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神経眼科

MOG抗体関連視神経炎

MOG抗体関連視神経炎(MOG-ON)は、ミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(myelin oligodendrocyte glycoprotein; MOG)に対するIgG自己抗体が関与する中枢神経系(CNS)脱髄疾患である。多発性硬化症(MS)およびアクアポリン4(AQP4)抗体関連視神経脊髄炎関連疾患(NMOSD)とは独立した疾患概念であり、MOG抗体関連疾患(MOGAD)の中で最も一般的な症状が視神経炎である。

MOGADの年間発症率は世界的に百万人あたり約1.6〜4.8人、有病率は10万人あたり1.3〜2.5人と推定されている。発症年齢は二峰性分布を示し、小児5〜10歳と成人20〜45歳にピークがある。全体の発症年齢中央値は20〜30歳である。

11歳未満の小児における急性脱髄症候群の約50%をMOGADが占める。成人MOGADの初発症状としては視神経炎が最も多く(30〜60%)、次いで横断性脊髄炎(10〜25%)が続く。小児では急性散在性脳脊髄炎(ADEM)が最多(11歳未満の約45%)である。

性差については男女比がほぼ1:1であり、AQP4抗体陽性NMOSDにみられる強い女性優位性(F:M 7〜9:1)とは対照的である。人種的には白人に多い傾向がある。

初期のMOG-IgG研究はウエスタンブロット法やELISAの技術的限界により困難であった。生細胞ベースアッセイ(live cell-based assay; CBA)の登場により、臨床的に意味のあるMOG-IgGの検出が可能となり、独立した疾患概念として確立された。

Q MOG抗体関連視神経炎はどの年齢層に多いか?
A

発症年齢は二峰性分布を示し、小児5〜10歳と成人20〜45歳にピークがある。年齢により臨床像も異なり、小児ではADEM発症が最多、若年成人では片眼性視神経炎、45歳以上では両眼性視神経炎を呈しやすい。

  • 眼球運動痛・眼痛:MOG-ONの73〜92%に認められる。AQP4-ON(28〜50%)やMS-ON(10〜46%)より高頻度である。
  • 頭痛:眼窩周囲から前頭側頭部に広がる頭痛を伴うことが多い。疼痛は視力低下に先行し、中央値で3日前から出現する。
  • 視力低下:急性かつ急速に進行する。最低視力時はlogMAR 1.0(Snellen換算6/60)以下になることが多い。
  • 両眼性発症:同時性両側視神経炎が31〜84%に発生する。MSでは極めて稀である。
  • 年齢別パターン:45歳以上では両眼性ONを呈しやすく、再発リスクも高い。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”
  • 視神経乳頭浮腫:MOG-ONの45〜92%に認められる。AQP4-ON(7〜52%)やMS-ON(11〜14%)より高頻度であり、中等度〜重度の乳頭浮腫が特徴的。乳頭周囲出血を伴うことがある。
  • 相対的瞳孔求心路障害(RAPD)色覚異常とともに視神経炎全般に認められるが、MOG-ONでは両側性病変が多いため相対的瞳孔求心路障害が欠如することがある。
  • OCT所見:急性期にpRNFL肥厚を認め、回復期にpRNFL菲薄化が生じる。MSよりも菲薄化が顕著である。

以下に、主要疾患との臨床的比較を示す。

項目MOG-ONAQP4-ONMS-ON
両眼性31〜84%まれ極めて稀
乳頭浮腫45〜92%7〜52%11〜14%
眼痛73〜92%28〜50%10〜46%
  • 縦に長い視神経病変:視神経全長の50%以上に及ぶ病変が23〜88%に出現する。MSでは稀である。
  • 視神経周囲炎:視神経鞘の造影効果がMOG-ONに特徴的。MSやNMOSDでは稀である。
  • 病変部位:前方(眼窩内)視神経が主な病変部位。AQP4-ONは後方(管内・頭蓋内)に好発する。
  • 眼窩先端症候群:脳神経II・III・IV・VI障害を伴い眼窩先端症候群として発症した報告がある。36歳男性の症例では初診時NLP(光覚なし)→IVMP→血漿交換+IVIG後に6/36まで改善した1)
  • 網膜所見(PAMM:傍中心窩急性中間黄斑症(PAMM)がMOGADに合併した稀な報告がある3)
Q MOG-ONとNAION(非動脈炎性前部虚血性視神経症)はどう区別するか?
A

