乳児型の眼所見
視神経萎縮:最も特徴的。視神経症・視交叉病変として画像上確認される。
視力低下〜全盲:進行に伴い両眼性に生じる。
眼振(supine postural nystagmus):仰臥位姿勢眼振が報告されている。
視運動性反応不良:optokinetic responsesの低下が認められる。
脳神経麻痺:対称性の第III・第VI脳神経麻痺(動眼神経・外転神経)が出現する。
チェリーレッドスポット:かすかに認められることがある。

クラッベ病(Krabbe disease)は、類上皮細胞型白質ジストロフィー(globoid cell leukodystrophy: GLD)とも呼ばれる常染色体劣性遺伝のライソゾーム蓄積症である。ガラクトセレブロシダーゼ(GALC)酵素の欠損により、ガラクトセレブロシドおよびサイコシンが蓄積し、進行性脱髄を引き起こす。スフィンゴリピドーシスの一疾患として分類される。
1916年、デンマークの神経学者Knud Krabbeが5症例の白質病変を「びまん性脳硬化症」として初報告した5)。病変白質に出現する多核巨細胞(グロボイド細胞)が疾患名の由来となっている。
疫学:発生率は欧州で約1:100,000、ニューヨーク州では1:394,000、近親婚コミュニティ(Druze族等)では1:100〜1:150と高い3)。約90%が早期乳児型(生後6ヶ月以内発症)であり、多くは2〜4歳で死亡する2)。
臨床分類:発症年齢により5型に分類される7)。
| 病型 | 発症時期 | 頻度 |
|---|---|---|
| 早期乳児型 | 0〜6ヶ月 | 85〜95% |
| 晩期乳児型 | 7〜12ヶ月 | 少数 |
| 晩期小児型 | 13ヶ月〜10歳 | 少数 |
| 思春期型 | 11〜20歳 | 少数 |
| 成人型 | 21歳以上 | 少数 |
発症年齢により早期乳児型・晩期乳児型・晩期小児型・思春期型・成人型の5型に分類される7)。約90%が早期乳児型であり、遅発型(晩期小児型以降)は全体の5〜15%を占める。
乳児型の主な症状は以下の通りである。
**遅発型(晩期小児型・思春期型)**の症状は以下の通りである。
成人型の主な症状は以下の通りである。
視神経萎縮がスフィンゴリピドーシスの中でクラッベ病の代表的眼症状として知られており、最も特徴的な眼所見である。
乳児型の眼所見
視神経萎縮:最も特徴的。視神経症・視交叉病変として画像上確認される。
視力低下〜全盲:進行に伴い両眼性に生じる。
眼振(supine postural nystagmus):仰臥位姿勢眼振が報告されている。
視運動性反応不良:optokinetic responsesの低下が認められる。
脳神経麻痺:対称性の第III・第VI脳神経麻痺(動眼神経・外転神経)が出現する。
チェリーレッドスポット:かすかに認められることがある。
遅発型・成人型の眼所見
視覚機能障害:思春期型では最も一般的な臨床症状7)。
視神経萎縮:成人型では思春期型と比較して少ない7)。
視力低下・失明:晩期乳児型では12.5%に視覚障害または失明を認める7)。
視神経肥大(optic nerve enlargement):びまん性白質萎縮とは矛盾する稀な所見として報告されている。
脳MRIでは視放線に沿った白質高信号域が認められる。乳児型では小脳白質・歯状核が主に障害され、成人型では頭頂白質・放線冠・視放線・脳室後角周囲白質に限局する7)。乳児型では動眼神経・三叉神経の造影増強が報告されている7)。
視神経萎縮が最も特徴的な眼所見であり、スフィンゴリピドーシスの代表的眼症状として知られる。他にcherry red spot、眼振(仰臥位姿勢眼振)、視力低下〜全盲、動眼神経・外転神経麻痺が報告されている。思春期型では視覚機能障害が最も一般的な臨床症状となる7)。
GALC遺伝子が原因遺伝子である。14番染色体14q31.3に位置し、17エクソン・16イントロンで構成される。全長は約58〜60kbで、HGMDには296以上の変異が登録されている(ミスセンス・ナンセンス・欠失・挿入)2)3)。
GALCタンパク質は669アミノ酸から成り、6つのN-グリコシル化部位を持つ。TIMバレル・β-サンドイッチ・レクチンドメインの3ドメイン構造をとる3)。
30kb欠失が最も一般的な変異であり、乳児型の30〜50%を占める。北欧では乳児型変異の40〜45%がこの欠失に起因し、重症型と強く相関する3)。
変異には地域差がある。
| 地域 | 主要変異 |
|---|---|
| 中国 | H253Y, S259L, P318L, F350V, T428A, L530P, G586D |
| 日本 | I66M+I289V, G270D, T652P |
| 欧州 | P318R, G323R, I384T, Y490N |
遅発型に多い変異:p.G57S, p.T112A, p.D187V, p.G286D, p.P318R, p.L634S6)。特に**p.L634S(c.1901T>C)**は中国・日本における遅発型に高頻度で認められ、軽症型と関連する2)。
遺伝子型-表現型相関として、乳児型は中心ドメイン変異と、成人型はN末端・C末端変異と関連する傾向がある7)。
地域による変異の違いが知られており、日本では I66M+I289V、G270D、T652Pが多く報告されている3)。また p.L634Sは中国・日本の遅発型に高頻度で認められる変異である2)。
全エクソーム解析(WES)またはサンガー法シーケンシングによりGALC変異を同定する。家族例では既知変異の標的検査が有用である。
脱髄性感覚運動性ニューロパチーの検出に有用。F波潜時延長・運動神経伝導速度低下が一般的所見である7)。
