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神経眼科

クロイツフェルト・ヤコブ病の眼科的徴候

1. クロイツフェルト・ヤコブ病の眼科的徴候とは

Section titled “1. クロイツフェルト・ヤコブ病の眼科的徴候とは”

クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease; CJD)は、異常型プリオン蛋白(PrPSc)に関連した稀な神経変性疾患である。脳内に海綿状空胞を形成し、急速な認知機能低下をきたす。年間発症率は100万人に1人とされる。

CJDは発症様式により4つに分類される。

  • 孤発性(sCJD):原因不明。最も多い。
  • 家族性(fCJD):PRNP遺伝子変異による。
  • 医原性(iCJD):汚染された手術器具や移植組織を介して伝播。
  • 変異型(vCJD):感染した牛由来プリオンとの関連が疑われる。

**ハイデンハイン変異型(HVCJD)**は視覚的な徴候・症状を伴う孤発性CJDの一形態である。CJD症例全体の4〜20%に認められ、1〜12週間の孤立した視覚症状を呈する。1929年にハイデンハイン(Heidenhain)が、海綿状脳症と皮質盲を呈した3名の患者で初めて記載した。

Q ハイデンハイン変異型(HVCJD)とは何ですか?
A

HVCJDは視覚症状が先行して現れる孤発性CJDの一形態である。CJD症例の4〜20%を占め、他の神経症状より数週間〜数ヶ月早く視覚症状が現れることが特徴とされる。

眼科的症状は、他の神経症状の発現より数週間〜数ヶ月早く現れることがある。

  • 霧視:最も多い初発症状の一つ。
  • 複視:霧視とともに初発症状として現れやすい。
  • 幻視:疾患の進行に伴い発生率が増加する。複雑な視覚的幻覚を伴うこともある。
  • 皮質盲:進行期に至ると皮質盲を来す。
  • 皮質盲:進行期の主要所見。
  • 同名半盲:後頭葉病変による視野障害。後大脳動脈の障害を反映することがある。黄斑回避を伴う場合がある。
  • 色覚異常(dyschromatopsia):大脳性色覚異常として現れることがある。後頭葉腹側の舌状回・紡錘状回にある色覚中枢の障害による。両眼性で視力は比較的良好であり、相貌失認を伴うことがある。
  • 高次視機能障害:両側頭頂後頭葉病変によりBalint症候群(視覚失調・視覚性失行・同時失認)を生じる場合がある。
  • 網膜電図所見:正常、またはb波振幅の減少。
  • OCT所見:HVCJD1例で視神経の耳側萎縮と網膜菲薄化が報告されている。

CJD全般の神経学的症状として、以下が認められる。

  • ミオクローヌス、小脳失調、錐体路・錐体外路症状
  • せん妄、錯乱、認知機能低下
  • 無動性無言(akinetic mutism)、ジストニア、失語症
  • 固縮、アテトーゼ、嚥下障害
Q CJDの視覚症状はどのように進行しますか?
A

霧視や複視として始まり、疾患の進行に伴い幻視や皮質盲へと至る。視覚症状は他の神経症状より先行して現れることが多い。高次視機能障害(Balint症候群など)を伴うこともある。

CJDのリスク要因は病型によって異なる。孤発性CJDおよびHVCJDに関しては、特定の決定的リスク要因は確立されていない。

感染経路として知られているもの:

  • 感染した動物組織との接触:変異型CJDでは牛由来プリオンとの関連が疑われる。
  • 汚染された手術器具を介した医原性伝播:過去に角膜移植によるCJD伝播の報告がある。
  • その他の移植組織:牛由来の生体人工大動脈弁移植後にCJD発症した症例報告がある。
Q 角膜移植でCJDに感染する可能性はありますか?
A

過去に感染ドナーからの角膜移植によるCJD伝播の報告がある。日本の眼球提供者適応基準(2023年12月改正)では、CJDおよびその疑いは眼球提供の除外基準とされている。

HVCJDの確定診断は困難なことが多く、視野欠損がありながら従来のMRIが正常な場合にHVCJDを疑うことが重要である。アルツハイマー病とCJDは症状が類似するため、鑑別診断を慎重に行う必要がある。

ゴールドスタンダード(組織病理学的評価)

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脳生検による分子生物学的・組織病理学的評価が確定診断の基準である。後頭葉皮質・小脳に神経細胞脱落、グリオーシス(神経膠症)、海綿状空胞形成を認める。PrPScの免疫染色で確定する。