両疾患ともに視神経乳頭浮腫を呈しうる点で臨床像が重複する。非動脈炎性前部虚血性視神経症は無痛性・50歳以上・睡眠時無呼吸など血管リスク因子を有するのが特徴であり、MOG-ONは眼球運動痛が高頻度で若年者に多い。抗MOG抗体検査が鑑別に有用である。

MOG-ONは、MOG特異的IgG自己抗体およびT細胞が中枢神経系のミエリン鞘を標的とする自己免疫疾患である。

感染症やワクチン接種がMOGAD発症のトリガーとなりうる。傍観者活性化(bystander activation)や分子模倣(molecular mimicry)による自己免疫カスケードの誘発が推定されている。

Rojas-Correaら(2022)は、COVID-19感染45日後に両眼性MOG-ONを発症した69歳男性例を報告した6)。分子模倣による自己免疫機序が推定され、24週後にはMOG-IgGが陰性化した。

Cunhaら(2025)は、Moderna mRNA-1273ワクチン接種7日後に片眼性MOG-ONを発症した28歳女性例を報告した4)。IVMP→経口プレドニゾロン漸減で完全回復し、1年後の再発はなかった。

産後期においてMOGADの発症・再発リスクが上昇する可能性がある。妊娠中の免疫抑制からのリバウンドが推定機序として挙げられている。47例の文献レビューでは21例が産後に診断されている5)

Donovanら(2025)は、妊娠後期〜産後8日目に両眼性重症MOG-ONを発症した29歳女性例(MOG-IgG 1:160)を報告した5)。IVMP→経口プレドニゾン漸減で6か月後に20/20まで回復した。

  • 年齢:45歳以上では再発リスクが高い。
  • 持続的高力価:MOG-IgGの持続的高力価は再発リスクと相関する。
  • 他の自己免疫疾患との関連:MOG-ONと他の自己免疫疾患との関連は認められていない(NMOSDとは対照的)。
Q 感染症やワクチン接種はMOG-ONの発症にどう関与するか?
A

傍観者活性化や分子模倣により、感染・ワクチン接種が自己免疫カスケードを誘発する可能性がある。COVID-19感染後やSARS-CoV-2 mRNAワクチン接種後の発症例が報告されており、いずれもステロイド治療に良好な反応を示した4)6)

適切な臨床像を呈する患者の血清中にMOG-IgGが細胞ベースアッセイ(CBA)で陽性であることが確定診断の要件である。2023年国際MOGAD診断基準の感度は96.5%、特異度は98.9%、精度は98.5%と報告されている。

血清学的検査

生細胞CBA(live CBA):MOG-IgG検出のゴールドスタンダード。固定CBAも使用可能だが低力価での偽陽性リスクあり。

ELISA:結果の不一致が多く推奨されない。

セロコンバージョン:発症初期に陰性で再発時に陽転する例がある。小児症例で報告あり2)

