全身性自己免疫疾患は、免疫学的メカニズムを通じて直接的に、あるいは凝固亢進・動脈炎・高血圧などの二次的病態や治療の副作用(ステロイド誘発性白内障・緑内障)を通じて間接的に視力を脅かす。
主な神経眼科的徴候は以下の6つに分類される。
- 視神経炎(Optic neuritis):炎症性脱髄や血管炎による視神経障害。
- 虚血性視神経症(ION):動脈炎性(AAION)・非動脈炎性(NAION)・後部型(PION)に分類。
- 眼窩炎症性症候群(OIS):眼窩構成組織の非特異的炎症。
- 網膜血管炎(Retinal vasculitis):網膜血管の炎症性変化。
- 血管閉塞性網膜症:網膜静脈閉塞(BRVO・CRVO)または動脈閉塞(CRAO・BRAO)。
- 一過性黒内障(Amaurosis fugax):一時的な視力消失発作。
関連する主な自己免疫疾患は多岐にわたる。SLE、多発性硬化症(MS)、視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)、MOG抗体関連疾患(MOGAD)、巨細胞性動脈炎(GCA)、ベーチェット病、サルコイドーシス、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、結節性多発動脈炎(PAN)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)、抗リン脂質抗体症候群(APLS)、シェーグレン症候群、関節リウマチ、強皮症、皮膚筋炎、炎症性腸疾患(IBD)などが挙げられる。
Q 自己免疫疾患ではどのような眼の症状が起こりうるのか?
A 視神経炎による急激な視力低下・眼痛から、虚血性視神経症による突然の無痛性視力喪失、眼窩炎症による眼球突出・複視、網膜血管炎や血管閉塞による視野欠損まで多彩な症状が生じる。眼症状が全身疾患の最初の徴候となることもある。
各神経眼科的徴候に特徴的な自覚症状は以下の通りである。
- 視神経炎:数日かけて悪化する急激な視力低下(通常片側性)。光視症、色覚異常(特に赤色の認識低下)、眼球運動時の疼痛を伴う。
- 非動脈炎性前部虚血性視神経症(非動脈炎性前方ION):突然の片側性無痛性重度視力低下。起床時に気づくことがある。
- GCA(AAION):突然の片側性または両側性の視力喪失。頭痛・顎跛行・頭皮圧痛・関節痛・倦怠感を伴う。
- 眼窩炎症性症候群:急激に発症する深部の穿刺様眼窩痛、複視、頭痛、進行性視力低下。眼球回旋時の痛みは眼窩筋炎を示唆。
- 網膜血管炎:無痛性視力低下、視界のかすみ、暗点、飛蚊症、光視症。周辺部病変では無症状のこともある。
- 血管閉塞性網膜症:CRVO→急性無痛性霧視。CRAO→片眼の突然の無痛性重度視力喪失。BRVO→無症状〜暗点を伴う視野欠損。
- 一過性黒内障:数秒〜数分間の一時的視力消失(かすみ〜完全暗黒)。
- 視神経炎:相対的瞳孔求心路障害(RAPD)陽性、多様な視力低下、視野欠損(中心暗点・神経線維層欠損型)、色覚異常。一部で乳頭浮腫を認めるが、球後視神経炎では乳頭は正常。
- AAION:視神経乳頭の蒼白浮腫(chalky pallor)と乳頭周囲線状出血。浮腫消失後に視神経乳頭陥凹を呈する。
- 非動脈炎性前部虚血性視神経症:充血した浮腫性視神経と乳頭周囲線状出血。陥凹は稀。
- PION:発症時は視神経乳頭正常、RAPDのみ。最終的に視神経萎縮をきたす。
