ICP亢進による所見
乳頭浮腫:ICP亢進を反映する最も重要な眼底所見。両側性が多い。
外転神経麻痺(第VI脳神経):ICP亢進に伴う最も一般的な局在性脳神経障害。片側性または両側性。
一過性視覚暗転:ICP亢進による一時的な視力障害。

クリプトコッカス症(cryptococcosis)は、Cryptococcus neoformans および Cryptococcus gattii を主な病原体とする全身性真菌感染症である。中枢神経系(CNS)に局在すると亜急性髄膜脳炎として発症し、多彩な神経眼科的徴候を引き起こす。
CMは免疫不全患者、特にHIV感染者における成人髄膜炎の主要原因である。
感染初期の3か月における死亡率は60%を超えるとの報告がある5)。適切な抗真菌薬治療下でも死亡率は15~30%と高い5)。
CM症例の最大30%は基礎疾患のない免疫能正常者で発生する。免疫正常者では C. gattii が主な原因菌であり、近年は抗GM-CSF自己抗体を有する患者群も注目されている。HIV陰性者の死亡率は20~30%と高い。

CMにおける最も一般的な初発症状は頭痛である。その他に以下の症状がみられる。
CMの神経眼科的所見は、ICP亢進による二次的変化と直接浸潤による所見に大別される。
ICP亢進による所見
乳頭浮腫:ICP亢進を反映する最も重要な眼底所見。両側性が多い。
外転神経麻痺(第VI脳神経):ICP亢進に伴う最も一般的な局在性脳神経障害。片側性または両側性。
一過性視覚暗転:ICP亢進による一時的な視力障害。
直接浸潤による所見
視神経症:視神経への直接浸潤により視力低下・視神経萎縮を生じる。乳頭浮腫を伴わないことがICP亢進との鑑別点となりうる。
動眼神経麻痺(第III脳神経):散瞳・眼瞼下垂・眼球運動制限。血管炎による間欠的症状もある。
核間性眼筋麻痺(INO):内側縦束(MLF)の障害による。まれだが報告あり。
クリプトコッカスが視神経に直接浸潤・破壊する機序による。ICP亢進に起因する視神経萎縮では乳頭浮腫が先行することが多いのに対し、直接浸潤による場合は乳頭浮腫を伴わないことがある。ただし完全な鑑別指標とはならない。
CMの主な原因菌は以下の2種である。
環境中の鳥類の糞便(特にハト)や土壌が主な感染源であり、胞子の吸入により感染が成立する5)。C. gattii はユーカリ属の樹木との関連も報告されている。
CMの診断は腰椎穿刺による脳脊髄液(CSF)検査を中心に行われる。
| 検査法 | 特徴 |
|---|---|
| 墨汁(India ink)染色 | 迅速・安価。陽性率約50%5) |
| クリプトコッカス抗原(CrAg)LFA | 高感度・高特異度。血清・CSFで測定可能 |
| 培養 | 確定診断のゴールドスタンダード。成長に数日~4週間 |
CMの治療は導入・地固め・維持の三段階で構成される。感染症専門医との連携が必須である。
導入療法
アムホテリシンB(リポソーマル製剤またはデオキシコール酸塩)+フルシトシンの併用。
HIV陽性者:2週間 移植後:2週間以上 免疫正常者:4~6週間
地固め療法
フルコナゾール連日投与。8週間継続。
HIV陽性者では4週目に抗レトロウイルス療法(ART)の開始を検討する。
維持療法
フルコナゾール 200 mg/日の連日投与。
少なくとも1年間継続する。HIV陽性者ではCD4 > 100/uLかつウイルス量未検出が3か月以上持続すれば中止を検討する。
ICP亢進はCMにおける視力障害の主要因であり、積極的な管理が不可欠である。
ARTの開始はCMの急性期治療後、少なくとも4週間以上遅延させることが推奨される4)。早期のART開始(1~2週以内)は免疫再構築炎症症候群(IRIS)のリスクを高め、死亡率上昇と関連する。
