MSA-C 主要所見
矩形波様眼球運動(SWJ):過剰なSWJが21/30例(70%)に認められた。
注視方向性眼振:12/30例(40%)に認められた。
頭位性下向き眼振:10/30例(33%)に認められた。
前庭動眼反射(VOR)障害:小脳変性によりヘッドインパルステストで注視変化が消失する。

多系統萎縮症(multiple system atrophy; MSA)は、パーキンソニズム・運動失調・自律神経機能不全を特徴とする中枢神経系の進行性神経変性疾患である。
旧来は小脳症状を主とするオリーブ橋小脳萎縮症、パーキンソニズムを主とする線条体黒質変性症、自律神経症状を主とするシャイ・ドレーガー症候群として別々に分類されていた。現在はこれらを統合し、小脳型(MSA-C)とパーキンソン型(MSA-P)の2型に分類される。
米国の発症率は10万人あたり0.6〜3.0人と報告されている。男女比はほぼ同等(1.3:1の報告もあり)で、発症年齢は50代前半に多くピークは55〜60歳とされる。診断後の平均余命は6〜10年である。
MSAでは求心路(瞳孔)と遠心路(眼球運動)の双方に眼科的徴候が生じる。診断が困難なことが多く、症状発症からMSA診断まで平均9.08年、脳深部刺激術(DBS)施行後にMSAと診断されるまで平均2.89年を要した後方視的研究がある。4)
MSA-Cでは小脳変性による眼振・前庭動眼反射障害・サッケード異常が目立つ。MSA-Pではパーキンソニズム由来の眼瞼痙攣・瞳孔異常が多い傾向にある。ただし両型で所見は重複するため、型のみで眼症状を判断することはできない。
MSAの最も一般的な徴候はパーキンソニズム(87%)と小脳失調(54%)である。眼球運動異常は30例の検討で以下の頻度が報告されている。
MSA-C 主要所見
矩形波様眼球運動(SWJ):過剰なSWJが21/30例(70%)に認められた。
注視方向性眼振:12/30例(40%)に認められた。
頭位性下向き眼振:10/30例(33%)に認められた。
前庭動眼反射(VOR)障害:小脳変性によりヘッドインパルステストで注視変化が消失する。
MSA-P 主要所見
サッケード低測定:22/30例(73%)に認められた。
追従眼球運動障害:水平方向の障害が多く、垂直方向は稀。
眼瞼痙攣(blepharospasm):パーキンソニズムに関連して生じる。
瞳孔異常:赤外線瞳孔計で約1/4に異常を認める。最初期の眼症状の一つ。通常両側性・対称性。
VNG(ビデオ眼振図検査)でサッケード侵入・間欠性マクロサッケード振動・オプソクローヌスを検出した症例も報告されている。1) 眼球運動の定量評価にはEOG(眼球電図)が用いられ、視覚誘導サッケード(潜時・振幅)・パシュート(利得)・VOR(利得)・固視(眼振波形・SWJ潜時)などのパラメータを記録する。最終的には多くの患者で眼球固定に至る。
小脳変性により前庭動眼反射が障害され、頭部運動時に眼球が適切に補正されないため景色が揺れて見える。眼球運動異常の中でも動揺視は患者の日常生活に直接影響する訴えである。
MSAの直接的な原因は、ミスフォールドしたα-シヌクレインがオリゴデンドロサイト内に蓄積することに起因する神経細胞死と考えられている。
MSAのコンセンサス診断基準は4つの症状領域で構成される:①自律神経・排尿機能不全、②パーキンソニズム、③小脳失調、④皮質脊髄路機能不全。
確診度に応じて以下の3段階に分類される。
| 確診度 | 基準の要点 |
|---|---|
| 疑い(possible) | 自律神経不全の徴候1つ以上+他の基準1つ |
| ほぼ確実(probable) | 自律神経不全+パーキンソニズムまたは小脳失調+レボドパ反応不良 |
| 確定(definite) | 死後病理確認が必要 |
probable MSAの自律神経不全の定義:尿失禁(男性では勃起不全を伴う)または起立後3分以内の血圧低下(収縮期30 mmHg以上または拡張期15 mmHg以上)。MDS 2022年MSA診断基準(Wenning et al. 2022)では「clinically established MSA」の概念が導入されている。2)
MSAを示唆する眼科的「レッドフラッグ」基準として以下が挙げられる:過剰なSWJ、中等度のサッケード低測定、VOR障害、眼振。VNG(ビデオ眼振図検査)がMSAの早期眼球運動異常検出に有用である。1) MSA-P患者で眼球運動異常がMRI所見より先行して検出された事例がある。1)
EOGによる眼球運動の定量評価では、視覚誘導サッケード(潜時・振幅)、パシュート(利得)、VOR(利得)、固視(眼振波形・SWJ潜時)を記録する。
MSAでは過剰なSWJ・中等度のサッケード低測定・VOR障害・眼振が鑑別のレッドフラッグとなる。垂直注視麻痺があればPSPを優先して考慮する。PDでは眼球運動障害が軽度にとどまることが多い。VNGやEOGによる定量評価が鑑別に役立つ。
MSAに対する確立された根治療法はなく、対症療法が主体となる。
DBSはMSA患者には推奨されない。12名に対する後方視的研究では、9名で一時的改善がみられたが7名で全般的悪化が生じた。認知障害・歩行困難・自律神経障害・ジストニアなどの有害事象が生じ、4名でDBS停止を要した。4)