- 眼窩炎症性症候群:眼球突出、結膜充血、眼瞼下垂、触知可能な眼窩腫瘤、眼球運動制限、結膜浮腫。外眼筋停止部の肥大は甲状腺眼症との鑑別点となる。
- 網膜血管炎:血管周囲鞘形成、軟性白斑(綿花様白斑)、霜降り状血管炎、網膜出血、視神経乳頭浮腫。
- SLE網膜症:綿花様白斑、網膜出血、Roth斑、網膜静脈・動脈閉塞、漿液性網膜剥離。SLE網膜症は約10〜30%に発症し、両眼性で疾患活動性の高い時期に多い。SLEの最も頻度の高い眼症状は乾性角結膜炎(約30%)である。
- 血管閉塞性網膜症:黄斑浮腫(視力低下の主因)、網膜内出血、静脈拡張蛇行、桜実紅斑(CRAO)。
抗AQP4抗体陽性視神経炎の特徴的な臨床所見:
- 急激な視力低下を呈し、ステロイド治療に抵抗性を示す。
- 僚眼にも発症しやすく、両眼性になりやすい。
- 眼痛を約半数に認める。
- 視野障害として中心暗点のほか、水平半盲・両耳側半盲・同名半盲も生じる。病変が視交叉・視索に及ぶ場合がある。
- NMOの初発症状となることがある。手足のしびれ・温痛覚異常・しゃっくりの問診が重要。
抗MOG抗体陽性視神経炎の特徴的な臨床所見:
- 両側性、視神経乳頭腫脹、MRIで縦方向に広範な視神経高信号・視神経周囲炎を認める。
- CRIONと診断された症例でMOG抗体陽性率が高い。
Q 抗AQP4抗体陽性視神経炎は通常の視神経炎とどう違うのか?
A 通常の視神経炎と異なり、抗AQP4抗体陽性視神経炎はステロイド抵抗性で視力予後が不良であることが多い。両眼性になりやすく、視野障害パターンも多様で、水平半盲や同名半盲を呈することがある。約10%ではステロイドパルス療法のみでは回復不十分で失明の可能性もある。
自己免疫疾患ごとに眼病変のパターンが異なる。主要4疾患の眼科的関与を以下に示す。
SLE
眼症状の頻度:乾性角結膜炎(約30%)が最多。網膜症は10〜30%に発症。
網膜症の特徴:両眼性、疾患活動性と関連。綿花様白斑・網膜出血・Roth斑が主な所見。
好発:20〜30歳代女性。
多発性硬化症
視神経炎との関連:発症時に視力障害を呈する割合が約3割。
MS移行リスク:視神経炎後15年でのMS累積移行確率は脳病変あり72%、なし25%。
その他:核間眼筋麻痺(複視)も特徴的所見。
NMOSD(抗AQP4抗体)
疫学:女性が9割以上、発症ピークは30代後半〜40代前半。
特徴:難治性・再発性の視神経炎と脊髄炎が主体。ステロイド単独では不十分なことがある。
巨細胞性動脈炎
眼への影響:視神経乳頭への終末動脈の血管炎によりAAIONを来す。眼動脈関与でCRAOとなり完全失明に至る可能性がある。
AAION:AAIONの最重要原因であり、永続的な視力喪失を引き起こす。
網膜血管炎の自己免疫疾患別パターン:
自己免疫疾患によって動脈・静脈いずれに炎症を来しやすいかが異なる。
| パターン | 主な関連疾患 |
|---|
| 主に動脈炎 | SLE、PAN、EGPA、巨細胞性動脈炎 |
| 主に静脈炎 | ベーチェット病、多発性硬化症、サルコイドーシス |
| 混合型 | 多発血管炎性肉芽腫症、IBD |
眼窩炎症性症候群(OIS)の関連疾患: 多発血管炎性肉芽腫症、巨細胞性動脈炎、IBD、SLE、EGPA、強皮症、サルコイドーシス、皮膚筋炎、関節リウマチ。
一過性黒内障の関連疾患: SLE、GCA、クローン病、APLS、高安動脈炎。
血管閉塞性網膜症の関連疾患: SLE、サルコイドーシス、APLS、クローン病、多発血管炎性肉芽腫症、EGPA、PAN。
Q 原因不明の網膜血管炎で全身疾患を疑うべき理由は?