Wu et al.(2022)は成人型GLDの診断基準を提案した7)。「慢性進行性対称性痙性麻痺」をコア症状とし、電気生理学的検査 → 画像検査 → 酵素・遺伝子検査の順に進める方式である。
根治療法は現時点で存在しない。管理は対症療法・支持療法が中心である。
現時点で唯一の疾患修飾療法である3)7)。
HSCT の適応
乳児型(症状出現前):唯一、有意な疾患修飾効果が期待できる条件。生後31日未満の投与が目標。
遅発型・成人型:少数の成功例あり。長期成績データは乏しく、適応は個々に判断する。
乳児型(症状出現後):効果は限定的。疾患の進行は止められない可能性が高い。
副作用・リスク
移植片対宿主病(GVHD):HSCTの主要な合併症リスク。
不妊・成長異常:長期的な副作用として報告されている4)。
限定的有効性:タイミングを逃した症例では疾患修飾効果が得られない。
血液脳関門(BBB)通過の課題から効果は限定的であり、現時点で確立した治療法ではない7)。
根治療法は存在せず、HSCTが唯一の疾患修飾療法である。乳児型では症状出現前(生後31日未満)の超早期投与が必須条件であり3)、タイミングを逃した場合は対症療法・支持療法が中心となる。遅発型・成人型での長期成績データは極めて乏しい6)。
GALC欠損によりガラクトセレブロシドとサイコシン(ガラクトシルスフィンゴシン)が蓄積する3)。サイコシンはGALCのみが分解可能であるため、GALC欠損で蓄積が制御不能となる3)。近年、酸性セラミダーゼ(ACD)がガラクトセレブロシドからのサイコシン産生の主要経路であることが確認された5)。
蓄積したサイコシンは多機序で神経障害を引き起こす。
ガラクトセレブロシド・サイコシンの蓄積が視神経の逆行性変性を引き起こし、網膜軸索・神経節細胞が消失する。この経路が視神経萎縮と視力障害の病態基盤となっている。
活発な髄鞘化時期に障害が発生するため、病型によって障害部位が異なる。成人型では小脳白質の髄鞘化が成人期までに完了しているため、小脳病変が生じない7)。
マクロファージ由来の多核巨細胞(グロボイド細胞)が周辺虹彩前癒着染色陽性で白質に出現する。脱髄に先行して形成される3)。
動物モデルでの成果が著しく、臨床試験への橋渡しが進んでいる。
Nasir et al.(2021)の報告によれば、AAV9のICV・IT・IV三経路投与を受けたtwitcherマウスの生存期間は263日(無治療対照群:40日)に達した3)。
AAVrh10のtwitcherマウスへのIV投与では、通常量(4×10¹³ gc/kg)投与で72日、10倍量(4×10¹⁴ gc/kg)投与で280日まで寿命が延長した4)。
犬モデルでのAAV9 cisterna magna投与では3年以上の生存が確認されており(通常生存期間16週)5)、内包などの深部白質へのベクター分布が今後の課題として指摘されている。
Forge Biologics臨床試験(NCT04693598):AAVとHSCTを併用する第I/II相試験が進行中である3)。
蓄積基質の産生を抑制する戦略として、複数のアプローチが検討されている。
Forge Biologics社がAAV+HSCT併用の臨床試験(NCT04693598)を実施中である3)。動物モデルでは三重併用療法(BMT+AAV5+L-cycloserine)でtwitcherマウスの生存期間が300日まで延長するなど、大幅な改善が報告されているが5)、現時点ではいずれも研究段階の治療である。
Maghazachi AA. Globoid Cell Leukodystrophy (Krabbe Disease): An Update. ImmunoTargets Ther. 2023;12:105-111.
Sun Y, Zheng J, He L, et al. Late-Onset Krabbe Disease: Case Report of Two Patients in a Chinese Family and Literature Review. Mol Genet Genomic Med. 2025;13:e70065.
Nasir G, Chopra R, Elwood F, Ahmed SS. Krabbe Disease: Prospects of Finding a Cure Using AAV Gene Therapy. Front Med. 2021;8:760236.
Rafi MA. Krabbe disease: A personal perspective and hypothesis. BioImpacts. 2022;12(1):3-7.
Bradbury AM, Bongarzone ER, Sands MS. Krabbe disease: New hope for an old disease. Neurosci Lett. 2021;752:135841.
Nicita F, Stregapede F, Deodato F, et al. “Atypical” Krabbe disease in two siblings harboring biallelic GALC mutations including a deep intronic variant. Eur J Hum Genet. 2022;30:984-988.
Wu G, Li Z, Li J, et al. A neglected neurodegenerative disease: Adult-onset globoid cell leukodystrophy. Front Neurosci. 2022;16:998275.