コンテンツにスキップ
神経眼科

眼位誘発黒内障

眼位誘発黒内障(Gaze-Evoked Amaurosis; GEA)は、特定の偏位眼位をとった時にのみ視力障害を経験する、一過性視力喪失の特異な原因である。

眼球を特定方向に向けた(偏位眼位をとった)際にのみ視力が低下し、眼位を第一眼位に戻すと回復するという点が特徴的である。典型的には、筋錐内腫瘍が眼位依存的に視神経を圧迫することで生じる。報告例の80%以上に筋錐内病変が関与する。

具体的な疫学データは資料上に記載がなく、稀な症候として知られている。

Q 眼位誘発黒内障とはどのような状態か?
A

特定の偏位眼位をとった時にのみ一過性の視力喪失が生じる症候である。眼窩内の腫瘍や炎症性病変が眼位依存的に視神経を圧迫することが主な原因であり、眼位を正面に戻すと視力は回復する。

  • 一過性視力喪失:特定の偏位眼位でのみ視力が低下し、正面に戻ると回復する。
  • 中心視力喪失・視野欠損:黒内障が誘発された際に自覚される。
  • 彩度低下(color desaturation):色の鮮やかさが低下して見える感覚を伴うことがある。
  • 症状に気づきにくい場合:特定の眼位でしか誘発されないため、当初は視覚症状に気づかない患者もいる。
  • 日常生活での誘発場面:運転中に横を見る際や、腋窩の毛を剃る際など、頭や眼を回した偏位眼位を維持したときに視力喪失を自覚する例がある。
Q どのような場面で症状に気づくことが多いか?
A

運転中に横を向く動作や、腋窩の毛を剃る際など、日常動作で頭や眼を特定方向に向けて偏位眼位を維持したときに気づくことが多い。特定の眼位でのみ誘発されるため、当初は症状に気づかない患者もいる。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

診察では第一眼位でのベースライン評価を行い、次いで各偏位眼位で10〜15秒間維持した際の変化を確認する。

  • 第一眼位でのベースライン評価:視力・瞳孔眼圧・色覚を計測する。
  • 偏位眼位での評価:異なる基本眼位で少なくとも10〜15秒間の偏位眼位を維持して評価する。
  • RAPD(相対的瞳孔求心路障害):偏位眼位においてのみ認められることがある。
  • 眼圧上昇:黒内障が生じている眼位で眼圧を測定すると上昇した値を示すことがある(長時間の視神経圧迫を避けるため、速やかに第一眼位に戻す)。
  • 回復の確認:第一眼位に戻すと視力・瞳孔・眼圧の所見は数秒以内にベースラインまで回復する。
  • 眼位と病変の関係:最も一般的には、病変がある場所と反対方向に目を向けたときに黒内障が誘発される(ただし常に一貫するわけではない)。
  • 視神経乳頭浮腫散瞳眼底検査で、筋錐内の視神経圧迫による乳頭浮腫が認められることが多い。
  • ベースラインの視神経症所見:圧迫の程度に応じ、中心視力・色覚・視野がさまざまに影響を受けている場合がある。

GEAの原因となる病変は筋錐内病変が80%以上を占める。筋錐外病変が原因となることもあるが、頻度は低い。

筋錐内病変

視神経鞘髄膜腫:視神経鞘に発生する良性腫瘍。GEAの最も典型的な原因の一つ。

海綿状血管腫:眼窩内血管性腫瘍。日本でも筋錐内に多い。

視神経膠腫:視神経原発の膠細胞由来腫瘍。

甲状腺眼症外眼筋の肥大が筋錐内で視神経を圧迫する。

サルコイドーシス・特発性眼窩炎症・筋炎:炎症性病変による圧迫。

異物・顔面骨折:外傷に伴う筋錐内への異物や骨折片による圧迫。

筋錐外・その他の原因

筋錐外病変:頻度は低いが、視神経を圧迫するほど大きい場合にGEAを引き起こしうる。

特発性頭蓋内圧亢進症(IIH):偏位眼位で緊張・拡張した視神経鞘が圧迫され、鞘内圧が上昇して網膜への血流を障害する。

海綿静脈洞内髄膜腫:頸動脈を圧迫し、外転時に眼動脈の灌流が減少した症例報告がある。

日本における眼窩腫瘍の頻度では、リンパ増殖性疾患が全体の50〜60%を占め、次いで海綿状血管腫・毛細血管腫、皮様囊腫、涙腺多形腺腫の順に多い。筋錐内に多い腫瘍としては、血管性腫瘍(海綿状血管腫、リンパ管腫)および神経系腫瘍(神経鞘腫、視神経鞘髄膜腫)が挙げられる。

