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神経眼科

神経眼科学と脳アミロイド血管症

1. 神経眼科学と脳アミロイド血管症とは

Section titled “1. 神経眼科学と脳アミロイド血管症とは”

脳アミロイド血管症(cerebral amyloid angiopathy; CAA)は、血管壁の外膜および中膜へのβアミロイド(Aβ)斑の蓄積により、脳および軟膜の中小血管が侵される疾患である。孤発性CAAは年齢依存性で、60~65歳未満では稀である。健康な高齢者の約30~50%に認められ3)、高血圧に次いで脳内出血の第2位の原因として位置付けられる3)

アルツハイマー病(AD)との関連が強く、AD患者の80~90%にCAAが合併する3)。ただし、CAAはADを伴わない場合にも単独で発症する。

遺伝性CAA(h-CAA)は孤発性CAAより稀で、常染色体優性遺伝を示すことが多い。Aβ型とnon-Aβ型に大別される2)

  • Aβ型(APP遺伝子変異、21番染色体):Dutch型(50代発症、認知症が優位)、Flemish型(45歳~)、Italian型(50代、脳葉出血+皮質石灰化)、Iowa型(50~60代)などが知られる
  • non-Aβ型:Icelandic型(シスタチンC、20番染色体、20~30代と若年発症)、家族性英国型認知症(ABri)、家族性デンマーク型認知症(ADan)

医原性CAA(iatrogenic CAA; iCAA)は、死体硬膜移植(Lyodura等)や脳・脊髄に対する器具操作を契機に発症する比較的新たな概念である。潜伏期は30~40年で、50例以上の報告がある4)。従来は若年発症例(55歳未満)が主体と考えられていたが、65歳以上の高齢者でも発症し得ることが5例の報告(平均発症73.6歳、平均潜伏期33.8年)で示された4)

CAAはβアミロイドの沈着パターンと炎症の有無により、典型的CAA、炎症性CAA(I-CAA)、Aβ関連血管炎(ABRA)、中枢神経系原発血管炎(PACNS)の4カテゴリーに分類される。

Q 脳アミロイド血管症はアルツハイマー病と関係があるか?
A

AD患者の80~90%にCAAが合併しており、両者は密接に関連する。ただしCAAはADを伴わずに単独で発症することもある。詳細は「病態生理学・詳細な発症機序」の項を参照。

CAAは通常無症状であるが、臨床症状が現れる場合は出血の部位と大きさに依存する。

  • 視力障害・視野欠損:後頭葉または視放線の障害による同名半盲や皮質視覚障害として現れる。最も一般的な眼科的症状である
  • 認知機能低下:進行性の記憶障害・遂行機能障害。AD合併例ではより顕著
  • 頭痛:脳葉出血やくも膜下出血に伴い急性に発症する
  • てんかん発作:出血性病変や皮質障害に伴い出現する
  • 局所神経脱落症状:出血部位に応じた片麻痺、失語、感覚障害など
  • 一過性局所神経症候(TFNE/amyloid spells):感覚障害(しびれ・ピリピリ感)や視覚障害(「光が点滅する」「文字が踊る」等)が一過性に出現する4)8)

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

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CAAにおいて最も一般的な眼科的臨床像は後頭葉の病変であり、同名半盲あるいは両側性の場合は皮質視覚障害が引き起こされる。後頭葉障害では同名半盲以外の神経症状がないこともある。

  • 同名半盲:後頭葉または視放線の出血性・虚血性病変により対側の視野欠損を生じる。責任部位は後頭葉が多い
  • 皮質視覚障害:両側後頭葉病変により両側性の視覚喪失を来す。「見えないことを否定する」Anton症候群を呈することがある
  • 視覚失認:視覚連合野への障害により発生する。紡錘状顔領域の病変では相貌失認を来した報告がある
  • 網膜所見光干渉断層計(OCT)で網膜神経線維層(RNFL)の菲薄化が検出され、疾患の早期指標となる可能性がある。炎症性網膜血管炎との関連も指摘されている
  • まれな所見視神経乳頭浮腫、網膜出血、乳頭周囲出血。孤発性CAAの一例では網膜虚血による新生血管緑内障から視力喪失に至った報告がある
Q 脳アミロイド血管症で視力が下がることはあるか?
A

