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神経眼科

神経眼科における転換性障害(非器質的視力障害)

転換性障害(conversion disorder: CD)は、器質的病理では説明できない神経症状を呈する精神疾患である。DSM-5において機能性神経症状症(functional neurological symptom disorder)として分類される。患者の無意識の心理的葛藤が身体症状に「転換」したものと考えられている。

眼科領域では「非器質的視力障害」(nonorganic visual loss)や「心因性視覚障害」の用語が用いられる。視路に器質的な異常を認めない視覚障害であり、視力障害が最も多いが、視野障害、色覚異常斜視羞明などを呈することもある。

心因性視覚障害は以下の2型に分類される。

  • 転換型:自覚症状を伴いやすく、心的葛藤やストレスが誘因となる。成人発症の多くはこの型である。
  • 非転換型(眼心身症):自覚症状に乏しく、学校健診などで視力低下を指摘されて受診する。

かつて「ヒステリー」と呼ばれたが、語源のギリシャ語「hyster-(子宮)」が女性限定を示唆するため、1980年にDSMから削除された。現在は「非器質的」や「転換性障害」の用語が推奨される。

外来受診患者の1〜5%が心因性視覚障害に該当する。総合病院では有病率5〜25%との報告もある。発症ピークは7〜12歳で、60歳代以降の発症は少ない。女性の発症率は男性の2〜4倍である。

Q 転換性障害と詐病はどう違うのですか?
A

転換性障害では患者は症状を意識的にコントロールできず、本当に見えなくなっている。一方、詐病は見えているのに故意に見えないと訴える状態であり、保険金や診断書の取得など疾病利得が背景にある。詳細は「診断と検査方法」の項を参照。

転換性障害の自覚症状は多様であり、突然の重症として発症する場合も、軽度で慢性的な経過をたどる場合もある。

  • 視力低下:両眼性が多い。初診時矯正視力が0.3以下の比較的高度なものが多い。片眼性の場合もある。
  • かすみ目:漠然とした見えにくさを訴える。
  • 視野狭窄:トンネル状の視野狭窄が特徴的である。
  • 複視:遠心路の訴えとして出現する。
  • 眼痛:器質的病変を伴わない。
  • 陽性・陰性の視覚現象光視症や暗点を訴えることがある。

場面により見えたり見えなかったりするのが特徴である。授業中の黒板は見えないが、家ではテレビを普通に視聴するなどの矛盾が認められる。日常生活に大きな支障をきたしていないことも多く、歩行や入室はスムーズであることが多い。

症状に対して過度の懸念を示す場合もあれば、「麗しき無関心」(la belle indifference)と呼ばれる逆説的な無関心を示す場合もある。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

自覚的検査と他覚的検査の結果に矛盾を認めるのが特徴的な検査所見である。

  • 瞳孔反応:対光反射は正常。RAPDを認めない。近見反応解離もない。
  • 視力の不安定性:検査を重ねると視力が変動する。屈折値も数ジオプトリーにわたり不安定である。
  • 管状視野(トンネル視野):検査距離を変えても視野範囲が変わらない。非器質的視力障害に特徴的な所見である。
  • らせん状視野視野検査中に視野がどんどん狭くなる。Goldmann視野計で確認される。
  • クローバー状視野:Humphrey視野計で認められることがある。
  • 両眼視機能の矛盾:視力低下が高度でも立体視が良好な場合がある。Titmus stereo testやFly testで矛盾が判明する。
  • VEP:パターンVEPの振幅・潜時ともに正常である。心因性の患者は検査に協力的で、正常者より成績が良好なことも珍しくない。
  • 網膜電図網膜機能は正常である。
  • 色覚検査:約半数に異常を認めるが、結果は非定型的で再現性がない。
  • 一過性の眼位異常:心因性視覚障害で合併することがある。
Q トンネル視野と漏斗状視野はどう違うのですか?
A

1メートルと2メートルの距離で検査した際、検査距離が長くなっても視野範囲が変わらないのがトンネル視野であり、非器質的視力障害を示唆する。器質的な視野狭窄では検査距離に比例して視野が拡大し、漏斗状の構成となる。

転換性障害の正確な病因は解明されていない。最近の心理的トラウマ、ストレス、葛藤との関連が報告されている。

以下の社会人口統計学的因子が示唆されているが、人口統計学的背景に関わらず発症し得る。

  • 若年:小児〜思春期の発症が多い
  • 女性:男性の2〜4倍
  • 性的または身体的虐待の既往
  • 農村部への居住
  • 教育の欠如
  • 低い社会経済的地位

