主要な特徴
肢の強剛:一側優位の筋緊張亢進。レボドパに反応しにくい。
動作緩慢:動きの遅さ・巧緻運動障害。非対称性が特徴的。
姿勢不安定:転倒リスクの増大。
肢失行:意図した動作が正しく行えない。
失語症:発語の流暢性低下や文法障害。

大脳皮質基底核変性症(Corticobasal Degeneration: CBD)は、脳内の異なる細胞型・部位における4リピート(4R)タウタンパク質の異常沈着によって特徴づけられるタウオパチー(タウタンパク質の蓄積を主因とする神経変性疾患の総称)の一種である。脳の複数領域で神経細胞の消失と萎縮が進行する稀な疾患であり、運動症状・皮質機能障害・眼球運動異常など多彩な臨床像を呈する。
CBDは1968年にRebeizらによって初めて報告された。彼らは、運動制御の障害と異常姿勢を特徴とする進行性神経疾患を患う3名の患者を記述し、「神経細胞の無色素化を伴う皮質歯状核黒質変性症(corticodentatonigral degeneration with neuronal achromasia)」と命名した。病理学的には前頭頭頂葉と黒質の非対称性神経細胞消失が特徴であった。その後約20年間、この疾患はほとんど報告されなかった。1985年に類似の6症例が報告され、1989年にGibbらが「Corticobasal Degeneration(CBD)」の名称を提唱した。
CBDの発症年齢は50〜70代が典型的である。病理学的に確認された最年少例は45歳であった。女性に多いとする報告もあるが、性差なしとする報告もあり、一致した見解は得られていない。症例の大部分は孤発性であるが、稀に家族性の報告がある。他の神経疾患との表現型の重複が大きいため、真の罹患率・有病率は不明である。
21例のCBD剖検シリーズでは、臨床表現型として進行性核上性麻痺症候群(PSPS)が最多(10例)であり、大脳皮質基底核症候群(CBS)4例、前頭行動空間型(FBS)2例、非流暢性進行性失語(naPPA)1例、その他4例と多様な臨床像を呈した1)。
典型的な発症年齢は50〜70代である。病理学的に確認された最年少症例は45歳であった。他の神経疾患との臨床的重複が大きいため、正確な発生率は不明である。
CBDの初期には片側の手足の使いにくさや動きの遅さを自覚することが多い。歩行の不安定さ、転倒しやすさも出現する。認知機能の低下や行動の変化が先行する場合もある。視空間認知障害(物の位置関係の把握が困難になる)が初発症状となることがある。
CBDは運動症状と皮質症状の様々な組み合わせで発症する。
主要な特徴
肢の強剛:一側優位の筋緊張亢進。レボドパに反応しにくい。
動作緩慢:動きの遅さ・巧緻運動障害。非対称性が特徴的。
姿勢不安定:転倒リスクの増大。
肢失行:意図した動作が正しく行えない。
失語症:発語の流暢性低下や文法障害。
比較的稀な特徴
ミオクローヌス:突発的な筋収縮。
肢のジストニア:異常な姿勢の固定。
他人の手徴候:自分の意思に反して手が勝手に動く現象。
皮質性感覚消失:触覚・位置覚の障害。
錐体路徴候:腱反射亢進等の上位運動ニューロン障害。
眼科的徴候はCBDの診断に必須ではないが、しばしば認められる。
病理確定CBDの一例では、垂直性サッケード制限と水平性サッケード緩徐化が報告されている3)。
CBDでは注視失行、垂直性核上性注視麻痺、開瞼失行、視空間認知障害などの眼科的徴候がみられることがある。これらは診断に必須ではないが、眼科医がCBDを認識しておくことは早期発見の観点から重要である。
CBDの正確な病因は不明であるが、タウタンパク質のリン酸化亢進と小胞輸送障害の関与が示唆されている。
CBDの発症リスクに関連する複数の感受性遺伝子座が同定されている。
ゲノムワイド関連解析(GWAS)により、CBD・PSP・前頭側頭型認知症(FTD)に共通する14遺伝子17変異が同定されており、遺伝的多面発現(pleiotropy)が注目されている2)。これらの変異の組み合わせが疾患特異的な脳の脆弱性パターンを決定する可能性がある。
現在のところ、既知のリスク因子は加齢のみである。環境要因がCBDを引き起こすという証拠はないが、タウオパチーの地理的マッピングは特定の環境が発症に関与する可能性を示唆している。
CBDの確定診断は死後の病理検査によってのみ可能である。生前診断は困難であり、誤診率が高い。
Armstrong基準(2013年)では、以下の4つの臨床表現型が定義されている。
CBS表現型を呈する症例のうち、CBDが原因であるのは50%未満である。病理確定CBDの約42%が生前にPSPと臨床診断されていたとの報告がある3)。
| 検査法 | 主な所見 |
|---|---|
| MRI | 非対称性の前頭頭頂葉萎縮 |
| FDG-PET | 前頭頭頂葉の低代謝 |
| タウPET | タウ蓄積の可視化 |
