一次性HFS
定義:脳幹出口部(REZ)での顔面神経への血管圧迫が原因。最多責任血管はAICA(前下小脳動脈)。
圧迫部位の内訳:REZ圧迫94.6%、単純遠位圧迫0.7%、混合圧迫4.7%2)。
二重圧迫(DC型):REZとCP(大脳脚)の両方が圧迫される型。MVD再手術率が高い1)。
稀な圧迫部位:内耳道(IAC)内での迷路動脈圧迫も報告されている2)。

片側顔面痙攣(Hemifacial Spasm; HFS)は、顔面の片側の表情筋(第VII脳神経支配)に不随意の強直間欠性収縮が起こる運動障害である。ICD-10コードはG51.3。
1905年にJoseph Babinskyが”hemifacial spasm”の用語を初めて使用した9)。1947年にCampbellとKeedyが一次性HFSを初めて記述し、1975年にJannettaが蛇行拡張動脈による神経圧迫メカニズムを明らかにした。
有病率は米国で10万人あたり8〜15人とされる。罹患率は約0.78/10万人との報告もある2)。米国の別の報告では10万人あたり11人である3)。女性が男性の約2倍多く、典型的な発症年齢は50〜60歳で中高年に多い。経過は慢性進行性である。
分類:一次性(血管圧迫による)と二次性(神経損傷・炎症後の異常再生、腫瘍、脱髄疾患など)に大別される。
主な鑑別疾患:
HFSは片側性で顔面下部にも広がり、睡眠中にも痙攣が継続する。眼瞼痙攣(BEB)は両側性で眼窩周囲が中心であり、羞明感・眼乾燥感を伴い、睡眠中には消失する。患側の流涙はHFSに多く、羞明感・乾燥感はHFSでは少ない。
初期には下眼瞼の軽微な痙攣(ピクつき)から始まることが多い。次第に眼瞼部・口角部・広頸筋など表情筋全体に広がる。眼瞼部と口角部の痙攣は同期(同じリズム)で発生する。
HFSは睡眠中にも認められる。これが眼瞼痙攣との重要な鑑別点である。眼瞼痙攣は睡眠中には消失するが、HFSは睡眠中も継続する。
一次性HFS
定義:脳幹出口部(REZ)での顔面神経への血管圧迫が原因。最多責任血管はAICA(前下小脳動脈)。
圧迫部位の内訳:REZ圧迫94.6%、単純遠位圧迫0.7%、混合圧迫4.7%2)。
二重圧迫(DC型):REZとCP(大脳脚)の両方が圧迫される型。MVD再手術率が高い1)。
稀な圧迫部位:内耳道(IAC)内での迷路動脈圧迫も報告されている2)。
二次性HFS
神経損傷後の異常再生:ベル麻痺などからの異常再生。
血管病変:動脈硬化・動静脈奇形・動脈瘤。
腫瘍:耳下腺腫瘍・小脳橋角部腫瘍。
その他:脳幹病変(脳卒中含む)、脱髄疾患(多発性硬化症)、四丘体槽くも膜嚢胞4)、特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)9)、稀に遺伝性。
後頭蓋窩で顔面神経や橋が脳底動脈・AICAなどの血管、まれに腫瘍や動脈瘤に圧迫されることが主因である。
リスク要因:顔面外傷、第VII脳神経損傷、ベル麻痺の既往、動脈硬化、家族歴。高齢化・高血圧が血管の蛇行拡張を進行させ、合併症候群(三叉神経痛との合併など)のリスクを高める5)。
診断は主に臨床症状・所見に基づく。
脳幹部の画像検査を行い、圧迫原因を確定することが重要である。
主要な鑑別疾患を下表に示す。
| 疾患 | 側性 | 睡眠中 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 片側顔面痙攣 | 片側 | あり | 流涙・口角まで波及 |
| 眼瞼痙攣(BEB) | 両側 | なし | 羞明・乾燥感 |
| 眼瞼ミオキミア | 片側 | — | 眼輪筋一部のみ |
| 顔面神経麻痺後共同運動 | 片側 | — | 麻痺の既往歴あり |
その他の鑑別:顔面チック(トゥレット症候群)、遅発性ジスキネジア、てんかん発作。
主な治療選択肢を下表に示す。
| 治療法 | 有効率 | 持続期間 | 適応 |
|---|---|---|---|
| ボツリヌス毒素注射 | 約90% | 3〜4か月 | 第一選択 |
| 微小血管減圧術(MVD) | 約90% | 長期 | 難治例・若年者 |
| 薬物療法 | 限定的 | — | 補助・一時的 |
**A型ボツリヌス毒素(ボトックス(R)注用)**は、日本で眼瞼けいれん・片側顔面けいれんに保険適用がある。現在ではボツリヌス毒素療法が治療的第一選択と考えられている。
作用機序:神経筋接合部の神経終末に取り込まれ、シナプス小胞膜蛋白に作用し、アセチルコリンの放出を阻害する。
有効率・持続期間:
注射部位と用量:皺眉筋、眼輪筋(偏りなく分散)、大頬骨筋、鼻翼口唇挙上筋。各2.5単位。上眼瞼挙筋への誤注入を避けることが重要。
市販品:Botox(R)、Dysport(R)、Xeomin(R)。
後頭蓋窩神経血管減圧術。責任血管と顔面神経の間にテフロンフェルトを配置して血管を離す。
カルバマゼピン、クロナゼパム、フェニトイン、ガバペンチン、バクロフェン。効果は限定的で副作用が顕著。IIHに伴うHFSではトピラマート(50mg×2/日)で奏効した報告がある9)。
効果持続は約3〜4か月である。神経側副枝発芽により神経筋伝達が再開するため、効果が薄れると繰り返し注射が必要となる。高用量・頻回の治療では長期的に効果が減弱することがある。
ボツリヌス毒素に反応不良な難治例や若年者が主な適応である。改善率は約90%で長期成績も良好である。高齢者でも合併症がなければ若年者と同等の成績が期待できる5)。
一次性HFSの基本メカニズムは、血管圧迫→脱髄→エファプス伝達(偽シナプス伝達)である。一つの神経の電気活動が近接する神経の活性化を誘発する。大脳基底核関与の眼瞼痙攣とは機序が異なる。
顔面神経の脆弱部位:根出口点(RExP)から移行帯(TZ)まで約10mmの中枢性ミエリン部分が血管圧迫に脆弱である。この部分に含まれるObersteiner-Redlich帯(中枢性ミエリンから末梢性ミエリンへの移行部)が特に脆弱とされる7)。
Sanoら(2022)は3D-MRI融合画像(DTI+MRA)を用いてMVD前後を評価した。顔面神経のTZは約0.96mm(範囲1.9〜2.86mm)であることを報告し、REZのAS部を正確に同定できることを示した7)。
二重圧迫(DC型)のメカニズム:DC型HFSではREZ減圧がCP側の圧迫を増悪させる「てこの原理」が働くことがある。動脈硬化性の太いVAの転位がAICAを押し上げ、CP部での顔面神経圧迫を増悪させる1)。
Fujiiら(2024)はDC型HFS 35例のレビューで、REZ減圧後にAMRが消失しない場合にCP側のAICA圧迫を確認してテフロンを追加することで術後成績が向上すると報告した1)。
IIH関連HFS:髄液圧の変動(絶対値ではなく変化量)が顔面神経の過興奮を引き起こすと考えられている。腰椎穿刺後の起立時にHFS発作が誘発されたことが根拠とされる9)。
三叉神経痛との合併(combined HDS):全HDS患者の約3%。加齢・高血圧による動脈硬化性血管変化で血管が伸長し、近接する複数の神経を圧迫することで生じる5)。
3D-MRI融合画像はREZの正確な描出と術前シミュレーション・術後評価に有用である。顔面神経のAS部を同定し、責任血管との位置関係を可視化できる7)。
デュアルブランチモニタリング(顔面神経側頭枝刺激→オトガイ筋記録+下顎辺縁枝刺激→眼輪筋記録)の導入により、MVD術後有効率98%が報告されている2)。AMRが消失しない場合は、REZ以外(CP、IAC内)の責任血管を探索することが重要である。
Guoら(2025)はIAC内で迷路動脈が顔面神経を圧迫した初の症例を報告し、デュアルブランチモニタリングにより従来のREZ探索では見逃されていたIAC内圧迫を検出できたことを示した2)。
従来見過ごされていたIAC内の血管圧迫がHFSの原因となりうる。AMRが消失しない場合、REZ→CP→IAC全体の系統的探索が必要である2)。
髄液圧変動がHFSを誘発しうるという新たな病態概念が提唱されている。トピラマートによる髄液圧管理が有効な場合があり、IIH関連HFSの診断・治療への応用が注目されている9)。