家庭環境と学校環境に起因するものが7割を占める。原因を特定できないものが1〜2割程度である。

  • 家庭環境:塾やピアノなどの習い事、弟妹の誕生による母親との関係変化、離婚などの家庭環境の変化
  • 学校環境:いじめ、転校、クラス替え、担任との関係
  • メガネ願望:小学3〜4年生に多い。クラスメイトの眼鏡に憧れるが親に言えず、ストレスとなり視力低下をきたす

患児は親に対して従順であまり自己主張しない性格(「ききわけのよい子」)であることが多い。ストレスの自覚がないまま身体症状として発現する。

ADHD、うつ病、不安障害などの精神疾患を合併することがある。SLE等の慢性疾患を背景に機能性視力障害が発症した報告もある3)

Q 子供のストレスが見えにくさの原因になることがありますか?
A

小児の心因性視覚障害では、家庭環境や学校環境のストレスが誘因となるものが約7割を占める。本人が自覚していない場合も多く、習い事や友人関係など意外な要因が背景にあることもある。

心因性視覚障害の診断において問診はきわめて重要である。以下の情報を詳しく聴取する。

  • 視力低下の発見経緯と罹患期間
  • 外傷の既往、全身疾患、家族歴
  • 親子関係、兄弟関係、習い事などの家庭環境
  • 友人・教師との関係、受験などの社会的環境

小児では本人と家族をそれぞれ個別に問診すると、互いの前では話せない事実が明らかになることがある。検査員(視能訓練士)からの情報も重要で、検査時の態度や会話内容が診断の手がかりとなる。

  • トリック法(レンズ打ち消し法):凸レンズと凹レンズの合計が0Dとなる組み合わせで視力を検査する。声をかけながら励ましつつ検査するのがコツである。
  • 4Δ基底下方プリズムテスト:「良い方の」眼にプリズムを置く。二重に見えるかどうかで、視力低下が非器質的であることを証明する。
  • 対座法視野検査:1メートルと2メートルで検査し、トンネル視野の有無を確認する。
  • サッカードテスト:「見えない」視野範囲への衝動性眼球運動を評価する。「眼の動きのテスト」と伝え、視機能検査であることを患者に意識させない。

重度両眼性視力障害に対する検査

Section titled “重度両眼性視力障害に対する検査”

視運動性検査

OKNドラム:白黒の垂直縞を眼前で回転させる。眼振が誘発されれば少なくとも0.1以上の視力がある。

両眼ランダム視野検査:アイモ vifaを用い、両眼開放で視野を測定する。どちらの眼を検査しているか患者には分からない1)

行動観察検査

署名テスト:紙に署名させる。真の失明でも自分の名前は書ける。

指先テスト:両手の人差し指の先端を合わせさせる。真の失明では固有感覚で遂行可能である。

鏡テスト:鏡を動かして追視の有無を観察する。

  • パターンVEP:心因性では正常で左右差がない。ただしVEPの異常が器質的疾患を証明するわけではない。検査中にピントを外すことで結果を悪化させることが可能である。
  • 網膜電図:網膜疾患の除外に有用である。

非器質的視力障害の鑑別において、以下の3つのDSM-5診断を考慮する。

分類意図性疾病利得検査態度
転換性障害なしなし協力的
虚偽性障害ありなし積極的
詐病ありあり非協力的

詐病では診断書を早期に要求する傾向があり、診断書が得られないと判ると通院を中止する。心因性視覚障害では検査の再現性が良好だが、詐病では刺激を見まいとするなどのつじつま合わせが見られる。

器質的疾患の見落としにも注意が必要である。心因性と診断された後にLeber遺伝性視神経症、視神経炎、頭蓋内腫瘍、錐体ジストロフィ、網膜分離症などが判明する場合がある。視力・視野の改善が得られるまで経過観察を継続する。

治療の成功は患者と医療者の信頼関係に基づく。

  • 初診時に診断名を告げない:信頼関係が構築される前の告知は逆効果となり得る。
  • 症状の真実性を保証する:器質的原因がなくても症状は本人にとって非常にリアルであると伝える。
  • 可逆性を強調する:構造的損傷がないため回復の可能性があることを説明する。
  • 誘因の認識:患者が心理的症状と身体症状のつながりを理解することで改善が得られる。
  • 暗示用眼鏡:トリック法で視力が出る場合に有効である。度なし(素通し)でもよいが過矯正は避ける。特にメガネ願望の患児には患児の味方をして処方する。
  • 抱っこ点眼法(早川法):親が添い寝をしながらその日の出来事を話し、点眼を行う。親子のスキンシップと信頼関係の回復を目的とする。
  • プラセボ点眼:生理食塩水の点眼により暗示効果を得る。
  • VEP・網膜電図の結果提示:眼としての機能は十分に残っていることを示し、不安を軽減する。

