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神経眼科

クラッベ病における神経眼科学的所見

1. クラッベ病における神経眼科学的所見とは

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クラッベ病(Krabbe disease)は、類上皮細胞型白質ジストロフィー(globoid cell leukodystrophy: GLD)とも呼ばれる常染色体劣性遺伝のライソゾーム蓄積症である。ガラクトセレブロシダーゼ(GALC)酵素の欠損により、ガラクトセレブロシドおよびサイコシンが蓄積し、進行性脱髄を引き起こす。スフィンゴリピドーシスの一疾患として分類される。

1916年、デンマークの神経学者Knud Krabbeが5症例の白質病変を「びまん性脳硬化症」として初報告した5)。病変白質に出現する多核巨細胞(グロボイド細胞)が疾患名の由来となっている。

疫学:発生率は欧州で約1:100,000、ニューヨーク州では1:394,000、近親婚コミュニティ(Druze族等)では1:100〜1:150と高い3)。約90%が早期乳児型(生後6ヶ月以内発症)であり、多くは2〜4歳で死亡する2)

臨床分類:発症年齢により5型に分類される7)

病型発症時期頻度
早期乳児型0〜6ヶ月85〜95%
晩期乳児型7〜12ヶ月少数
晩期小児型13ヶ月〜10歳少数
思春期型11〜20歳少数
成人型21歳以上少数
Q クラッベ病にはどのような病型がありますか?
A

発症年齢により早期乳児型・晩期乳児型・晩期小児型・思春期型・成人型の5型に分類される7)。約90%が早期乳児型であり、遅発型(晩期小児型以降)は全体の5〜15%を占める。

乳児型の主な症状は以下の通りである。

  • 易刺激性(irritability):哺乳不良・啼泣などの非特異的症状から始まる。
  • 運動発達遅滞:獲得した運動機能が失われていく精神運動退行を呈する。
  • 痙縮・筋緊張亢進:後弓反張・除脳硬直へと進行する。

**遅発型(晩期小児型・思春期型)**の症状は以下の通りである。

  • 四肢遠位の筋力低下と下肢痙縮。頻回の転倒や高アーチ足を呈する2)
  • 視覚機能障害:思春期型では最も一般的な症状となる7)
  • 歩行障害:痙性歩行から進行する2)

成人型の主な症状は以下の通りである。

  • 慢性進行性の痙性麻痺と歩行障害が主症状7)
  • 認知障害・精神症状・末梢神経障害を伴うことがある7)

視神経萎縮がスフィンゴリピドーシスの中でクラッベ病の代表的眼症状として知られており、最も特徴的な眼所見である。

乳児型の眼所見

視神経萎縮:最も特徴的。視神経症・視交叉病変として画像上確認される。

視力低下〜全盲:進行に伴い両眼性に生じる。

眼振(supine postural nystagmus):仰臥位姿勢眼振が報告されている。

視運動性反応不良:optokinetic responsesの低下が認められる。

脳神経麻痺:対称性の第III・第VI脳神経麻痺(動眼神経・外転神経)が出現する。

チェリーレッドスポット:かすかに認められることがある。

遅発型・成人型の眼所見

視覚機能障害:思春期型では最も一般的な臨床症状7)

視神経萎縮:成人型では思春期型と比較して少ない7)

視力低下・失明:晩期乳児型では12.5%に視覚障害または失明を認める7)

視神経肥大(optic nerve enlargement):びまん性白質萎縮とは矛盾する稀な所見として報告されている。

  • 痙性対麻痺(spastic paraparesis)・後弓反張(opisthotonus)・除脳硬直(decerebrate rigidity)
  • 構音障害・小脳失調・舌萎縮・認知機能低下
  • 乳児型の3段階経過:非特異的症状期 → 症状進行期(視神経萎縮・痙攣悪化・精神運動退行)→ 末期(burnt-out)7)

脳MRIでは視放線に沿った白質高信号域が認められる。乳児型では小脳白質・歯状核が主に障害され、成人型では頭頂白質・放線冠・視放線・脳室後角周囲白質に限局する7)。乳児型では動眼神経・三叉神経の造影増強が報告されている7)

Q クラッベ病で見られる代表的な眼の所見は何ですか?
A

視神経萎縮が最も特徴的な眼所見であり、スフィンゴリピドーシスの代表的眼症状として知られる。他にcherry red spot、眼振(仰臥位姿勢眼振)、視力低下〜全盲、動眼神経・外転神経麻痺が報告されている。思春期型では視覚機能障害が最も一般的な臨床症状となる7)

GALC遺伝子が原因遺伝子である。14番染色体14q31.3に位置し、17エクソン・16イントロンで構成される。全長は約58〜60kbで、HGMDには296以上の変異が登録されている(ミスセンス・ナンセンス・欠失・挿入)2)3)

GALCタンパク質は669アミノ酸から成り、6つのN-グリコシル化部位を持つ。TIMバレル・β-サンドイッチ・レクチンドメインの3ドメイン構造をとる3)

30kb欠失が最も一般的な変異であり、乳児型の30〜50%を占める。北欧では乳児型変異の40〜45%がこの欠失に起因し、重症型と強く相関する3)

変異には地域差がある。

地域主要変異
中国H253Y, S259L, P318L, F350V, T428A, L530P, G586D
日本I66M+I289V, G270D, T652P
欧州P318R, G323R, I384T, Y490N

遅発型に多い変異:p.G57S, p.T112A, p.D187V, p.G286D, p.P318R, p.L634S6)。特に**p.L634S(c.1901T>C)**は中国・日本における遅発型に高頻度で認められ、軽症型と関連する2)

遺伝子型-表現型相関として、乳児型は中心ドメイン変異と、成人型はN末端・C末端変異と関連する傾向がある7)

  • 家族歴、両親のGALC変異保因
  • SapA(サポシンA)欠損:GALC活性は保持されるが、サイコシンが上昇し、KD様表現型を呈する稀な病態3)
  • 遺伝形式:常染色体劣性(AR)
Q クラッベ病の遺伝子変異には地域差がありますか?
A

地域による変異の違いが知られており、日本では I66M+I289V、G270D、T652Pが多く報告されている3)。また p.L634Sは中国・日本の遅発型に高頻度で認められる変異である2)

  • GALC酵素活性測定:白血球または培養線維芽細胞で測定する。活性低下が基本的診断法である3)7)。正常値は29.46〜34.40 nmol/17h/mg、基準値は12.70 nmol/17h/mg以上2)。遅発型では活性がわずかに基準値以下にとどまる場合もある(例:11.63、11.65 nmol/17h/mg)2)
  • サイコシン(psychosine)レベル:乾燥ろ紙血で測定。早期乳児型の優れたバイオマーカーである3)。遅発型では正常〜低値のことがあり、解釈に注意を要する6)
  • 新生児スクリーニング(NBS):タンデム質量分析法によるGALC活性測定。米国では8州で実施されている3)

全エクソーム解析(WES)またはサンガー法シーケンシングによりGALC変異を同定する。家族例では既知変異の標的検査が有用である。

  • 乳児型:小脳白質・歯状核・皮質脊髄路・脳梁・視放線に沿った白質高信号域7)
  • 成人型:頭頂白質・放線冠・視放線・脳室後角周囲白質に限局した病変7)
  • 造影増強:一般的に稀だが、脳神経(動眼・三叉神経)の造影増強が報告されている
  • 視神経肥大:びまん性白質萎縮とは矛盾する稀な所見

脱髄性感覚運動性ニューロパチーの検出に有用。F波潜時延長・運動神経伝導速度低下が一般的所見である7)

Wu et al.(2022)は成人型GLDの診断基準を提案した7)。「慢性進行性対称性痙性麻痺」をコア症状とし、電気生理学的検査 → 画像検査 → 酵素・遺伝子検査の順に進める方式である。

根治療法は現時点で存在しない。管理は対症療法・支持療法が中心である。

現時点で唯一の疾患修飾療法である3)7)

  • 乳児型への適応条件:症状出現前(生後31日未満)に開始しなければ効果が限定的である3)。生後24〜40日齢での治療成功例では30〜58ヶ月後の生存が報告されている1)
  • 遅発型への適応:遅発型5例でHSCT後に高い回復率が報告されている1)。ただし遅発型・成人型での長期成績データは極めて乏しい6)
  • 乳児型の症状出現後:効果は限定的である。

HSCT の適応

乳児型(症状出現前):唯一、有意な疾患修飾効果が期待できる条件。生後31日未満の投与が目標。

遅発型・成人型:少数の成功例あり。長期成績データは乏しく、適応は個々に判断する。

乳児型(症状出現後):効果は限定的。疾患の進行は止められない可能性が高い。

副作用・リスク

移植片対宿主病(GVHD):HSCTの主要な合併症リスク。

不妊・成長異常:長期的な副作用として報告されている4)

限定的有効性:タイミングを逃した症例では疾患修飾効果が得られない。

  • 痙縮の管理:筋弛緩薬・理学療法
  • てんかん発作抗てんかん薬
  • 栄養管理:嚥下障害に応じた経管栄養
  • IVIg(静注免疫グロブリン):成人型KD患者での四肢筋力改善が報告されている1)7)

血液脳関門(BBB)通過の課題から効果は限定的であり、現時点で確立した治療法ではない7)

Q クラッベ病に対する現時点での標準治療は何ですか?
A

根治療法は存在せず、HSCTが唯一の疾患修飾療法である。乳児型では症状出現前(生後31日未満)の超早期投与が必須条件であり3)、タイミングを逃した場合は対症療法・支持療法が中心となる。遅発型・成人型での長期成績データは極めて乏しい6)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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GALC欠損によりガラクトセレブロシドとサイコシン(ガラクトシルスフィンゴシン)が蓄積する3)。サイコシンはGALCのみが分解可能であるため、GALC欠損で蓄積が制御不能となる3)。近年、酸性セラミダーゼ(ACD)がガラクトセレブロシドからのサイコシン産生の主要経路であることが確認された5)

蓄積したサイコシンは多機序で神経障害を引き起こす。

  • 細胞膜障害:洗剤様作用により脂質ラフトの構造・機能を異常化する7)
  • アポトーシス誘導:オリゴデンドロサイト・シュワン細胞のアポトーシスを誘導し脱髄を引き起こす3)7)
  • シグナル異常SAPK(ストレス活性化プロテインキナーゼ)活性化、PI3K経路阻害7)
  • ミトコンドリア機能障害:sPLA2活性化・AMPK不活性化によるATP消費7)
  • 神経炎症:TNF-α、IL-1β、IL-6、CCL2等のサイトカイン・ケモカイン上昇3)
  • 軸索輸送障害:GSK3β活性化によるニューロフィラメント異常7)
  • 微小血管障害:BBB破綻、血管新生阻害7)

ガラクトセレブロシド・サイコシンの蓄積が視神経の逆行性変性を引き起こし、網膜軸索・神経節細胞が消失する。この経路が視神経萎縮と視力障害の病態基盤となっている。

活発な髄鞘化時期に障害が発生するため、病型によって障害部位が異なる。成人型では小脳白質の髄鞘化が成人期までに完了しているため、小脳病変が生じない7)

マクロファージ由来の多核巨細胞(グロボイド細胞)が周辺虹彩前癒着染色陽性で白質に出現する。脱髄に先行して形成される3)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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動物モデルでの成果が著しく、臨床試験への橋渡しが進んでいる。

Nasir et al.(2021)の報告によれば、AAV9のICV・IT・IV三経路投与を受けたtwitcherマウスの生存期間は263日(無治療対照群:40日)に達した3)

AAVrh10のtwitcherマウスへのIV投与では、通常量(4×10¹³ gc/kg)投与で72日、10倍量(4×10¹⁴ gc/kg)投与で280日まで寿命が延長した4)

犬モデルでのAAV9 cisterna magna投与では3年以上の生存が確認されており(通常生存期間16週)5)、内包などの深部白質へのベクター分布が今後の課題として指摘されている。

Forge Biologics臨床試験(NCT04693598):AAVとHSCTを併用する第I/II相試験が進行中である3)

蓄積基質の産生を抑制する戦略として、複数のアプローチが検討されている。

  • L-cycloserine(セリンパルミトイルトランスフェラーゼ阻害剤)+BMT → twitcherマウス生存期間120日(無治療40日)5)
  • 三重併用療法(BMT+AAV5+L-cycloserine) → twitcherマウス生存期間300日5)
  • S202 amide(ガラクトシルトランスフェラーゼ阻害剤):GalCer・サイコシン低下と生存期間延長が確認されている1)
  • 酸性セラミダーゼ阻害剤(carmofur等):脳内サイコシン低下が報告されている5)
  • rapamycin(mTOR阻害剤):オートファジー活性化、皮質髄鞘化誘導、神経突起密度の正常化が報告されている1)
  • iPSC/NSCモデル:GLD病態解明のインビトロツールとして活用されている1)
  • BBB通過戦略:集束超音波、マンニトール浸透圧破壊、工学的AAVコンストラクト(ApoB-BD、IDS signal peptide)の開発が進んでいる4)
Q 遺伝子治療の臨床試験は進んでいますか?
A

Forge Biologics社がAAV+HSCT併用の臨床試験(NCT04693598)を実施中である3)。動物モデルでは三重併用療法(BMT+AAV5+L-cycloserine)でtwitcherマウスの生存期間が300日まで延長するなど、大幅な改善が報告されているが5)、現時点ではいずれも研究段階の治療である。


  1. Maghazachi AA. Globoid Cell Leukodystrophy (Krabbe Disease): An Update. ImmunoTargets Ther. 2023;12:105-111.

  2. Sun Y, Zheng J, He L, et al. Late-Onset Krabbe Disease: Case Report of Two Patients in a Chinese Family and Literature Review. Mol Genet Genomic Med. 2025;13:e70065.

  3. Nasir G, Chopra R, Elwood F, Ahmed SS. Krabbe Disease: Prospects of Finding a Cure Using AAV Gene Therapy. Front Med. 2021;8:760236.

  4. Rafi MA. Krabbe disease: A personal perspective and hypothesis. BioImpacts. 2022;12(1):3-7.

  5. Bradbury AM, Bongarzone ER, Sands MS. Krabbe disease: New hope for an old disease. Neurosci Lett. 2021;752:135841.

  6. Nicita F, Stregapede F, Deodato F, et al. “Atypical” Krabbe disease in two siblings harboring biallelic GALC mutations including a deep intronic variant. Eur J Hum Genet. 2022;30:984-988.

  7. Wu G, Li Z, Li J, et al. A neglected neurodegenerative disease: Adult-onset globoid cell leukodystrophy. Front Neurosci. 2022;16:998275.

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