典型的ON
好発:15〜45歳、女性に多い
原因:自己免疫機序(特発性)が主体
特徴:単眼性急性発症
MS移行:脳病変ありで15年後72〜78%
予後:約8割が3週間以内に改善開始。発症1年後に視力0.5以上93%

視神経炎(Optic Neuritis; ON)は、視機能障害を伴う視神経の炎症性・脱髄性疾患である。20〜40歳における視神経機能障害による視力低下の最も一般的な原因とされ、年間罹患率は10万人あたり0.56〜14例と報告されている。好発年齢は15〜45歳であり、女性に多い。
ONは臨床的に典型的ONと非典型的ONに大別される。
典型的ONは多くがMS(多発性硬化症)関連であり、単眼性の急性発症を示す。非典型的ONは、発症年齢が範囲外(15歳未満・45歳超)、両眼同時発症、2週間以降も進行、ステロイド依存性などの特徴を持ち、NMOSD(視神経脊髄炎スペクトラム障害)・MOGAD(抗MOG抗体関連疾患)・SLE・Sjögren症候群などを背景にもつ。
妊娠中の正確な有病率は不明であるが、妊娠とON発症の時期に明確な偏りがある。妊娠関連ON 54例の解析では、妊娠中の発症は16.4%にとどまり、産後1年以内が83.6%を占め、そのうち出産後3ヶ月以内が49.3%であった。
妊娠中に発症が比較的少ない背景として、妊娠中は制御性T細胞の増加によりTh2優位の免疫寛容状態になることが挙げられる。一方、ON既往女性では子癇前症・早産のリスクが高まる可能性も示唆されている。
産後1年以内が全体の83.6%を占め、特に出産後3ヶ月以内(49.3%)がリスクの高い時期である。妊娠中はTh2優位の免疫寛容状態がON発症を抑制するのに対し、産後はエストロゲン・プロゲステロンの急減によりTh1/Th17系が再活性化し、自己免疫活動が亢進するためと考えられている。
妊娠中に発症したONの症状は、基本的に非妊娠時と同様である。
自己免疫機序による特発性が多くを占める。MSの約3割は発症時に視力障害を呈し、ONがMSの初発症状となることがある。ONを発症した患者では、脳病変がない場合の15年後のMS移行率は約25%、脳病変がある場合は72〜78%に達する。
産後の発症増加には、エストロゲン・プロゲステロンの急速な低下によるTh1/Th17系の再活性化が関与すると考えられている。妊娠中はウイルス性疾患が両眼性ON発作を誘発する可能性も指摘されている。
典型的ON
好発:15〜45歳、女性に多い
原因:自己免疫機序(特発性)が主体
特徴:単眼性急性発症
MS移行:脳病変ありで15年後72〜78%
予後:約8割が3週間以内に改善開始。発症1年後に視力0.5以上93%
非典型的ON
原因:NMOSD・MOGAD・感染性・自己免疫疾患
特徴:両眼性・進行性・ステロイド依存性
NMOSD:抗AQP4抗体陽性。ステロイド抵抗性、視力予後不良
MOGAD:抗MOG抗体陽性。新たな疾患概念
要注意:感染性はステロイド使用前に除外必須
ONはMSの初発症状になりうる。脳にMRI病変がない場合の15年後MS移行率は約25%、脳病変がある場合は72〜78%とされる。妊娠中にONを発症した場合も、神経内科・眼科で脳MRIを含む精査を行い、MS発症リスクを評価することが重要である。
必要に応じて実施し、感染性・炎症性疾患との鑑別に用いる。
| 疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 圧迫性視神経症 | 下垂体腺腫・髄膜腫等。画像診断で除外 |
| 下垂体卒中 | 妊娠中に発生し急性視神経症を模倣 |
| Leber遺伝性視神経症 | 若年〜壮年期の両眼性視神経障害 |
| 感染性視神経炎 | 真菌・ウイルス・梅毒。ステロイド前に除外 |
| NAION | 非動脈炎性前部虚血性視神経症との鑑別 |