心因が複雑な場合や、うつ病・不安障害を合併する場合は精神科専門医への紹介を検討する。SLE患者の機能性視力障害に対してescitalopramとclonazepamが奏効し、3か月後に視力6/24まで回復した報告がある3)

小児の非器質的視力障害において電子画面の使用制限を指導したところ、1〜2週間で視力が回復した症例が報告されている4)。この介入は親の受容を得やすく、不要な検査や薬物治療の回避にもつながる。

Q 心因性視覚障害は治りますか?
A

小児の心因性視覚障害は予後が比較的良好である。発症から1年以内にほとんどの症例で症状が消失し、学童では矯正視力1.0以上まで回復する。ただし中学生以上では複雑な要因が絡み、数年の経過をたどることもある。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

転換性障害の発症機序は完全には解明されていない。複数の理論が提唱されている。

患者の無意識の内部葛藤が身体的発現へと「転換」するという古典的な理論である。心因性視覚障害の本質は、患者が訴えたくても訴えることができない心の葛藤がある場合の「自分には訴えたいことがある」というメッセージと捉えることができる。しかし「訴えたいこと」が何なのか、患者本人も自覚していない。

メガネ願望はこの病態の良いモデルである。メガネが欲しいと親に言えない児童が、無言のメッセージとして視力低下をきたす。メガネを処方すると速やかに改善する。

困難な状況で感情を抑制するために小児期に学んだ未熟な対処メカニズムが、後年同様の状況に直面した際に再活性化するという理論である。

扁桃体と補足運動野の間の機能的結合の障害が報告されている。このコミュニケーション障害が過剰な皮質覚醒を引き起こし、身体症状の発現に寄与すると考えられている。転換性障害の患者が神経心理学的テストでわずかな障害を示すことがあるのは、これらの生物学的要因の反映と推測される。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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両眼ランダム視野検査によるトリック法診断

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Takagiら(2023)は、外傷後に視野異常を訴えた27歳男性に対し、両眼開放視野計(Imo vifa)を用いたトリック法で機能性視力障害を診断した。通常の両眼ランダム検査で左同名半盲が出現し、「右眼のみ検査する」と説明して実施すると両眼正常、「左眼のみ検査する」と説明すると両眼に求心性視野狭窄が出現した。これらの矛盾した結果から器質的疾患が否定され、機能性視力障害と診断された1)

小児における心理評価と行動介入

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Mukherjeeら(2020)は、突然発症の眼瞼下垂と視力低下・複視を呈した10歳男児を報告した。当初は若年性重症筋無力症と診断されたが、精査で異常を認めなかった。心理評価でIQ 105(平均的)、依存的行動が判明し、「親に愛されていないと感じていた」ことが明らかとなった。親との関わり改善を指導したところ、1週間で劇的な改善を示した2)

van Lintら(2022)は、非器質的視力障害を呈した小児4例に対し、電子画面(テレビ、ゲーム機、コンピュータ)の使用制限を指導した。4例中3例で1日〜2週間以内に視力が回復した。この介入は罰ではなく「眼の休息」として親に説明され、受容が得やすく、不要な高額検査やステロイド投与の回避につながった4)

慢性疾患に伴う機能性視力障害と精神科介入

Section titled “慢性疾患に伴う機能性視力障害と精神科介入”

Abd Hamidら(2021)は、SLE患者で片眼失明後の唯一の健眼に機能性視力障害を発症した30歳女性を報告した。球後視神経炎としてメチルプレドニゾロンパルス療法を行うも視力は光覚まで低下した。しかし、携帯電話の操作や介助なしの移動が可能であり、VEPが正常であったことから機能性視力障害と判断された。精神科評価で大うつ病性障害と診断され、escitalopram 10mgとclonazepam 0.5mgで3か月後に視力6/24まで回復した3)


  1. Takagi Y, Yokoyama S, Yokoyama Y, Hozumi K, Kaga T. A case of functional visual loss diagnosed through bilateral randomized visual field testing with a trick method. Am J Ophthalmol Case Rep. 2023;32:101877.
  2. Mukherjee B, Nayak S. Nonorganic visual loss in a child. Saudi J Ophthalmol. 2020;34:220-222.
  3. Abd Hamid A, Zakaria N, Masnon N, Muhammed J, Wan Hitam WH. Functional visual loss in a young patient with systemic lupus erythematosus. Cureus. 2021;13(12):e20513.
  4. van Lint M, Kloeck D, van Aken EH. Lose the Nintendo and thou shall be healed! Restoring vision in malingering. GMS Ophthalmol Cases. 2022;12:Doc05.

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