髄液・画像検査

CSF中MOG-IgG:約10%の症例でCSF中のみに検出される。

CSF所見:細胞増多(50 cells/μL以上になることも)、蛋白上昇。オリゴクローナルバンドは20%未満と稀。

MRI:脂肪抑制T2強調・造影T1強調画像(薄切り1〜3mm)が必須。通常の脳MRIでは視神経評価が不十分。

両眼性ON、再発性ON、視神経乳頭浮腫を認める全症例に抗MOG抗体検査を行うことで、全MOG-ONを検出でき、かつON症例の50%の検査で済む。

日本の眼科教科書では以下の5項目を非典型的視神経炎の指標として挙げており、該当する場合は抗AQP4抗体・抗MOG抗体検査を含む精査が推奨される。

  • 発症年齢15〜45歳以外
  • 両眼発症
  • 発症後2週間以降も症状が進行
  • ステロイド依存性経過
  • 全身症状の合併
  • 多発性硬化症(MS):片眼性ON、乳頭浮腫なし、MOG-IgG陰性、CSFオリゴクローナルバンド陽性が鑑別に有用。
  • AQP4抗体陽性NMOSD:後方(管内・頭蓋内)視神経病変、視交叉単独進展、AQP4-IgG陽性が特徴。女性に著しく多い。
  • 非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION):無痛性・50歳以上・血管リスク因子あり。
  • サルコイドーシスライム病多発血管炎性肉芽腫症:全身所見・炎症マーカーを含む鑑別精査が必要。

日本の眼科教科書では急性期の第一選択としてステロイドパルス療法を推奨している。特発性視神経炎やMS関連視神経炎とは治療方針が大きく異なる点が重要である。

ステロイドパルス療法:メチルプレドニゾロン静注(IVMP)1g/日×5日間がゴールドスタンダードである。50%が完全回復、44%が部分回復を示し、無治療と比較して回復を10〜20%改善する。

IVMP抵抗性の対応

  • 免疫グロブリン静注療法(IVIG):2g/kg、2〜5日間投与。IVMP抵抗性患者の40%が改善するが部分的回復に留まることが多い。小児MOG-ONではIVIG維持療法の有効性を示す報告もある2)
  • 血漿交換療法(PLEX):IVMP・IVIG抵抗例で選択される。IVMP→PLEX+IVIGの組み合わせで視力改善が得られた症例がある1)

小児の急性期治療ではIVMP 20〜30mg/kg/日が用いられる(EU Paediatric MOG Consortium コンセンサス)1)2)

日本の眼科教科書では慢性期の再発予防にプレドニゾロン少量内服などが推奨されているが、第一選択となる再発予防治療は定まっていない。

経口ステロイド

  • MOGADはステロイド感受性が高い一方、ステロイド依存性も高い。
  • 70%のエピソードで経口プレドニゾン投与中に再発する。特に10mg/日未満への減量や中止後2か月以内に再発しやすい。
  • 漸減投与・早期中止例の再発率は無治療と同等である。
  • 発症後6か月間プレドニゾン20mg以上を継続した患者の95%が1年以上再発なし。

リツキシマブ:再発頻度低下への寄与が示唆されているが、他の維持療法に対する優越性は示されていない。最適投与量・プロトコルは未確立である。

トシリズマブ(IL-6受容体抗体):MOGADの再発予防に最長29か月の効果が報告されている。

Q ステロイド減量・中止後に再発しやすいのはなぜか?
A

MOGADはステロイド感受性が高い一方でステロイド依存性も高い。プレドニゾン10mg/日未満への減量時や中止後2か月以内に再発しやすく、漸減・早期中止例の再発率は無治療と同等である。6か月間にわたる十分量の維持が再発予防に重要とされる。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

MOGはCNSミエリン鞘の乏突起膠細胞(oligodendrocyte)表面に発現する微量膜タンパク質である。MOGADは乏突起膠細胞障害(oligodendrogliopathy)であり、AQP4抗体陽性NMOSDのアストロサイト障害(astrocytopathy)とは病態が異なる。

  • MOG-IgGのサブクラス:IgG1サブクラスであり、古典的補体経路を活性化する。ただし補体活性化効率はAQP4-IgGより低い(二価結合MOG-IgGが多いため)。
  • Fc受容体経路:MOG-IgGは新生児型Fc受容体経路を活性化し、T細胞の活性化と組織浸潤を促進する。
  • T細胞プロファイル:炎症性プラークではCD4陽性T細胞が優勢(MSではCD8陽性T細胞が優勢)。
  • IL-6の役割:IL-6がB細胞からMOG-IgG分泌形質芽球への分化を促進する。
  • サイトカインプロファイル:Th17関連分子・一部Th1関連分子の上方制御がみられ、MSとは異なりAQP4陽性NMOSDと類似する。
  • 髄腔内産生:MOGADではMOG-IgGの髄腔内産生が報告されている(AQP4陽性NMOSDでは報告なし)。