ボツリヌス毒素注射が有効である。ドライアイを合併している場合は人工涙液・眼瞼衛生も併用する。眼瞼痙攣はMSAの経過中に生じることがあり、日常生活への影響が大きいため、早めに眼科専門医への相談が望ましい。
ミスフォールドしたα-シヌクレインがオリゴデンドロサイト内に蓄積してGCI(膠細胞細胞質内封入体)を形成し、グリア細胞機能を障害してニューロン死に至る。ニューロン消失とグリオーシスの主要部位は淡蒼球外節・尾状核・被殻・黒質・下オリーブ核・橋核・小脳プルキンエ細胞・脊髄中間外側核(ICC)である。
オプソクローヌスの発症機序については以下の3つの仮説が提唱されている。2)
| 仮説 | 提唱機序 |
|---|---|
| 橋理論 | 橋被蓋核raphe interpositus内のON障害→burst cell脱抑制 |
| 脳幹理論 | ON→burst cell間のシナプス膜特性変化→post-inhibitory rebound excitation亢進 |
| 小脳理論 | プルキンエ細胞機能不全→室頂核(FN)脱抑制→FNがONを強力に抑制→burst cell活動亢進 |
小脳理論はfMRIでFN活性化亢進が確認されており、現在最も支持されている仮説である。2)
Matsuokaら(2022)は、18F-SPAL-T-06を用いてMSA患者のα-シヌクレイン病変をin vivoで可視化する世界初のfirst-in-human PET研究を報告した。3) MSA-P 2名・MSA-C 1名・健常対照1名(72歳)でPETを実施。MSA-Pでは被殻にSPAL-T-06集積亢進、MSA-Cでは橋・小脳白質・小脳脚にも集積亢進を認めた。健常対照では対応部位に有意な集積はなかった。プローブの解離定数Kd = 2.49 nM(高親和性)で、MAO-A/B阻害剤による置換はごくわずか(オフターゲット影響最小)。GCI分布パターンと一致するトポロジーが確認された。
この研究はパーキンソン病・レビー小体型認知症への応用も見据えた基盤的研究である。今後の診断・病態解明への貢献が期待される。
Cannillaら(2024)は、30論文158症例を対象とした薬剤・毒素誘発性オプソクローヌスのシステマティックレビューを報告するとともに、MSA患者におけるアマンタジン誘発性オプソクローヌスの初症例を記載した(Naranjoスコア7)。2)
Badihianら(2022)の後方視的研究では、1,496名のMSA患者のうち12名がDBSを施行されており、9名は手術時にPD診断であった。4) 術前に非定型パーキンソニズムのレッドフラッグが全例に認められており、術前の自律神経機能検査の重要性が示唆された。MSAがPDと誤診されてDBSが施行されるケースの存在が課題である。
2022年にfirst-in-human研究が報告された段階であり、まだ研究段階にある。今後パーキンソン病・レビー小体型認知症への応用も検討されている。一般的な診療での使用はできない。
Wei Y, Chen J, Lu C, et al. Multiple system atrophy with oculomotor abnormalities as a prominent manifestation: A case series. Medicine. 2023;102(25):e34008.
Cannilla H, Messe M, Girardin F, et al. Drug- and Toxin-Induced Opsoclonus – a Systematized Review, including a Case Report on Amantadine-Induced Opsoclonus in Multiple System Atrophy. Tremor Other Hyperkinet Mov. 2024;14(1):23, 1-18.
Matsuoka K, Ono M, Takado Y, et al. High-Contrast Imaging of α-Synuclein Pathologies in Living Patients with Multiple System Atrophy. Mov Disord. 2022;37(10):2159-2161.
Badihian N, Jackson LM, Klassen BT, et al. The Effects of Deep Brain Stimulation in Patients with Multiple System Atrophy. J Parkinsons Dis. 2022;12(8):2595-2600.
Wang M, Wang Y, Yang Y, et al. A case report and literature review of possible multiple system atrophy–parkinsonian type with cholinergic deficiency. CNS Neurosci Ther. 2023;29:2384-2387.