圧迫視神経症の原因としては眼窩先端部病変が多く、甲状腺眼症・鼻性視神経症・血管腫・リンパ腫などが原因となる。

Q 眼位誘発黒内障の原因として最も多い病変は何か?
A

報告例の80%以上が筋錐内病変であり、視神経鞘髄膜腫・海綿状血管腫・視神経膠腫・甲状腺眼症などが代表的な原因である。筋錐外病変が原因となることもあるが、頻度は低い。

偏位眼位維持時に視力喪失が生じるかを確認する。日常生活(運転中・特定の動作中)での視覚症状の有無を丁寧に聴取する。

  1. 第一眼位でベースライン評価(視力・瞳孔・眼圧・色覚)を行う。
  2. 各基本眼位で10〜15秒間の持続的偏位眼位を評価する。
  3. 偏位眼位でのRAPD出現・眼圧上昇・視力低下・彩度低下を確認する。
  4. 第一眼位に戻した際の回復を確認する。
  • 眼窩MRI(造影・非造影):原因病変の同定に最も優れる。筋錐内外の腫瘍・炎症性病変・視神経の状態を詳細に評価できる。
  • 眼窩CT(造影):骨性病変や骨折の評価、MRIが困難な場合の代替として用いる。

散瞳下眼底検査で視神経乳頭浮腫の有無を確認する。

GEAの診断にあたっては以下の疾患との鑑別が重要である。

疾患鑑別のポイント
圧迫視神経症(一般)緩徐進行・片眼性視機能障害・求心性視野狭窄・傍中心暗点
NA-AION(非動脈炎性前部虚血性視神経症急性発症・中高年・朝起床時に自覚・水平半盲(特に下方)

圧迫視神経症では、眼窩先端部で外眼筋が肥大して視神経を圧迫し、乳頭浮腫・発赤が生じる場合がある。NA-AIONとの鑑別では発症様式と視野パターンが手掛かりとなる。

GEAの治療は基礎疾患(原因疾患)を対象とするのが原則である。基礎疾患の治療後、ほとんどの患者でGEAおよびその他の徴候(RAPD・視力低下・彩度低下など)が消失する。

原因疾患別の治療方針は以下の通りである。

  • 甲状腺眼症による視神経圧迫:第一選択はステロイドパルスまたはハーフパルス療法。1〜3クール施行後、内服に切り替える。ステロイド抵抗性の場合は眼窩減圧術を検討する。
  • 眼窩腫瘍(海綿状血管腫・神経鞘腫など):腫瘍の種類・位置・大きさに応じた外科的摘出が基本。視神経鞘髄膜腫では放射線治療が選択される場合もある。
  • 特発性眼窩炎症・サルコイドーシス:ステロイド療法が有効である。
  • IIH(特発性頭蓋内圧亢進症):頭蓋内圧を下げる治療(内科的治療または視神経鞘減圧術)が対象となる。
Q 治療後に視力は回復するか?
A

基礎疾患の治療後、ほとんどの患者でGEAおよびRAPD・視力低下・彩度低下などの関連徴候は消失する。ただし視神経の圧迫が長期にわたっていた場合には、視機能の完全回復が得られないこともある。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

GEAの発症機序には2つの仮説が提唱されている。

軸索伝導抑制説

眼位依存的な視神経圧迫:偏位眼位をとると、眼窩内の腫瘍や肥大した外眼筋が視神経を圧迫する。

軸索インパルス伝導の抑制:機械的圧迫により軸索内のインパルス伝導が阻害され、一過性視力喪失が生じる。

可逆性:眼位を正面に戻すと圧迫が解除されてインパルス伝導が回復し、視力が戻る。

虚血説

圧迫による血流減少:腫瘍や肥大筋による機械的圧迫が視神経または網膜への血流を減少させる。

一過性虚血:局所的な虚血が一時的な視力喪失を引き起こす。

特殊な機序(IIH):偏位眼位で緊張した視神経鞘が圧迫され、鞘内圧が上昇して網膜への血流が障害される。

海綿静脈洞内髄膜腫の症例では、腫瘍が頸動脈を圧迫し、外転時に隣接組織の伸展によって眼動脈灌流が減少するという機序が報告されている。

圧迫視神経症の一般的な機序として、筋錐先端部(funnel部)での外眼筋肥大が視神経を圧迫し、乳頭浮腫・発赤を呈する場合がある。これが持続すると球後視神経炎様の所見を呈するに至る。

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます