眼科的所見
乳頭浮腫:頭蓋内圧亢進による両眼性の乳頭浮腫。検眼鏡検査で確認する。乳頭浮腫を認めた症例では、CSF圧61 mmH2O、CSF細胞数827 cells/mm³(95%リンパ球)が記録されている6)。
外転神経麻痺:頭蓋内圧亢進に伴う第VI脳神経麻痺。眼球外転障害として現れる。
視性運動失調(optic ataxia):後頭頂皮質の機能障害による視覚誘導性の運動障害。視覚によって誘導される手の動きの障害として現れる6)。

HaNDL(Headache and Neurologic Deficits with Cerebrospinal Fluid Lymphocytosis)症候群は、脳脊髄液(CSF)リンパ球増多を伴う一過性の頭痛および神経学的欠損を特徴とする自己限定性の症候群である。国際頭痛分類第3版(ICHD-3)では二次性頭痛のコード7.3.5に分類される。
1981年にBartlesonらが初めて報告し、1995年にBergとWilliamsが「HaNDL」と命名した。まれな疾患であり、若年成人に好発する。小児を対象とした44例のレビューでは59.1%が女児であった2)。
臨床経過は特徴的である。1〜12回のエピソードが数時間持続し、1〜3か月間にわたって反復する7)。その後は通常、永続的な障害なく自然軽快する。
1〜12回のエピソードが1〜3か月間に反復するが、その期間が過ぎると通常は自然軽快し、長期的な再発は報告されていない7)。ただし、症状が繰り返す急性期には精査と経過観察が必要である。
HaNDLの症状は「頭痛」と「神経学的欠損」の組み合わせとして反復性に出現する。
眼科的所見を含む神経学的所見として以下が重要である。
眼科的所見
乳頭浮腫:頭蓋内圧亢進による両眼性の乳頭浮腫。検眼鏡検査で確認する。乳頭浮腫を認めた症例では、CSF圧61 mmH2O、CSF細胞数827 cells/mm³(95%リンパ球)が記録されている6)。
外転神経麻痺:頭蓋内圧亢進に伴う第VI脳神経麻痺。眼球外転障害として現れる。
視性運動失調(optic ataxia):後頭頂皮質の機能障害による視覚誘導性の運動障害。視覚によって誘導される手の動きの障害として現れる6)。
神経学的所見
脳脊髄液所見:リンパ球性髄液細胞増多(15〜760 cells/μL)、蛋白最大200 mg/dL、開放圧上昇。エピソードを経るごとに細胞数は減少する傾向がある(274→385→98→37 cells/μL)1)。
MRI所見:エピソード間は通常正常。エピソード中に軟髄膜造影増強(leptomeningeal enhancement)を示すことがある7)。
脳波(EEG):正常または局所的徐波。てんかん活動は認めない1)。
頭蓋内圧亢進を認める場合には、検眼鏡検査で乳頭浮腫を確認したうえで、蛍光眼底造影・光干渉断層計(OCT)・CTまたはMRIによる占拠性病変の除外・MRVによる脳静脈洞評価・脳脊髄圧測定を系統的に行う。
乳頭浮腫・外転神経麻痺・一過性視野欠損を呈することがある6)。しかし、本疾患は自己限定性であり、永続的な視神経損傷の報告はない。21日で視性運動失調が完全回復した症例も記録されている6)。
病因は未確定だが、感染・免疫介在性の機序が有力視されている。
COVID-19(SARS-CoV-2)感染の1か月後にHaNDLを発症した14歳男児の症例では、CSF細胞数525 cells/μL(99%リンパ球)、蛋白98.2 mg/dLが確認されている5)。サイトカインストームによる血管運動障害が病態仮説として提示されている。
HaNDLの診断は国際頭痛分類第3版基準に基づく除外診断である5)。主要項目を以下に示す。
脳脊髄液は診断における最重要検査である。
| 検査項目 | 典型値 |
|---|---|
| 白血球数 | 15〜760 cells/μL(リンパ球優位) |
| 蛋白 | 最大200 mg/dL |
| 開放圧 | 上昇することがある |
脳卒中・前兆を伴う片頭痛・特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)・髄膜炎・可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)・脳静脈洞血栓症・後部可逆性脳症症候群(PRES)が主な鑑別疾患となる6)。
