先天性
健側への頭部傾斜:眼位を代償するための頭位異常。顔面の非対称を伴う。
大きな垂直融像幅:10〜15プリズムジオプターに及ぶ融像幅を持ち、10PD以上の上斜視でも複視がない。
良好な両眼視機能:頭部傾斜で眼位が保たれている限り立体視が維持される。

第4脳神経麻痺(滑車神経麻痺)は、上斜筋を支配する第4脳神経(滑車神経)の機能不全により生じる麻痺性斜視である。滑車神経は脳神経の中で最も細く、最も長い頭蓋内走行を持つ。脳幹の背側から出現し、正中線を交叉して対側の上斜筋を支配する。
上斜筋には眼球の位置に応じて異なる作用がある。
したがって滑車神経麻痺では、患側の上斜視と外旋(excyclotorsion)が生じる。
臨床的には以下の3つに分類して考えると理解しやすい。
原因としては外傷が最多である。バイク事故などの頭部正中部から頭頂部の外傷では、両側性の麻痺を生じやすい。次いで虚血性と先天性の非代償性が多い。人口ベースの研究では特発性はわずか約4%と報告されている。両側性麻痺の80%以上は片側性であり、両側性では半数以上が外傷によるものである1)。
先天性の滑車神経麻痺では、頭部傾斜により眼位を保つことで長年無症状でいられる場合がある。加齢に伴う融像幅の低下や、病気・ストレスをきっかけに代償不全化し、20〜30歳代で上下複視を自覚して発症することが多い。幼少期の写真で頭部傾斜が確認できれば、先天性の手がかりとなる。
主訴は両眼性の垂直複視または回旋複視である。病型により症状の特徴が異なる。
上斜筋は内転位で下転に作用するため、下方視で複視が悪化する。読書や階段の昇降時に症状を自覚しやすい。軽症・長期例では複視の代わりにかすみ目、焦点の合わせにくさ、めまいを感じることがある。
先天性
健側への頭部傾斜:眼位を代償するための頭位異常。顔面の非対称を伴う。
大きな垂直融像幅:10〜15プリズムジオプターに及ぶ融像幅を持ち、10PD以上の上斜視でも複視がない。
良好な両眼視機能:頭部傾斜で眼位が保たれている限り立体視が維持される。
代償不全性
高度な上下斜視:先天性からの増悪で顕在化した大きな偏位。
顔面の非対称:長期の眼性斜頸に関連する所見。健側で眼と口角を結ぶ直線が交わる。
上斜筋萎縮:MRI T1冠状断で患側上斜筋の萎縮を確認できれば診断に有用。
後天性
患側の上斜視+外旋:上斜筋の内旋・下転機能低下による。
下斜筋過動:内転時に患眼が上転する続発性の所見。
代償性頭部傾斜:健側への頭部傾斜で複視を軽減する。
眼球運動には通常明らかな異常がみられないことが多く、眼位検査で診断する。両側性の滑車神経麻痺では交代性上斜視(右方視時に左上斜視、左方視時に右上斜視)となり、外方回旋が10度以上であれば両側性を考慮する。
上斜筋は内転時に下転筋として強く作用するため、下方視で複視が悪化する。読書、食事中の手元の確認、階段の下りなど、日常的に下方を見る場面で症状に気づきやすい。また患側と反対側への側方視でも悪化する。
末梢性の滑車神経麻痺では、他の眼運動神経麻痺と同様に血管障害が原因であることが多いが、動脈瘤が原因となることはまずない。ただし急性発症例では巨細胞性動脈炎(GCA)の可能性も考慮する。
外傷・腫瘍・感染・炎症などに関連する広範な症候群の一部として発生する。頭蓋内圧亢進も原因となりうる。罹患部位(中脳、クモ膜下腔、海綿静脈洞、眼窩)に基づいて分類される。
末梢性の滑車神経麻痺では動脈瘤が原因となることはまずないとされる。これは動眼神経麻痺とは大きく異なる点である。ただし、クモ膜下腔の動脈瘤が単独の第4脳神経麻痺として現れる稀な例が報告されている。
片側性第4脳神経麻痺の診断に用いる標準的な方法である。
スキュー偏差は前庭神経から中脳のCajal間質核に至る線維の障害で生じ、Parks三段階テストで滑車神経麻痺と類似のパターンを示すことがある。鑑別が重要である。
| 鑑別点 | 滑車神経麻痺 | スキュー偏差 |
|---|---|---|
| 眼球回旋 | 患眼の外旋 | 内旋または両側性回旋 |
| 頭部傾斜方向 | 健側へ傾斜 | 上斜視側へ傾斜 |
| 体位変化の影響 | 影響なし | 50%以上の変化で陽性 |
原因疾患の治療が最優先である。
回旋偏位はプリズムで矯正できないため、回旋複視が主体の場合は手術が必要となる。