ただし、脳生検は手術器具を介した伝播リスクを伴う。このため、大部分の患者は死後の剖検で確定診断される傾向がある。疑い例の検体は専門施設(米国ではクリーブランドのケース・ウェスタン・リザーブ大学 国立プリオン病病理参照センター)へ送付されることが多い。

画像検査

MRI(DWI/FLAIR):最大80%の患者で後頭頂葉に高信号を認める。初期では正常の場合もある。基底核や側頭頂接合部での信号増強も一部に認められる。孤立した後頭葉視覚皮質の萎縮を示すこともある。

SPECT/PET:MRIで微妙な変化しかない場合でも、頭頂後頭領域の血流低下を検出可能である。

臨床検査(CSF)

14-3-3蛋白・t-tau蛋白:上昇は脳症を示唆するがCJD特異的ではない。EEG所見より約2週間早期の指標となる場合がある。

NSE(神経特異エノラーゼ):上昇を認める。

RT-QuIC法:高い感度と特異度を持つ新しい検査法。臨床的有用性が注目されている。

ウェスタンブロット法:PrPScの確認に用いる。

電気生理学的検査

EEG:正常な後方優位リズムの消失、周期性鋭波複合(PSWC)、後頭領域の1Hzの棘徐波、周期性三相波複合、びまん性徐波化を認める。

網膜電図:正常、またはb波振幅の減少。

PRNP遺伝子コドン129の多型解析が行われる。一部のHVCJD症例でメチオニンのホモ接合体が認められている。

  • 後部皮質変性(PCD)の他の原因:アルツハイマー病、ピック病、レビー小体型認知症
  • 後頭葉脳梗塞:MRI DWIは超急性期脳梗塞の診断に有用。FLAIR画像は脳脊髄液との区別に有用。
  • 白内障:HVCJDの初期視覚変化として誤診されることがある。
  • 糖尿病性眼運動神経麻痺・てんかん・片頭痛
  • 高次視機能障害では症状が曖昧なことが多く、病巣位置から予測される症状に特異的な検査を行うことが重要である。
Q CJDが疑われたとき、最初に行う検査は何ですか?
A

MRI(DWI/FLAIR)で後頭頂葉の高信号を確認することが最初のステップとなる。CSF検査では14-3-3蛋白やRT-QuICが早期の補助指標として有用である。確定診断には脳生検が必要だが、感染伝播リスクのため施行に慎重を要する。

CJDに対して証明された治療法は存在しない。大規模な対照臨床試験も行われていない。急速に進行する性質から、大部分の患者に対しては緩和ケアが選択される。

ほとんどの患者は症状発現から数週間〜数ヶ月以内に、無動・無言・盲目の状態で死亡する。

予後データ:

  • 169名のCJD患者の症例レビューでは、HVCJDの病期は平均5.7ヶ月であった。
  • 非HVCJD患者の病期は7.5ヶ月と、HVCJDより長い。
  • 病原性PRNP変異を持つHVCJD患者は、変異のない患者より生存期間が有意に長い。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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HVCJDの主要な病理学的因子は異常型プリオン蛋白(PrPSc)である。PrPScは正常プリオン蛋白(PrPC)に作用し、ミスフォールディング(異常な折り畳み)を誘導する。

HVCJDは**後部皮質変性(PCD)**を引き起こす。PrPScの活性により、以下の領域に神経変性が生じる。

  • 頭頂葉・後頭葉・側頭葉・基底核・視床:神経細胞脱落、グリオーシス(神経膠症)、海綿状空胞形成。
  • 非HVCJD患者と比較して、基底核・帯状回・辺縁系への損傷は全体的に少ない。

後頭葉の解剖学的特徴として、視覚皮質(V1)は鳥距溝の上縁と下縁に存在し、第1次視覚野(V1)を取り囲むように高次視覚野が広がる。後部皮質変性が進行すると、これらの領域が広範に障害される。

後大脳動脈の障害では同名半盲を生じる。黄斑回避が起こる場合があるが、これは後頭極への血管の二重供給などが原因と考えられている。

PRNP遺伝子コドン129の多型も疾患感受性に関与しており、一部のHVCJD症例でメチオニンのホモ接合体が確認されている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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CJDの診断・治療に関する研究は現在も進行中である。

新しい診断マーカーの研究:

CJDの早期診断に向け、新しい標的マーカーを解明するための調査研究が進んでいる。なかでもRT-QuIC(real-time quaking-induced conversion)法は高い感度と特異度を持つ新しいバイオマーカーとして注目されており、CSF検体による早期診断への臨床応用が期待されている。

現時点では治療法の確立に至っておらず、今後の基礎・臨床研究の進展が待たれる。


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