乳児特発性眼振
略称:IIN(Infantile Idiopathic Nystagmus)
特徴:最多の原因。両眼性・共役性・水平性の眼振。出生後6か月以内に発症することが多い。
遺伝:FRMD7遺伝子変異(X連鎖性)が関与。OKN逆転と指数関数的速度増加型緩徐相が特徴。
機序:皮質–脳幹–眼球運動ループの機能障害。副視覚系・上丘・小脳が関与する。

眼振(nystagmus)は、律動的で不随意な眼球の往復運動である。「緩徐相」で視線が目標から外れ、続く「第2の運動」で視線が目標に戻る。
運動の方向は水平・垂直・回旋またはそれらの組み合わせをとる。波形による分類は以下の通りである。
なお、眼振とサッカード介入(振動)は区別される。後者は急速なサッカードで開始する不規則・間欠的な運動であり、神経学的起源が異なる。
語源はギリシャ語の「nystagmos(うとうとすること)」「nustazein(居眠りする)」に由来する。
病的眼振の有病率は10,000人あたり24人であり、ヨーロッパ系にやや多い傾向がある。Sarvananthan らの報告では有病率は10,000人あたり16.6であり、アルビニズム関連乳児眼振が最多原因とされる。成人では10,000人あたり26.5であり、神経疾患関連が最大グループを占める1)。
乳児眼振については、デンマークの大規模研究(Hvid ら)が出生10,000あたり6.1の有病率を報告した。早産児では28.4、正期産児では4.4、超早産児では97.3と早産との関連が顕著である1)。Nash らの報告では小児眼振の年齢・性別調整年間発生率は100,000人あたり6.72であり、乳児眼振の出生有病率は821出生に1人とされる1)。
後天眼振の割合は小児で17%、成人で40%である1)。
病的眼振の有病率は10,000人あたり24人とされる。乳児眼振に限ると821出生に1人の頻度で発生し、超早産児では出生10,000あたり97.3と著しく高い。後天眼振は小児の17%、成人の40%を占める。
先天性(乳児)眼振では、脳内のMT/V5領域による視覚的適応が発達するため、動視症(視界の揺れ)をほとんど訴えない。これは後天眼振と大きく異なる点である。一方、後天眼振では動視症が主要な自覚症状となる。
臨床評価では以下の項目を体系的に確認する。
眼振は生理的なものと病的なものに大別される。病的眼振はさらに乳児・小児眼振と後天眼振に分けられる。
正常な眼球運動反応として生じる眼振であり、病的意義を持たない。
乳児特発性眼振
略称:IIN(Infantile Idiopathic Nystagmus)
特徴:最多の原因。両眼性・共役性・水平性の眼振。出生後6か月以内に発症することが多い。
遺伝:FRMD7遺伝子変異(X連鎖性)が関与。OKN逆転と指数関数的速度増加型緩徐相が特徴。
機序:皮質–脳幹–眼球運動ループの機能障害。副視覚系・上丘・小脳が関与する。
感覚性眼振
先天眼振の鑑別に有用な特徴として、(1)両眼性で左右ほぼ同じ性状・振幅を示す、(2)注視により増強するが動揺視の自覚はない、(3)閉瞼・暗所・輻凑により抑制される、(4)静止位を正面にもってくる頭位異常(face turn, chin elevationなど)を認めることが多い、(5)側方視で眼振が増強する(Alexanderの法則)、(6)生後1歳までは軽快傾向をみるか不変で決して増悪しない、という点が挙げられる。後天眼振では眼振の増悪がみられることがあり、この点が先天性との重要な鑑別所見となる。
後天眼振の主要なタイプと原因を以下に示す。
薬物誘発性眼振は比較的よくみられる。鎮静剤・抗てんかん薬・アルコール・リチウムなどが原因となる。これらは主に注視誘発眼振を引き起こし、原因薬物の中止・減量により改善が期待できる。
眼振の評価は正面注視から始め、各方向への注視で眼球運動を系統的に観察する。評価すべき主要項目は以下の通りである。
フレンツェル眼鏡を用いると固視を除去して末梢性前庭眼振を増強でき、中枢性との鑑別に有用である。
主要な検査法の用途を以下に示す。
末梢性前庭眼振と中枢性前庭眼振の鑑別は重要な臨床課題である。
| 鑑別点 | 末梢性 | 中枢性 |
|---|---|---|
| 方向 | 水平+回旋(混合) | 純粋垂直・純粋回旋も生じる |
| 固視の影響 | 固視で減衰 | 固視で変化しにくい |
| 随伴症状 | 耳鳴り・難聴 | 複視・嚥下障害・構音障害 |
眼振は緩徐相で開始する律動的・規則的な眼球運動である。これに対し、サッカード介入(眼振様運動)はサッカードで開始する不規則・間欠的な運動であり、以下の種類がある。
後天性眼振が疑われる徴候として、6か月以降の発症・非対称眼振・OKN温存・相対的瞳孔求心路障害(RAPD)・乳頭浮腫の存在が挙げられる。これらが認められる場合は精密検査を要する。発症様式と家族歴・神経学的所見に基づき、神経学的精査と眼科的精査を組み合わせて進める。
眼振の治療はその種類・原因によって大きく異なる。
タイプ別の推奨薬剤を以下に示す。
| 眼振のタイプ | 第一選択薬 | 代替・補助薬 |
|---|---|---|
| 下向き眼振(DBN) | 4-アミノピリジン(4-AP) | クロナゼパム、メマンチン |
| 上向き眼振(UBN) | バクロフェン | メマンチン、4-AP |
| 周期性交代性眼振(PAN) | バクロフェン | メマンチン |
| シーソー眼振(振り子型) | クロナゼパム | ベンゾジアゼピン |
| シーソー眼振(衝動型) | ガバペンチンまたはメマンチン | — |
| 後天振り子眼振 | ガバペンチン、メマンチン | — |
**4-アミノピリジン(4-AP)**が第一選択である。非選択的カリウムチャネル遮断薬であり、プルキンエ細胞の興奮性を高めて小脳皮質の抑制機能を回復させる。用量は5mg 1日2〜4回、または徐放剤10mg 1日1〜2回(MS歩行障害承認製剤)である1)。
クロナゼパム(GABA_A受容体作動薬)もDBNの抑制に有用である。バクロフェン(GABA_B受容体作動薬)は結果が一貫せず、標準的には推奨されにくい。その他にスコポラミン・クロルゾキサゾン・ガバペンチンも使用されることがある1)。
小児の眼振では屈折矯正が最も重要かつ早期から行うべき治療である。眼振患者では乱視の合併が多い。保存的なプリズム療法としては、静止位を正面にもってくるversion prism療法(片眼に基底内方、他眼に基底外方)、輻凑により眼振振幅減弱をねらうvergence prism療法(両眼に基底外方)、両者を組み合わせたcomposite prism療法がある。コンタクトレンズ(ソフト・ハード)は屈折矯正効果を通じて視力向上に寄与する。
眼振のタイプによって有効な薬剤が異なる。下向き眼振には4-アミノピリジン、周期性交代性眼振にはバクロフェンが第一選択である。ただし薬物で完全に消失させることは難しく、症状の軽減を目標とすることが多い。詳細は「薬物療法」の項を参照。
眼球の視線安定化は3つの機構によって維持される。
いずれかの障害が生じると眼振が発生する。神経積分器の局在は以下の通りである。
皮質–脳幹–眼球運動ループの機能障害が基盤にある。副視覚系・上丘・小脳が関与し、中心窩固視と追従の発達不全が生じる。結果として振動性の不安定が誘発され、両側水平眼振(加速性緩徐相)として発現する1)。
小脳のGABA作動性プルキンエ細胞(特に下方向の滑動性追従を制御するもの)の障害が中心となる。カリウムチャネルを含むプルキンエ細胞の損傷が垂直VORの不均衡をもたらし、下向き眼振を引き起こす1)。これが4-APの作用標的となる機序でもある。
中枢注視保持構造(舌下神経前核・内側前庭核・カハール間質核)の不安定性が原因となる。眼位信号の統合障害により複数平面での正弦波状振動が生じる。MSでは脱髄がこれらの構造に生じることで本型の眼振が発現する1)。
延髄(前庭核)・中脳(カハール間質核、吻側間質核rIMLF)の病変が関与する。耳石–眼球経路の不均衡により眼球運動核への非対称な回旋入力が生じ、回旋性眼振として発現する1)。ワレンベルグ症候群(延髄外側梗塞)が代表的原因である。
乳児特発性眼振の原因遺伝子であるFRMD7を標的とした介入研究が進行中である。X連鎖性の遺伝様式をもつことから、遺伝子補充療法の候補として注目されている1)。
Gurnani ら(2025)は、眼球運動追跡データを用いたAI支援の波形解析が診断精度を向上させる可能性と、ポータブルデジタルデバイスを用いた遠隔神経眼科コンサルテーションへの応用可能性について概説した1)。
ビデオ眼振計の3D化により回旋性眼振の精密解析が可能となりつつある。またEEG-fMRI融合技術はてんかん性眼振の診断向上に寄与することが期待される1)。
Glasauer らは4-AP 10mgの単回投与が上向き眼振(UBN)を有意に改善することを報告した1)。DBNに対する4-APのエビデンスとあわせ、アミノピリジン系薬剤の眼振治療における有用性が確立されつつある。
メマンチンは後天振り子眼振(MS関連)において有効性が報告されており、ガバペンチンとともに標準的薬剤としての位置づけが強まっている1)。
非侵襲的神経刺激(経頭蓋磁気刺激・経頭蓋直流電流刺激など)を眼振治療に応用する研究が始まっている。現時点では実験的段階にとどまるが、薬物治療抵抗例への代替として期待される1)。