部のTh1関連分子が上方制御される。AQP4陽性NMOSDと類似するがMSとは異なるプロファイルを示す。

H signの病理学的基盤

H sign(脊髄軸位断でH字型を呈する灰白質限局性のT2高信号)はMOGAD患者の30〜50%に認められる。AQP4陽性NMOSDでは頻度が低く、MSでは認められないため、MOGAD特異性の高い画像所見とされている3)。灰白質限局性病変として現れる機序はMOGの発現分布と関連すると考えられている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

Varley et al.(2024)は1,879例のMOG-Ab検査患者から539例(小児135例、成人404例)を後方視的に評価した2)。小児では成人より支持的所見が多く(p=0.0011)、脊髄炎型ではH signが小児100%対成人12.5%と顕著な差が認められた。再発性疾患では支持的所見がフォローアップ時に増加した(中央値2→3.5、p=0.03)。

  • 機能的回復:小児の75〜96%が完全回復。MOG-ON患者の56〜73%で視力完全回復(成人より良好)。
  • OCTと機能的回復の乖離:小児OCT所見は成人と同程度の神経軸索消失を示すにもかかわらず、機能的回復は良好という乖離が報告されている。
  • 発症年齢との相関:発症年齢が遅いほど視力予後が悪化する線形相関が示されている。
  • 再発性・多相性経過の予後:完全回復率31〜50%(単相性の約半分)と不良。MDEM(多相性ADEM)患者の50%に認知機能障害が認められている。

現時点で小児MOGADの治療に関する発表済みRCTは存在せず、新規免疫療法薬の治験が進行中である。

  • ステロイド vs 非ステロイド維持免疫療法:ステロイドがIVIG・リツキシマブ・MMFに比べ再発予防に優位であったとの知見がある一方、長期副作用の問題が課題となっている1)
  • リツキシマブの限界:B細胞除去にもかかわらずMOGADでの再発が報告されており、AQP4陽性NMOSDほどの有効性は得られていない1)
Q 小児MOGADの長期的な予後はどのようなものか?
A

小児の75〜96%が完全回復しており、成人より良好な予後が期待できる。ただし再発性・多相性の経過をたどった場合は完全回復率が31〜50%と低下する。また5年超の長期フォローアップでは再発率が最大70%に達するとの報告もあり、長期的な経過観察が重要である。


  1. Jeyakumar N, Lerch M, Dale RC, Ramanathan S. MOG antibody-associated optic neuritis. Eye. 2024.
  2. Varley JA, Champsas D, Prossor T, et al. Validation of the 2023 International Diagnostic Criteria for MOGAD in a Selected Cohort of Adults and Children. Neurology. 2024.
  3. Aristizabal Ortiz S, Campaña Perilla LA, Guarnizo Capera AP. The “H sign” in MOGAD myelitis. Neurological Sciences. 2025.

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