コンテンツにスキップ
神経眼科

原発性シェーグレン症候群の神経眼科的症状

1. 原発性シェーグレン症候群の神経眼科的症状とは

Section titled “1. 原発性シェーグレン症候群の神経眼科的症状とは”

シェーグレン症候群(Sjögren syndrome; SS)は、涙腺・唾液腺を主標的とする慢性自己免疫性外分泌腺疾患である。導管周囲へのリンパ球浸潤→分泌機能喪失→乾性角結膜炎・口腔乾燥症という経路が基本病態をなす。

自己免疫性リウマチ疾患のなかで2番目に多く、推定有病率は0.1〜4.8%である。日本では50歳代が最多で、男女比は1:14(国際報告では1:9)、原発性が約70%、二次性が約30%を占める。

分類

原発性SS(pSS)は単独発症、続発性SSは関節リウマチ(RA)や全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患に合併する。さらに、腺性SS(病期I:乾燥症状のみ)と腺外性SS(病期II:全身臓器病変を伴う)に病期分類される。悪性リンパ腫を発症した場合は病期IIIとなる。

腺外疾患は30〜70%のpSS患者が発症する。呼吸器・腎・皮膚・関節・自己免疫性甲状腺炎・消化器症状が含まれ、神経症状は2〜60%に生じると報告される。また、5%が非ホジキンリンパ腫(B細胞由来)を発症する。

pSSは乾燥症状なしに非典型的な全身症状で初発することがある。

Gao Y らは、35歳女性が四肢脱力・重度低カリウム血症(1.7 mmol/L)・急性ミオパチー(CK 7586 U/L)で救急受診した1例を報告した1)。典型的な眼・口腔乾燥症状はなく、最終的にpSS関連尿細管性アシドーシス(SS-RTA)と診断された。

歴史

Henrik Sjögren(1899–1986)が1930年に最初の症例を記録し、1933年に博士論文として発表した。1943年にBruce Hamiltonが英訳することで国際的に認知された。

Q シェーグレン症候群には原発性と続発性がありますが、何が違うのですか?
A

原発性SSは単独発症であり、続発性SSは関節リウマチやSLEなど他の自己免疫疾患に合併する。日本では原発性が約70%を占める。抗Ro/La抗体陽性(血清陽性型)の患者は腺外症状のリスクが高い。

眼症状

  • 乾燥・異物感・掻痒感:外見上正常でも自覚症状が先行することがある。
  • 角膜過敏症:眼が正常に見えても強い掻痒感・異物感を訴える。角膜神経の異常再生による誤発火が原因と考えられる。

口腔症状

  • 口腔乾燥:食事・会話困難、虫歯・歯周病リスク増大をきたす。

神経症状(中枢神経:CNS)

  • 視力低下:視神経炎による。
  • 感覚消失・運動麻痺・失語症・構音障害・発作・運動障害・小脳症状
  • 認知機能障害:注意力低下・記憶障害。
  • 頭痛・インフルエンザ様症状:無菌性髄膜炎に伴う。

神経症状(末梢神経:PNS)

  • しびれ・感覚異常・不快性感覚異常:三叉神経障害による(通常片側性、上顎枝V2優位)。
  • 四肢脱力:末梢神経障害による。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”
  • 乾性角結膜炎フルオレセイン・ローズベンガル・リサミングリーン染色で角結膜上皮障害を確認する。SSでは結膜上皮障害が顕著である。
  • Schirmerテスト(I法):無麻酔下で試験紙5mm以下/5分が異常。涙液分泌減少→涙液層不安定→角結膜上皮障害→反射性分泌低下という悪循環を形成する。
  • 共焦点顕微鏡所見:神経密度は正常だが、神経芽出(nerve sprouts)と樹状抗原提示細胞の増加が認められる。

視神経炎・視神経症

視神経炎:片側性・両側性いずれも生じる。82名の研究で13名にONによる視力低下を認め、1名が失明した。

不顕性視神経炎:VEP検査で検査患者の61%に異常を検出。12名の不顕性視神経炎がVEPで診断された。

球後視神経:7例中4例が無症状で、VEPのみで診断。

脳神経障害

三叉神経障害:脳神経症状の約50%を占める最多の障害。通常片側性、上顎枝(V2)優位。しびれ・感覚異常・不快性感覚異常を呈する。

顔面神経麻痺:三叉神経に次いで多い。両側性麻痺も報告される。

動眼神経麻痺複視眼球運動障害。反復性III・VI麻痺、III/V/VI/VII/IX/X同時麻痺などの多発性脳神経障害も生じる。

  • NMOSD模倣:抗AQP4抗体陽性例では視神経炎+横断性脊髄炎(NMOSDとの鑑別が重要)を呈する。
  • 核上性眼筋麻痺MS様CNS病変の一部として生じる。
  • 脊髄病変:急性横断性脊髄炎(最多)、四肢麻痺、対麻痺、括約筋不全、Brown-Séquard症候群。
Q ドライアイ以外に眼に関わる神経症状にはどのようなものがありますか?
A