MRI拡散強調像で拡散制限がない点、灌流異常が脳血管支配域に一致しない点が重要な鑑別所見である。CSFリンパ球性細胞増多の確認も診断に必須である。症状の反復性とエピソード後の完全回復も脳卒中との鑑別に役立つ。
確立された特異的治療はなく、対症療法が中心である。日本においては頭蓋内圧亢進への対応を含む以下の治療が行われる。
頭痛・吐き気への対応
鎮痛薬:アセトアミノフェン、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が用いられる3)。
制吐薬:メトクロプラミドなどを使用する3)。
片頭痛発作治療:NSAIDs・経口トリプタン製剤・スマトリプタン皮下注/点鼻が選択肢となる。予防薬としてロメリジン塩酸塩(ミグシス®)が使用されることがある。
頭蓋内圧亢進への対応
アセタゾラミド(ダイアモックス®):髄液産生抑制薬。保険適用外だが頭蓋内圧亢進の治療薬として用いられる。
CSFドレナージ(腰椎穿刺):CSF圧61 mmH2Oで乳頭浮腫・視性運動失調を呈した症例では30 mLドレナージとアセタゾラミドの組み合わせで21日以内に完全回復した6)。
重症例:マンニトール投与、視神経鞘切開術(ONSF)、脳室腹腔(VP)シャント術が必要となる場合がある。
確立された特異的治療はなく対症療法が基本である。ステロイドパルス療法・バルプロ酸・ニモジピンの有効性が症例報告で示されているが、いずれも標準治療として確立されてはいない1)7)。多くの場合は1〜3か月で自然軽快する。
HaNDLの病態機序は未解明だが、主に2つの仮説が提唱されている。
| 仮説 | 機序 | 支持する所見 |
|---|---|---|
| 皮質拡延性抑制(CSD)仮説 | 神経細胞脱分極の自己増殖性伝播→多相性脳血流変化→片頭痛オーラ様症状 | SPECT・CT灌流・TCD・index vein所見 |
| 脳血管収縮仮説 | ウイルス感染または免疫反応→脳血管収縮→一過性局所欠損 | TCD(MCA流速上昇86〜91 cm/s)・RCVSとの類似 |
感染・炎症を契機とした複合的な機序が想定されており、両仮説は相互排他的ではない。
髄膜の炎症反応によるイオン勾配変化が炎症物質の放出を促し、一過性の血管運動変化と髄液吸収障害をもたらす。これがMRIでの軟髄膜造影増強およびCSF細胞増多・蛋白上昇(血液脳関門透過性亢進)として現れると考えられている7)。
視性運動失調との関連では、後頭頂皮質を中心とした両側性機能障害によってBálint症候群類似の症状(視性運動失調・眼球運動失行・同時失認)が出現しうる。
新規バイオマーカーとして、CSF中のCXCL13(B細胞遊走因子、23〜62 ng/L)上昇はB細胞の病態への関与を示唆し、NfL(神経フィラメント軽鎖、600 ng/L)上昇は一過性の軸索損傷を示唆する所見として報告されている1)。
電位依存性カルシウムチャネル(VGCC)に対する自己抗体が、CSDおよび血管収縮を惹起するという仮説も提唱されている7)。
Fiamingoら(2022)は、EBV初感染を契機とするHaNDL症例(29歳男性)に経口ニモジピン(60 mg開始→30 mg/4時間→30 mg/8時間に漸減、6週間投与)を施行し、速やかな症状改善を報告した7)。カルシウムチャネル拮抗薬が血管収縮機序を抑制した可能性がある。
Sundholmら(2023)は脳脊髄液中にHHV-7 DNA(低ウイルス量)が陽性であったHaNDL症例を報告し、国際頭痛分類第3版が求める「陰性の病因検索」という診断基準に疑問を呈した1)。微量の病原体検出が診断を除外してしまう可能性があり、次世代シーケンス(NGS)技術を用いた包括的な病原体検索の重要性が示唆されている。
脳脊髄液中CXCL13(B細胞の病態関与マーカー)の上昇はHaNDLで初めて報告されたバイオマーカーであり、今後の病態解明への貢献が期待されている1)。NfL上昇は一過性の軸索損傷を反映し、疾患活動性の評価に応用される可能性がある。
Garciaら(2022)は、14歳男児のSARS-CoV-2感染1か月後にHaNDLを発症した症例を報告した。CSFは525 cells/μL、蛋白98.2 mg/dLであり、サイトカインストームが血管運動異常を惹起する可能性が示唆された5)。
SWI/GRE T2*イメージングで検出されるindex vein(症状責任領域のドレナージ静脈拡張)は、脳卒中との鑑別マーカーとしての研究が進んでいる4)。CSD機序の画像的証拠として位置づけられており、症例間での再現性検証が今後の課題である。