ADEM型
対象年齢:主に11歳未満の小児。全小児MOGADの40〜50%。
MRI所見:両側性・境界不明瞭なT2高信号病変(2cm超)。深部白質と灰白質の両方を侵す。深部灰白質(視床・基底核)病変を伴うことがある。
白質ジストロフィー様パターン:融合性の両側性白質変化。予後不良と関連。

MOG抗体関連疾患(MOGAD: Myelin Oligodendrocyte Glycoprotein Antibody-Associated Disease)は、MOG(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)に対するIgG抗体の存在を特徴とする中枢神経系(CNS)脱髄疾患である。多発性硬化症(MS)およびAQP4抗体陽性NMOSD(視神経脊髄炎スペクトラム障害)とは異なる独立した疾患単位として認識されている。
疫学
オランダの研究では、MOG陽性急性脱髄症候群の発症率は小児10万人あたり0.31人に対し成人では0.13人であり、小児での発症がより多い。
MOGADはMS・AQP4陽性NMOSDとは異なる独立した脱髄疾患であり、それぞれ異なる抗体・病理機序・臨床経過を示す。MOGADでは小児でのADEM発症が特徴的であり、MSよりも予後良好な経過をとることが多い。詳細は「病態生理学・詳細な発症機序」の項も参照。
年齢により初発症状の分布が大きく異なる点がMOGADの特徴である。
年齢と発症型によって異なる所見が得られる。主要な3表現型の特徴を以下に示す。
ADEM型
対象年齢:主に11歳未満の小児。全小児MOGADの40〜50%。
MRI所見:両側性・境界不明瞭なT2高信号病変(2cm超)。深部白質と灰白質の両方を侵す。深部灰白質(視床・基底核)病変を伴うことがある。
白質ジストロフィー様パターン:融合性の両側性白質変化。予後不良と関連。
視神経炎型
対象年齢:主に11歳以上。成人でも最多の発症形式。
眼底所見:視神経乳頭浮腫が75〜86%に認められ(成人では45.8%)、中等度〜重度では乳頭周囲出血を伴うこともある。
MRI所見:縦断的視神経病変(視神経長の50%超)が81.3%(成人41.7%)、両側同時性68.8%(成人50%)と小児で顕著に高い2)。
脊髄炎型
特徴的所見:3椎体以上にわたるT2高信号(長大横断性脊髄炎; LETM)。通常は頸髄を侵す。
H sign:軸位断でH字型を呈する灰白質限局性のT2高信号。小児では100%、成人では12.5%に認められ、顕著な年齢差がある2)。
円錐部病変:MOGADへの特異性が高い所見。造影効果は約50%に認められる3)。
稀な表現型・その他の所見
11歳未満では脳がより可塑的であり、かつ免疫応答の特性が成人と異なるため、ADEMのような広汎な脱髄像を呈しやすいと考えられている。11歳以上では成人に近い臨床像(視神経炎優位)へと移行する。
MOGの局在と抗体の役割
MOG(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)はCNSミエリンの最外層およびオリゴデンドロサイト表面に発現するマイナーな膜貫通タンパク質である。MOG-IgG抗体はこれを標的とし、補体活性化・細胞障害を通じて脱髄を引き起こす1)。
年齢依存性
5〜10歳に発症ピークがあり、11歳未満ではADEM優位、11歳以上ではON(視神経炎)優位の臨床像を示す。
感染との関連
典型的には感染症の前駆症状が発症に先行する3)。
再発リスク因子
推奨検体・検査法
低力価CBA陽性の場合、疾患対照群の1〜2%で偽陽性がある点に留意する。
Banwell et al. 2023(Lancet Neurology)による国際診断基準は以下の2段階から構成される。
確定診断:CBA力価≧1:100、またはライブCBA陽性
支持的診断(力価不明または低力価陽性の場合):1つ以上の以下の支持的所見が必要
| 表現型 | 支持的臨床/MRI所見 |
|---|---|
| 視神経炎 | 両側同時性・縦断的視神経病変・視神経鞘周囲造影・視神経乳頭浮腫 |
| 脊髄炎 | LETM・中心性脊髄病変/H sign・円錐部病変 |
| 脳/脳幹/大脳症状 | 境界不明瞭T2高信号・深部灰白質病変・橋/小脳/延髄T2高信号・皮質病変 |
診断性能(Varley et al. 2024、539例検証)2)
| 指標 | 小児(135例) | 成人(404例) | 全体 |
|---|---|---|---|
| 感度 | 100% | 91.9% | 96.5% |
| 特異度 | 98.8% | 98.9% | 98.9% |
| 精度 | 99.2% | 98.3% | 98.5% |
小児は成人より支持的所見が多く(p=0.0011)、診断基準の性能は小児でより高い2)。
髄液検査:オリゴクローナルバンドはMOGADの約20%で陽性(MSではより高頻度)2)。
急性期のほぼすべての症例で用いられる第一選択治療である。
再発抑制を目的とした維持療法を選択する際は、エビデンスが成人研究から転用されている点を考慮する必要がある。
小児神経科・眼科・リハビリテーション科・心理職による多職種チームでの管理が推奨される。成長・発達、就学支援、心理的健康、視能訓練、家族の負担への配慮が重要である。
急性期のメチルプレドニゾロン静注後、経口プレドニゾロンへの移行と段階的な漸減を行う。欧州小児MOGコンソーシアムは漸減期間を合計3ヶ月以上とすることを推奨しており、それより短い場合は再発リスクが増大する1)。5週間以上の漸減でも再発リスクの低減が示されている。
MOGの分子的特徴
MOGはCNSミエリンの最外層およびオリゴデンドロサイト表面に発現するマイナーな膜貫通タンパク質である1)。免疫系から露出しやすい部位に存在するため、自己抗体の標的となりやすい。
MOGADの病理学的特徴
MOGADはNMOSDのアストロサイト病(AQP4標的)とは異なる**オリゴデンドロサイト病(oligodendrogliopathy)**である1)。
補体経路の関与
前臨床モデルおよび病理標本で補体沈着と抗体依存性細胞貪食の証拠が示されている。古典的経路・副経路の両方が活性化するが、MOG-IgGによる補体活性化はAQP4-IgGより弱い(二価結合MOG-IgGの特性による)。
新生児Fc受容体経路とT細胞活性化
MOG-IgGは新生児Fc受容体経路を活性化し、動物モデルではT細胞の活性化・組織浸潤を増強することが示されている。
サイトカインプロファイル
Th17関連分子および一部のTh1関連分子が上方制御される。AQP4陽性NMOSDと類似するがMSとは異なるプロファイルを示す。
H signの病理学的基盤
H sign(脊髄軸位断でH字型を呈する灰白質限局性のT2高信号)はMOGAD患者の30〜50%に認められる。AQP4陽性NMOSDでは頻度が低く、MSでは認められないため、MOGAD特異性の高い画像所見とされている3)。灰白質限局性病変として現れる機序はMOGの発現分布と関連すると考えられている。
Varley et al.(2024)は1,879例のMOG-Ab検査患者から539例(小児135例、成人404例)を後方視的に評価した2)。小児では成人より支持的所見が多く(p=0.0011)、脊髄炎型ではH signが小児100%対成人12.5%と顕著な差が認められた。再発性疾患では支持的所見がフォローアップ時に増加した(中央値2→3.5、p=0.03)。
現時点で小児MOGADの治療に関する発表済みRCTは存在せず、新規免疫療法薬の治験が進行中である。
小児の75〜96%が完全回復しており、成人より良好な予後が期待できる。ただし再発性・多相性の経過をたどった場合は完全回復率が31〜50%と低下する。また5年超の長期フォローアップでは再発率が最大70%に達するとの報告もあり、長期的な経過観察が重要である。