視神経炎(片側性・両側性)、三叉神経障害(顔面のしびれ・感覚異常)、動眼・外転神経麻痺による複視、核上性眼筋麻痺などが生じる。VEP検査では症状のない不顕性視神経炎も検出できる。

自己免疫機序

  • 顕著な多クローン性B細胞活性化を基盤とする。
  • 非臓器特異的自己抗体:抗Ro/SSA(約60%)、抗La/SSB(約40%)、RF、ANA。
  • 血清陽性(抗Ro/La陽性)の患者は腺外症状リスクが高い。

病因

遺伝的素因、免疫学的要因、環境要因が関与する。環境要因としてEBV・HTLV-I・HCV感染の関与が示されている。

リスク因子

  • 性別:女性に圧倒的に多い(男女比1:9〜1:14)。
  • 年齢:中年、50歳代が最多。

涙液減少の機序

涙腺の炎症性破壊による涙液減少型ドライアイが主体だが、免疫学的炎症・瞬目摩擦も関与する。

各国でいくつかの診断基準が使用されている。以下に主要な基準を示す。

日本の厚生省研究班改訂診断基準(1999年):4項目中2項目以上陽性でSSと診断する。

項目検査内容
① 生検病理口唇腺/涙腺生検:4mm²あたり1 focus以上
② 口腔検査唾液腺造影Stage1以上、または唾液分泌量低下+シンチグラフィ
③ 眼科検査Schirmer 5mm/5分以下+ローズベンガルvan Bijsterveld 3以上、またはSchirmer 5mm/5分以下+蛍光色素テスト陽性
④ 血清検査抗SS-A/Ro陽性 または 抗SS-B/La陽性

2002年欧米合同コンセンサスグループ基準:6項目中4項目以上(IV・VI必須)。

  • I. 眼症状(3ヶ月以上のドライアイ等)
  • II. 口腔症状
  • III. 眼客観的所見(Schirmer 5mm以下/5分、van Bijsterveld 4以上)
  • IV. 小唾液腺生検(focus score ≧1)
  • V. 唾液腺病変
  • VI. 自己抗体(抗Ro/SSA、抗La/SSB)

2012年SICCA基準:客観的測定のみで3項目中2項目を要する。

  • I. 眼染色スコア≧3
  • II. 小唾液腺生検(focus score ≧1)
  • III. 抗Ro/SSA・抗La/SSB陽性、またはRF陽性+ANA≧1:320

除外基準:頭頸部放射線治療歴、C型肝炎、AIDS、リンパ腫、サルコイドーシス、移植片対宿主病(GVHD)、IgG4関連疾患。

  • Schirmerテスト(I法):無麻酔下、試験紙を使用。5mm以下/5分が異常値。
  • 角結膜染色:フルオレセイン・ローズベンガル・リサミングリーンによる染色で上皮障害を評価する。
  • VEP(視覚誘発電位):不顕性視神経炎のスクリーニングに有用。検査患者の61%に異常を検出した報告がある。
  • MRI:脳前頭・頭頂の皮質下局所病変の評価に用いる。SPECT(前頭・側頭葉の血流低下)も補助的に使用される。
  • 髄液(CSF)分析:無菌性リンパ球性髄液細胞増加(最大900 cells/μl)、IgGインデックス上昇、オリゴクローナルバンドが特徴的。
  • 病期I(腺性SS):涙腺・唾液腺のみ侵されており、乾燥症状のみを呈する。
  • 病期II(腺外性SS):全身臓器病変を伴う。
  • 病期III:腺外性SSで悪性リンパ腫を発症した段階。

視神経炎を呈した場合、SS確認のため抗SS-A・抗SS-B抗体検査を行う。MS、NMOSD(抗AQP4抗体確認)、SLE、サルコイドーシスとの鑑別が重要である。

Q シェーグレン症候群の診断にはどのような検査が必要ですか?
A

日本では厚生省1999年改訂基準により、生検病理・口腔検査・眼科検査(SchirmerテストI法+角結膜染色)・血清自己抗体(抗SS-A/Ro、抗SS-B/La)の4項目中2項目以上で診断する。神経眼科症状が疑われる場合はVEPやMRI・髄液検査を追加する。

日本の教科書・ガイドラインに基づく標準治療を以下に示す。

  • 0.1%・0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼(ヒアレイン®):pH・浸透圧調整された基本薬。1日6回。
  • 3%ジクアホソルナトリウム点眼(ジクアス®):水分・ムチン分泌を促進する。1日6回。
  • 2%レバミピド点眼(ムコスタ®点眼液UD):ムチン産生を促進する。1日4回。
  • 液体コラーゲンプラグ(キープティア®):涙道閉鎖による点眼補助。

処方例は以下の通りである。

  • 処方例1:ヒアレイン0.1% 1日6回
  • 処方例2:ジクアス3% 1日6回+ヒアレイン0.1%(乾燥時)
  • 処方例3:ムコスタUD 2% 1日4回+ヒアレイン0.1%(乾燥時)

重症(SS等、反射性涙液分泌低下例)

Section titled “重症(SS等、反射性涙液分泌低下例)”