顆粒球の可変的浸潤、MOG含有マクロファージ、一部の補体・Ig沈着、可変的な乏突起膠細胞・軸索破壊、アストログリオーシスが認められる。

以下に、MOGADとAQP4陽性NMOSDの病態生理学的比較を示す。

項目MOGADAQP4陽性NMOSD
標的細胞乏突起膠細胞アストロサイト
主なIgGサブクラスIgG1IgG1
T細胞優位型CD4陽性CD4陽性
髄腔内産生報告あり報告なし

感染・ワクチン接種による傍観者活性化または分子模倣が推定される。末梢循環での免疫寛容の破綻から免疫細胞のCNSへの移行が生じると考えられている。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

急性発作後に最大90%が完全または部分的回復を示す一方、25%には永続的視覚障害が残る。永続的失明(VA 20/200以下)はMOGADで6〜12%と稀であり、AQP4陽性NMOSDの60〜69%と対照的である。回復後の最終視力はMOGADで20/30〜20/25、AQP4陽性NMOSDでは指数弁程度である。5年以上の追跡では再発率は最大70%に達し、16%の患者がステロイド依存性慢性型視神経症(CRION)を発症する。

Heroorら(2024)は、25歳女性のMOG-ONにPAMM(傍中心窩急性中間黄斑症)が合併した症例を報告した3)。IVMP 1g×5日で1か月後に完全回復。視神経周囲炎による炎症性浮腫が表層毛細血管叢の血流低下を引き起こす可能性が示唆された。

Rojas-Correaら(2022)の報告では、MOG-IgGが24週後に陰性化した。COVID-19後のMOGADでは一過性MOG-IgG陽性化のパターンが示唆される6)

ワクチン関連MOGAD(Cunhaら 2025)では、mRNAワクチンによる血液脳関門破壊と自己抗体産生の可能性が考察されている4)

Donovanら(2025)の47例文献レビューでは、21例が産後に診断されており、産後期の発症・再発リスクの上昇が示唆される5)。妊娠中の免疫抑制から分娩後免疫システムへのリバウンドが推定機序として挙げられている。

MOG-ONに関するランダム化比較試験(RCT)は現時点で限られており、治療に関するエビデンスの大部分は観察研究に基づいている。


  1. Sulaiman FN, Kamardin NF, Sultan Abdul Kader MI, et al. Myelin Oligodendrocyte Glycoprotein Optic Neuritis Presenting With Orbital Apex Syndrome. Cureus. 2023;15(5):e38975.
  2. Kadam R, Fathalla W, Hosain SA, et al. A Case of Myelin Oligodendrocyte Glycoprotein Antibody-Associated Optic Neuritis Responsive to Intravenous Immunoglobulin (IVIG) Therapy in a Pediatric Patient. Cureus. 2023;15(8):e43218.
  3. Heroor A, Tyagi M, Kekunnaya R, et al. Paracentral acute middle maculopathy in a patient with Myelin Oligodendrocyte glycoprotein antibody associated optic neuritis. Am J Ophthalmol Case Rep. 2024;34:102058.
  4. Cunha B, Gil P, Murta A, et al. Myelin Oligodendrocyte Glycoprotein Antibody-Associated Optic Neuritis Following SARS-CoV-2 Vaccination. Cureus. 2025;17(1):e78286.
  5. Donovan KM, Mahan M, Murdock N, et al. Myelin Oligodendrocyte Glycoprotein Optic Neuritis Presenting in Late Pregnancy. Neurohospitalist. 2025;doi:10.1177/19418744251367172.
  6. Rojas-Correa DX, Reche-Sainz JA, Insausti-García A, et al. Post COVID-19 Myelin Oligodendrocyte Glycoprotein Antibody-Associated Optic Neuritis. Neuro-Ophthalmology. 2022;46(2):115-121.

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