後頭葉や視放線の出血・虚血により同名半盲や皮質視覚障害が生じ、視力・視野の障害を来す。これがCAAで最も一般的な眼科的所見である。詳細は「診断と検査方法」の項を参照。

CAAの根本原因はアミロイド前駆体タンパク質(APP)から生成されるAβの異常な産生と分解障害であり、Aβが血管壁に蓄積して正常構造を損なう。

主なリスク要因は以下の通りである。

  • 加齢:最大のリスク因子。発症率は高齢者層で著明に増加する
  • 遺伝的因子:ApoE-ε4はCAA発症リスクを上昇させ、ApoE-ε2は線維素壊死・血管破裂を促進し出血性合併症リスクを高める3)。ABRA症例ではApoE-4/4遺伝子型が優位である3)
  • 高血圧:血圧コントロール不良はCAA関連出血の頻度を増加させる
  • アルツハイマー病:AD病理との共存率が高い(80~90%)3)
  • 医原性曝露:死体硬膜移植(Lyodura等)、脳・脊髄の器具操作がAβのプリオン様伝播を引き起こす可能性がある4)8)
Q 遺伝性の脳アミロイド血管症はあるか?
A

Dutch型、Flemish型、Icelandic型など複数の遺伝性CAA(h-CAA)が知られている。APP遺伝子やシスタチンC遺伝子の変異が原因で、孤発性CAAより若年で発症する傾向がある。詳細は「神経眼科学と脳アミロイド血管症とは」の項を参照。

CAAの確定診断には脳生検が必要である。病理学的にはコンゴーレッド染色で陽性となり、偏光下でアミロイド特有の「リンゴ緑色(apple-green)」複屈折を示す3)。しかし大多数の症例は生前に病理学的確認なく臨床診断される。

ボストン基準v2.0(MRIによる臨床診断)

Section titled “ボストン基準v2.0(MRIによる臨床診断)”

2022年に改訂されたボストン基準v2.0は、新興MRIマーカーを取り入れてCAAの臨床診断精度を向上させた1)

分類基準
確実例剖検で重度CAA血管病変を確認
ほぼ確実例(病理裏付け)出血+ある程度のCAA所見
ほぼ確実例(MRI/CT)50歳以上、厳密脳葉出血性病変≧2個、または≧1個+白質病変≧1個
疑い例(MRI/CT)55歳以上、単発の脳葉出血

Schroederら(2023)の報告では、ボストン基準v2.0のほぼ確実例に対する感度は74.5%(95% CI 65.4~82.4)、特異度は95.0%(95% CI 83.1~99.4)であり、AUC 0.798と旧基準より有意に優れていた(p=0.0005)1)

MRI施行が困難な環境ではCTによるEdinburgh基準が補助的に用いられる1)。脳葉出血における指状突起(finger-like projections)とくも膜下出血の有無でCAA確率を層別化する。高リスク(両者あり)の特異度は87.1%だが感度は58.5%にとどまる。

  • MRI(GRE/SWI):微小血管症による血管外漏出を低信号域として描出する。CAAの評価に最も有用な画像検査である
  • 皮質表層ヘモジデリン沈着症:CAAに特異的な所見として知られる
  • 半球大脳中心溝拡大血管周囲腔(CSO-EPVS):iCAA全例で認められた所見4)
  • OCT:網膜神経線維層菲薄化が早期指標となる可能性がある
  • 補体C3:CAA群0.43 u/mL vs 非CAA群0.35 u/mL(p=0.040)、AUCROC 0.681)
  • 髄液バイオマーカー:Aβ42低下、tau・pTau-181・NfL上昇がiCAAで報告されている5)8)

脳内出血を引き起こす他の原因との鑑別が必要である。

  • 出血性腫瘍、脳動静脈奇形(AVM)、外傷
  • 出血性脳卒中、高血圧性出血性微小血管症
  • 脳嚢尾虫症(neurocysticercosis)