タイで行われたCM患者22人を対象としたランダム化比較試験で、アセタゾラミド群は静脈血重炭酸塩レベルの有意な低下と塩化物レベルの上昇を認め、プラセボ群より重篤な有害事象が頻発したため試験が早期中止された。可能な限り使用を避けることが推奨されている。
CMにおける神経眼科的徴候は複数の機序が複合的に関与する。
クリプトコッカスはくも膜下腔でくも膜顆粒を通過するCSFの流れを阻害する。加えて、CSF中に蓄積する莢膜多糖体が浸透圧を上昇させて体液貯留を引き起こし、ICPをさらに上昇させる。ICP亢進は乳頭浮腫と外転神経麻痺の主因であり、ICP下降療法による視力・眼球運動の改善がこの機序を裏付けている。
剖検例の組織学的検討では、クリプトコッカスの視神経への侵入と破壊が視神経萎縮の主因として確認されている。この機序では乳頭浮腫が先行しないことが臨床的な鑑別点となりうる。
視索への浸潤は障害部位に応じて同名半盲や同名四半盲を引き起こす。
脳底動脈の小分枝の動脈内膜炎と脳幹梗塞が剖検で報告されている。この血管炎機序は以下の多彩な眼球運動障害を引き起こしうる。
眼内病変は血行性播種または軟膜を介した進展により生じる。脈絡膜炎、脈絡網膜炎、硝子体炎、前部ぶどう膜炎、眼内炎が報告されている。
C. neoformans は血液脳関門を、傍細胞通過・トランスサイトーシス・単球/マクロファージへの感染(トロイの木馬効果)の複数経路で通過する5)。C. neoformans と C. gattii はいずれも脳への独特な向性(tropism)を示す5)。
外転神経は頭蓋底を長い走行で経由するため、ICP亢進による圧迫の影響を受けやすい解剖学的脆弱性を持つ。そのため、CMに限らず頭蓋内圧亢進を来す疾患全般で外転神経麻痺が最も一般的な局在徴候として出現する。
Solis-Gomezら(2025)は、53歳の慢性肝不全女性において、核間性眼筋麻痺(INO)が抗真菌治療開始前にクリプトコッカス髄膜炎の初発症状として出現した症例を報告した1)。MRIで広範なレプトメニンジアル増強効果と中脳・小脳半球のテント下結節状増強効果を認め、DWI/ADCで虚血性脳梗塞が確認された。著者らはINOを含む軸内症状が血管炎を介した虚血により生じうることを強調し、これが治療前にINOを呈した初の報告例であるとした。1972年以降のINO/WEBINO症例は8例にとどまる。
Willettら(2022)は、免疫能正常の37歳男性に発症した C. gattii による内因性脈絡網膜炎を報告した2)。網膜下膿瘍を呈し、全身および硝子体内抗真菌療法にもかかわらず全層網膜壊死に至った。著者らは C. gattii が C. neoformans と同様に脈絡網膜炎を引き起こしうること、および硝子体手術による外科的デブリードマンが困難であることを指摘した。眼科文献上、ヒトの C. gattii 脈絡網膜炎の詳細な報告は2例目にすぎない。
Afkhamnejadら(2023)は、20歳の免疫能正常とされていた男性に発症した原発性眼窩 C. neoformans 感染を報告した3)。眼窩内膿瘍が前頭骨を貫通して頭蓋内に進展し、眼科・脳神経外科・感染症科の集学的対応を要した。免疫学的精査でIgM低値が判明し、未診断の液性免疫異常が示唆された。著者らの知る限り、原発性眼窩クリプトコッカス症の報告は世界初であった。
Violaら(2021)は、播種性クリプトコッカス症と抗GM-CSF自己抗体の関連について文献レビューを行い、27例を集計した6)。全例にCNS病変を認め、48%に肺病変を併発した。C. gattii が63%と優勢であった。臨床転帰が判明した19例のうち13例(68%)は完全回復、6例(32%)は神経学的または眼科的後遺症を残した。著者らは、既知の免疫不全を持たない播種性クリプトコッカス症患者には抗GM-CSF自己抗体の検索を推奨している。