MRIでは運動前野における局所的な萎縮がCBD・PSPを示唆する一方、広範な萎縮パターンはアルツハイマー病(AD)やFTLDを示唆する。タウPET([18F]flortaucipir等)は脳内タウ蓄積の可視化に有用であるが、取り込みは変動が大きく、全例にはみられない。Florzolotau(18F)によるタウPETが4Rタウオパチーの推定に有用との報告がある6)。
CBDは極めて多様な臨床スペクトラムを持つため、以下の疾患との鑑別が重要である。
CBDの確定診断は現時点では死後の病理検査でのみ可能である。生前にはMRIやタウPET等の画像検査と臨床基準に基づく臨床診断が行われるが、誤診率が高いことが知られている。
現在、CBDに対する疾患修飾療法(根本治療)は存在しない。管理は対症療法と支持療法に重点を置く。
診断時から以下のリハビリテーションを開始すべきである。
現時点ではCBDの根本的な治療法は存在しない。レボドパをはじめとする対症療法の効果は限定的であり、理学療法・作業療法・言語療法などの支持療法が管理の中心となる。タウを標的とした治療法の臨床試験が進行中であり、今後の進展が期待される。
CBDの予後は不良である。罹病期間は通常6〜7年であり、範囲は2〜12.5年と報告されている。認知症を併発する患者では生存期間が短縮する。最も多い死因は敗血症と誤嚥性肺炎である。
CBDの発症にはタウタンパク質の機能不全が主要な役割を果たす。MAPT遺伝子のH1ハプロタイプ、特にH1cサブハプロタイプは、機能不全の4Rタウを産生するか、4Rタウの発現量を増加させる。4Rタウの翻訳後修飾、特に過リン酸化が神経変性を引き起こすと考えられている。
過リン酸化された4Rタウはタウ線維(tau filaments)を形成し、ニューロン・ミクログリア・アストログリアなど様々な細胞型に沈着する。ミクログリアの活性化が強いほどCBDの確定診断と相関するが、ミクログリア活性化と神経変性の直接的な因果関係は未確立である。
病的タウの脳内拡散には「タウ・シーディング(tau seeding)」と呼ばれる機序が関与する。病的なタウ種が正常なタウを取り込むことでタウ凝集体が形成される。凝集したタウは他の細胞に放出・取り込まれ、新たな凝集を誘導するという「プリオン様(prion-like)」の細胞間伝播が提唱されている。アストログリアにおけるタウ蓄積がニューロンにおける蓄積に先行するとの仮説がある。
Mimuroら(2024)は21例の剖検確定CBD脳を検討し、全例でargyrophilic grainsと神経原線維変化(NFT)を認めた。71.4%にβアミロイド沈着、14.3%にレビー小体病理、23.8%にLATE(辺縁系優位加齢関連TDP-43脳症)を認めた1)。CBDの脳は加齢関連の多重プロテインオパチーと類似の細胞脆弱性を有する可能性がある。
CBDとPSPはいずれも4Rタウオパチーであるが、病理学的に区別が可能である。CBDではアストロサイト斑が特徴的であるのに対し、PSPではtufted astrocyte(房状アストロサイト)が特異的である。
Zhaoら(2022)はデジタル病理画像解析を用いて皮質下タウ負荷を定量化し、淡蒼球と前障(claustrum)のタウ負荷比(tau pallido-claustral ratio: tau-PC ratio)が1.5をカットオフとしてPSPとCBDを高い正確度で鑑別できることを示した5)。CBDでは淡蒼球・前障双方にタウが高度に蓄積する一方、PSPでは淡蒼球-黒質-淡蒼球下核軸に沿ったタウ蓄積が優位となる。
潜在的なタウ低下療法の臨床試験が進行中である。これらの治療法がCBDに適用され、少なくとも疾患進行を遅延させることが期待されている。しかし、CBDの生前診断精度の向上と治療開始時期の最適化が実用化の前提条件となる。
Nakamuraら(2023)は、CBS症例においてFlorzolotau(18F)によるタウPETが脳幹・視床下核・基底核・両側前頭葉皮質下に著明なリガンド取り込みを示し、背景病理として4Rタウオパチーの推定に有用であったことを報告した6)。タウPETは生前診断の精度向上に寄与する可能性がある。
Zhaoら(2022)はQuPathソフトウェアを用いた自動化タウ定量プロトコールを提案し、限定的な脳サンプリングからもPSPとCBDの鑑別が可能であることを示した5)。視床下核レベルの冠状断が「コア」スライスとして有用である。
Riniら(2021)はCBD・PSP双方の病理学的特徴を示す症例を報告し、全ゲノム解析で複数の多面発現性リスク変異を同定した2)。将来的には既知の変異を重み付けした遺伝的リスクスコア(GRS)が、臨床的に判断困難な症例のスクリーニングに応用される可能性がある。
Yooら(2021)は、橋梗塞を契機にCBDが顕在化した剖検確定症例を報告した4)。皮質-基底核-小脳コネクトームモデルに基づき、急性梗塞がCBDの潜在的異常ネットワークを臨床的に顕在化させた可能性を考察している。脳卒中後に出現した非典型的パーキンソニズムでは、潜在性CBDも鑑別に含める必要がある。