CAAに対する根治的治療は現時点で確立されていない3)。治療は合併症の管理と再発予防が主体となる。

血圧コントロールがCAA関連出血の予防において最も重要である。目標血圧は130/80 mmHg未満とする7)

CAA患者では抗血小板薬・抗凝固薬がいずれも再発出血リスクを高める可能性があり、心房細動(AF)合併例では脳卒中予防と出血リスクのバランスが治療上の大きなジレンマとなる7)

Stollbergerら(2023)は、AF+CAA+ICHの83歳男性に対し抗血小板薬・抗凝固薬・左心耳閉鎖術いずれも行わず、血圧管理のみで27か月間出血・虚血イベントなく経過したと報告した。Rochester研究でも、AF+CAA+ICHの35例中、抗血栓薬非使用の25例で2.7年間の追跡中、虚血性脳卒中は1例のみであった7)

左心耳閉鎖術(LAAC)はAF合併例における代替案として検討されるが、術後の抗血小板薬が必要であること、左房機能障害による心不全リスクがあること、エビデンスが限定的であることに留意する7)

スタチン療法の役割についても議論がある。理論的にはCAA再発出血リスクを高める可能性が指摘されている。

有意な占拠効果(mass effect)がない場合、脳内出血の外科的除去による生存率改善は認められていない。

CAA-ri/ABRAではステロイドが有効な場合がある2)3)5)

  • 急性期:メチルプレドニゾロン静注1 g/日×5日間2)5)
  • 維持療法:プレドニゾロン経口60 mg/日から5 mg/週ずつ漸減5)
  • 一部の症例ではステロイドへの反応が不十分、または再発が報告されている3)

認知機能のフォローアップとリハビリテーションが長期管理において重要である3)。てんかん発作に対しては抗てんかん薬を使用する。

Q 脳アミロイド血管症に有効な薬物治療はあるか?
A

根治薬はない。血圧管理が最重要で、出血リスクの低減に寄与する。CAA関連炎症(CAA-ri/ABRA)にはステロイドが有効な場合がある。現在、抗Aβ抗体薬の研究が進行中だが、ARIA等の副作用モニタリングが必要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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CAAの病態はAPP由来のAβの異常な産生と排出障害に起因する。Aβが脳の中小血管壁に蓄積すると正常な血管構造が損なわれ、以下の病態が生じる。

血管壁へのAβ沈着は類線維素壊死(fibrinoid necrosis)を誘発し、動脈壁の脆弱化と破裂を招く3)。これが脳葉出血の主たる機序である。紡錘状の動脈拡張とアミロイドによる動脈壁の破綻が脳葉出血を引き起こす。

Aβ沈着による動脈内腔の進行性閉塞と微小血管閉塞は、皮質微小梗塞・白質虚血・白質脳症の原因となる2)3)

CAA-ri/ABRAの機序は十分解明されていないが、血管壁に沈着したAβに対する自己免疫反応が関与すると考えられている3)5)。髄液中に抗Aβ自己抗体が検出された報告がある3)。ABRAでは血管壁のアミロイドを貪食する多核巨細胞を伴う肉芽腫性炎症が特徴的である3)

iCAAでは、医療処置で伝播されたAβが「種晶(seed)」として機能し、プリオン様の連鎖的蓄積を引き起こすと仮説されている4)8)。潜伏期は約30~40年であり、Lyoduraを介した伝播が最も多く報告されている。iCAA患者の27.4%で画像上の炎症所見が認められており、炎症がiCAAにおいても生じ得ることが示された5)

抗Aβモノクローナル抗体(レカネマブ等)によるAβクリアランス時に、血管壁の完全性がさらに損なわれ、血管性浮腫(ARIA-E)や微小出血(ARIA-H)が発生する6)。免疫介在性の炎症反応も関与すると考えられている。

網膜は発生学的に脳の一部であり、血液網膜関門は血液脳関門と類似した構造をもつ。Aβの血管壁沈着は網膜への血流供給に影響を及ぼし、OCTで検出されるRNFL菲薄化が報告されている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

Schroederら(2023)は、ボストン基準v2.0がCSO拡大血管周囲腔やmultispot白質高信号といった新興MRIマーカーを取り入れることで、旧基準よりも高感度な診断を可能にしたと報告した1)

補体C3がCAAのバイオマーカー候補として浮上しているが(AUCROC 0.68)、認知症患者を含む大規模コホートでの検証が今後必要である1)

Panteleinenkoら(2024)は、65歳以上の高齢者5例の医原性CAAを報告し、iCAAが従来考えられていたより幅広い年齢層で発症し得ることを示した。すべての患者に神経外科手術歴があり、潜伏期は30~39年であった4)

全てのCAA患者に対し、年齢を問わず過去の医療処置歴(特に死体硬膜使用の可能性)を確認することの重要性が強調されている4)

Panteleinenkoら(2025)は、iCAAにCAA-ri(CAA関連炎症)が合併した初の詳細な臨床報告を行った。49歳女性にステロイド治療(メチルプレドニゾロン1 g/日×5日→プレドニゾロン60 mg漸減)を行い、2か月で血管性浮腫と軟膜造影が消失した5)

この報告は、孤発性CAAに限らず医原性・遺伝性を含む幅広いCAA亜型でステロイド治療が考慮され得ることを示唆する。

Wangら(2025)は、レカネマブ治療中にARIA-E(浮腫)とARIA-H(微小出血)を発症した2例を報告した。既存のCAAやApoE ε4保因者は主要なリスク因子であり、治療前の微小出血が4個を超える場合はレカネマブの適応外とされている6)

Cepinら(2025)は、42歳のiCAA症例で髄液Aβ42低下(353 ng/L)、tau上昇(1,534 ng/L)、NfL著明上昇(21,360 ng/L)を報告し、血管造影で異常が検出されない場合のCSFバイオマーカーの診断的価値を示した8)

網膜はAβ沈着の影響を受けやすく、OCTによるRNFL菲薄化がCAAの早期指標として研究されている。非侵襲的で繰り返し実施可能な点が利点であるが、CAAに対する診断特異性の確立には更なる研究が必要である。


  1. Schroeder BE, Robertson NP, Hughes TAT. Cerebral amyloid angiopathy: an update. J Neurol. 2023;270:2809-2811.
  2. Maramattom BV. Cerebral Amyloid Angiopathy with Lobar Haemorrhages and CAA-Related Inflammation in an Indian Family. Cerebrovasc Dis Extra. 2022;12:23-27.
  3. Reisz Z, Troakes C, Sztriha LK, Bodi I. Fatal thrombolysis-related intracerebral haemorrhage associated with amyloid-beta-related angiitis in a middle-aged patient. BMC Neurol. 2022;22:500.
  4. Panteleienko L, Mallon D, Oliver R, et al. Iatrogenic cerebral amyloid angiopathy in older adults. Eur J Neurol. 2024;31:e16278.
  5. Panteleienko L, Mallon D, Htet CMM, et al. Cerebral Amyloid Angiopathy-Related Inflammation in Iatrogenic Cerebral Amyloid Angiopathy. Eur J Neurol. 2025;32:e70198.
  6. Wang Y, Yu Q, Chen B, et al. Two cases of Amyloid-Related Imaging Abnormalities (ARIA) following lecanemab treatment for Alzheimer’s disease and a literature review. BMC Neurol. 2025;25:281.
  7. Stollberger C, Finsterer J, Schneider B. Stroke prevention in an octogenarian with atrial fibrillation, cerebral amyloid angiopathy and intracerebral hemorrhage. Clin Case Rep. 2023;11:e7630.
  8. Cepin U, Straus L, Zupan M, et al. Atypical presentation of cerebral amyloid angiopathy in a 42-year-old man with recurrent lobar hemorrhages and neuropsychiatric symptoms. Surg Neurol Int. 2025;16:554.

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