無治療でも約8割が発症3週間以内に改善を開始する。発症1年後には視力0.5以上が93%、1.0以上が70%に達する。
第一選択:ステロイドパルス療法
副作用として高血糖・消化性潰瘍・感染症誘発に注意が必要である。
メチルプレドニゾロン・プレドニゾン・プレドニゾロンは、胎盤の11-β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素によって不活化され、通常は総量の約10%のみが胎児循環に到達する。そのため、適切な用量では比較的安全に使用できると考えられている。
承認された場合のレジメンはIVMP 500〜1,000 mg/日×3日間である。ただし以下の点に注意が必要である。
急性期の第一選択はステロイドパルス療法である。ステロイドパルス療法で改善がない場合は血漿交換療法を実施する。妊娠中の血漿交換は実行可能な代替治療とされ、長期的な視力転帰がより良好との報告がある。慢性期(再発予防)にはステロイド内服療法(プレドニゾロン少量内服)等が用いられるが、第一選択は確立していない。
妊娠中のDMT使用は薬剤ごとにリスクが異なる。
| 薬剤 | 胎児毒性 | 授乳可否 |
|---|---|---|
| 酢酸グラチラマー | 低い | 可 |
| IFN-β | 低出生体重・早産リスク | おそらく可 |
| テリフルノミド | 催奇形性あり | 不可 |
| フィンゴリモド | 胎児毒性あり | 不可 |
メチルプレドニゾロン等は胎盤酵素で不活化され、通常は総量の約10%のみが胎児に到達する。短期間の標準量では胎児への影響は比較的小さいと考えられている。ただし高用量長期投与では胎盤酵素が飽和し胎児副腎不全のリスクがあるため、産科医と連携した慎重な判断が必要である。
薬剤により大きく異なる。酢酸グラチラマーやプレドニゾロンは授乳可能とされる。IFN-βはおそらく可とされるが、テリフルノミドやフィンゴリモドは授乳不可である。産後のDMT再開にあたっては母乳を介した薬剤移行リスクを考慮し、神経内科医・産科医と相談して決定する。
自己免疫機序により、ミクログリアなどの炎症関連細胞が視神経内に浸潤して炎症を引き起こす。炎症による脱髄性・軸索性ダメージが網膜神経節細胞の死・アポトーシスを招く。繰り返す炎症エピソードは視神経萎縮へと移行する。
抗AQP4抗体が補体と結合し、アストロサイトを選択的に攻撃する。視神経・視交叉のアストロサイトはAQP4を豊富に発現しているため標的となりやすく、強い炎症性変化と視神経障害を引き起こす。
抗MOG抗体が髄鞘を構成するMOGを標的とする自己抗体である。補体経路の活性化(AQP4-IgGより弱度)とCD4+ T細胞・マクロファージの浸潤が病態に関与する。
妊娠中は高レベルのエストロゲン・プロゲステロンによりTh2優位状態となり、胎児拒絶防止と自己免疫の抑制がもたらされる。さらに制御性T細胞の増加がこの免疫寛容に寄与する。
産後はエストロゲン・プロゲステロンが急速に低下し、Th1/Th17系反応が再活性化される。この免疫リバウンドが自己免疫活動を亢進させ、産後3ヶ月以内のON発症増加に寄与すると考えられている。
完全母乳育児が産後早期のMS再発に対して保護的に働く可能性が報告されている。その機序はプロラクチンや授乳に伴う免疫調節との関連が推測されているが、確立されたエビデンスには至っていない。
ON既往女性は妊娠・出産の可能性が有意に低いとの報告がある。背景にある自己免疫メカニズムや治療薬が不妊に影響する可能性が示唆されているが、因果関係の解明には更なる研究が必要である。
2023年に新たなMOGAD国際診断基準が策定されるなど、MOGAD・NMOSDの疾患概念と診断基準の整備が進んでいる。これにより、従来は分類困難であった非典型的ONの診断精度の向上が期待されている。