A 網膜血管炎患者の最大42.5%に未診断の全身性疾患が存在すると報告されている。したがって、明らかな局所要因のない網膜血管炎では、SLE・ベーチェット病・サルコイドーシスなど全身性疾患の精査が不可欠である。
- 臨床診断が基本。ガドリニウム造影眼窩MRIで視神経増強効果を確認する。
- MRIはMS移行リスクの評価にも有用。
- 補助検査として視覚誘発電位(VEP)、腰椎穿刺、胸部X線が行われる。
- OCTで視神経萎縮の検出・定量化が可能。
抗AQP4抗体陽性視神経炎の診断:
- 血清抗AQP4抗体の検出が必須。
- ELISA法は保険収載されているが、CBA(cell-based assay)法と比較して感度・特異度がやや劣る。
- 造影MRI:視神経に一致した造影効果。
- 限界フリッカ値(CFF)の低下も確認する。
- 鑑別:通常の視神経炎より高齢での発症が多いため、虚血性視神経症との鑑別が重要。生活習慣病の有無と視神経乳頭の部分的蒼白腫脹が鑑別のポイント。
NMOSDの診断基準(2015年):
- 抗AQP4抗体陽性+核となる臨床症候1つ以上+他疾患の除外。
- 抗AQP4抗体陰性の場合:核となる臨床症候2つ以上(少なくとも1つは視神経炎・急性脊髄炎・最後野症候群)+所定のMRI所見を満たすことが必要。
MSの診断基準:
- 2010年改訂McDonald診断基準を用いる。
- 中枢神経の時間的・空間的多発性の証明。MRI所見が中心的役割を果たす。
- 眼底所見+蛍光眼底造影(FA)が有用。
- MRIでAAIONと非動脈炎性前部虚血性視神経症の鑑別を行う。
- PIONでは視神経増強なし(球後視神経炎との鑑別点)。
- 散瞳下眼底検査(DFE)、視神経評価(色覚・RAPD)、視野検査。
- MRI/CT:涙腺肥大(最も一般的)、外眼筋肥大、眼窩脂肪浸潤。MRIでT1/T2低信号・ガドリニウム増強を確認。
- 超音波:外眼筋停止部の肥大(甲状腺眼症との鑑別に有用)。
- 眼窩生検:治療不応例・診断不確実例で検討。
- 眼底検査による臨床診断を基本とする。
- FA:血管漏出パターン(局所的 vs びまん性)の評価に有用。SLEでは網膜血管炎・血管閉塞の評価に重要。
- OCT:網膜内構造の評価。
MOG抗体の検出:
- 血清MOG-IgGをlive cell-based assayで検出する。
- native conformational stateのMOGに結合する抗体のみが病原性を持つ。
- 9割以上でステロイド全身投与または経過観察により視力が改善する。
- ステロイドパルス療法が基本(メチルプレドニゾロン)。
初回治療:
- ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000 mg、3日間点滴静注)。保険適用外であるため患者への説明と同意が必要。
- 中3〜4日あけて視力改善が得られない場合はもう1クール施行する。
ステロイド不応例(抗AQP4抗体陽性確認後):
- 血漿交換療法を考慮する。
- 単純血漿療法→二重膜濾過血漿交換療法→免疫吸着療法の順に治療効果が高いが、生体への負担もこの順に大きくなる。
- 1クール5〜6回施行。神経内科医・腎臓内科医との連携が不可欠。
- 視神経炎に対する血漿交換療法は保険適用外である。
- 体内IgGが減少するため入院期間が延長する。
維持療法:
- 低用量プレドニゾロン(5〜10 mg/日)+アザチオプリン(50〜100 mg/日)の併用。
予後: 適切な治療なしでは視機能障害が永続する。約10%はステロイドパルス療法のみでは不十分で、血漿交換療法なしでは失明の可能性がある。
- 急性期:ステロイドパルス療法(第一選択)。不応例には血漿交換療法。
- 慢性期(再発予防):ステロイド内服(プレドニゾロン少量)が推奨されている(第一選択は未確立)。
- MS合併視神経炎とは治療方針が大きく異なる点に注意。
- ステロイドパルス療法が奏効しやすい。
- 再発しやすく、ステロイド漸減時に再発が多い傾向がある。
- 多くはステロイドが有効だが、漸減とともに再発してステロイド依存性の経過をとる。
- 再発予防:少量ステロイドを継続。それでも再発する場合は免疫抑制薬を使用。
- 視力改善後は再発予防治療を考慮し、神経内科医と連携する。
- 選択肢:インターフェロンβ、グラチラマー酢酸塩、フィンゴリモド、ナタリズマブ。
- 全身的なSLE管理と連動した治療(ステロイド・免疫抑制薬)が基本。
- 強膜炎はステロイドへの反応性が良好である。
Q 抗AQP4抗体陽性視神経炎で血漿交換療法が必要となるのはどのような場合か?
A ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000 mg×3日間)を1〜2クール施行しても視力改善が得られない場合に血漿交換療法を考慮する。約10%の患者でステロイドのみでは不十分であり、血漿交換療法を行わないと失明に至る可能性がある。いずれも保険適用外であり、神経内科医・腎臓内科医との連携が必要である。
全身性自己免疫疾患が眼病変を引き起こす主なメカニズムは以下の通りである。
- 血管炎:血管壁への炎症細胞浸潤による管腔狭窄・閉塞。
- 血管痙攣:炎症メディエーターによる血管攣縮。
- 免疫介在性脱髄:自己抗体または細胞性免疫による髄鞘破壊。
- 免疫複合体沈着:血管壁への免疫複合体・補体沈着による組織障害。
- 凝固亢進状態:炎症が凝固促進因子をアップレギュレートし、抗凝固因子をダウンレギュレートする。抗カルジオリピン抗体やループスアンチコアグラントなどの病原性抗体も凝固亢進に関与する。
SLEの病態:
小血管・毛細血管のフィブリノイド壊死を伴う血管炎が特徴である。フィブリノイド物質はフィブリン・免疫複合体・補体から構成される。
抗AQP4抗体陽性視神経炎の病態:
抗AQP4抗体が補体と結合してアストロサイトを攻撃する。視神経・視交叉ではアストロサイトがAQP4(アクアポリン4)を多く発現しているため標的となりやすい。
視神経炎(脱髄性)の病態:
炎症性脱髄により伝導ブロックが生じて視力低下をきたす。再髄鞘化が起こりうるが、持続的脱髄や軸索消失により回復が不完全となることがある。
MOGAD(MOG抗体関連疾患)の病態:
MSおよびNMOSDとは異なる独立した脱髄性疾患である。MOG-IgGがnative conformational stateのMOGに結合することが病原性の本態とされる。
2023年に策定された国際診断基準の検証が行われている。
全患者を対象とした検証では、感度96.5%、特異度98.9%、精度98.5%が報告されている。小児では感度・特異度ともに100%に近く、成人では感度91.9%・特異度98.9%であった。MOG抗体検査単独の精度と比較しても診断基準の有用性が確認されている。
現時点で未解決の課題として以下が挙げられている。
- 最適な急性期治療の確立。
- 長期再発予防のためのステロイド節約免疫療法の役割。
- 再発性疾患の予測因子の同定(持続的MOG-IgG陽性が再発の予測因子として注目されている)。
- OCTのバイオマーカーとしての有用性:急性期の視神経腫脹と慢性期の萎縮の検出への応用。
COVID-19ワクチン接種後にION(虚血性視神経症)やMOG抗体陽性視神経炎を発症した症例が報告されている。因果関係の評価には更なる研究の蓄積が必要である。
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