手術適応は以下の通りである。
| 病型 | 手術適応 | 第一選択術式 |
|---|---|---|
| 先天性 | 頭部傾斜が著明な場合 | 下斜筋減弱術 |
| 代償不全性 | 複視を自覚する場合 | 下斜筋減弱術 |
| 後天性 | 回旋複視がメインの場合 | 下直筋後転+鼻側移動術 |
下斜筋減弱術(下斜筋切除・後転・前方移動)を行う。上下偏位が高度な場合は患眼の上直筋後転か健眼の下直筋後転を併用する。
回旋複視を消失させるため、健眼の下直筋後転と鼻側移動術を第一選択とする。上下と回旋偏位を同時に矯正できる。下直筋の鼻側移動1筋腹で外方回旋約6〜7度の矯正が得られる。
手術成績は良好である。ただし上下偏位の矯正は微妙であり、初回手術翌日に検査を行い微調整が必要になることがある。微調整の確率はおよそ3割とされる。
回旋偏位(外旋)はプリズム眼鏡では矯正できない。回旋複視が主体の場合は手術適応となる。後天性では健眼の下直筋後転+鼻側移動術が第一選択で、上下偏位と回旋偏位を同時に矯正する。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。
滑車神経核は中脳背側の下丘腹側に位置し、動眼神経核の尾側端に連続する。内側縦束(MLF)の背側に存在する。
核から出た神経線維束は以下の経路をたどる。
滑車神経は以下の解剖学的特徴から外傷に脆弱である。
強い外力(交通外傷・頭部打撲)が加わると、中脳背側部がテント縁に押し付けられ、前髄帆の交差部が損傷を受ける。正中線で交叉する構造のため、両側性の滑車神経麻痺を来しやすい。
先天上斜筋麻痺では、高解像度3T MRIでCN4が相当数の患者で欠損していることが報告されている。先天性上斜筋麻痺は先天性頭蓋神経異常支配障害(CCDD)に分類されうるが、原因遺伝子は同定されていない。筋付着部の異常や上斜筋の低形成が後天性より高度であることが多い。
非単独の第4脳神経麻痺では、随伴症状から障害部位を推定できる。
Kawamuraら(2025)は、中脳背側の脂肪腫による両側滑車神経麻痺の67歳男性を報告した。50歳代から道路の中央線が傾いて見える症状があり、MRIで中脳背側の脂肪腫が確認された。外旋は25度、立体視は消失していた。両側下直筋鼻側移動術(右眼は2mm追加後転)を施行し、術後に外旋は5度に改善、60秒の立体視と複視の消失を得た1)。
Raoら(2025)は、バイク事故後の両側滑車神経麻痺による20度の外旋を呈する33歳男性に対し、上斜筋前方1/3線維の選択的plicationを施行した。右眼5mm・左眼10mmの段階的plicationにより外旋が矯正され、術後3か月で正位かつ全方向で複視消失を達成した。本法は非切断的で可逆性があり、Harada-Ito法やFells変法に比べ侵襲が少ない5)。
Kiarudiら(2024)は、無症候性のCOVID-19感染が確認された健康な10歳男児で、第4脳神経麻痺が発症した初の症例を報告した。異常頭位と左眼上偏位を呈し、脳MRIは正常であった。1年後も10プリズムジオプターの左上斜視と下斜筋過動が持続しており、ウイルス感染後の第4脳神経麻痺は第6脳神経麻痺と異なり予後が不良である可能性が示唆された4)。
Lowら(2022)は、帯状疱疹眼症(HZO)に合併した同時性の動眼神経+滑車神経麻痺の78歳女性を報告した。皮疹発症12日後に完全眼瞼下垂と眼球運動障害が出現した。経口acyclovir(800mg 5回/日)とステロイドの6週間投与で、1年後に眼瞼下垂は回復し眼球運動も著明に改善した2)。
Subramaniamら(2023)は、後頭蓋窩のクモ膜嚢胞による単独第4脳神経麻痺の56歳女性を報告した。1週間の垂直複視を主訴に受診し、MRIで左後小脳領域のクモ膜嚢胞が確認された。嚢胞が小脳後面を圧迫し、脳幹背側の第4脳神経走行部に影響を及ぼしたと考えられた。経過観察で複視は改善傾向を示した3)。
Iidaら(2024)は、犬咬傷による上斜筋麻痺(canine tooth syndrome)の19歳男性を報告した。受傷5日後のMRIで上斜筋腱から滑車・筋腹に至る炎症を確認し、早期のステロイド投与を行った。pseudo-Brown症候群の発症は防がれたが複視は持続し、7か月後に下斜筋切除術を施行して回旋・垂直複視が改善した6)。