防腐剤無添加点眼薬を推奨する。

  • ヒアレインミニ0.1%:1日6回(防腐剤無添加)。
  • ヒアレインミニ0.3%+フルメトロン0.1%:ステロイドは期間を最小限に抑える。
  • 涙点プラグ(シリコンプラグ)または外科的涙点閉鎖:涙液保持のために行う。
  • 自己血清点眼:あらゆる治療に抵抗する場合に使用する。

その他の管理

  • 水分保持ゴーグルによる蒸発抑制。
  • 眼瞼炎合併時は温罨法・眼瞼清浄化・局所抗菌薬。
  • 海外では分泌促進薬(ピロカルピン・セビメリン)が使用される。
  • 視神経炎・脊髄炎(急性期):副腎皮質ステロイド治療が第一選択。ただし慢性脊髄症ではステロイド反応性が乏しい。
  • 進行性脊髄症:シクロホスファミド+グルココルチコイドによる免疫抑制療法が一定の有効性を示す。

SS関連尿細管性アシドーシス(SS-RTA)を合併した低カリウム血症には、クエン酸カリウム内服(1.46 g/回、1日3回)による血清カリウム補正が行われる1)

Q ドライアイの点眼治療で改善しない場合、次のステップは何ですか?
A

涙点プラグや外科的涙点閉鎖で涙液保持を図る。それでも改善しない重症例では自己血清点眼を行う。炎症が強い場合は防腐剤無添加ステロイド点眼を短期間併用することがある。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”
  • 顕著な多クローン性B細胞活性化が基盤となる。
  • 高ガンマグロブリン血症と、臓器特異的・非臓器特異的自己抗体の産生が生じる。
  • 基本病変は涙腺・唾液腺導管周囲へのリンパ球浸潤(T細胞→B細胞→リンパ濾胞形成)。
  • 浸潤が腺腫大・腺組織損傷に進行し、ドライアイ・口腔乾燥が生じる。
  • さらに進行するとB細胞リンパ腫へ移行する(5%)。

角膜・涙腺分泌障害の神経機序

Section titled “角膜・涙腺分泌障害の神経機序”
  • 共焦点顕微鏡所見:神経密度は正常だが、神経芽出と樹状抗原提示細胞が増加する。
  • 神経因性角膜過敏症:炎症または異常再生神経の誤発火により生じる。Schirmerテストは低下するが角膜感受性は亢進しており、涙腺分泌障害が角膜神経活性化以外のステップで生じることを示す。
  • 神経伝達物質放出の障害:IL-1βが神経末端からの放出を阻害する(MRL/MpJ-Faslprマウスモデル)。
  • M3ムスカリン受容体機能阻害抗体:アセチルコリン作用をブロックし、涙腺・唾液腺分泌を障害する。

CNS病変の機序

単核細胞の直接浸潤:CNSへの炎症性浸潤・損傷。

血管損傷:抗神経抗体・抗Ro抗体がリスク増加に関与する。

小血管炎による虚血:虚血性変化が二次的神経障害を引き起こす。

PNS病変の機序

血管/末梢炎症浸潤:末梢神経周囲の炎症細胞浸潤。

vasa vasorum血管炎:神経栄養血管の血管炎が虚血をきたす。

抗神経抗体・抗M3抗体:神経への直接的な免疫学的障害。

視神経炎の病態:脱髄と虚血性血管炎の組み合わせにより生じる。

腎尿細管上皮へのリンパ球浸潤→間質性腎炎→遠位尿細管性アシドーシスという経路をたどる1)。SS患者の腎関与率は0.3〜33.5%で、通常SS診断から2〜7年後に出現する。重度低カリウム血症(≦2.0 mmol/L)では、細胞内カリウム移動→Na-Kポンプ不均衡→細胞浮腫→筋変性→CK血中放出という機序で急性ミオパチーが生じる1)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

VEPによる不顕性視神経炎スクリーニング

Section titled “VEPによる不顕性視神経炎スクリーニング”

pSS患者82名を対象とした研究では、12名の不顕性視神経炎がVEPにより検出された。検査を受けた患者の61%にVEP異常が認められた。この結果から、pSS患者への系統的視神経炎スクリーニングとしてのVEP活用が提案されている。

抗AQP4抗体陽性のpSS患者でNMOSD様の視神経炎+横断性脊髄炎が報告されており、SS-NMOSD合併の実態解明が進められている。

共焦点顕微鏡による角膜神経評価

Section titled “共焦点顕微鏡による角膜神経評価”

共焦点顕微鏡を用いた評価では、神経密度が正常でも芽出や樹状細胞増加が認められ、pSSの早期神経障害を客観的に検出できる可能性がある。

Gao Y らは、SS-RTAに伴う重度低カリウム血症(1.7 mmol/L)が急性ミオパチー(CK 7586 U/L)の初発症状となり得ることを報告した1)。乾燥症状を欠く非典型的pSSの発見契機となりうる点が示唆された。


  1. Gao Y, Nkoua GDM, Chai Y. Severe Hypokalemia Complicated by Acute Myopathy: Initial Manifestation of Primary Sjögren’s Syndrome-Associated Renal Tubular Acidosis. Am J Case Rep. 2023;24:e940268.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます